とめどない日常;スーパーにて
今回は番外編です
スーパーの中は、ガヤガヤと混雑していてうざったいなあ。
と利知は思った。
「まあ、いいじゃない」アカネの言葉はもっともだが、とっととおやつのアイスを買って帰りたい利知にとってはそうそう割り切れるものではない。
そもそも、人ごみそのものも苦手なのだし。
人ごみに揉まれながら利知は
「……ハア……ハア……熱い……」苦しんでいた。
「そりゃ、冬は終わったのに緑色のセーター着てたらそうなるわよ」
「でも、寒いしさ……」
「アイスの前にちょっと休憩したら?」
「ああ、うん」
利知は、アカネの指示に従って休憩所に向かった。
休憩所の椅子に座って
自販機で買ったビタミン飲料をがぶがぶ飲んでいると。
「あ、ちょっと私黙るね」いきなりアカネがそう言いだして何だと思っていると
「あ、利知」後ろから話しかけられて
「っひゃい!な、なんですか?」利知は体をショックでいっぱい微かに震え上がらせた。
「んっもお、アンタ臆病ねえ」古賀だった。
「……うるさいな」
利知は中身を飲み切ったペットボトルをつぶして立ち上がって。
アイスを買いに行こうと歩き出した。
そうすると、古賀もついてくる。
「……なに?」
「一緒に、ついて行くだけよ」
「何で来るんだよ」
「心配しちゃ悪い?」
「心配されることなんかないよ。俺には」
照れ臭いから一人で買い物したい気持ちがあるが、利知には強く彼女を突き放すこともできず
結局、二人でアイスを買いに行くことになった。
ふと、利知に古賀が聞く。
「最近、ちゃんと勉強してる?」
利知は、小さく頷いた。
「……一応」
ちゃんと毎日勉強しているのだ。
すると、古賀が
「じゃあ、三角形ABCはAB=ACをっていう奴は解ける?」
「……無理」
「あーじゃあ数学は赤点確定よ、頑張るのよ?」
そんな学生らしい話しをしながら、利知たちはアイスを買ってレジに向かった。
長々した蛇の列がレジの前にはできていた。
「長いな」少し文句を吐いて、利知と古賀はその列の最後尾に並んだ。
そして徐々に前に進んでいき。
「500円からお願いします二個。」とうとう、利知は金と引き換えにアイスを得ることができる。
「ハイ、お釣り―――」店員から、お釣りを渡される時、袖の下にちらりと何か見えた。
それは。ふさふさとした毛。
手首に埋め込まれたかのような瞳。
「あ――」利知は、思わず目を逸らそうとした。
無駄だった。
刹那と言うしかないような時間が流れてしまった。
リアル→DW
「ッ……!」移り変わった世界は薄暗い所だった。
どこだかの倉庫で、叫び声が聞こえる。
「テメエなんか!」さっきの店員が私服でいた。
貧弱そうな体の男にナイフで詰め寄っている。
その店員男は酒にでも酔っているのかまともな様子ではない。
そういえば、倉庫で死体発見というニュースをどこかで聞いたと利知は思いだした。
貧弱男の手の先を斬って、自分手を返り血で汚していた。
その汚さが不快だったのか、ナイフの使用をやめて貧弱男の首を絞めて。
「何なんだよ――――ッ!」日常を唐突に壊された利知は激昂して店員男にタックルをかけた。
DW→リアル
「ッ!」現実に戻されて、目の前の店員男に利知はがたがたと震えていた。
「……利知?」古賀に何がどうしたのか、と聞かれても答えられない。
目の前に殺人犯がいる、過去の映像を今見てきたからわかる。
だから、恐ろしかった。
「あの、おつり……」
息切れを起こす利知の代わりに、古賀が釣銭を受け取って。
そして、利知に肩を貸すようにしながら店の外に向かった。
利知はぼそぼそと、誰にも聞こえないようなか細い声で呟いていた。
「俺には関係ない……俺には関係ない……」
これはいつもと同じ、日常。
壊れてなんかいない、壊れちゃいけないんだ、と。
利知は弱い心の中で叫んでいた。
つい少し前まで、何も非現実的で非日常的なことなんてなかったのに、なぜ今こうも……と利知はボロボロ泣いた。