飢餓願望
利知は部屋の中で、考えていた。
ほぼ不死の彼には飢餓死ができそうにない。
自分はどうしたらいいのか?
どうすれば、自分は死ねるのか。
そればかり考えている。
もう生きる気力は無い。
手首を切ってみたりもした、治る。
溺死しようともした、ただ苦しいだけで何時間顔を見ずにつけても無駄。
心臓をナイフで突き刺した、治る。
アカネはそれでも言わなかった、自分だけが得た知識を、利知が死ぬ方法を。
簡単だ、脳みそをトラックにでも轢いてもらってぐちゃぐちゃに破壊してもらえばそれで死ぬ。
それ以外には寿命でも死ぬ。
そんなことを言ったら、絶対今の利知は実行する。
言えるわけがない。
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ピンポンピンポンと、インタホンが鳴る。
利知は、それに狼狽える、
いったい、誰がやってきたのか?
もしかして上松先生か?
そういえば学校に休む連絡してたっけ?と。
いつまでもいつまでも鳴り続ける音。
仕方なしに、利知は階段をのそのそ降りて玄関を開ける。
すると、父親がいた。
「・・・・・あ」利知は久々に顔を会わせたのでどもる。
「お前、学校は?」
「ちょっと、体調が悪いから、休んだ、父さんこそ、こんな昼に、なんで」とぎれとぎれに話す。
久々に喋るからうまくろれつがまわらない。
「徹夜続きでさっき仕事が終わったんだ」
靴を脱ぎながら、父は聞く。
「今日の昼飯、冷凍食品は買ってるけど食べるか?」
そう言いながら、ビニール袋を差し出してくる。
グラタンだった。
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熱いグラタンを利知は頬張り危うく火傷しかけた。
久々の食事だ、旨いということを思い出す。
利知は、父と一緒にリビングで食事していた。
こんなに、人と一緒にいられることって幸せだったけ?
と思う。
ずっと、こういうのが続けば。
そう望んでいる。
だけど、わかっている利知は、こんなの長くは続かない。
だから彼は死のうとしているというのだ。
でも今は。
そんな願いは父の言葉で打ち砕かれた。
「……誰だ?」利知の後ろにある、窓を見て呟いた。
利知は振り向く。
外から窓に近づいてじっと利知たちを見ている男がいた。
名前もわからない、その屈強そうな男。
利知はわかっていた。
フォバルナエタ会。
監視者。
そう気づいて外に駆け出した。
父が止める暇もなく、利知はその男の元へ走る。
たどり着いた時には誰もいなかった。
ギリギリと歯ぎしりする。
「お前ら……なんなんだよ」
恨み、怒り、絶望、憎しみ。負の感情のスパイラルに利知ははまっていく。
もう戻れないほど。
「いいかげんにしろ……」
拳を強く、利知は手のひらに爪が食い込んで血が出るほど握りしめていた。