HEAT PROVE
燃える、燃える家、まだ崩れ落ちていない利知の家が
利知の目の前で燃えていく、まだ完全には炎に包まれてはいないが
すぐにそうなるだろう。
「うわああああああああ」
利知は、家の中に父がいることを覚えていたから、走って助けに行こうとした
しかしたまたま居合わせた矢田に羽交い絞めにされ、止められていた。
「利知君っダメだ!危ないじゃないか!」「離してください!父が中に!」「ダメだ!消防車を待て!」
「嫌だ!間に合わない!」
お互いに譲歩せず、自分の意思を叫びあう。
「一番火事の時死ぬ奴は助けに行った人なんだよ!?」「どうせ俺は死なない!」
「何言ってるんだ!?」
利知は、自分が死ぬことなどないと最近感じるようになってきていた、幾度となく自殺しようとしたのに死ねなかったのだからそう感じるようになっていた。
利知は、暴れて矢田を振り払う。「あっ利知く……!」
そして、その一瞬の隙で走った。
矢田は利知を止めようと手を伸ばすが届かなかった、利知を追いかけようと走り出そうとするが
今度は矢田が野次馬の人に止められる。
危険だと、そんなこと矢田はわかっているだから利知を止めたのだ。
利知は、周りの全てを無視して家のドアを開け、中に入った。
「?」
家の中はところどころ焦げ臭いが、意外と燃えていない。いや煙は漂っているのだが。
「外から火をつけられたのかしら?」アカネが答えを出した。
靴を履いたまま家の奥に入っていく。
利知は、煙をできるだけ吸い込まないようにしながら「父さん!」父を呼んだ。
返事はない。
利知は、仕方なくより深く家に入っていく。
そして2階に上がり、廊下で倒れている父を見つけた。
「……うわ、ひどい熱病院行った方がいいな」
父は気絶していた。
利知は父に肩を貸し、また一階に向かって二階の廊下を歩き出す。
そんなに時間は立ってないのに焦げ臭さはより強くなっていた。
煙がひどくて、壁に手をつけて廊下を伝っていくと
なんだかぶよぶよしたものに利知の手が触れた。
気持ち悪いと思って見ると
赤い化け物と同じ、血みたいな赤いぶにゅぶにゅが手にこべりついていた。
「へ」そんな間抜けた声を利知は出すのと同時に反射的に壁から手を離し、飛びのいた。
しかし今度は足元が滑り、こける。
「利知!」
アカネの叫びの意図を察して、利知はなんだかぬかるんで足を取ってくる床を蹴り殴るようにして前に跳んだ。
父親の重さでうまく飛べず、着地に失敗して顔擦りむいた。
ぶちゃぶちゃと嘔吐のような気持ち悪い音が、利知の後ろから聞こえてくる。
べちゃべちゃと吐き気を催すような、粘土をぐちゃぐちゃに乱雑につけていくような
そんな音がした。
そしてその気味の悪い音の鳴った場所から声がして。
そこから、誰かがコツコツと歩いてくる。
赤い化け物と同じ赤色の、人型のなにかが利知に向かって歩いてくる。
スライム娘といった感じの奴が、利知に歩いてくる。
「あ……」利知は見覚えがあった、アカネにその赤い奴は似ていた。
赤い奴は「利知……」と寂しそうな瞳で利知を見つめる。
利知にはその意味は分からない。
「大きくなったね」グチャグチャに。そう言って利知を抱きしめようとしてぐちゃぐちゃにスライム娘は
自壊して潰れた。
そうすると、さっきまで気絶してたはずの父が「母さん……?」と言った。
アカネは赤い化け物がミノリを殺した時見たように人を吸収できることを思い出した。
そして理解した、人の魂なんかもあの赤い化け物に入って残ったままなのだと。
利知は、振り向いてとっとと外に出ようとする、構ってる暇などない
父は今死にそうだった。
だから
今すぐ外に出ないといけない。
こんな煙が蔓延したクソみたいなところにいられるわけがない。
よくわからないが戦わずにすむなら多たわないで異様。
すると、何かが、そのぶにゅとしていたものが。
赤い化け物が、利知の「上」を飛んで、先回りしてきた。
人型の、それが、人型になった赤い化け物が。
「やっと、アエマシタ」人型は片言で利知に微笑んだように見えた。
「下がって」アカネが冷静に指示を出す。
利知はそれに従って下がる。
その瞬間、人型が腕を振り、利知の指が切り飛ばされた。
利知はぞくりとした、もし下がらなかったら首を斬り飛ばされていただろう。
そうなればしばらくまともに行動できない。
「クソ!お前いい加減にしろよ!なんでいるんだよここに!」
利知は後ずさりしながら絶叫する。
疑問に答えてくれる者はいない。
「ハヤク私の頼みヲ」人型が近づく分利知も後ずさりし。
「うぐ」利知は背中を壁にうった。いつのまにか行き止まりに追い込まれていた。
「サア早く」人型の言葉と共に、利知が背をつけた壁が炎を上げて燃え出す。
外側から火が回ってきたらしい。
煙もひどくなってきた。
「う!」利知は急に体の力が抜け、しりもちをついた。
嘘だろ?と思った。利知は恐怖で膝がひどく震えていた。
追い込まれた恐怖に戦慄していたのだ。
「ひ、うわ、くるな……」利知の言葉は聞き入れられず人型は平気で歩いてくる。
「うぐっ」突然、父が苦痛の声をあげる。
「え!?」利知は驚いた、突然父の胸の心臓が入っているところに穴が開いてブシュウと血が噴き出したからだ。
一瞬、利知は何が起きたのかわからなかった。
人型が、素早く父に近づいてその拳で心の臓を貫いたと理解するのに
気付いて。
「お前えええええええええええええ‼‼‼」利知は絶叫した。
こいつ、殺してやると抜けた腰で殴りかかる。
もちろん外れ、利知は転げた。
「クソがッ‼‼」もう一度殴ろうとして、人型に利知は殴り飛ばされる。
ゴロゴロと、転がって階段のすぐそばまで。
「お前!」利知は人型に叫んだ。
そしてまた殴りに行こうとするが。
火の勢いが増してきた。
人型が見えないほどになり
ギリギリと利知は歯ぎしりした。
そして
「クソ!」
また、奪われて、また、守れなくて。
利知はボロボロと床を殴りつけながら泣いた。