そうして今世
なんか体がふわふわしてる。
あれだな、昔家で飼ってたゴールデンレトリバーみたいな。
「……う…ま!」
よく枕にして寝たなぁ。たしか小学二年生くらいか…
「お……うさま!」
あの頃はまだ純粋だったな。こんなひねくれた三十路じゃな
かったし。
「お嬢様!…お嬢様!!」
さっきから誰よ。うるさいなぁ、無視しても気になって寝れ
ないじゃない。
眠たさをこらえてそっと目を開けると、メイド服を着た外国
人が顔を覗き込んでいて
「わっ!」
びっくりして思わず跳ね起きた。
「だ、誰!?」
「嫌だなぁ。アイリス様寝ぼけていらっしゃるのです
ね。それにしても今日はよく眠れてましたね。
新しい睡眠薬をお試しになったのですか?」
訳の分からないことをへらへらと言いながらメイド服の外国
人が私の布団を勢いよく剥ぐ。
「さ、アイリス様!今日は貴女様の晴れ舞台ですよ!
急いで準備して参りましょう。もう既に湯浴みの準備は出来
ていますよ」
「え、ちょっと。わっ……」
いつの間にか増えたメイド服の外国人達、総勢12人に代わる
代わる色んなところを触られ、爪垢ひとつ残さずにもはや洗
濯機レベルで1時間近く洗われた私は今顔にきゅうりと炭を
乗せてバラの香りがするお湯に使っている。
何が何だか分からないけど意外と頭は冷静だ。
状況を整理しよう。
さっき聞いた話だとあのへらへらしたら外国人メイドの名前
はアリーというらしい。ちなみに私のことをアイリスと呼ん
でいたいたからきっと名前はアイリスだろう。
何処に行くのかと尋ねたら
「冗談はやめてくださいよぉ。今日はアイリス様の婚約パー
ティではありませんか!」
なんて言ってた。
私の馬鹿な考えにはぁ…とため息が出る。
「これって多分、転生ってやつだね。」
考えただけで吐きそうになった。これは馬鹿な考えだけど
妄想ではない、断じて違う。
だってこの状況じゃそうとしか考えられないんだから。
目の前にはこの洋風なお風呂場全体をうつす大きな鏡、顔に
炭をきゅうりを乗せている少女らしき何か。
とてもじゃないけど三十路になんて見えないし、ここどこか
わかんないし、外国人顔のメイドさんがいるし、完全に転生
したわこれ。
「……はぁ。」
本日二度目のため息をついた。
お湯に浸かること1時間、体がシワシワになるのを感じなが
らきゅうりと炭、体を洗い流され体にオイルを塗りこまれて
自分の姿を見れたのはコルセットでギチギチに固められた後
だった。
「さぁアイリス様。
ドレスを着る前に髪をセット致しましょう。」
そう言ってアリーは何かを唱えて少量の熱風を巻き起こした
(魔法あるんかーい。)
心の中で苦笑しながら目の前の自分の姿をまじまじとみる
鏡にうつるのは外国人のような白い肌に綺麗なウェーブのか
かった黒髪をもつ刺々しい美少女……でもなーんか見た事あ
るんだよね。気の所為かもしれないけど。
髪を手入れされている間変顔したりしてみたりほっぺを引っ
張ってみたけど美少女も同じ行動をする。
「ねぇ、アリー。私は誰?」
「あらアイリス様まだその冗談をお続けになるんですね。」
アリーは髪を結いながら答える。
「お名前はアイリス・ストーリア様。ストーリア公爵閣下の
第二子あり、唯一の娘。そしてこの国シェイリアス王国の第
一王子ルシウス・シェイリアス様のご婚約者でございます!
ちなみに第一王子様はお嬢様と同じ14歳ですよ」
熱く、熱く語るアリーに圧倒されながらもひとつ疑問に思う
ことがあった。
私のアイリスという名前もルシウスという王子もシェイリア
ス王国というのも聞いたことがある…いや知っている。
これはただの転生じゃない。この世界は乙女ゲームだ!