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雨は降っていたけれど  作者: 和林
2/12

第一話

 僕には大切な彼女がいる。

彼女は、たくさん僕に尽くしてくれる。

晴れの日も、雨の日も。


 私には大切な彼がいる。

だから、私は彼にたくさん尽くす。

曇りの日も、雪の日も。



「麗々、今日すごい青空」


「本当だ……でも、天気予報は雨なんだよね〜」


「そうなんだ。まぁ、いらないんじゃない?」


「何が?」


「え、傘……」


「あー、いらないね」


「ちょっと、外の様子見てくる」


「うん、ありがとう」



 僕には家族がいない。父親はガンで病死して、母親は交通事故で死んだ。


 兄弟も、祖父母も、親戚も、誰もいない。今、頼りに出来るのは、彼女だけだった。


 彼女は昔、僕と同じように親を亡くして。大学生の頃に出会ったのが、彼女だった。



「ママ!」


「……ごめん……ね……(たつき)


「ママ……行かないで……行かないで!」


『大丈夫ですか!?』


「ママ……ママ……」


『君、お母さん達の事助けてあげるから、少し離れていなさい』


「……ママ」


「僕……どこに行っちゃうの?」



 彼と出会った時、第一印象は「根暗な人」だった。


 ずっと俯いていて、話しかけてもあまり反応してくれなかった。だからこそ、彼を変えてみたいと思うようになった。


 もしかしたら、私と同じなのかもしれないと。そうならば、私は、彼を助けることが出来る、と。



「え、降ってきたよ……」


「あーあ、やっちゃったね」


「樹が傘いらないって言ったからだよ」


「でも、出かける前は晴れてたし」


「はぁ……まぁいいや」


「どうせ、麗々が暗い事考えてたんだろ」


「いや、私は今日の晩御飯考えてただけだし。それは樹の方でしょ」


「まぁね?ちょっとだけ」


「ほーら」


「この辺の道、昔歩いたことあるなーって思ってただけ」


「そう……」



 彼との会話が途絶えた時、少し雨足が強まった気がした。

 私と彼は、よく暗い事を考える。

 そうすると、雨が降ってくる。


 ただの偶然だと思っているけれど、私達はそれを教訓に、暗い事を考えないようにしている。


 明るい事を考えれば、天気も晴れるし、自分の心も落ち着くと思っているから。


 今日も、雨。


 昨日も、雨。


 明日は……きっと晴れる。



「ママ……起きないの?」


『樹くん……ママは、もう……起きないんだ』


「おじさん……なんで?」


『ママはね、天国に行ってしまった……だから、もう起きてくれない』


「そんな……ママ……僕、どうすればいいの?」


「パパも……いないよ?」


『樹くん。今日から、おじちゃんと一緒に暮らそう。ママも、パパも、お空から見守ってくれているよ』


「……うん」



 叔父と暮らすようになってから、僕の生活は大きく変化した。


 通っていた小学校も違うところになって、新たな環境に慣れるには、長い時間がかかった。


 何せまだ幼かった頃だ。


 馴染み深い場所を離れ、生みの親を亡くし、僕の心は閉ざされていった。


 そうして段々根暗な性格になり、友達も限られた人になった。


 そのまま流れるように大学生になって。

彼女に出会って、僕は変われたと思う。僕は彼女に、救われたと思う。



「コンビニの傘って、可愛くないね」


「だってビニール傘だし。そりゃそうだ」


「もっとさ、柄がついてるとか……」


「そんな可愛さ求めても、値段上がるだけだよ」


「あぁ……そっか」


「あっ」


「なんか、止んだね」


「天気って、猫みたいだよなぁ……」


「気分屋さんだよね」


「麗々もだいぶ気分屋だよ」


「そう? ま、確かにそこにある水溜まりに入ってみたい気はするけど」


「ほらね」


「ていうか、私この道知ってるよ」


「やっぱりそうだよね。僕も知ってる」


「何でだろう……二人で歩いたことはないけどね」


「……虹出てきた」


「おぉ……写真、写真撮らなきゃ」



 今、一番彼女の事をよく知っていて。

 今、一番彼女の事を想っている。


 これがもし、夢だったとしても。

 僕の好きな人は、ずっと変わらないと思う。


 たとえ女の子に憧れていても。

 あの先生が教えてくれたことは、僕にとって、人生の分岐点だったから。

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