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スーシーカ砦-1

 ヤマム国とシュード国の国境沿いにそびえ立つ砦は幾度となくシュード国の侵略を防いできた。

  正式名称は砦の建つ地名からスーシーカ砦と言うが、ヤマム国の国境を守る砦はスーシーカ砦の一か所しかなかったので、砦と言うだけでスーシーカ砦だと誰にでも伝わった。


 ヤマム国とシュード国はアサイ国の領土内にある山脈から流れ出る川によって隔てられている。

 ヤマム国とシュード国を行き来するには、船を使うか、橋を渡すしかなく、幾度となく橋が建設されてきた。

 しかし、数年に一度の洪水で何度橋をかけても流されてしまい、ヤマム国とシュード国の関係悪化により、橋がかかってもどちらかの国の妨害により直ぐに壊されてしまい、川に橋をかけるのは半ば諦められていた。

 しかし、川幅の狭い比較的流れの緩やかな場所にヤマム国が巨大な跳ね橋の建設に成功したのだ。

 その橋を守る様に建てられているのがスーシーカ砦だった。


 ヤマム国の砦が難攻不落だと言われているのには二つの理由がある。

 周囲を川に囲まれ、砦へ接近するには橋を渡るしかないが、橋の周囲は見晴らしの良い平地になっており、兵士が橋を渡ろうと近づくとあっという間に跳ね橋が上がってしまう事。

 もう一つはヤマム国の王の腹心でありシュード国にもその名を轟かせる騎士ジーザンが、スーシーカの城主として砦のある地域を支配しているためだった。

 砦に襲撃がありと報告があればあっという間にジーザンが砦を守るために援軍と共に駆けつけるのである。

 シュード国が何度か砦を奇襲していたが、砦を守る兵達と交戦しているうちにジーザンが城から援軍を連れてやってきて、あっという間に制圧されてしまうことが何度も繰り返されていた。

 砦を攻めるには、地形的な問題と騎士ジーザンを攻略する必要があるため、難攻不落の砦と言われていたのだ。



 スーシーカの城主でもあるジーザンのもとに不穏な動きが届けられたのはある早朝の事だった。


「こちらに向けてアサイ国が進軍していると?」


 ジーザンの鋭い眼光に睨まれて報告に来た兵は内心震え上がった。


「は、間違いなく、スーシーカ砦へ向かって進軍しております」


 彼はヤマム国の情報屋からアサイ国の動きを聞き、この目で確かめてきたのだ。

 シュード国へ向かうのかとしばらく様子を見ていたが、砦へ向かう道を進んで行くのを確認して一足先に城主に報告へ来たのだった。


「数はたった5千か、シュード国の旗はあったか?」


「いえ、旗はアサイ国のみしか確認しておりません。また、現在、シュード国方面の動きは確認されておりません」


「自殺行為としか思えんな。シュード国の嫌がらせか・・・、他国の攻撃に備え準備を始めるよう指示を出せ」

 援軍も無しに5千人程度の兵でこの砦が落とせるはずもない。

 ジーザンは横に控えていた部下達に面倒くさそうに命令を下した。


 ジーザンは通常の仕事に加え、アサイ国の対応などいつもより忙慌ただしい時間を過ごしており、王都へアサイ国の進軍の報告を済ませ、やっとひと息ついた所に、砦の兵から又連絡が入った。


「子供が書状を持ってきただと?」


「は、ジーザン様宛なのですが、差出人は不明です。しかし、書状の紙質が一般市民の手に入るものではなく、私には見覚えは無いのですが紋様が押されております」


 確か、この兵は剣の腕はイマイチだが、観察力の高い男だったな。


「分かった、読もう、その子供はどこにいる?」


 ジーザンは兵より書状を受け取った。


「今は城内で待たせております」


 書状には見たことのない紋様が確かに書いてあった。

 どこかの貴族のものかも知れないが、ジーザンには心あたりは無かったので、そのまま書状を開いて読み始めた。


「はっ!なんだこれは」

 怒ったように言うと、そばにいた部下に書状を投げ渡した。


「読んでみろ、俺には意味が分からん」


 部下の女性が目を通すとそこには彼女にも理解出来ない事が書かれていた。


 手紙の主はアサイ国の第一王子で、現在、シュード国の命令により砦を攻め落とすために、この砦に向かって進行中だと言う事。

 無駄な殺戮は望まないので、素直に砦を明け渡して欲しい事。

 砦を落とせばシュード国と対等な関係に戻れるので、その時にはヤマム国と友好関係を築きたいと考えている事。

 返事は書状を持ってきた子供に渡して欲しいと綴られていた。


 部下の女性も余りの内容に言葉を失った。


「子供を連れてこい」


 ジーザンは書状を持ってきた兵にそう言うと窓の外を見た。


 この進軍はシュード国の命令と言う事は分かったが、あの国はもうダメだな、王もボンクラだったが、王子もボンクラだったとは。

 シュード国がアサイ国も実質的に支配するとなると少し厄介な事になる。

 王に準備を進めるよう進言しておくか。


 ジーザンがそんなことを考えていると兵が子供も連れて部屋へ入ってきた。


「そこで止まれ、何者だ!」

 横に控えていた部下の女性ルーシー・ハボットが子供に向かって剣を突き出した。


 10才程の赤髪の少女がキョトンとした顔をしていた。

「ジーザン様、魔力を感知しました。何者かがが少女の姿に化けているのかも知れません」


 ジーザンには確かに、目の前の少女は剣を向けられているにしては妙に落ち着いて見えた。


 少女は剣を向けられているのを気にも留めずジーザンだけを見て、笑みを浮かべて言った。


「初めまして、ジーザンさん、返事を聞きに来ました」


 その言葉と共に一瞬で少女の姿が消え、轟音と共に部屋の中にいたルーシー達は壁や床に叩きつけられた。

 慌ててルーシーが起き上がったときには城壁に巨大な穴が空いており、ジーザンと少女の姿が消えていた。




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