麻
利知は、平穏な日々を今日も送っていた。
こんな日々がこれからもずっと続いて行けばいいと思った。
逸らした目。
結局、そんな淡い思いは無意味に消えていった。
「……麻」
利知は、彼の姿を見て絶句した。
頭は包帯で巻かれ
右脚が、無い。
他にもいっぱい傷だらけ
見えない怪我もたくさんある。
自分のせいだと思い、ぞわぞわと悪寒に震えた。
_______________昨日_________
麻と仲良く返っていた利知を見つけた不良は
麻と利知が解れた直後。
麻にオトシマエをつけさせた。
利知が妹を見捨てたことへの。
麻と関係がないが、それでもなにかしないと怒りでどうにかなりそうだったから。
そこまでは、まだよかった。
だが、利知の運の悪さが麻を襲っていた。
利知が運悪く不良たちに暴行を受けた
そして運悪く元気になったところを見られてしまった。
つまり不良に、「利知に対する暴行程度ならやり過ぎじゃない」という認識を与えてしまった。
利知は怪我の治りも生命力も異様なまでに強いから。
そして、麻に対して利知にやった暴行を加え。
取り返しのつかない、一生重い障害が残るほどの怪我を不良はさせてしまったわけだ。
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そして、利知はヨモギ、古賀とともに面会に来て気まずくなっている。
利知は、うつむいて泣きそうになった。
自分のせいで、麻がこんな風になったと。
利知には何も言えなかった。
自分のせいで、麻がこんな風になったと。
自責の念にとらわれたが。
謝罪しても無駄だ、麻の脚は戻ってこない。
だから、お互い一言も口を利かず帰った。
本当は謝りたかったけど、麻が周りを拒絶していたから。
古賀も、麻に一応は礼をしたが
彼女もまたなんといってよいかわからなかった。
麻も、自殺しようと思っていたから一人になりたかった。
彼はもはや、何の希望も持っていない。
脚がなくなったことだけでなく
他にもたくさんのたくさんの障害が、一生残る傷がついた。
そして、面会から帰って。
ヨモギと麻だけが病室に残されて。
「……帰らないのか?」麻はヨモギに聞いた。
ヨモギは返した。
冷たく、寂しく。
「……あなたがここで死んでも皆自殺と思うね。」
麻はヨモギの目を見た。
虚ろ。何も感じないように、考えないようにしてる。
「利知くんのせいで、こんな風になるなんてみじめ」
温厚な麻も、ヨモギを睨む。
「あなたの命は無意味だった」
ヨモギは、拳銃を取り出す。
「……!お前、何をする気だ!」
「意味は、ないわ」
ヨモギは平気でそう言いながら麻に銃口を向けた。
麻は、どうにかしようとするが
脚がない、動こうとしてベットから転げ落ちた。
「いたッ!」また傷が治りきっておらず、振動が傷口に響く。
「未来の利知くんと同じように」
麻の中で、その言葉で自殺の優先度がガクッ、と下がった。
「どういう意味だ!利知に何かする気かよ!?」
麻は、ヨモギにしがみつく。
問いただそうとした。
こんな悪ふざけをするなんてなんでだ、利知をどうするっていうんだ_
と。
パン。
静かな銃声。
サプレッサーがついてて元から静かな銃じゃないとできないような銃声。
麻の額から、上手く脳を打ち抜いている。
頭蓋骨があるから運が良ければ即死はないのだが。
麻は死んだ。
無意味に。
いのちのともしびはきえる。
ヨモギは少しの返り血を浴び、死の匂いを無感動に感じていた。