不思議ダンジョン(ルルル編)
遅くなりすみません。
ルルルが転移を終え、ギュッと瞑っていた目を開けると、
そこは懐かしい森の中だった。
「カルラの森……」
つい1ヶ月くらい前迄ここに居たはずなのにとても懐かしい。人間領にある木とは少し違う黒っぽい木々や、暗い木々の中に映える、血のような赤い色の花や、牙の生えた植物のなど。魔族領特有の環境の中にあるからこそ変異したそれは、ルルルにとってこの森の世界が全てだった。
食糧を取るのも、遊ぶのも…
「えっ。でもどうして?さっきの変な落書きのような模様に乗ったら帰れるってゆう事なのかな?」
転移陣の事はよく知らないルルル。
彼女はこの魔族領カルラの森で、ニーアと二人で暮らしていた。しかし実はここは過去のカルラの森だった。
ルルルが周りをキョロキョロしながら散歩を始める。
たまに風が吹いて木々や草花が揺れてカサカサ音がする以外は静まりかえった森。まだ日中だが太陽の光は何かに遮られているように薄暗い。
ルルルはそんな森の中の一本の道を自分が住んでいた家に向かって歩いている。時々ニーアが好きだった紫と赤色が混ざったマーブルの薔薇を見つけては摘んでいた。ニーアは既に死んでいるが、ルルルはもしかしたら家にいるかも。と…
そうして両腕いっぱいに抱えた薔薇の花束を抱え歩く。少しすると、家の灯りが遠くに見えて来た。
連れ去られた時は焼かれてしまった筈の家は健在でその様子は遠くからでも確認できた。それを見ると。「あ、家残ってるし灯りが付いてる!」それを見たルルルの足取りが早くなる。
「あれは夢だったんだ。ほんとは何も変わってないんだ。」
頭ではそんな筈はないとわかってはいるが、でももしかしたらと思いたいルルルの薔薇を抱えた手にチカラが篭る。
程なくして家辿り着いた。玄関のドアの前に着くと、なかから人の声が聞こえて来た。
「ニーアお願いだ。」
「ん?ニーアの声じゃ無い。」
聞いたことのない声に緊張が走る。襲われたときの事を思い出し体が強張る。
中を確認しようと、玄関の隣にある窓のところへ行きそろりと中を覗いてみると、懐かしいニーアと知らない男女の魔族が話をしていた。男は頭に二本の角をはやし、金色の目は蛇のように鋭く、口元から牙も覗いている。身体はニーアより頭二つ分くらいは大きく、服の上からでも体格の良さがよくわかり、とても力が強そうだ。何となく黒いオーラを纏ってあるようだった。
一緒にいる女も頭に一本だが角をはやし、その目も男と同じように鋭いただ色は赤色をしている。背はそんなに大きくなく、ニーアと同じくらいだ。体はやはり女性らしくしなやかでとてもスタイルが良い。そんな三人は見たところ争ってる様子はなく、なにやら深刻な顔をして、話をしているようだった。
「ニーアは誰と話してるんだろう。」
耳をすましてみるルルル。
「この通りだ。ニーア。君にしか頼めないんだ。」
「困ります旦那様、私には出来ません。」
「ニーア、私からもお願い!」
「奥様…でも、やはり私には…」
「旦那様?奥様?ん?」
聞き慣れない単語とニーアの普段とは違った言葉遣いに変な感じがする。
「ニーアお願い。私の娘ルルルを守って!もう時間がないの!」
「えっ???娘?えっ。でも。もしかして…おかあさん?」
女の放った言葉に目を見開く。ニーアにはルルルが生まれて直ぐに死んだと聞かされていた。理由はニーアが話したがらなかったので無理に聞かないでいた。知りたい気持ちはあったが一生懸命に育ててくれているニーアに気を使って聞かないでいた。
三人の話は続く。
「ニーア。無理は承知なのは分かる。けれど魔族のこれからの事。そしてこのカルラの森のためには今動かなければならない。この魔族領での魔王争いはいよいよ佳境を迎えている。私は誰が魔王となろうが知らん。でも、奴を魔王にする事は絶対に阻止せねばならん。ここカルラの森と森の外にある魔都カルラを奴が一纏めにし、魔王選に名乗りを挙げんとしている。北のグラ。東のサウザー。西のバルト。と各方面ではあらかたの勢力が決まった。そして未だ決まらないでいるここ南部。ここの勢力争いも終盤を迎えており、もはやこの森を取り込んだ者が勝者と言わんとする情勢になっているんだ。」
「情勢は私も知っています。しかし、ルルルお嬢様はやはり旦那様と奥様がお育てになるべきです。ここカルラの森の跡取りとして。それにお二人にもしもの事があったらルルルお嬢様が不憫でなりません。まだ這い始めたばかりの可愛い盛りのルルルお嬢様をお捨てにならないでくださいませ。」
涙ながらに訴えるニーア。困惑するルルル。
「ニーア私は捨てる訳ではない。もちろん出来る事なら私達もルルルと共にありたい。しかし、奴は野放しに出来ん。彼奴はこのカルラの森を掌握した暁には森全てを焼き尽くし葬り去るつもりだ。それを私は止めなければならないし、鬼族族長としての務めでもある。」
「ニーア私も同じ気持ちです。ルルルがこれからここで平和に暮らせるようにする為、レギーアを倒さなければならないのです。レギーアはクロードのブランと手を組みここを滅ぼすつもりなのです。」
ニーアは言葉を失う。ルルルの為に両親を死なせるわけにはいかない。その為頑なに「うん。」と言わずにいた。
しかし、二人が言うことも分かる。レギーアがどれだけこの鬼族を憎み仇としてきることを。魔都カルラとカルラの森はいわば悪魔対鬼で、遥か昔から争っていた。その争いに終止符を打つべく、悪魔レギーアはクロードと手を組んだ。クロードに借りを作る事は非常に宜しくないが、レギーアは鬼族を滅ぼす事を最優先とした。その為魔都カルラでは最終侵攻の準備を整え始めたと密偵から連絡があった為に、鬼族族長ガラムは焦っていた。そしてその妻バレッタも同様に…
「お父さん、お母さん…」
ルルルももう分かっていた。今のこの場所は過去の出来事だと。そして、窓の向こうにいる旦那様、奥様と呼ばれた者たちが自分の両親であることを。
本当は中に入って抱きつきたい。お父さん、お母さんって呼んで抱きしめてもらいたい。でも、それはきっと混乱されるだけ。いや、もしかしたら自分の事なんて見えないかもしれない。それが分かっているから、涙を流してはいるが唇を噛んで我慢している。
父と母が何を思って戦いに行こうとしているのか、どれほど自分の事を思い守ろうとしてしているのかを見届ける事がここに来た意味なのだとルルルは分かっていた。
目を閉じると優雅に微笑むククリナが浮かんだ。
自分はもう一人じゃない。お姉ちゃんと呼べる存在ができた。トロアやミリア、リリーネ、ダリアがいる。
ここで知る事がこれからの皆んなのためになる筈と我慢して、噛んだ唇からは血が流れている。
「分かりました。ですが、約束してください。必ず戻って来ると。」
「すまない。ニーア。約束する!必ず帰って来ると!」
ガラムはそう言うがニーアも分かっている戻ってくる事はないと…
ガラムとバレッタは荷物を狼の魔獣にくくりつけると、二人して子供部屋へ向かった。
そこにはまだ幼いルルルが眠っていた。
ガラムは頭を撫で頬に口づけをする。そして、枕もと黒の魔石を置いた。今ルルルが首から下げているお守りだ。
「何かの時はこれがお前を守ってくれる。ルルル、ニーアと共に幸せになるのだぞ。」
嗚咽を堪え涙を流して別れを告げるガラム。その後にバレッタが続く。
「私の可愛いルルル。離れてしまう母を許してください。必ずこの森は守って見せます。いつまでも、いつまでも私は貴方のことを見守っています。健やかに安穏に暮らせるよう母は行ってきます。」
そう言い、ルルルの頬に手を当て髪を撫でるバレッタ。そして、鬼神ボアホズールに祈りを捧げてその鬼神の証を魔石に刻む。
ルルルは全てを知った。父の事母の事そして…仇の名を。
いつの間にか涙は引いていた。
今ある感情は――怒り――。
足の爪先から頭の先までルルルを怒りが支配する。
心の全てが憎悪で満たす。
頭にあったコブは角となり、その真ん中からも角が生えて来る。紫色の目は左が黄色。右が赤のオッドアイに変わる。
全身から今まで感じた事のない力が溢れて来た。
そして、そのルルルに問う者がいる。
「憎いか?力が欲しいか?殺したいか?」
ルルルは否定も肯定も、しない。
しかし、心は憎しみに染まっていく。何も考えられなくなり、心にあるのは仇を殺したい憎しみだけ。全身の肌の色も黒くなり、その姿はまるで鬼神のようだ。
殺したい!殺したい!殺したい!許さない!
「うおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ルルルの心が憎しみに染まりきる直前
「ルーちゃん。ウフフ。」
呼びかける声がする。その声の主はここには居ない。
けれど確かに聞こえる。
この声は誰のものだったろう。
自分にとってかけがえのない存在に最近なった者がいた。
「あなたは私の妹よ。離さないんだから。」
優雅に微笑む金色の髪をした少女。。
憎しみ一色になりかけた心に一つの光が差した。
その光は一つまた一つと、増えていく。
それと共に浮かんでくる笑顔の「虹色の集い」の面々
「お、ねえ、ちゃ、ん。」
「さールーちゃん行きますわよ。ウフフ。」
「お姉ちゃん!!」
優雅に微笑む、ククリナ。自分の姉となってくれた者。
両親仇であるレギーアは憎い。しかし、今の自分には大切な家族のような存在が出来た。出会って間もないけど、そんなのはルルルには関係なかった。いや、ククリナがそう感じさせなかった。遥か昔から繋がっていたかのような絆を感じることが出来た。
ルルルは決意する。両親の仇は必ず取る!けれどそれは鬼神としてではなく、ルルルとしてと。
「お父さん、お母さん。わたしは必ず幸せになります。そして、カルラの森をとりもどす!」
カルラの森だった所はいつの間にか真っ白い世界に変わっていた。そして、遠くの方でガラムとバレッタが微笑んでいる。
「お父さん!お母さん!」
ルルルがそう呼ぶと全てが真っ白になり転移陣が発動する。
ククリナ達が待つ鳥獣人の村へ…




