不思議ダンジョン(リリーネ編)
リリーネが扉を開けると、特に変わった様子の無い洞窟だった。出て直ぐ道が二手に分かれている。洞窟内には灯りが灯っているので視界は良好だ。
「うーん。どっちにしようかなぁ。」
そう悩みつつ違ったら戻ればいいや。と思い左に行く事にする。そのまま進んで行くと ヒュン という音ともに小さい針のような物が飛んできた。リリーネはそれを軽々避ける
「うわっ。奥に何かいる。」
奥に目を向けたリリーネが見たのは大きい蜂のようなモンスターだった。リリーネは旅の出発前に買った弓を構えて、矢を放つ。本格的な敵とまだ戦った事がないリリーネであったが、旅の道すがらにミリアから指南を受けていた。食料を確保する為動物達を狩って来たためそれなりの腕前は身に付いていた。それに加えて、先日のククリナによる超重力訓練によって筋力も強化されていた。その為リリーネ自身も驚く勢いで矢が大きな蜂に突き刺さる。
「えっ?わたしすごーい。」
思わぬ威力に自信を深めたリリーネ
「ククリナの訓練のお陰だね。わたしも強くなってる。ちゃんと後方支援できそうだなぁ。」
リリーネの役割はアイテム管理、回復担当、遠距離からの牽制。まさに後方支援だ。ククリナの力が大きすぎるため、なかなか活躍の場がないが、元々視野の広さがあった彼女には後方支援職は正にうってつけの役割だった。それらを見抜いていたミリアの目もまた慧眼といえよう。
「さーきっと皆んなも頑張ってるだろうし、あたしもいくよー。」
自分の今の力を確認できた事で、自信を持って進む事が出来る様になったようで、迷わず進んで行く。
元の性格がとても前向きな彼女は 失敗したらしたで次頑張ろう という具合に、大胆に動く事が出来た。もう少し慎重にとトロアならいいそうだが、咄嗟の場面では彼女の判断がその場の流れを左右するかもしれない。もし、今の彼女に足りない物があるとすれば、それは経験だろう。
その後もズンズン進んで行く。やはり、その動きには迷いがない。行き止まりになったら戻り、敵がいたらよく分析したうえで攻撃したり、アイテムを使って錯乱させた後に攻撃をしたりと臨機応変に対応している。
そして、そんな彼女は今一つの大きな空間に出た。そこには三つの穴がある。
「うーーーん。どれかなぁ。」
今までの分かれ道と同じように見えるが、リリーネは今までと違う雰囲気を感じていた。ここの選択のミスが大きな失敗に繋がるような嫌な予感を感じさせる何かをその三つの穴は漂わせていた。
「これは流石に悩むなあ。どう選んだもんかなぁ。」
こういう時こそミリアやトロアと相談したいと思うリリーネ。しかし、ククリナが居たら悩むことはないだろう。
そうやって悩んでいると、真ん中の穴から何かが現れた。
「ん??」
そこに現れたのは両手ほどの大きさのドラゴンだった。
しかし、リリーネにはトカゲに見えるが。
「あっ!トンちゃん?」
そう言ったリリーネはそのドラゴンに駆け寄って抱き上げる。
「やっぱりトンちゃんだ!ここの頭のあざの跡はそう。間違いない。なつかしー。なんでこんなとこにいるの?」
トンちゃんと呼ばれたドラゴンは実はリリーネが小さい頃に飼っていたペットだった。リリーネはトカゲだと思っていたが実はドラゴンだった。教会では生き物は飼っていけないため、教会の外でこっそりと育てていた物だった。しかし、ある時餌を持って外に出たら居なくなっていた。リリーネはきっと神父さんか誰かに見つかって何処かに逃されたと思っていた。その当時はいなくなった寂しさに枕を濡らした思い出がある。
そんなトンちゃんに再会出来たことに大喜びのリリーネ。
トンちゃんも懐かしむように、リリーネに頬擦りする。
「うわー。トンちゃん。トンちゃん。」
リリーネもそれに応えるようにトンちゃんを抱きしめる。
そうして、再会の余韻に浸った後真ん中の穴から出て来たことを思案する。
「でもなんで、ここから出て来たんだろう。」
そう考えていると、トンちゃんがリリーネの腕の中から飛び出す。そして、トンちゃんはそのまま真ん中のアナに向かって歩き出す。穴の前まで来ると止まり、くるりとリリーネの方に振り返る。
「ん?トンちゃん、こっちに来いってこと?」
その問いかけに応えるように穴の中に進み出すトンちゃん。
「わかった!案内してくれるのね。」
トンちゃんはそれに応えるように、そのまま進んで行く。
リリーネも後に続く、自分の足音とヒタヒタというトンちゃんの足音だけが洞窟内に響く。そんな静かさに耐えららなくなったのか、リリーネが口を開く。
「でもまさかトンちゃんにこんなところで会えるとは思って無かったなぁ。」
しみじみ再会を噛み締めるリリーネ。
あの時、教会で暮らしていた彼女は一番年上と言うこともあり、下の子供達の面倒を見たり掃除の手伝いをしたりと忙しくしていた。その為余り寂しさというものを感じることは無かったが幾ら一番年上といっても、子供は子供。誰かに甘えたかった。シスターも神父さんも甘やかすというよりも、最年長者として扱いとても厳しかった。そんな心の隙間を埋めてくれたのがトンちゃんだった。
トンちゃんの後を追いならがら後ろ姿を見ていたリリーネはそんな昔の自分を思い出して、涙がこみ上げて来た。
居なくなった後はとても心配した。ちゃんとご飯を食べられているだろうか?他の大きな動物に食べられていないだろうか。
そんなトンちゃんが無事生きていた。そんな事を考えていたら涙が止まらなかった。
「良かったぁ。」
リリーネは流れる涙を拭う事なく、トンちゃんの後について行く。そして、今までの雰囲気とは違う扉の前に着いた。
トンちゃんが再び振り返る。この扉を開けろと言うように…
リリーネはコクリと頷くと扉に手をかける。
扉は少しの力で開いた。開けてみると、そこは地下だというのに上から光が差し込み、中央には周りと同じ岩で出来た台があった。台座の上には一つの宝箱が置いてある。
トンちゃんがその台に、するりとよじ登る。
この宝箱を開けろと言わんばかりにリリーネの事を見る。
「これを開けろって事ね。」
リリーネはそう言うと、躊躇いもなく宝箱を開ける。
一連の出来事が罠ということはリリーネは考えなかった。本来であれば、そのことも考慮し慎重に行動すべきだ。人の弱いところをつつき、陥れるのは世の常だ。今回の事もその可能性は十分にある。しかし、リリーネは躊躇わない。
あの時と変わらないトンちゃんの存在が、罠という可能性を考慮する思考をリリーネは拒否したからだ。前向きな彼女は今回も失敗したらしたでしょうがないと、割り切っていたのである。
そうして、宝箱は開けられた。
少し身構えたリリーネだったが、なにも起こらない。どうやら罠では無さそうだ。宝箱の中を覗いてみる。
中には一つの腕輪が入っていた。龍が彫り込まれ、いくつかの魔石が散りばめられた金色に輝く腕輪。
「うわーー。なにこれー。ピッカピカだぁ。」
そう言いながら、その腕輪を手に取ってみる。そして、視線をトンちゃんに向けると、微かに頷いたように見えた。
「トンちゃん、つけてみろってことね。」
そう言い、腕輪をつけてみる。
すると、リリーネの中に思念が流れ込んでくる。
『リリーネ。これは龍の巫女の腕輪。この腕輪を付けることで我々ドラゴンと会話をする事ができるの。これは、僕にご飯を食べさせてくれて、僕の事を大切にしてくれた君に僕からのプレゼントだよ。』
リリーネはすぐに分かった。その思念はトンちゃんのものだと。
「ト、トンちゃん。」
再び涙がこみ上げてくる。
『リリーネ。今まで本当にありがとう。これを使って、仲間を助けてあげてね。それと、いつかこの力を必要とする時がきっとくる。その時は頼んだよ。』
そう言うとトンちゃんの体がどんどんと薄くなって行く。
「えっ?トンちゃん。どうしたの?なんで?」
『ごめんね。リリーネ。折角再会出来たけど、僕の役目はもう終わったんだ。寂しいけどお別れしなきゃ。』
「えっ!!待って!嫌!行かないで!お別れなんか嫌!お願い!そんな事言わないで!」
『ありがとう。僕は君に出会えて幸せだった。そして、これを渡せて本当に良かった。君ならきっと正しく使ってくれる。リリーネ。これからも君らしさを失わないでね。大丈夫。僕とはいつも一緒だよ。もうお話しは出来なくなっちゃうけど、その腕輪の中に僕はいるよ。だから泣かないで。』
「嫌だ!トンちゃん。もうわたしを一人にしないで!」
『リリーネ。何を言うんだい?君はもう一人じゃないでしょ?仲間がいるじゃないか。僕にしてくれたように皆んなを大切にするんだよ。僕の大好きなリリーネ。君に龍神の加護があらんことを…さようなら、リリーネ。』
そう言うとトンちゃんはキラキラと光に包まれて居なくなった。
「いやーーーー。」
誰もいないその空間にリリーネの叫びがこだまする。
「うっ。うっ。さようなら……トンちゃん。私の初めての友達。」
リリーネは一頻り泣いた後、腕輪に手を触れる。
そこにはトンちゃんを、感じられるような気がした。
そして、先ほどトンちゃんが言っていた事を考えてみる。
「いつかこれが必要な時がくる…」
リリーネはこのエルフの里に抱いていた不透明な違和感に妙な黒い物を感じた。それが関係しているのだろうか。
それ以上考えていても分からない。そういまは決し、思案する事を辞めた。そして前を向く。トンちゃんの絆に恥じないよう、トンちゃんの気持ちを裏切らないよう立ち上がる。
「トンちゃん。わたしはやるよ。仲間を助けるよ。見ててね。」
そうリリーネが決意するとともに、また転移陣が起動する。
誰もいなくなった岩の台には
リリーネとトンちゃんの友情は不滅
と刻まれていた。




