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GLIM〜首つり台の旅人〜  作者: トウヤ
4/10

#灯-3

 フォーンに報告する彼を尻目に黙々と荷造りを進める三人は、不思議と彼が任務を失敗している可能性を微塵も感じずにいた。


「・・・・・・・・・・・以上だ。」


「そうか、ご苦労だった。だが、少々時間がかかりすぎだな・・・。」

フォーンは空を見上げ、顎に指を当て思考を巡らす。準備の済んだ三人に目をやり

「よし、今から炎鋼龍の回収に向かう。」


「日ー暮れっぞ。」

日はオレンジ色になりかけていた。


「わかってる、だが炎鋼龍の外皮は高値で取り引きされる為夜盗が狙ってこないとも限らない。今日は炎鋼龍の近くで夜営し、夜が明け次第回収作業に取り掛かる。異論は無いな?」

 

「異論は無いな」その言葉に反論しても無駄と分かっている三人とため息を吐くタオムだった。

 

 


炎鋼龍のもとに着く頃には日は沈みかすかに西の空が明るくなっている程度だった。

クムゥ、シヴ、タオムの三人はいそいそと夜営のためのテントの設営を行い。

青年は一人、木にもたれかかり徐々に暗くなってゆく空を眺めていた。

 

 フォーンは右手に持った氷のような宝石、"氷魔石“がついた杖を振り、龍の亡骸に魔法をかける。


氷魔法(ひょうまほう)氷結空間(フリージングルーム)


すると龍を囲うように円ができてゆき、ドーム状に半透明な薄い青色の膜が包みこんでゆく。

 この魔法によりドームの中に冷気が漂い、一晩ではあるが龍の肉の腐敗を防ぎ、さらに多少ではあるが盗賊や動物から龍を守ることも出来た。

  


すっかり日も落ちた頃には焚き火を中央に3つのテントが出来ていた。

一つにはフォーンが眠り、もう一つにはシヴとタオムが横になる。


 満月とまではいかないが大きな月がガタガタと震える巨体を照らす。


 こ、怖い、、、見張りだから頑張らなきゃいけないのに。


クムゥは焚き火の前で大きな鉄鎚を握りしめ、半べそをかいている。


 うー、どうしようもし魔獣が来たら、それとも盗賊?もしかすると!龍が起き上がったりして⁈はたまたお化け?ガガクガクガクガガがガガ。


狂い怯えたクムゥにさらなる試練が降りかかる。


  ガサ ガサッッ


「ガ!ガッ!・・」ま、まさか来た?どどどどうしよ、起こす?!で、でも違ったら怒られるし... なんだ?


 呼吸をするのも忘れ、音がした方向を眼を細め歯を食い縛りながら、見つめていた。


暗がりにうっすらと人影が映りどんどんとこちらに近づいて来る。


あと少しでその姿が見えてしまう。


ダ、ダメだ、、、「!」

「お!おばっ! け?」


月明かりに照らされた人影は見覚えのある姿をしていた。


「誰がお化けだ。」


「な、なんだ違ったのか。」

そこには"彼"が立っていた。

「なん、なんでそんな所にいるんですか?!」


「しょんべんに行ってただけだ。悪りぃか。」


「い、いえ...」


彼は少しふて腐れながら、焚き火の前に座った。


「寝なくて大丈夫なんですか?一人で討伐したんですし、お疲れでしょう。ぼ、僕は一人でも見張りは怖く無いんで安心してください!」


「そうだといいけど、疲れて…る、けど(昼間ちょっと寝たしな)少し気になる事があってな」

 

「気になる事?」


「俺らに炎鋼龍の討伐だなんて高ランクの仕事が入ると思うか。」

 十三番隊には普段、他の討伐隊からしたら雑用まがいの仕事が多かった。


「確かにそうですけどそれは、東にあるトリム近辺に大型の魔獣がたくさん出没して、その対処にほとんどの討伐隊とかは、行っちゃったからですよ。」


「そうだろうな、だが気になるのはそこからだ。トリムやハイブに大型の魔獣なんてそう現れることは無い。」


「でもゼロでは無いじゃないですか。炎鋼龍もオスでしたし、メスを探してる中でたまたまこの森に入り込んだだけで、トリムの方も似たような事だと思いますよ。」


「その可能性もある。だが二ヶ所同時となれば偶然か必然、どちらか...」


「...必然としたら?」


「おそらくヴィスア朝が、噛んでるだろうな。」

ヴィスア朝とはグリム王国の南に位置し、グリム王国は元々ヴィスア朝領であった場所に出来ており、建国時から険悪な関係が続いていたが十数年前の戦争後、徐々に友好関係を築いてきていた。


「ヴィスア朝が?でもどうやってあんな魔獣を操ってるんですか?」


「そこは謎だ、だがこれが仮に偶然だとしてもヴィスアはおそらく攻めてくる。関所のオリオビを潰して。」


「...うーん」

クムゥはすっかり夜営の恐怖心など忘れ彼の話に頭を悩ませている。


「確かに可能性はありますが、オリオビにはこの魔獣騒動は関係ないんじゃないですか?」


「そうか、お前は分からんか?シヴ。」


 ゆっくりとテントが開く。

「気づいていたか、面白そうな話だったものでな。」


「分かるか?」


焚き火の前に腰を掛ける。

「兵站か。」


「そうだ、オリオビにつながる街道は2つトリムからとハイブから、この2つが潰れればオリオビには補給が無くなる。このひと月はトリム側からの補給はほとんどできていない、ハイブからも止まったこの状態で戦争が起これば間違いなくすぐに兵站不足になる。」


「攻める側からすればこれ以上ない好機か。」


「だとしたら僕たちはこれからどうするんですか?」


「おそらく、マックローンも疑ってる。ハイブに残ったのもおそらく周辺調査のためだ。何らかの答えは出してるだろうから、明日は早いうちにハイブに向かった方がいいだろうな。」 


焚き火のゆらぐ炎をよそに、3人は明日からの自分に降りかかるかもしれない使命に身体が引き締まっていた。


「俺はもう寝るぞ。」

彼は立ち上がり誰もいないテントに入っていった。


「...寝ていいぞクムゥ、そろそろ交代だ。」


「...はい。」

大きな体は少しうずくまり、不安げな顔で座ったままだ。


「...なんだ?」


「い、いえ何も...じゃあお願いします。」


シヴはうつむき加減のままトボトボとテントへ入ってゆくクムゥの背に、いつの日かの自分を重ね物思いにふけっていた。

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