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勇者

これを読んでくれている人たちの中にだれにも必要とされていない人もいるでしょう。

それで悩んでいる人は自分のために生きればいいんです、人からの評価がなんだというのですか

(ただし悪いことはしてはいけない、必要とされないだけならまだしも害悪とされ、最悪排除されるから)


「……」薄暗い中で目覚める。

体育館に避難してきて、眠って、そして朝を迎えたようだった。


利知は大きく伸びをして立ち上がり辺りの状況を確認した。

雨音が外からする、昨日よりも大きい。

唸り声も昨日より大きくなり、そして不気味さを増している。


突然、利知の怪我をしていた利知の顔がずきずき呻いた。

包帯の上から触ってみると、超速で治っている。

「これは……?」最近ずっと異常に高い治癒力も落ち込んでいたので不思議だ。

アカネが切なそうに説明する「貴方の中にある赤い化け物の力が暴走しつつある、つまりリミッターとかが無くなって、力の持ち主まで滅ぼすリミットがかなり近いのね」

利知は、ああそうかと思った。

死ぬ前にすごく力が出るようなものかと。


だがしかし、利知にとって今はそんなこと決断のタイムリミットを指し示す以外意味のないどうでもいいことだ。

今大事なのはとにかくリナ子に菜野の死を伝えるというやるべきことをやることだけだ。

「あれ?どこだ」この闇の中では、上手く視認できない。

「あっ、あれじゃない?」アカネがリナ子らしき影を遠くに指さす。


身振り手振りを交えて誰かと話しているようだった。

でもよく何を言っているか聞こえない、仕方がなく利知はそこに向かった。


近づいてみると、リナ子と男の人が話していた。

「あの、リナ子さ……」

「ふざけるな!」

「ふざけてるのはあなたでしょうがっ!」

利知が呼ぼうとすると、男もリナ子も怒り狂っていた。

お互いに睨み合い、罵声を浴びせ合っている。


「……な、なにが、お、おきたん、ですか?」

緊張しながら近くにいた人に事の顛末を聞くと、詳細かつ分かりやすく教えてくれた。


近くにいた人は菜野を探し回って人に尋ねまくっているリナ子に男が「死んだのではないでしょうか?」

と突っかかってきて「まだわからない!」とリナ子が反論すると、男は死んだ、と決めつけた。

男はずっと他人にずけずけ話しかけていくリナ子を見ながら苛立っていたらしくかなりひどい口調でリナ子とその友達である菜野を罵倒した、そして菜野にまで罵倒されたリナ子は「何も知らないくせに」と激怒した。

そして、男とリナ子の間にお互いぶっ潰してやりたいという破壊願望が生まれたみたいである。

―――――という話を聞いて現状を見ると。


そしていまにも殴り合いになりそうなにらみあいが現在行われていた。

リナ子と男はお互いに視線を外そうとしない。

「体格や動きを見るに男はそこそこ強いわ」アカネの分析から察するに、利知は仲裁に入っても男に負けるようだった。


男が、挑発するように口を開く。

「どうせ、罪深い奴だから死んだんだろうな」リナ子の友人である菜野のことを言っているようだった。

しかし、男は怒りで冷静さを欠いていて、ここに避難してきている家族や恋人を失った人からの憎悪に築かない。

「おまえ!」菜野だけでなくそれ以外の人にも失礼なことを言った男をリナ子は許せなかった。

パン、という大きな音が響いた、平手で男の頬をリナ子は殴っていた。


彼女の拳はグーじゃなかった。


しかし、激昂した男は握りこぶしでリナ子を殴り飛ばそうとして

突然割り込んできた別の人間を殴り飛ばした。

利知だった。


不運なことに鼻がめきょりと折られて、さらに首がゴキっとなりながら利知は転がって。

そして立ち上がって男をにらんだ。


「なんだよ!お前……?」

男はずんずん利知に歩み寄ってきて、腹を蹴り飛ばした。

「あぐ……!」胃液がせりあがってきて、口から吐き出される。

「げほげほげほ」

「ちょっとくらい抵抗してみろよっ!?」

男は利知の胸ぐらをつかんで、顔を近づけすごい剣幕で怒鳴った。


「……抵抗しようがなんだろうが、どんなことも無意味じゃないですか」

利知は、心の底からそう言った。

「無意味なんだったら、俺の邪魔してんじゃねえよ!」

男はますます怒りの炎を激しくする。

利知はそんな彼を見ながら心が怖がりつつも、思考が自身が驚くほど冷静だった

そして答えた。

「それもそうですね」

何もかもが、男への挑発として捉えられた。

「テメエ‼」

男は、利知を殴りとばそうと、大きく拳を振りかぶった。

しかし、ふと気づく。

死んだ奴は罪深いとバカにして、子供をいたぶって。

それで周りの目がどうなるかということに。


冷たい視線が、男の周り中から飛んできていた。、

今にも殺してきそうな鋭さを持ったものもある。

「無意味でしょう?気に入らないとかそんな理由で傷つけあうなんて、やめましょうよ」

それに気づいた男はさらに利知に言われて、渋々と手を下ろした。


少しだけ冷たい視線の温度が上がった。


「大丈夫!?殴られてたけど結構強く」リナ子が慌てて利知のもとに駆けよってきた。

「ええ、それよりも俺伝えないといけないことがあるんですけど……」

「わかった、とにかくそれは怪我の治療しながら、ね?」

利知はさっき殴られた怪我はおそらく大丈夫だろうな、と思うがここは口論になっても得は無いので黙っておいた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

そして、避難所の隅っこのあまり治療しても他人の邪魔になったりしなさそうなところに二人で腰を下ろした。

「そろそろ包帯も交換しないといけないわね」

彼女は懐から医療用の道具を取り出しながら言った。


「あの」そんなリナ子に対して唐突だと思われるかもしれないが、利知はここで言うことにした。

あまり言い渋っているとどんどん伝える機会が無くなっていくのだから。


「俺、菜野さんがどこにいるか知ってます」

「えッ!?どこどこ!?もー、もっと早く教えてよ~?どこなの?」嬉しそうにリナ子は利知に食い掛ってくる。

そんな彼女に真実を伝えることに利知は、ためらいを見せないようにした。

「死にました」

「……え?」何を言っているのか受け入れがたいリナ子に利知は

「死にました」もう一度言った。


「嘘」

「別に罪深かったりはしません、でも死にました」これでよかったのか?

という疑念が頭に浮かぶ、だがもう取り返しはつかない。


じっと、考え込んだ後。

リナ子は一言呟いた。

「……そう」

利知への信用が、彼の言葉が嘘だと決めつけるのを邪魔した。


「……怪我の治療、しなきゃいけないわね」落ち込む姿を隠しながらリナ子は気丈にふるまう。

「そうですね」それをわざわざ否定したりしない。

まだ薄暗い、顔をさらけ出してもそうそう自分が犯罪者として報道された顔とバレることはないから大丈夫。

利知は包帯をリナ子に差し出して


「?怪我の治りが速いわね……?」利知の顔を見ながら彼女は訝しむ。

「そういう体質なんです」それに対して本当のことを言った。

「これでよし」そして、包帯を巻きなおされた。


「ありがとう……ございました」利知は本心からそう言った。

名残惜しさがある。戦いに行くことに。

だけどもう覚悟を決めてしまった、止められない。


「でも、不思議な感触ね……顔も今まで知らなかったのに、菜野を通して私たちは関係があったっていうのは」

利知はそれを聞いて、むせびそうになった。

何もかも投げ出したくなった。

「いえ……関係ないですよ」

だから否定した。


雨音がどんどんひどくなるにつれて唸り声もひどくなってくる。

「あぁぁぁあああああ‼‼‼」

アポカリプティックサウンドというものがある、世界終焉の音と呼ばれるような不気味な音だ。

そんな唸り声がとうとうなってしまった。


「……タイムリミットね」アカネの言葉。

「ああ」頷いて、利知は立ち上がった。

「ちょ、ちょっと?」リナ子が止めようとする「ちょっと俺、用事があるんで、すみません」コミュニケーションが不得手なりに意志を伝えた。

これでやることはやったと思った利知は

このままだと彼女と一緒に何もかも投げ出してしまいそうで利知は振り向かずに走り出した。


自分でもそんなことやるのはあんまりよくないと思うが、やってしまった。

死にに行くのだ、緊張しっぱなしである。

避難所のドアを開けて、外に出る。

雨が地面を打ち付け続けていた。

とても短い階段があるので転げ落ちないよう駆け下りて、最後の段を下りた時。


「ちょっと!?」後ろから、リナ子が追い付いて来たようだった。


「何ですか?」

「いきなり走り出したら心配でしょう?」

優しさが、人とのきずなが、利知を絡めとろうとする。

「大丈夫です」

「それに……」


リナ子は雨に濡れることもいとわず利知に近づいてきながら、優しく諭す。

「まだ、さっき助けてもらったお礼もしてないしね」

「ありがとう、まるで英雄(ヒーロー)みたいだった」

「……違います」

「え?」

「俺は……菜野さんもそうなんですけど凄く多くの人を助けられなかったんですよ、だからそんなに良いもんじゃありません。弱虫だし、鈍才だし、クソ雑魚なんです」


リナ子は自分を語る利知の表情に寂しさと、硬い意思を見つけた。

「じゃあ、さようならありがとうございました」

どこかに歩いて行こうとする利知をリナ子は引き止めようと口を開いた。

利知が何をしようとしているのかはわからないが、とても大事で絶対に逃げられないことに立ち向かおうとしていることがわかったから、心配だった。

なのに何も言葉がでてこない。


「あんまり俺に関わらないほうがいいですよ、あなたは俺と関係ない。」

利知は出来るだけ冷たく言い放った。

リナ子とこのまま関係を持っていれば、戦いに向かえない。

それに甘えて逃げ出してしまいそうだった。


その覚悟を察して、リナ子は引き止めなかった。

ただ、雨の中誰にも気づかれない涙を流しただけだった。


この日、この時、雨の中で。

少年と女が別れた。

お互いに何年も連れ添ったわけでもなく、数日間の付き合いしかない二人だったがそれでも。

それでも絆は確かにあったのだけれども。


利知は赤い化け物と戦って、大災害を止める決意をした。だから全速力で唸り声の方へ向かっている。

大災害が起こってもあまり被害がでないんじゃないか?といった色々な都合のいい可能性も考えたし

自分にとって都合の悪い可能性も大量に考えた。

そして、決めた。


自分が死ぬこともなにもかも関係ない、ただ戦うのだと。

たとえ何かを守ることが無意味でも関係ないと。


そして利知は巻きなおされた包帯を捨てた。


走りながら利知はアカネに言われた。

「さっき思ったけど勇者よね」

「え?」速度を落とさないまま聞き返す。

「だって、あなたは英雄ではない……だったら勇者じゃない?

だって、勇気だけはあるじゃない」



その言葉がわずかに震えているのを利知は見逃さなかった。

そしてその震えの意味を理解した、罪の意識だ。


少し立ち止まってそのことについて聞いてみることにした。


「もしかして、俺がこうやって戦って死ぬって運命にぶちこんでることに罪悪感ある?」

アカネの表情が強張る、図星なようだった。

彼女は重苦しい顔をしてうつむく。

「ずっとそんな気分だったのか?ずっと俺が死ぬ運命に俺を誘導しないといけなかったんだもんな」アカネは何も言わなかった。

「都合が悪くなると、黙るんだな」利知は微笑んだ。

「気にするなよ、それよりもどうやって赤い化け物を倒すかもっと一緒に考えるぞ」笑顔のまま提案した。

優しい声であった。

「いいの……?それでいいの?」弱弱しくアカネはそれに「答えた。


そして泣くように彼女は叫んだ。

「本当にいいの!?勝っても負けてもどっちにしたってあなたはこの世界から消えるのよ!?」

「ああ、でもいいんだ」

「本当に戦うの!?”俺には関係ない”って言って逃げなくていいの!?」

「ああ、俺はやりたい、俺がやりたいから、いいんだ」


何を言ってももう利知は止まらなかった。

だからアカネは涙を拭いた。


「じゃあ、まず作戦を立てよう」利知はそんな彼女と慰め合うわけでもなく、ただ提案した。

「例えば武器を使ったらどうかな」

「……武器で殺せるのは赤い化け物の力を得た”人”だけで赤い化け物自体はDWに行ってコアを破壊しないといけないのよ」

「そーいえば武器→銃→軍隊で思い出したけどなんで自衛隊とか来てないんだろうな?

こんなに街が飛散なことになってるのに」


少しアカネは黙って、そして口を開いた。

「ネットも通じないっていうし、たぶん彼ら、いや、日本中大混乱になっているんじゃ?」

「何にせよ、誰かに手伝ってもらうのは無理っていうわけか……そろそろまた走ろう、時間ないんだろ?」

二人は楽に話せるくらいの速度でまた走り始めた。



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