いざ勝負ですわ。
さーて。今日決着をつけましょう。
昨日のカイの態度は、私達の中にあった港で見た亜人と人との光景が虚像である事を知らしめるのに十分だった。
同じ生き物同士だから、たとえ姿形が違っても差別する事なく仲良く出来ると思っていた。しかし、亜人は人を見下している。少なくとも私の中には、同じ生き物同士という感覚しかなかったから能力の差や見た目の違いなどはただの個性としか捉えてなかった。
しかし、それは私の考えであってその者によって違う事を思い出させた。「そうよね。失念していたわ。」
昨晩寝る前に皆と今日の作戦について話した。作戦と言っても、ただ早く動くという事なので作戦もクソもない。
だから、得たスキルにについて聞いたの。
トロアが得たものは、「肉体速特化」と「瞬神速」というものだった。正に鍛錬の結果といえるわね。効果もそのままのようね。ただ、肉体速特化は3段階あるらしい。
ミリアが得たものは、「脚力強化」「無尽蔵」というもので、無尽蔵の効果は時間制限はあるが、その間スタミナを減らす事なくずっと動き続ける事ができるそうだ。
前回はミリアが勝負に挑んだが、昨日のトロアの追い込みもあって今は彼のがスピードの伸びがいい。持続力はミリアのが上だが瞬間的なスピードではトロアに軍配が上がる。
しかし、二人の得たスキルは今回の勝負にはうってつけのスキルだわ。でも、そのスキルでどの程度強化され、開いていた差が縮まったのかはやってみないと分からない。「でも、ここの村でやれる事はもうないから最悪は私が出て次に行こうと思いますわ」と心で呟き皆に笑顔を向ける。
今は借りている家の中にある玄関の前て皆が集まって円陣を組んでる状態だ。この雰囲気だと、私に号令をかけろという事なのだろう。しかたないわね。。
「さて、皆さん用意はよろしくて?」
皆を一人一人見渡しながら確認すると。「うん!」や「大丈夫です!」など其々答えてくれる。
「なら私は特にいう事はありませんが、そうね…トロアとミリアなら大丈夫でしょう。気負わず思い切りやりなさい。さー参りましょう。」
そして、意気揚々と外に出る。ただのスピード勝負なのにまるで殺し合いをするかのような張り詰めた空気を纏う私達、それはやはり昨日のカイとのやりとりが原因でしょう。特にトロアの目つきが怖い。そんなトロアの肩に手を乗せポンポンと叩いた。振り向いたその顔に微笑みかける。
「大丈夫ですよ」そんな無言の笑顔をトロアは理解してくれたのか、微笑み返してくれた。肩の力も抜けたように見える。歩きながらミリアと昨日の事や、作戦のことを話している。その表情にも硬さが抜けた。うん!今日は大丈夫でしょう!とそう思った瞬間だったわ。
そんな私達に気付いたカイが近づいて来た。
「おはよう御座います。昨日すみませんでした。」
「おはよう御座いますカイさん。どうしたのです?」
「いえ、ククリナ様の力を目の当たりにし己の小ささを実感いたしました。今日はよろしくお願いします。」
そう言うとカイはスタート地点へ向かった。トロアも複雑そうな顔をしながらスタートに着く。
「では。両者、よろしいかな。 では、はじめ!」
そう言うと村長が色をつけた石を投げた。
直ぐに反応し動いたのはカイだ。前回よりも早くなっている気がする。一瞬にしてトロアとの距離が開く、そして反応できなかったのかトロアはまだ動かない。どんどん石に近づいていくカイ、後数メートルで石に届きそうだ。
勝負を諦めてしまったのかと思うくらい動いていないトロアが動いた。(シュン)そういう音が聞こえそうなほどの速さだ、恐らく見えたのは私だけだろう。
そして次の瞬間にはトロアが石を取っていた。
勝負は特に熱くなる場面もなくあっさりと終わった。
投げた石を取るだけだからしょうがないのだろうけど、もうちょっと盛り上がる場面も欲しかったなと。一人思う私。
そんな私の元へトロアがもどり、「無事終わりました。」
そう言うと満面の笑顔を向けてくれた。
ちょっとドキっとしたけど、それは取り繕って表に出さない。一言「お疲れ様でございます。」と微笑み返した。
そうしていると、トロアの後ろからカイが近づいてきた。
「負けました。完敗です。凄まじい速さでした。トロア殿、昨日は本当に失礼した。」
「いや、それがあったからこそ今の私がある。気にする必要はないよ。」
とお互い握手をした。
そうして、前と同じように次の村へ向かう出口へ案内された。
出口を出て、次に向かう私たち。するとトロアが私の前に小さいメモを渡してきた。
「ん?トロアどうしたの?」
「はい。先程カイと握手をした時に渡されました。手の中に握り込まれていたのです。なので、村の者には知られたくないことなのでしょう。」
トロアに渡されたメモを見てみると一言……
(エルフに注意)
と書かれていた。
「ん??どういう事なんでしょうか?」
「どうしたの?ククリナ。」
私が首輪傾げているとミリアが声をかけてきた。
「皆さんこちらをご覧になって?」
そう私は言ってダリアとリリーネ、ルーちゃんも呼んだ。
皆でそのメモを覗き込む。
「エルフに注意ですか。どういう事なのでしょう。」
「そうよね。これだけでは何のことかわかりませんわよね。」
「エルフからも難題が与えられるとか?」
「魔法勝負とかかな?」
皆んなで推察するも、答えなんて出る訳はない。なんかモヤモヤとした気持ちを抱えつつ先に進むことにした私達。
その頃、先程の犬獣人の村で。。。
「おい!カイ。お前さっきの奴らに何か渡さなかったか?」
村長に問い詰められるカイ。
「いや、何も渡してない。」
「嘘をつくな!そもそもあんなに嫌っていた人間と握手なんかして何を考えているんだ!」
「何もない。負けたから戦士として敬意を払っただけだ。」
村長とカイが押し問答をしているところに、白いローブを着た者が突然現れた。その者は音もなく、気配もなく、何も無かった所にずっとそこに居たかのように違和感なく現れた。
村長とカイは特に驚くこともなく、すぐさまそこに跪いた。
「村長どうしたのだ。何を言い争っている。」
「ははぁ。ジロード様。カイが怪しい動きをしていた為問い詰めておりました。」
「いえ、ジロード様、俺は何も怪しい事はしていない!」
そうカイも弁明するも、フードの奥の視線はそれを一笑に伏す。
「ふっ。カイよ。其方は私の目を誤魔化せると思っているのか?」
「ジロード様、誤魔化すも何も俺は何もし……」
最後まで言う前にそのフードのジロードと呼ばれる者の指先が光った。
次の瞬間、音もなくカイはすっ飛んでいく。
ドサっと地面に打ち付けられ、ウグッと呻き声を上げるもそれ以上喋る事も出来ない。カイは先程のヒカリに胸を撃ち抜かれていた。
そのまま動かなくなったカイ。
「ふん!裏切り者め。村長、あとの処分は任せる。」
そう言うとジロードは消えた。
緊張が解けた村長はそこに腰を下ろした。
「まったく。」
そうぼやくと、村長は立ち上がりカイを川まで運ぶ。そして、その川に投げ込んだ。
カイはそのまま流されていった。
そんな事が起こっている事は知らない「虹色の集い」一向は次の村へと向かっていた。
一人ククリナの表情は暗い。




