死体と会った
宛もなく、森を歩いていく
森の奥に向かっているのか、それとも外に向かっているのか見当がつかない
歩いていくとサラサラと水の流れる音が聞こえてきた
川の流れる方向に向かっていけば、外に出られるかもしれないと思い、音のする方に向かっていく
「お〜...綺麗!」
流れは穏やかで、水はまるでガラスのように透き通り、中で泳いでいる魚も十分に見える程に透明度が高い、この美しさは田舎でも中々見られない光景だろう
川の流れを楽しみながら下っていくと、草陰に何かあるのを見つけた
近づいて見ると、なんと人の腕が草陰から伸びてきている
(助けた方が良いのかな...でも、危ない人かもしれないし..あっ!もしかしたら私と同じ状況の人かも!)
そう期待を抱き、草をかきわけ呼び掛けをする
「あの、大丈夫ですか...?」
しかし、そこには体は無い
血の気が引けるのが分かったが、事実を否定したいがあまり、手を引っ張ってしまった
そこには、力なく手が垂れ下がり、血色も無くなり、手に伝わる冷たい温度からとうに亡くなっているただの腕があるだけだった
思わず腰を抜かして座り込んでしまう
人がこのように死んでいるという事は、そういう事が有り得る世界
目の前の相手を悲哀する気持ちと自分もそうなるかもしれない恐怖が入り交じり、どうしようもない不安が心を蝕む
不安を誤魔化すかのように誰のか分からない腕を強く握りしめる
誰かに縋りたいが、私の周りには誰も居なくなってしまった、手を握っても冷たい感触がより悲壮感を増させる
「助けて...」
この現実から目を逸らすように目を伏せうずくまる
これが悪い夢であってほしい
「どうしたの?そんなにうずくまって大丈夫?」
何処からか、優しい声が聞こえ目を上げる
しかし、そこには誰も居ない私が不安のあまり幻聴まで聞こえてしまったのだろう
「上じゃなくて下だよ」
またも聴こえた幻聴、いや幻聴じゃない?さっきより、やけにはっきり聞こえる
言われるように地面を見てみると、さっきまで無かった頭が転がっている
白髪で額に大きな切り傷がついている男の顔が
次々と現れる不思議な出来事に息を飲む
「ごめんね〜こんな姿で、あっ、それ僕の腕なんだ!探してくれたの?ありがとう」
笑顔でコロコロと私の足元まで迫ってこようとしてくる
気味の悪い事に思わず逃げようと、思わず立ち上がり足を1歩引くとポスッと背中に何かぶつかってしまう
後ろを振り向くと、私よりも大きく背の高い『首の無い』体が立っていた
「ギャァァァァァァ」
悲鳴を上げながら、その体を突き飛ばし、森の中を全速力で突き抜ける