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スターボーン

 「フレア!心配したのよ」


 アンナさんが私に駆け寄るなり抱きしめた。


「心配かけて、ごめん」


 私はアンナさんの腕の中で答えた。


 アンナさんの腕は少し震えているようだった。


「無事で良かった。僕たちもフレアの本当の姿を知っているので、心配は要らないと少し油断していました。今のフレアの姿では、一人歩きは危険でしたね」


 ルークは溜め息をついて言った。

「今日はもう帰るぞ。説教は帰ってからだ」


 私はルークの馬獣に乗りながら胸のモヤモヤの正体を考えていた。


「私、狩りに行ってくる」


 屋敷に到着し馬獣から降りるなりルーク達に宣言すると、そのまま空に飛び立った。


 シュウ君に教えてもらった姿を消す魔法で姿を見えなくし、一瞬でドラゴンの姿に変わり飛び立った。


 ちなみに、身につけていた服はアンナさんが用意してくれて服を自分の魔力でコピーして作った服なので、好きな時に身につけたり消したり出来る優れものだった。


「たくっ、あのチビは・・・」


 風圧と馬獣達の鳴き声とルークの呟きだけがその場に残った。


 私は一気に雲の上まで上がると、上空の空気を吸い込み、風を感じながら、1人になって考えた。


 今私がいる世界が異世界で、住んでいる国がピンチなのは理解していたつもりだった。


 だけど、実際に見て、触って、匂いを嗅いで、経験してみてやっと実感した。


 ルークやアンナさんシュウ君などの例外はいるが街の住人はみな気力がなく、心が疲れているようだった。


 あの廃墟で出会った子供達さえ、気力は残っていても疲れ切っている様だった。

 あの廃墟の奥からはかすかに死臭も漂っていたので、どこかに子供が、彼らの仲間が埋めてあるのだろう。


 あんな環境じゃ、非力な子供だけではいつ何があってもおかしくない。


 以前、この国の冬は寒くなるとシュウ君が教えてくれた。だから秋の食糧調達が大切だと言っていた。


 まだ、王子のおかげで餓死者は出ていないと言っていたけど、孤児はカウントされていないだろう。


 いったい、この国では冬を越せずに何人が亡くなってるの?


 私はこの国の救世主になると言ったけど、本当に出来るのかな?


 どうやったら、ただ空を飛ぶ火を吹くドラゴンがあんな人達を救えるの?


 強くなって、王子を守れば、彼らは、マット達は幸せになれるのかな?


 私は雲の上から魔力を感知し、獲物に狙いをつけて急降下した。


 獲物を地面に押しつけるように着地すると、周りにいた魔物の仲間が一斉に逃げ出した。


 私は獲物が苦しまないように脚に力を入れてとどめを刺した。


 そもそも、私はこの獲物と同じように人間を殺せるの?


 今の私には獲物を殺すのに抵抗は無い。


 相手の命を奪い、捕食する事は生きるために必要な行為だとドラゴンになって実感していた。

 生前、スーパーに並んだパックに入った肉を何も考えずに食べていた頃に比べて、私の食に対する価値観はいつの間にか180度変わっていた。

 

 捕食するためなら、殺す行為に躊躇いは無いけど、人間は食べるつもりはない。


 私は捕食するつもりのない人間を殺せるのかな?


 そんなことを考えながら、動かなくなった獲物を脚で捕まえて、空に舞い上がった。




 朝、ルークが目を覚ますと、すぐにフレアの気配を確認した。

 すぐ近くで感じるのでちゃんと帰って来たようだった。


 おおよその予測はつくが、街に行ってから明らかに元気が無さそうだったから、夜になる前に狩りに行くと言い出しても、止めることはしなかった。


 屋敷は林に囲まれ周囲に他に家は無いので、目撃される事はないと思うが、ちゃんと姿を見られないように飛び立ったようだった。


 シュウいわく、フレアは非常に魔法の飲み込みが早いらしい。


 一度教えるとすぐに理解して習得しているようだった。


 ただし、本人の興味のある魔法以外は覚えるのに時間がかかるそうで、姿を消したり、自分の服を作ったりするような本人が使いたい魔法ばかり習得し、攻撃魔法はまだ少ししか習得していないようだった。


 元は人間だと言っていたので、屋敷の生活にもすんなりと馴染んでいたので、安心していたが、実際に街を見て不安になったか。


 前世の記憶があるとはいえ、まだ産まれて1年未満の子供なのだから無理矢理知らない国の為に戦えと言われても、覚悟も何も出来ていないだろう。


 少しでも国の現状を教えてやれば、覚悟が出来るかと思ったが、逆効果だったかも知れないな。


 ルークは身支度を整え、朝の修練のために屋敷の外に出ると、庭に魔獣スターボーンがまさに山になって積み上げられていた。


 フレアは子供の姿になれるようになってから、基本的にテーブルで一緒に食事をする様になっていたが、2、3日に一度は狩りに出て食事をしており、アンナへのお土産に2、3匹は残しておく事があるが、こんな大量に魔獣を狩って来た事は無かった。


 魔獣スターボーンは硬い甲羅と、魔石で出来たトゲで手足を覆われた魔獣で、甲羅と魔石は強力な武器になる。しかし、スターボーンの甲羅と魔石は簡単に手に入るものではないため、とてつもなく高価で貴重な代物だった。


 フレアは日の出前ギリギリに戻ってきたそうで、暖炉の前で子供の姿になって眠っていた。


「まだ、すぐには起きないと思うわ」


 アンナは心配そうにフレアを見つめながら言った。


 フレアはすっかりフレアに懐いたようだが、それ以上にアンナがフレアに夢中になっていた。


 フレアがアンナに似ていて兄貴の面影も持っていたからだった。


 まるで2人の子供のように見えた。


 俺の目から見てもそう感じるのだから、アンナからはもっとそう感じているのだろう。


 アンナのフレアを見る目は母親のようだった。


 起きて来たシュウに尋ねても、なぜフレアが大量に魔獣を狩ってきたのかはわからないようだった。


「フレアなりのストレス発散方法なんですかね?」


「ドラゴンにそんな習性があるのか?自分の縄張りに獲物を持ち帰るとは言っていたが、この数はちょっとな。こいつらの血の臭いに誘われて他の魔獣が来る可能性もある。さっさとそいつを起こしてなんとかしないとな」


「ん?待ってください、ルーク。フレアはちゃんと保護魔法をかけているようです。しばらくは腐らないと思います。血の匂いはどうしようもありませんが」


「なら、あと少しお昼まで寝かせてあげて、ルーク」


 

「たく、わかったよ」




 

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