ストーキング、日常
「まず、トップを殺すには相手のことを良く知らないといけない」
というワケで、昨日と今日は菜野は上松のことをストーキングしていた。
上松は、まず学校に居る時凄まじく真摯に仕事をしていた。
そして、勤務時間が終わればバスに乗ってどこかへ行くことまでは突き止められた。
しかし、途中でどうしてもまかれてしまう。
常日頃から、尾行を警戒しているようだった。
「……ここら辺が素人には限界か」
菜野は、矢田が生きていれば……とため息をつく。
そして、人の命を道具として見ているような気がしてもう一度ため息をついた。
そして、朝から夜までの調査を昨日と同じようにやって、今日も成果なしに家に帰った。
家から、桂の姿が消えていたので利知に所在を尋ねると「わからない」と答えられた。
どうせ、写真を撮りにでも言ったのだろうから放っておくことにした。
そこまでの気力や体力はもうない。
帰ってくると、犯罪者扱いされてるから匿ってる利知がいるのにも
慣れた。
「フ―――ッ……あ」
菜野は気づいた、家の中に散乱していたゴミがかなり片付いている。
「利知、お前がやったのか?別にいいのに」
「いや、流石に足の踏み場もないのは、ちょっとアレですから」
「あるだろ」
「ないですよ」
「あるって」
「あったら俺は弁当箱で転びませんでした」
押問答をしながら、もう夜飯の時間と気づいたので
菜野がカップ式麺を作ろうとすると、利知が「……あッ俺、食材あればご飯作れます」と
あらぬ方向を意識しながら菜野に言った。
なので、菜野は利知に任せた。
ぼそぼそと、まるで人と話しているような独り言をつぶやきながら利知は作業に入った。
そんな、気怠げなずっと続いてほしかった時間に呼び鈴が鳴る。
なので菜野が玄関に行くと
『菜野―――?菜野?』
聞き覚えのある声がドアの向こうからした。
「あ、リナ子?鍵開いてるから用あるなら入れよ」
大学で知り合ったリナ子が、入ってきた。
「片づけに来てあげたわ……よ?」リナ子は、入ってくるなりそんなことをいうと。
家の中を見回して。
「き、綺麗になっている?」利知のやったことを菜野のしたことと勘違いして驚いた。
「……わ、私の出番がない」
少し、寂しそうに肩を落としてリナ子は帰っていった。
そして。
「出来ましたよ」利知のお呼びがかかる。
なんだなんだ飯はなんだと菜野が確認すると麻婆豆腐をメインとした数品であった。
「おお、美味そうじゃないか」
菜野と利知の二人で、食べた。
ただただ、退屈で普遍的でどうしようもないほど馬鹿げた、それでも大切なのにいつしか失ってしまった日常にやっと二人は戻ってきたような気がしていた。