襲撃ー2
この世界の夜は暗い。
ドラゴンの巣にいた頃は夜でも月の光で充分明るく感じていたけど、人の姿で人の目で見ると、夜の闇を知った。
一歩屋敷の外に出ると、昼間は遠くまで林が続いていたけど、今は真っ暗な世界に変わっている。
この姿ではこちらを伺っている魔獣がどこにいるのかを見る事は出来ない。
今もルーク達には見えないだろう、こんなときはドラゴンより人間の方が不便だと思う。
けど、気配は感じる事が出来るので、見えなくても問題ない。
屋敷の前で剣を携え、たたずむルークの横に並んだ。
「私が相手をする。これは私の仕事だから」
「・・・、大丈夫か」
「みんなは寝てて良いよ、って言いたいところだけど、もし私がダメそうだったら援護して、後、シュウくん達は消火作業ね」
「わかった。お前一人で余裕そうだったら寝に行かせてもらうわ」
「お前じゃなくて、フレアって言ってるでしょ!」
その言葉と共に一気に殺気を林へ向けた。
林の奥から大型犬や熊ぐらいのサイズの様々な姿の魔獣達がスターボーンの匂いに釣られて出てきたが、私の出した殺気に気付いて尻込みした。
見たところ、確かに食べる価値も無い魔獣ばっかりね。
知能も発達して無いから話しても意味ないだろうし、本能で動いてる奴には本能で分からせるしかないか。
私はスターボーンの山を背に魔獣達の方へ一歩出ると、人型からドラゴンの姿に戻った。
魔獣達がさらに林の方へ下がっていった。
そのまま睨み付けると、一匹の熊に似た魔獣が飛び出して来たので、炎を吹き出した。
この炎のコントロールが難しくて、私はそこまで上手じゃない。
今もその魔獣だけを狙ったつもりだけど、横にいた魔獣も燃えて灰になってしまった。
『ここは私の縄張りだ。近く者は容赦しない』
「グワァァァー」
一応テレパシーで魔獣達に伝えると、大きな声で唸ってみた。
彼らが言葉を理解出来るかは怪しいけど、一応こちらの意思は伝えておいた。
私の言葉が伝わったのか唸り声に怯えたのか、ほとんどの魔獣達は敵わないと理解して逃げていった。
それでもまだ何匹か残ってるようね。
よっぽどの馬鹿か、こちらが油断した隙をついて獲物を奪うつもりかもしれない。
私はチラッと後ろのシュウくんを見ると、残っていた魔獣達に向かって炎を吹いた。
範囲が広い分、奥の林も燃えてしまったが、魔獣達に手加減するつもりは一切無かった。
一度でも獲物を獲らせてしまえば、何度でもやって来るだろう。
私もずっと見張っている訳にはいかないし、日中に襲ってくれば子供達にも危険が及ぶ。
1匹を除いて残っていた魔獣達は全て灰に変わった。
私は向き直りシュウくんにうなずくと、シュウくんは水魔法で林の火事を消火し始めた。
翼を広げ空に飛び立つと、上空から火事の範囲を確認しつつ、残っていた1匹の気配を探ってみた。
他の魔獣達と同じように撤退していったようだった。
こうして1日目の襲撃は終わった。
次の日からもマット達は朝から働きに来てくれたけど、私は体が怠くてずっと寝ている事しか出来なかった。
また、夜になると魔獣達が集まって来たので、唸り声と炎で魔獣達を蹴散らした。
襲撃が始まって4日目の晩には集まって来る魔獣達の数はだいぶん少なくなって来たけど、なぜか私の体調不良は良くなるどころか悪化していた。
そして、襲撃の初日に逃げていった1匹が毎晩通いつめる様にやって来ていた。
2日目に姿を確認したけど、大型犬サイズの猫に似た魔獣だった。
そして、そいつは知能もあり、ここが私の縄張りだとしっかり理解した上で毎晩挑戦しに来ているようだ。
ルークいわく、ルイガーと呼ぶ魔獣らしい。
見た目は猫っぽいからそこそこ可愛いけど、牙を剥いて隙あらば襲って来るので、毎晩通い詰められても嬉しくない。
体調不良でも、本気を出せば簡単に灰に出来るのだけど、もれなく屋敷も林もスターボーンも灰になってしまう。
炎のコントロールには集中しないといけないけど、体調不良のせいで集中する事が困難になりつつあった。
何か守りながら戦う事がこんなに大変だとは思わなかった。
自分の未熟さを痛感しながら襲撃が始まって5日目の夜も魔獣を何とか退けた。
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