とめどない日常;ゲームセンター
番外編です
学校にて
「……ごびゅうってどう書くんだっけ?というか何でこんなん中学の問題集に出るんだ?」
利知は昼休み、教室で麻と一緒に勉強していた。
「ごびゅうは、ほら、誤謬だ」
「あっそっかぁ」
利知よりも、麻の方が国語ができるのでほとんど利知が教えられる形となっていた。
「ああ、えっとこの言葉は……?」
「泥梨?それは地獄っていう意味だぞ」
「へえ」
麻はワークと教科書に向かいながら頭をオーバーヒートさせそうになっている利知に気づいた。
「なあ、利知」
「何?」
「ゲームセンター帰りによらねえ?」
利知は、明らかに明るい表情となった。
勉強につかれているからか、遊びに対してとても敏感となっているのだ。
「行こうッ‼」
そして、午後の授業を終えて。
利知たちはやや早足で、しかし走らない程度の速さでゲーセンに直行した。
中学生である彼らがゲーセンに保護者の同伴なしでそこに行くのはあまり好ましくない。
と生徒手帳に書いてあるが、利知も麻も読んでいなかった。
丁度近所にあったゲーセンの中には、筐体がかなりあった。
大体、ほとんどがオワコンどころか元から誰も知らないようなゲームだった。
ここはそんな、どこか寂れた死臭の漂う灰色の店だった。
「とりあえず、二人プレイできる奴しようぜ」
「そうだな」
利知と麻は、片っ端からプレイしていった。
製作が全員失踪したクイズゲームをやって、利知がアニメ問題を全問正解したがそれ以外のカテゴリーが正解できないで、麻が圧勝し。
二人協力のガンシューティングゲームをして、利知と麻が互角で。
格闘ゲームで対戦して、利知が圧勝だった。
「じゃあ、最終戦いくか」
ロストコア・アナザースカイ、というハイスピーディロボアクションゲ―ムだった。
数少ない、このゲーセンの中で知名度のあるゲームである。
利知は何度か暇つぶしにパソコン版をやっていたので、有利だと思ったが。
「ダぁオ!」ボロ負けだった。
麻は利知に圧勝した。
利知はエネルギーブレードをブンブン振り回しながらミサイルをびゅんびゅん飛ばしたが
麻が最小限の動きで全部避けて、銃弾を利知の機体に叩きこんできた。
つまりは利知は麻に惨敗だった。
利知は、筐体の前で肩をがっくり落とした。
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「くっくっくっ、利知、どうやら俺の方がゲームは上手いようだな」
「ちっ、だけど、俺の方がアニメ問題解けるし……」
利知と麻は、談笑しながらゲーセンの出口に向かう。
と、大柄な男が利知を見て。
「ちょっとちょっと」
その、高校生ぐらいの男は利知の肩に手をおいた。
なんだこいつ、と利知と麻は思った。そしてうすうす感づいた。
「お金、貸してくんない?」
やはりやっぱり確実に!
すごくとっても王道に!
悪いお兄さんでしたと、確信したので、利知はを顔ひきつらせた。
男は笑顔だったが、良い表情じゃない、あくどさがそこにあった。
「イ・・・・・いちゃも」初めてのカツアゲに利知は恐怖して、嫌ですと言うはずだったのに
よくわからない言葉を発した。
だが、反抗は伝わったようで男はギリギリと肩に置いた手に力を込めていく。
「い、痛ッ!」
「ちょっと、おい!」麻が、男につめよる。
「悪いけど、あなたに相手に渡す金はないんですよ!」ハッキリと言った。
男はぎろりと麻を睨み付け、利知を突き飛ばした。
クレーンゲームにぶつかる利知を見て麻はギリ、と、歯ぎしりした。
「ああ?」男は、麻に標的を変える。
何とわかりやすい悪なのだろうか、と利知は怯えながら感心した。
意味不明なフォバルナエタ会よりはまだ理解ができるのである。
だからといって親近感がわいたりはしないとも利知は思うが。
男は、麻の胸ぐらを掴んだ。
怒っていた。
だが、麻は退かない。
むしろ男をにらみ返して「おっ、暴力ですか?」「口でどうにもできないから体でやるんですか?」
なんて煽っていく。
そんなことをすれば当然、男はより熱く怒る。
「テメエ!」知能という彼のコンプレックスを刺激してしまったらしく、男は麻を殴り飛ばした。
そして追撃を加えようと麻に歩み寄って。
「また君か!出禁にするぞいいかげん!」周りの気づかぬうちに利知に呼ばれていた店員に
男は止められた。
どうやら男は普段から問題行為をしているようだった。
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利知と麻は、帰路についた。
ゲーセンの店員に保護者の同伴なしで来るのはよくないとひどく怒られたので日はもう沈みそうになっている。
「……何であんなに煽ったんだよ?」
殴られた傷をガーゼの上から撫でながら、麻は利知に答えた。
「だって、なあ……」
利知は、勢いでやっただろう麻の行為をあまり責めなかった。
麻がいたから、暴力の標的は自分じゃなくなった。
むしろ、感謝すべきなのだ。
「ありがとうな」
そう考えると同時に、礼を言っていた。
麻は照れ臭いらしく目を合わせなかった。