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~亜世界転移~  弱虫クソ雑魚鈍才な勇者(一秒のみ)    作者: 赤木野 百十一茄太郎
俺には関係ない
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絢爛の志火

利知は家から出た。

野次馬の奴らがぎゃあぎゃあ騒いでるのをみてぶち殺したくなった。

ピーポーとかぱーぷーとか馬鹿みたいな音が響く。

消防車だった。

利知の家に向けて放水するが、もう消化しても家としてまともに機能しないくらい

焼けていた。

よく見たら、利知の家以外にも火は燃え移って延焼していた。


だからなんだ、そう利知は思う。

矢田が、気力を失って倒れ何もしゃべらない利知の鼓動を心配そうに確かめている。

「呼吸は、良し……、ケガはあれ?血はついてるけどないぞ?」


利知はなんだか青いものが見えると思った

夕方のくせにこれ以上ないほど澄み渡る青空だった。

さんさんと降り注ぐ太陽の光には

なんだか、優しさを押し付けられているようで利知は苛立った。


ぼおぼお燃えていく、自分の家。

利知はもうなにもかも俺には関係がないどうでもいいと思うようになってきた。

だから、矢田の手を振り払って利知は走る。

「利知!」

「利知君!?」

矢田もアカネも利知を止めるが聞かなかった。

矢田は利知を追いかけたが、逃げ続けたことで利知の脚は矢田よりも速くなっていた。


関係ない、利知はそう思って走った。

とにかく何も考えたくなかった。


また、目の前で無意味に命が失われた。

こんなの変だと思う。

でも心のどこかでこれが本当なのだと思う。


突き詰めれば、利知にとって皆が死ぬのが嫌なだけで

本当は、人の生死なんて無意味なものかもしれない。

利知は最近そう思うようになっていた。


無意味と思うと、気力がわかず利知は大きな公園にいつの間にか来ていた。

どう走ってきたのかは覚えていない。

父も守れなかったことでもう何もかもどうでもよくなった。

「……そういや俺、家失くしたのか」

利知はどうでもいいことを呟いたと笑った。


ちょっと疲れたからベンチに座ろうかと思い、利知はそれもどうでもいいかと思った。

もういっそ死んで楽になりたいとも思うが

「……死ねないのってつらいな」

飛び降り自殺しても死ねないから、やらない。


アカネが言うにはそろそろ死ぬらしいのだが、利知は一切自分の命の灯が消える気配を感じなかった。


「何してるんだお前?」ふいに声がかかる。

たまたまいた菜野が、かけたものだった。


「菜野さんこそ何してるんですか?」

「お前こそ何してるんだよ」

「いや菜野さんこそ」

「お前こそ……いや、散歩だ」菜野は不毛な言い返しの繰り返しになるのを防いだ。

「そうですか」利知はそして

聞かれたことに答えず口をつぐんだ。


「なんだよ?友達だろー?言えよう?」菜野は笑いながら利知に言う。

「……ただの、知り合いですよ俺と貴方は」

「そっか、そうか」

菜野は、ヘラヘラ笑いながら頭をポリポリ掻いて。

「友達というより仲間か、そうだな」

若干彼女がずれているように利知は感じた。


「あ、そうだ私の家に来るか?」菜野は、利知に聞いた。

「見せたいものがあるんだ」そして続ける。

「DWの、論文」


「えっ」アカネが食いつく。

利知の目の前で「どんな内容!?」と菜野に聞くが

そもそも利知以外にアカネは認識できない。

だから菜野がアカネに返答することはなかった。

しかし、菜野のつづけた言葉がたまたま質問の答えになった。

「論文には、DW作られた理由とか載ってたぞ、永遠の命を得るために時間を引き延ばしたとか」

「とりあえず、お前も家に来て読んでくれよ私だけじゃ気づけないこともあるかも知れないから」


利知がふと気付けば、菜野が利知の手を引いて自分の家に向かっていた。

それに抵抗する気は利知にはなかった。

その抵抗も無意味ゆえに。


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