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優しさが俺を絡めとろうとする

街の往来で目覚めた朝から今の夕方まで「あぁぁぁあああ!」と遠くから響いてくる唸り声は鳴るたびに不気味さを増す。

避難所にいる子供も大人も震え上がるほど恐ろしいものであった。



外からどしゃどしゃと降りつづける雨音を聞きながら

利知とリナ子は中学校の体育館にいた。

周りの姿は普段と大きく変わっている、ダンボールで小ぎれいに畳のように敷かれ、壁のない部屋が作られていた。

とても丁寧な仕上がりだ。


「……」アカネに赤い化け物が大災害をいつ引き起こすかと聞くと。

唸り声から察するにまだ数日間はかかる、というお返事が返ってきた。

まだ時間はある、落ち着いて利知は膝を抱えた。


仲間はみんな死んだし、覚悟は揺らぎながらも特定の方向に傾いてきた。

まだリナ子に菜野の死を伝えられていない。


彼女はダンボール部屋についたとたん「じゃあちょっと菜野を探してくる!待ってて!」と言って去ってしまっ

た。

だから、利知は動けずにいた。待て、と言われたのだ。

従わない理由もないし、待てというのならどうせ彼女はそのうち戻ってくるはずだら。


避難所では色んな人がいた。

携帯で恋人に電話をかけるも繋がらずに、パニックに陥る者。

突然の衝撃にやられでもしたのか、大怪我をして衰弱した子供。

時折聞こえてくる赤い化け物の唸り声に怖がって喚く奴らなんかがいた。

あと、さっき助けたヨモギの両親が「何で瓦礫に潰されそうな俺を見捨てた!?」「仕方なかったの!」というけんかしてる、元気だ。


そして。

「あれは山坂利知だった!」利知が助けた部活帰りたちがいた。

「あんな殺人犯があんなにいい奴っぽいわけないだろ!」

「でも本当に見たんだ!」

元気そうにやっている姿を見ると安心感がある。


ふぅ、と一息つくと。

「菜野いなかった……」リナ子が残念そうに戻ってきた。

そのせいで真実を伝えようと体が強張る。

「そのことなんですけど―――」


突然、真っ暗になった、スマホだのといったまばらな光以外無くなる。

「なっ!?」「利知、夜になっただけよ」アカネは冷静に状況を説明する。

「だからって、こんなに暗くなる?」

「この街、壊れてたでしょう?明かりなんて微塵もないほど……今日はあと、今日は雨だし」

そんなふうにアカネと利知は冷静だが。

「なになになにーー!?」リナ子のように取り乱すものだらけだった。


街が壊滅して、ネットも電話もつながらず連絡できず遠くから唸り声が聞こえてくる。

そんな不安な状況で突然の本当の暗闇である。

パニックに陥いるものが出るのも無理はなかった。


避難所の中は子供や臆病な者の叫び声や泣き声が飛び交った。

正直、正常な状態を保っているものにはひたすらうるさく、利知は耳を塞いだ。


ふと、柔らかい感触がする。

「だだだだだだ大丈夫?こここここ怖くない?」

温かみのあるものが利知を包んでいた。

安心感と肯定感を交えてその温もりが伝わる。


リナ子は怖がりながらも、まだ少年である利知を心配していた。


リナ子が利知を親のように抱きしめていた。

今朝あったばかりの少年に対して距離が近すぎるし、この年齢の者は普通女性に抱きしめられれば照れて恥ずかしさに耐えられないのだが、それでも利知は何の抵抗もなく抱擁を受け入れることが出来た。


それを見ながらついアカネは利知に触れようととした、体がないからすり抜けた。

分かり切っていた現実にアカネの中で寂しさが湧いた。


そんなもやつく心など知るよしもなく。

「俺は、大丈夫です」

人は裏切りも殺し合いも嬲りあいも憎みあい出し抜き合いもする、優しいやり取りなんてこの世界に乾いた砂漠の水ほどもない。

だからこそ利知は、リナ子を抱き返していた。


「大丈夫なんです」

闇でよく見えないが、リナ子の顔であろう部分を見つめながら利知は。

「ありがとうございます」

と言った。

「……」そして沈黙があった後。

「そっかあ……」リナ子の嬉しそうな安心した声が聞こえてきた。


「そうそう、菜野さんについて、俺言わないといけないことが」

真実を言いだそうとすると、すぴーすぴーという寝息が聞こえてきた。

「ッ!寝てるのか!」

真っ暗な中、響いていた悲鳴も泣き声もかなりおさまってきている。

静かになってくれば、瓦礫をどかしたり疲れていた彼女はまあ眠っても仕方がないのだが……


「運悪いなあ」利知は苦笑いした。

また、菜野の死を伝える機会を逃してしまった。

彼女はかなり熟睡しているようだし伝えるのは明日にすることにした。

出来るだけこういう事の連絡は早い方がいい。


利知も眠ろうと横になった。

そしてアカネに聞いた「なぁ、大災害はいつ起こる?」

どうせ暗闇の中、周りから何も見えないのだから一人でぶつぶつ喋っている姿も見えない。


すこし、アカネは遠くから聞こえてくる唸り声に耳を澄ませてから答えた。

「明後日の深夜から早朝あたりってところね」

「そっか、明日は大丈夫なんだな?」

「ええ」

「じゃあ、明日には伝えておこう」

「ええ」


アカネは結局利知に赤い化け物と戦えなどと言えなかった、利知を赤い化け物と戦わせるために生まれたのにもかかわらずだ。

利知には押し付けられた世界を救う願望を叶えるためよりも、利知自身のやりたいことをやってほしいからだ。


そんな思いが声に出ることは無く、夜は更けていった。


ーーーーーーーーーーー

今話、利知たちの視点から描かれていない利知の住む町の物語


マスコミ「くそッ!この街の周辺にいるとカメラがイカレやがる!」

マスコミ2「トランシーバーもダメですね」

マスコミ「電子機器がダメになってやがる、それにこのゲロみてえな唸り声はなんだ?」

マスコミ3「この街に住んでる同僚にさっき電話したんですけど、全然繋がりません!」

マスコミ「ここ、相当危険なんじゃねえか?ビルもいくつか倒壊してやがるし今にも崩れ落ちそうなのがあそこにもそこにもありやがる」

マスコミ2「突然この街からエネルギーが放出されて日本中の電子機器が一瞬ダメになったんです!

きっとここにとんでもない事実があるんでしょう!だからしっかり怖がらず調査しないといけません」

マスコミ3「いや……帰りませんか?連絡できないのなら何かあった時に助けも呼べないし、この唸り声なんか不気味です」

マスコミ「はっはっは、ビビってんのか?よーしお前の意見を採用だ!上司命令!帰るぞ!」

マスコミ2「アンタも怖いんだ……」

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