ヒロインがやっと、出揃う……彼女の名は一ノ瀬 ミノリ
今回でやっと、シナリオの目的がわかります。
……20000字近く書いてやっと。
早朝、学校。
「利知くん、どうしたのです?」
「……いや……」
化物に襲われてずっと引きこもっていた利知に、学校の環境はつらいものがある。
人が多い所は化け物から逃げづらい、とても怖い。
だが、彼は来た。
上松が心配だったからだ、自分のせいで死んでたらと思うと怖くて
確認しないといけないと思った。
猟奇殺人事件が学校で起きて、休校になり
その休みが明けて、来た。
あの学校での事件は「腸☆結び」とネットの奴らに名前が付けられていた。
で、今話してるのは一ノ瀬ミノリ、お嬢様。
おしとやかそうな少女。
利知とは友達というワケではなく、かといって仲が悪いわけでもなく
知り合い以上友達未満という関係性だ。
彼女は、アカネとぼそぼそ喋ってる利知を心配している。
彼女には利知が一人でぶつぶつ言ってるように見えるのだから当然だ。
「おい―――っす、おはよーう」
ヨモギが登校してきた。
ということはつまり、いつも彼女と一緒にいる古賀も登校してきた
ということだ。
「ん、利知、早いわね……なんでそう、用もないのに早く学校に来るの?」
古賀が、利知にも答えられない問いをする。
そういうことは「なんとなく」であり
明確に答えられず、言葉が詰まるものだ。
特に、コミュニケーション力皆無の利知には。
「・・・・・・あ」
ぽつりと漏らす、利知は四人の女子に囲まれることなど、これまで
無くて
謎の緊張が生まれる。
包容力のあるアカネ、天真爛漫ヨモギ、少し気の強い古賀、お嬢様ミノリ。
なんだか、気恥ずかしさを感じ、視線を彼女らの顔から逸らす。
思春期の女子と話すことにドキドキする奴が今来たのだ。
息切れを起こしそうになる。
「……利知くん、どったの――――?」
ヨモギが利知の顔を覗き込んでくる、間近で見合い。
キスでもするのかというくらいに近づく。
突然、相手が女子と意識した利知の心臓の鼓動が速くなる。
利知は麻が
「……ウイいいいいいイっス」
ネットに動画投稿してる誰かのまねをしながら
入ってくることで、ようやく緊張が解けたのだった。
_________そんなこんなしてたら
担任の上松が教室に入ってきた。
利知は、無事を確認し安堵したのであった。
そして、特にイベントはなく放課後。
利知が一人で帰路を歩いていると。
目の前から、リーゼントだったりタバコを吸ってる
不良どもが歩いてきて、道を塞ぐ。
「……よう」
そして、リーダー格の者が利知に低い、威嚇のような声を浴びせる。
「お前……俺の妹を見捨てたろ?」
利知は、そういわれ嫌なことを思い出す。
確かに赤い化け物に襲われた時、周りの人の被害は気にせず逃げた。
何人か死んでいた。
「お前が……あの化物を連れまわしたくせによ」
利知は、関係ないと叫びそうになった。
だが、そんなこと言えば激昂させてしまう。
萎縮しながら思考が早まる。
_なんでこの人赤い化け物のこと知ってるんだ?
なんで俺が追われてたこと・・・・・あの通りの人混みで見てたならそれはわかるけど
妹だのは知る機会ないだろう、じゃあ、人通りの少ない道で見てた?
いや違う。俺はあそこに人がいなかったことをアカネと一緒に確認してる。_
そんなこと考えることも許すかといわんばかりに、リーダーは
ゴキゴキと手の関節を鳴らす。
力強さを硬そうでデカい拳から感じた。
「……ッ」
利知は、確信した。
説得は無駄。
逃げるべき。
疑問の解消はすべて未来の自分にまかせるべきだ。
そう思った瞬間、相手に背を向けて全速で駆けていた。
____河原______
河原沿いの道までどうにか利知は逃げることができた。
何度もチェイスバトルをしてきたおかげだ。
しかし、そこまでしか逃げられなかった。
転び、ゴロゴロ河原に転がりどうにかして体を止めた時には。
「落とし前つけろや」
不良に囲まれていた。
「お・・・・・・・」利知は焦った。
「俺には関係ない!」叫ぶ、ついつい不運にも口癖が出てしまう。
あっやべ、みたいなこと思った瞬間。
リーダー格の男が、利知の顔面を殴った。
利知の鼻の骨がぼきりと折れて鼻血が流れる。
「お前が俺の妹を見捨てなければ!お前が逃げなければ!
お前が死んで守れば!」
感情の爆発、利知はどうしようとしか考えていない。
どう逃げよう。
周りを不良に囲まれている。
利知より皆年上。
高校2年生くらい、そんな奴らが中学生を取り囲んでいたぶろうとしてる。
「止める人いないのね……」
アカネが彼らに本気で引いていた。
リーダーが利知の手を取る。
「よし……決めた、落とし前は……今からお前の手の指を全部ナイフで切り落とす」
その宣告が非常に嫌なものだと思う同時に利知はやや安堵した。
麻から聞いていた拷問のようなものでないことに。
音が響く、利知の指から。
ザシュ、といった。
「・・・・・・・!!!」
痛み。
ただ、痛い。
それくらいの痛みが指先から伝わってくる。
目をつむりながら、涙で瞼の裏を満たす。
「なに、泣いてんだ?まだ一本だ、あと九本も残ってるんだぞ」
鬼、悪魔、利知はそのどれでもないと感じた。
彼らは、自分たちの行動を利知への制裁と思っているからだ。
結局、利知はすべての指の骨を切られ、抵抗したら
腹を殴られたり、足を切られたりして
不良たちが暴行をやめ、去ったころには
もう夜だった。
河原に寝転がり、利知は痛むところをできるだけ動かさないように
頑張る。
体中ボロボロだった。
運悪く、河原で凄惨な出来事が起こっていることにだれも気付かなかったせいで
不良の気のすむまでやられたのだ。
「……大丈夫?」
アカネの声に返答はしない。
結局彼女は自分を助けず、見てただけだった。
しょうがないのだけれど、やはり多少はむかつく。
「……俺には関係ない」利知は、アカネを無視し
口癖をつぶやく。
いくばくか平静が戻ってきた。
しかし、体が痛む、まだ動けない。
利知は仰向けになったまま、空を見上げ暇をつぶす。
「ちょ、ちょっと待って」
アカネの焦ったような声。
顔を覗き込んで、いまにも額がぶつかりそうなほど近づいて
騒ぐので、無視しようにもしづらかった。
「な、なに?」
「脚!いや、それ以外も」
「……?」
利知の折れた脚は、いつの間にか治っていた。
それだけでない、擦り傷などからブクブクと赤い泡が出て
そして、発泡が終われば治っている。
だんだん利知は指からもブクブク泡が出ている。
そして、治る。
失った指がもとに。
ゆっくりとだが、普通の人間にはありえない速度で
利知の怪我が治っていっていた。
「あ」
アカネは、思い出した。
自分の、自分と利知の使命を。
そのありえない怪我の治りを見たから。
そのことは、使命と深くかかわりがあるから。
不完全な彼女でもそれがわかったから。
その使命とは
____赤い化け物を、殺すこと______