矢田/観取
矢田は、利知のことにかまうだけでなく猟奇殺人事件の調査も行わないといけなかった
彼が正義溢れる男ゆえに。
夜。またしても猟奇殺人事件が起こった。
今回も腸を現場に出す異様な事件だった。
一体どうして犯人はこんなことをしているのかわからない。
矢田にはわからない。
だが今回の事件のおかげか、少しだけわかる。
大罪を犯した脱獄犯が、公園の時計に括りつけられていた。
もちろんそれを普通のロープなんかでしてるわけじゃない。
その脱獄犯の男の腸で括りつけていた。
腹を刃物で切り裂かれて、恥など知らぬ醜い顔つきで男はがっくりうなだれ死んでいる。
それを矢田はかわいそうなどとあまり思えない。
この男は性犯罪もしたし老人や子供も殺したしとにかく悪だった。
悪事に大層な理由はなかった。
せいぜいやりたかったから、その程度。
だからこの男が死んだとき「天罰だ」などという考えを矢田は一瞬もってしまった。
そう、正義感。
矢田は菜野から校門で殺されていた少年らが悪事をしたことを聞いている。
そして、脱☆デブスという、別の事件の被害者についても調べると
男性差別発言を大量にしていたみたいである。
そう記憶を確かめると
何となく「利知も殺せます」という文章が事件現場に残っていたのに気が付いた。
矢田は頭の中でパズルをくみ上げていく。
「……フォバルナエタ会が山坂君を殺そうとしていると知っている人物?」
犯人はそういう者なのだろう。
そして、被害者の共通点は何らかの問題行為を行っていること。
つまりこれは正義感による「制裁」なのでは?と矢田は思って
___「ん、なんか見落として?」
矢田は何か気づかないといけないことを見落とした気がした。
そして、ひとしきり考えて突然ひらめいた。
校門で殺されていた少年たちの悪事はコンビニでのもの以外特に見つからなかった。
つまり、そのコンビニで行ったものが殺された……「制裁」された原因なのだろう。
じゃあ。
つまり。
これは。
どういうことだ?
その悪事を少年らが殺される前にやっていたと知っている者は数少ない。
コンビニにいた者とその殺された者だけ。
気付けば矢田は走っていた。
闇の中、静寂を地を蹴る音でかき消して。
もう一度。
もう一度菜野に話を聞かなければと。
誰がコンビニで少年らと会っていたのか?
誰が容疑者なのか?
彼女に聞いて突き止めるのだと。
夜闇の中、綺麗に道を走る。
もうすぐ明ける夜。
正直先があまり見えず走るのは危ないから少し太陽を待った方がいい。
だからといって矢田は走るのを止められるわけがない。
猟奇殺人事件の犯人に迫れるかもしれない。
少しだけ、矢田は「犯人に制裁しようとしてる?」と自分に聞いた。
もしかしたら自分も犯人も悪を制裁しようとしているのかもしれないと。
悩みながらもとにかく矢田は足を前に地を蹴って跳ばす。
菜野の元へ。