#2 ハイブの街
明朝、まだ月もうっすらと見える中で作業に入る。炎鋼龍の外皮を剥ぎ取り荷車に積み込み、もう一方の荷車には龍の肉を積む。
外皮は鉄よりも軽くて硬く傷つきにくく、防具などに使用される。肉は乾燥させると慈養強壮の漢方などに使われる。
積み込みが終わると、1台にはクムゥがもう一台にはタオムが着く。シヴと彼はテント用の資材を背負い最後方に、先頭はフォーンが歩く。
しばらく進み拠点としていた場所に着き休憩を取る。食事としてムギや豆などを粉末にして練って団子状にした携帯食と少量のドライフルーツを食べた。団子はパサつき美味いものではないがこれでも腹の足しにはなる。
クムゥは積まれた龍の肉を物欲しそうに見ていたが構うのが面倒だったのか皆知らん顔をしていた。
「よし、そろそろ行くぞ。」
フォーンの号令と共に4人は再び歩みを進める。山道をしばらく下ると木の間から都市ハイブが見渡せた。
ハイブは周囲を防壁で囲まれており東側は山が連なり西側には街道を挟みネルソン海(大きな塩湖)があり、山々の間を通る街道には東門、ネルソン海側に沿う様にホレー街道があり北門、南門がそれぞれ繋がっている。
それぞれの門付近には高くそびえる監視塔が山からの魔獣、海からの魔獣やネルソン海に隣接する国々からの船に常に睨みを効かせていた。
フォーン達は南門に辿り着く頃には日は落ちていた門番に龍討伐の報告をして龍の外皮と肉を渡す。
街の中に入るとマックローンと合流するため東門の方へ足を進める。
ハイブは3つの地区に管轄が分かれており、
南地区はガネーロ・フェド、北地区はトバリ・ギガン、東地区はハクイ・フルフェズがそれぞれ門が配備してあり、門付近の警備や担当地区内の治安維持などの兵を指揮している。
その中でも東地区のハクイは特にマックローンとの交流があったためそこにいると、確信があった。
道中、南地区の町を通る、足元は石畳が敷かれていて、石材でできた壁に赤や黄色の屋根がついた家が立ち並ぶ。
歓楽街の方へ行くと光魔法の光源の灯った街灯が多く立っている。街は飲食店、少しエロスな店、クムゥの腹の音、酒場などで賑わっていた。
「あのぅ、なにか食べていきませんか?僕もうお腹ぺこぺこで...」
「まぁまて、合流すれば東地区の店で食事を取るからもう少し我慢しろ」
歓楽街を抜け、東地区の住宅街を抜けると他の家とは比べ物にならないほどの御屋敷が建っている。塀で囲まれて、庭も綺麗に整えてある。塞がれた門の前には一人、門番であろう男が立っていた。
「王国第十三部隊の皆さまでしょうか?」
その男は門番と言うより執事の様な格好をしてひどく眠たそうな目をしていた。
「そうだが」
「やはりそうでしたか、私ポーカーと申します。マックローン様が今晩にも皆様がお越しになるだろうとおっしゃっていましたので、ここでお待ちしておりました。それでは中へどうぞ」
「いや、それには及びません、食事や宿は外で取りますし、そこまで迷惑になっては申し訳ない。」
「その事も伺っております。ですがマックローン様のご準備が整うまで時間はあるでしょうし、ハクイも王国隊の皆さまに一度ご挨拶をと、申しておりますので」
"王国隊"
肩書きには興味は無いが少しだけ胸を張り、邸宅に招き入れられた。
中に入ると目の前に大きな階段が出迎えた、床には赤色の絨毯が敷かれていて、クムゥが靴の汚れを気にして脱ぐほど高貴なものに見えた。
「ハクイ様、こちら王国第十三部隊の皆様でございます。私はマックローン様をお呼びしてまいりますので」
ハクイであろう男の横を通り階段を登ってゆく。
「お初にお目にかかります!私はフルフェズ家次期当主ハクイ・フルフェズと申します!」
背筋を反るほど伸ばし、正装に身を包み髪型はキッチリと七三に分けられた男はまったく距離間を理解していないであろう声の大きさで話した。
「相変わらずやかましい奴だな」
「フォーン・キアーノ殿お久しぶりでございます」
「マックローンが世話になったようだな。」
「いえいえ、そんな事はござりません。本来であれば炎鋼龍は我々で対処せねばならぬものを、マックローン・グリム様御大に討伐を一任してしまうなどと、この地を任されたハクイ・フルフェズ情けなく思っています」
「そうか」
「はい、もちろんですます。それにマックローン様には、この地を心配されハイブの周辺調査や、今後危惧される事などをお教えいただきました。それ程までこの地の民を、そしてこのハクイをっ、心配して..下さるとはっこのハクイ一生の忠誠を..再度誓いました!」
流れる涙に4人は開いた口が塞がらず、フォーンは呆れきった顔をしていた。
「で...マックローンは、まだなのか?」
「もういるぞ」
「うわぁ!」
いつの間にか、5人に並ぶように突っ立っていた。
「なんだクムゥ、俺が小さすぎて見えなかったのか?」
「い、いやそんな事は...アハハ」
「...まぁいい、炎鋼龍の方は聞かなくても良さそうだな、フォーン?」
「ああ、もちろん」
「では行くか...あのことは頼んだぞハクイ」
「承知しました!このハクイ・フルフェズ命に代えてもマックローン様から与えられた任務しっっかりと果たしてみせ、この地、ハイブを守り!グリム家に長年忠誠を誓い仕えるフルフェズ家として、恥のない成果を挙げてみせましょう!!!」
「あの...ハクイ様、もう皆さまお出になられましたよ。」
肩から水平に肘先を上げピッシリとした敬礼を虚無にしていた。
「ハッ!なんで....ハァァッッ!!そうか!これは我々に。「私たちのことはどうでもいいそれよりもハイブの民を守るため早く任務を遂行しろ!!」そういうことか!...なんて、お優しいんだ。よし!そうなればポーカー!急ぎ任務にあたるぞ!!」
「は、はぁ」
慌ただしく走っていったハクイに、ポーカーは困り果てたように左手で頭を抱えた。