4話 戦後の大東京鉄道①
1950年6月25日、朝鮮人民軍が38度線を南下した事で朝鮮戦争が勃発した。詳しい内容は本編の『番外編:この世界の日本』に譲るが、これによって日本では国連軍(※1)向けの各種特需に沸く事となった。また、日本に駐留していたアメリカ軍の殆どが朝鮮半島に移動した事で、日本国内の軍事力が低下する事となった。それを防ぐ為と日本軍が朝鮮戦争に参戦した事に、日本軍の重装備化と規模の拡大がアメリカの要請によって行われ、日本軍向けの軍需も急速に拡大した。2つの特需によって、日本経済は急速に回復した。
特需によって、各地の工場は再びフル稼働状態となった。今回は戦時中と異なり、アメリカからの技術導入や資源投入、安定した資本投下によって、大規模かつ安定した質の生産が行える様になった。当初こそ国連軍及び日本軍向けの需要が多かったが、途中から余剰生産力を活用して民需向けの生産が増加した。この頃には、資材不足が大幅に緩和された。
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資材不足が緩和された事で、計画止まりだった設備更新や車輛増備、宅地開発が本格化した。1951年6月頃には計画が動き出し、最初に設備更新が行われた。1948年から何度か修繕が行われていたが、資材不足によって大規模な修繕は行われておらず、数年間で何度か脱線事故や橋梁の破損が発生している。
行う事は、軌条、枕木、橋梁、架線、全ての交換だった。これらは建設時の資金不足から廃品を利用していた事から最初から耐久性は落ちており、戦時中・戦後の酷使で更に疲弊していた。その為、早急に新品に交換する必要があった。
幸い、今回は資材不足が問題とならない事から順調に進んだ。軍需や建設ラッシュなどで資材の価格が高騰しているのは痛いが、資金があれば手に入るのだから前よりは大分マシな状況である。
尤も、その資金が無いという問題があった。開業当初から資金不足に悩まされており、戦後は補修や車輛の増備などで資金を取られており、大規模な計画を行うとなると自前では足りなかった。その為、銀行からの借り入れとなるが、この際に資金を借りた主要銀行が日本長期信用銀行(長銀)と日本信託銀行で、翌年からは日本動産銀行(動銀)と昭和信託銀行からも借り入れた。この内、動銀と昭和信託は新亜グループ(※2)であり、設立されたばかりという事もあって、繋がりを深めようと最初から多額の融資が行われた。実際、これ以降の大東京鉄道は新亜グループとして見られる様になる。
兎に角、豊富な資金を得た事で設備更新は進んだ。設備の酷さや沿線人口が急増しつつあった為、1951年10月から急速に進められ、翌年1月に更新工事は完了した。
合わせて、車輛の更新と増備も行われた。戦時中に集めた車輛や戦災車輛の多くは戦後になって車体更新を行った事でまだ運用は可能だが、集めた車輛の中には15mや13mといった小型車輛も多く見られた。他にも、付随車扱いの客車の更新も進んでいなかった。
これらの状態の解消と車輛性能のある程度の統一化を目的に、小型車輛の地方私鉄への譲渡と残る電車と客車の更新工事が行われる事となった。また、沿線の宅地化が進んでいる事もあり、譲渡と更新によって不足すると見込まれ、同時に増備も行われる事となった。
尚、小型車輛の地方私鉄への譲渡については、終戦後に大手私鉄が同じ事を行った事、運輸省規格の車輛の増備が進んだ事、地方私鉄が運用する車輛が大型化した事などから地方私鉄側が拒否した為、計画が宙に浮く事となった。その為、これらの車輛は廃車して、使用可能な電装品は新造車輛に流用する事となった。
この時、増備されたのは新造の電動車が12両、車体更新の電動車が10両、付随制御車(※3)が16両の計38両であり、新造は日立製作所と日本車輛製造で半数ずつ行われた。
車体更新された車輛は2種類あり、1つは東急が運用していた3600系電車に、もう1つは東武が運用していたクハ450形電車に似たデザインとなった。これは、車輛の多くを融通をしてもらったのが東急と東武だった事に由来しているが、両社が大東京鉄道に影響力を保ち続けようとしている為でもあった。これらも、電動車・付随制御車共に半数ずつが東急デザインと東武デザインになった。
これらは1年半かけて増備され、輸送力強化と老朽化した車輛の修繕が完了した。丁度、沿線開発が本格的に始まった時期に増備が完了した為、タイミング的には良かった。しかし、沿線開発が進んだ事による利用者の増加は止まる事を知らず、近い将来の更なる輸送力強化を行う必要があった。
※1:「国連軍」という名称だが国連憲章に基づいて設立された訳では無い為、実際はアメリカを中心とした多国籍軍であった。「国連軍」の名称を使えた理由は、安保理決議82に基づいて設立され「国連軍」の名称を使用する事が認められた為。
※2:この世界オリジナルの企業グループ。詳しい内容は本編の『番外編:太平洋戦争の総決算と戦後の東アジアの混乱』に譲るが、戦前に外地を拠点としていた企業を再編して成立した。中核企業は動銀と昭和信託、日本貿易銀行となる。
※3:付随車は動力を持たない車輛、制御車は運転台が付いている車輛を指す。