逃亡
「これ本当にいいんですか!?」
「事実なんですか!?」
「こんなに過激な!明らかにおかしいでしょう!」テレビ局に青年の声が木響き渡る。
「冤罪だったらどうするんですか!?」
「視聴率が取れる!?そんなことのために真実かわからない報道をするんですか!?」
「おかしいですよ!」
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夜、成人の菜野は中学生の利知を家に連れ込んでいた。
下手をすると事案であるが、一切いかがわしいことはない。
こんな通報されるかもしれないことをする菜野にはやる理由がある。
フォバルナエタ会と戦うという覚悟が菜野の中で決まっていた。
それはぶち込まれた祖父の記憶の残留だけで決まったものでなく
守りたいものや、守れなかったもの、そういうことを考えて
菜野の中の善意がさらに後押しして決まった覚悟だった。
菜野のポケットで、スマホが振動する。
ネットニュースが更新されていた。
「ン!?」
菜野は見て素っ頓狂な声をあげる。
だが、落ち着かないとと深呼吸して
「利知……ちょっといいか?」
利知は、DWに関する論文を正直ほとんど基礎律動とか難しい言葉で書いてるので理解できないが読みながら
菜野の話を聞いた。
「これ、おまえだよな?」菜野はそう言って利知にスマホの画面を差し出す。
アカネはそれを見て噴きだした。
利知はなんだろう、と思って画面を見る。
「……あ」何もかもどうでもよくても驚きはある。
ネットニュースに利知の顔写真が掲載されているのは少し驚きだ
どんな記事に自分が使われてるんだろう?とボケくさりながらタイトルを見る。
『大量殺人を犯した少年』
それで、利知は衝撃を受けた。
自分が、殺人事件の犯人として報道されている。
利知は記事をよく読んだ。
『山坂利知は一ノ瀬氏、古賀氏、麻氏、山本氏、吉田氏、桐川氏、斎藤氏、等を殺害した』
明らかに異様なニュースだった、このように未成年者の犯罪を実名で報道するなど……
さらに不気味なのは被害者に利知の一切知らない、明らかに関係のない人物が見受けられることだ
利知が殺したことにした人。
冤罪。
仕立て上げ。
フォバルナエタ会はどこにでもいるそんなことを利知は思い出した、報道関係者にもいるのだろうかと。
怖いし、乗ってる地面がドロドロ溶けていくような、これまでの日々が
嘘だったかのような不安に包まれる。
「大変だな」大量に殺したということにされている利知を恐れるでもなく憎むでもなく
菜野は心配そうにそういった。
利知はなんでそう普通に接せるのかと思った。
「だって、このニュース嘘だろ?」
そんな疑問を読んだかのように、テレパシーでも使ったかのように
菜野は言う。
「……お前にそう簡単にこんなに人が殺せるわけない、お前が弱いからじゃなくて優しいから」
全面的に信頼していた。
その仲間意識はむしろ利知の心を締め上げた。
菜野は、このニュースが全て虚実と思っている、
だが違う。
何人かは、本当に利知が殺したのだ。
人殺しをしたのは間違いないのだ、好きだった女の子ですら殺したというのだ。
菜野が勝手にニュースを「完全な」冤罪だと誤解しているだけなのだが
嘘をついたような罪悪感が、利知の心をさらにぎちぎちと締め上げる。
「俺は!」溜まらず叫んだ。
「俺には!」関係ない、そう続けようとした。
でもその瞬間インタホンが鳴り叫ぶ。
反射的に利知は口をつぐんだ。
飛び立とうとして叩き潰された不快な感覚だった。
「ちょっと待っててくれ」
菜野が、ドアに小走りに向かう。
「はい、どうもあれ矢田?」ドアを開ける。
「ん?猟奇殺人事件の犯人?」
「いや、とりあえず入れよ」
家にやってきた矢田を迎え入れ菜野が利知のもとに戻ってきた。
矢田は利知を見て挨拶をして菜野に単刀直入に伝える。
久々に利知、矢田、菜野の三人がそろった。
「もう一度、あの校門で少年らの殺される事件の前コンビニに誰がいたのか教えてくれませんか?」
菜野は何となく察した
彼は、事件にたどり着こうとしている。
だが、今は少し矢田の追う事件以上に解決してほしいものがある。
そう思うのは善意だった。
「教える前にちょっと私の話を聞いてくれ」
菜野は利知の冤罪を矢田に話して、解決にはどうすればいいか?と聞いた。
「……有能な弁護士に頼むっていう手もある」
「でも、フォバルナエタ会は色んな所にいるから、あんまり彼らも信じられない」
「絶対的な冤罪の証拠を見つけるのが一番いいと思う、隠蔽されないような」
ひとしきり言い終わり
そして矢田は、利知を心配そうに見つめ。
「君の冤罪は僕もどうにか頑張ってみる」
矢田も利知を信じていた。
そう悟った時、利知の心はまた締めあげられる。
コンビニにいた人のことが菜野、被害者、店長、青野であるということを菜野が矢田に話しているのを横目で見ながら利知は
考えていた。
なぜこの人たちは自分をこうも信用するのか。
いったいどうして。
この思いは疑問というよりも文句だ、むしろお前がやったんだろ!と言われた方が気が楽だ。
本当に何人かは、殺したんだから。
人生なんて無意味と思っていても利知は心をギリギリと有刺鉄線で締め上げられっぱなしだった。
利知の認識していない間にいつのまにか話が変わっていたらしく
「なあ、私たちって仲間だよな」と菜野が言っている。
「……フォバルナエタ会と戦うことになるという意味なら仲間ですね」矢田が菜野に賛成する。
「じゃあ、利知も仲間だなフォバルナエタ会と戦うんだから」
勝手に利知は自分がフォバルナエタ会と戦うとかいうことにされてるのを聞いて少し苛立った。
もう全部どうでもいいからとにかく静かに寝かせてほしかった。
「よし。じゃあとりあえず円陣でも組むか?」
「俺には関係ない!」
気付けば、利知はそう叫んでいた。
菜野と矢田が利知をまっすぐな瞳で見る。
利知のことを信頼した瞳。
だけど利知は、もう疲れ切っていた。
「俺には関係ない!」
そして、利知はもう一度叫ぶ。
ミノリを殺した時点で限界だったのに、それから何人も死んでもう利知はどこかおかしくなっていた。
普通の中学生がおかしくならない方がおかしい状況にずっといたのだから、当然だ。
失敗もし続けたから、憔悴し続けた。
これで「よし!頑張ろう!」なんてヘラヘラ笑って菜野、矢田の二人と共にフォバルナエタ会と戦う決意を元気にできるはずがない。
できたら狂っている。
利知はあまりにも正常でまっすぐだった。
だから。
「俺には関係ない」
「俺には関係ない」ぶつぶつと同じ言葉を連呼しだす。
「利知!?おい、どうした!?」
「利知君!?」
菜野も矢田もこれまでどんな地獄に利知がいたか知らないから
苦痛の蓄積を知らないから
彼が突然壊れたように見えた。
「俺には関係ない!」心配して寄ってくる二人に叫んで。
利知は走り出した。
外へ。
逃げ出したかった、全てから。
苦痛の蓄積が行き過ぎて冤罪+菜野たちの信頼のせいでの罪悪感で普通の少年の利知は今回おかしくなりました。