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ショートショート7月~

カナリア

作者: たかさば

ピューイ…ピィ…ピピピ…


ああ、カナリアだな、この声は。

散歩中の僕の元に、耳触りの良い歌声が聞こえてきた。


辺りを見回すと、民家の軒下に、かごに入ったカナリアがいた。

ああ、外の風に当てているのかな。

狭いかごの中で、一生懸命さえずっている。


あの狭いかごの中が、あのカナリアの世界なのだな。


「やあ、カナリア、好きなのかい。」


僕が軒下のカナリアの歌声に聞きほれていたら、ご主人が出てきてしまった。

ちょっと気まずいな、でも逃げるわけにもいくまい。


「ええ、素敵な歌声だったので、つい夢中になってしまって。」

「たまに外の空気に当ててやらんとね、かわいそうかと思ってね。」


ああ、もう部屋にしまうんだ。野良猫に襲われちゃうかもしれないし、ずっと出しとくわけにもいかないだろうからなあ…。


「やさしい飼い主さんでカナリアも幸せですね。」

「こんな狭いところに閉じ込めて何がやさしい飼い主なんだか。…まあ、こいつは脳みそもちょっとしかないし、何もわかっちゃいないだろうがね。」


やさしいんだか蔑んでんだかわかんない人だな。


「ありがとうございました。」

「はいはい。午前中は出してること多いから、また聞きにおいで。」


飼い主のおじさんはカナリアを連れて部屋の中に入ってしまった。


カナリアの美しいさえずりを、確かに聞いたはずなのに、もう記憶が薄れてきてしまっているな。

こんなに大きな脳みそを持っているのに、記憶力の乏しいことだ。


そうだな、カナリアの脳みそでは、確かに、あの空間で鳴くことが精いっぱいなのかも、知れない。


あんな小さな脳みそでは、歌う事に夢中になるだけで精一杯で。

あんな小さな脳みそでは、抜け出すことすら考え付かず。

あんな小さな脳みそでは、抜け出したところで生きてゆくことは難しいだろう。


与えられた空間で歌を歌って。

与えられた空間でエサをもらって。

与えられた空間の中で息絶える。


カナリアの生き方を、憐れと思う自分がいる。

カナリアの生き方を、うらやましいと思う自分もいる。


カナリアの生き方に、自分を少しだけ、重ねてみる。


僕は、かごの中にはいない。

僕を、囲う物は何もない。

僕は、自由だ。


自由?


毎日自由に過ごしている。

毎日自由に考えている。


毎日自由に何かに囚われている。


人というのは、ずいぶん自由だと思うけれど。

その自由の中で、できる事はずいぶん少ないような気もする。


所詮、できる事は限られている。

所詮、叶わない願いがほとんどだ。

所詮、なるようにしかならない。

所詮、できる範囲で満足するしかない。


自由なように見えて、実は人間なんてのはさ。


かごの中の、カナリアみたいなもんなんだ。


所詮、宇宙に飛び出せない、地球上の生命体。

所詮、地球の上でしか活動できない、地球上の生命体。


所詮、地球上に溢れる数多の命の一つに過ぎない。


地球をどう捉える?


こんな大きな地球に存在する自分?

こんな小さな地球に存在する自分?


自由な世界と考えるのか。

でかい檻と考えるのか。


可視範囲28ギガパーセクを超える宇宙。

宇宙の中の、地球という星。


星の中で、小さな諍いがあり、小さな和解があり。

星の中で、命が生まれて、命が終わる。


星の中だけで満足している?

星の中だけで精いっぱい?


星の中ですら、何もできずにいるというのに。


地球人が宇宙の外に進出できない理由を知った気がした。



あんなに感動した、カナリアの鳴き声が、やっぱり、思い出せない。

きれいな歌声だと、感動したはずなのに。


所詮、感動したことすら完璧に記憶できない、不出来な脳みそ。


カナリアの脳みその大きさを笑えない僕。

カナリアを笑えない僕。


僕は自分で、自分のことを、笑ってやった。


「は、ははは…!!」


思いのほか、気持ちがいいものだ。


カナリアも、こんな気持ちで歌っていたのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 意外に、壮大な話になってしまいましたね。 宇宙とか星とか語り出しましたかー。<ーいいぞ、いいぞー。もっとやれー
[良い点] 確かに鳥の声思い出せないですね。スマホにメモると覚えられる不思議 [気になる点] 宇宙進出、ロマンでしかないんですよね〜 [一言] 小説の中だけでっかくしとけばいいんですよw リアルでは地…
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