アサイ国
私はどれくらい人間の姿でいられるかを試す為に、人間の姿のまま、しばらく過ごすことになった。
魔力を消費し続けるため、長時間は難しいんじゃないかとシュウくんは言っていたが、今のところ疲労感は感じなかった。
アンナが私が着れそうな服を見繕ってくれて、私は服を着てアンナの晩ご飯作りを手伝った。
とりあえず晩ご飯を食べながらルーク達と私とで話し合いをする事になったのだ。
今日は野菜スープに私が狩ってきた魔獣の肉を煮込んだものとパンだった。
「それにしてもまだ信じられないな。どこで人間の仕草を覚えたんだ?」
ルークがデーブルに料理を並べていた私を見て聞いてきた。
「覚えたんじゃなくて、私前世の記憶があるみたいなの」
「前世の!?お前、兄貴なのか!」
ルークが私の肩を掴んでグラグラした。
痛いって、ちょっと
「ちょっと、待って、違うって。私はこことは違う世界に住んでたの。魔法もない、ドラゴンもいない世界にね。事故で死んで気が付いたらドラゴンとして産まれたの」
「そうか、勘違いして悪かったな。人間だった頃の記憶があるって事か」
私はコクコクと頷いて、今は喋れることに気付いた。
「そうなの、女子大生だったの」
「じょ、じょしだいせいってなんだ?」
「学生の事よ。もうすぐ20歳だったのになぁ」
「学生だったの?20歳って事は、僕と同い年だったんだ」
シュウが部屋に入って来たので、念願の人の姿での初ディナーをする事になった。
ドラゴンのときも美味しかったけど、実は何を食べても冷たく感じていたのだ。
それでも、魔獣の丸焼きに比べたら非常に美味しかったので、文句を言うつもりは一切なかった。
湯気も出ていたから冷めてた訳では無く、ドラゴンの舌だから熱く感じなかったんじゃないかと思っていた。
なので、人の姿になった今、初めて熱々の手料理が食べられるはずだった。
「さぁ、食べましょう」
アンナの声かけで私はスプーンでスープをすくって、一口食べると熱々のスープが口一杯に広がって、とても美味しかった。
私が夢中でご飯を食べているとルークがさっそく切り出した。
「おい、チビドラゴン、説明していいか?」
「フレア」
私は口に煮込まれた肉を一杯に入れたまま言った。
「フレアな、まずお前はこの国の救世主になる事は了承していると考えて良いだよな」
「了承も何も、救世主にならないと呪いは解けないんでしょ?」
「そうだ、我が国の救世主にならない限り、召喚者である俺が傷つけば、お前も傷つくし、俺が死ねばお前は死ぬ。これは絶体だ」
「だったら了承するしかないじゃない。私も何もしないで、死ぬのを待つだけよりは、この国を救って救世主になる!何もしなかったら長くてもあと50年の命でしょ。ドラゴンは人間より凄く長生きらしくて家族みんな怒っちゃたの。いよいよ危なくなったら、この国以外の国を滅ぼすっておじいちゃんドラゴンが言ってて、それはまずいから私が救世主になってくるってみんなを説得したんだよ。」
ルークが食べていたスープを口から吹き出した。
「おい、そんな話になってたのか、あの時。滅ぼすって金色の巨大なやつが?」
「あれはお父さん。おじいちゃんは白色のドラゴンで、ルークの前には出てきてなかったはずだよ。」
「ドラゴンには世界を滅ぼす力があると言うのですか?」
「私も分からないけど、私以外のドラゴン達はみんな強い力を持っていたの。炎を吐く以外にも、それぞれ特別な力があるの」
「そうなんですか!ドラゴンは生態や能力など謎に包まれているのです。いったいどんな力があるんですか?」
シュウが前のめりで聞いてきた。
「いや、待て。お前にも特別な力があるんだろう。どんな力だ?」
「私はまだ力には目覚めてないよ。個人差があるみたいだけど、大人のドラゴンにならないと能力は目覚めないみたい。いや、能力が目覚めると大人になったって事になるんだと思う。お兄ちゃんは雷を操ってたし、お母さんは闇を支配してるらしいよ」
「雷ってあの黄色いドラゴンが兄貴だったのか!?俺をいつも適当に掴みやがって」
「何才くらいになったら能力が目覚めるんだい?」
「お兄ちゃんルークの事嫌ってたからね。お兄ちゃんは20歳くらいって言ってたかな」
「それじゃあ、能力とやらは当てにしない方が良いだろうね。」
「火は出せるだろ。人間相手なら十分だ。」
「私、誰かと戦うことになるの?」
「お前にもこの国の置かれた状況を説明しといてやる。まず、国の名前は知っているか?」
「そう言えば知らない」
「我が国はアサイ国、世界屈指の山脈が広がる国だ」
感想、評価待ちしてます。
良ければブックマークお願いします!