死刑宣告
利知の大好きな小説「ヂーギンペムルマ」は床に雑に置かれていた。
暗くて、寒くて、悲しさの詰まった部屋の中で。
「利知……言わないといけないことがあるの」アカネが、部屋の隅で縮こまる利知に。
そう話を切り出した。
「利知、あなたはね」アカネは迷っていた、ずっと。
だけども彼女は役割があるから、赤い化け物を殺すために利知をサポートする役割を持っているから。
こんな時でも、話すべきと思った。
赤い化け物は暴走する自分を誰かに止めてほしくて、利知を助け、利知に力を分け与えた。
その説明を利知にしないといけなかった。
そのことを話し(菜野の見たものと同じものを話した)、利知の表情を見ると何も見ていなかった。
俺には関係ないと全身で言っているようだ。
それでもアカネは続ける。
とぎれとぎれの震える声で、利知に言う。
それは死刑宣告。
「……オリジナルが死ねば、コピーも死ぬ」
利知は体のほとんどを赤い化け物の破片で維持している。
つまり、赤い化け物の望み通り利知が殺してあげれば、利知も死ぬ。
それは、別にいいのだ
なぜならその死に方は赤い化け物を殺さないだけで回避できるからだ。
本題はここからだ。
「利知、あなたどうして治癒がいまいち使えない程度に遅いかわかる?」
利知は答えない。
話を聞いていないわけではない。
返事をする気力がない。
アカネは一息で、詰まらないよう言った。
「治癒能力が、時間経過とともに劣化してるから」
言えた、後は流れに乗って言葉を紡ぐだけ。
「それで、完璧に劣化しちゃったらもうあなたは肉体を維持できない」
「そして、そんな状態になるまで今から後数か月程度」
「つまりあなたは逃げようが、戦おうがすぐに死んじゃう」
利知は答えない。
答えない。
無言。
ひたすら虚空をその瞳に写す。
そして、突然一言。
「俺が菜野さんとかに殴れないやつを殴れたのって、俺もあーいう化け物だからなんだな」
そういったのは大した意味はない、ただ気づいたからというだけ。
絶望と疲れを最大限に受けているものにしか出せない疲れ切った声だった。
当たり前だ。
友達は全て殺された。
自分のせいだったりもしたし、自分が殺したことすらある。
本当にただの中学生の利知に耐えれるはずがない。
「……俺にはもう何も関係ない」
また、利知は餓死を待つ。
何日も何日もその時を待つ。
不死に近い存在であること。
それは利知にとって何の得にもならなかった。
アカネは利知に必死で呼びかける。
彼は意識の中からアカネを排除していた。
ただ、死ぬために生きるモノになっていた。