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もしもこの世界で、あなたと  作者: 白銀
第1章〜校内戦闘〜
8/52

第8話 暗闇

1.


「…だめ、もう私我慢できない」

紗水(サナ)が目をウルウルさせながら言った。

唇はいつも以上に輝いて見える。

「ちょっと待てよ…俺たち高校生だろ…まだやるべきではない」

湖也(ウミヤ)が少し困りつつも答える。

二人はなぜか真っ白な神殿にいた。

神殿の周りはふわふわした白い綿みたいなものが地面いっぱいに敷き詰められている。

どうやら雲の上にいるみたいだ。

紗水は頬を赤らめて、

「年齢なんか関係ないじゃない。二人の愛があれば認められる行為でしょ?」

「いや俺はまだ認めてないし」

「え、嘘」

一瞬紗水の顔がホラー映画に出てくる女の幽霊みたいな顔をした

「あ、すまん認める」

「じゃあ…もう、してもいいよね?」

「いやいやいや待て待て待て!誰が見ているかもしれないだろ?」

「大丈夫、ここには誰もいないわ。邪魔する者は誰もいないのよ」

湖也は周りを見回し、

「確かに誰もいない。てかここどこだ?なんで俺たちこんなところで…」

「細かいところは気にしないの。さあ、早く始めましょう」

紗水の唇が湖也の唇へと近づく。

湖也は緊張して目を瞑りながらも唇を差し出す。

これって普通立場逆では?

二人の唇が触れ合う、その瞬間


湖也は目を覚ました。


「…!ハァッハァッ!」

物凄い速さで体を起こす。

どうやら夢を見ていたみたいだ。時計を見ると五時半を指している。

湖也はカーテンを開けると窓を開けて夢オチなんてサイテー!と叫びたくなるが、気持ちを抑える。

「てか、なんであんな夢を見るんだ?」

顔を少し赤くしながら考える。


もしかしたら、あいつのことを…


そこまで考えて湖也は顔をぶんぶんと振る。

そんなことは絶対ないと自分に言い聞かせる。

それより大切なことはある。

湖也はカバンを手に取り学校へ行く準備をする。

あ、その前に着替えて顔磨いて朝ごはん食べなきゃ。


2.


湖也は学校に着いた。

昨日のメールのことを思い出す。

(もう上伊の力はなくなったのかな?)

そう思いながら教室のドアを開け自分の席へと向かう。

椅子を引いて座ろうとし、異変に気付いた。

椅子の上が光っている。よく見ると画鋲だった。

湖也はゾッとした。

もしそのまま座っていたらケツから血が出ていただろう。

湖也は画鋲を手に取り、机に並べる。

四つあった。

周りから声が聞こえる。

「なーんだ、あいつそのまま座んなかったのか」

「つまらないのー」

「でも流石にやりすぎじゃない?」

「いーんだよ、あいつは学校の邪魔者だからな」

「そっか、そだね」

(これもういじめだろ)

周りを見回す。

こっちを見てニヤニヤしている者、特に興味を示さない者、汚物を見る目で睨んでくる者。

何種類かに分かれていたが、やはり湖也の味方はいないみたいだった。陸も天もまだ来ていない。

ひどい状況だなと思っていると、誰かの気配を感じた。

慌てて振り向くと、紗水がこっちに歩いてきてた。

「あらあら、これは愉快ですね」

フフフと笑いながら近づいてくる。

もうその目には闇しか映っていない。

やっぱり、紗水は変わってしまった。

じゃあ昨日のやつはなんだったのか。


湖也は紗水を見て今朝の夢を思い出し少し顔を赤く染める。

しかし、今の紗水はそんな湖也を見ても何も思わない。

ツンデレがただのツンツンした棘のようなものになっている。

「あ、そーですか」

べーと舌を出し子供みたいな返しをする湖也。

次の瞬間、湖也は今したことを後悔した。

原因は周り。周りのクラスメイトの目が湖也一点に集中する。

「貴様紗水様に舌を出したな⁉︎」

「その舌ちょん切ってやろうか!」

「クソガキかよ最カイ君はよぉ!」

みんなが一斉に湖也に向かって叫ぶ。

「あー分かった、分かりました!無礼な行為をしてすみませんでしたー!」

湖也は耳を塞いで叫んだ。

紗水はみんなにいじめられている湖也を見て、

「ふふ、なんてバカなことを」

と笑っていた。


陸が教室に入ってくる、

もしかしたら陸の椅子の上にも画鋲があるのではと思い湖也は焦って陸の席を確かめる。

どうやら陸の席には何もないらしい、(アマ)の席にも無かった。

(俺だけいじめの対象か…)

てかなんで天と陸も大橋に敵視されてるんだ?

天も教室に入ってきた。

湖也は天の席に行き声をかける、陸にも声をかけて、教室を出る。

「あいつらやばいぞ!俺の椅子の上に画鋲を乗せてやがる!」

「本当に⁉︎危ないじゃん!もうどうにかした方がいいんじゃない?」

「あいつらは特にカイを邪魔者扱いするな…」

「あのさ、そのあだ名のことなんだけど…」

天は突然話題を変えた。

どうやらカイってあだ名についてのことらしい。

「どうした天?」

「カイってあだ名…もうやめない?」

「なんでや?」

「だってカイってあだ名が原因でこうなった可能性もあるし…みんなが湖也を最カイって言うようになったのも、それのせいだし…」

すでに天は湖也のことをカイと呼ばなくなっていた。

湖也と陸は考える。

「俺は別にそれでもいいけどな」

「いや、天の言う通りや。別にカイって呼ばなくちゃいけないわけじゃないし、その名が状況を悪化させてるなら呼ぶのをやめた方がいい」

「二人とも…すまんな」

「何謝ってるの湖也は!俺たちが勝手に呼び始めたんだし、湖也が悪いわけじゃないよ!」

「そうか」

美百合先生が階段を上がってきた。

先生は湖也を見ると、

「カイちゃーん!」

と笑顔で近づいて来る。


(ダメだこの人空気読めねぇ!)

まあさっきの話聞いてないからしょうがないかと湖也が思っていると、天が先生に向かって

「先生!あの、もう湖也をカイって呼ぶのやめてあげてください!」

と叫んだ。

「あら、どうして?」

「実は、湖也は今いじめられていて、あ、正確には俺たちもですけど…」

天は全てを話した。

天の話を聞き終わって、先生は真面目な顔をする。

湖也の顔を見ると

「湖也くんごめんなさい。昨日の朝なんであなたが廊下に立ってるかわからなかったけどそんなことになってるのね。わかった!もうふざけた呼び方はしない。先生にもいじめをなくす義務があるわ。みんなに言っといてあげる」

「ありがとうございます。しかし、みんなに呼びかけても変わらないと思います。大橋をなんとかしないと」

「わかったわ!先生に任せて!」

そう言うと先生は教室に入っていった。

湖也たちも後に続く。


朝のホームルームが始まった。

最初に先生は湖也の顔を見た、

湖也はとても不安そうな顔をしていた。

(大丈夫よ!私がなんとかしてみせる!湖也を自由にしてあげる!)

先生は上伊(カミヨシ)の方を見ると、

「上伊くん、こっちに来なさい」

「え?なんでしょう。」

上伊は席を立ち先生の前に行く。

上伊の顔を見て、先生は落ち着いて話しかける。

「上伊くん、あなた湖也くんをいじめてるでしょ」

「俺はいじめてませんよ、みんなが勝手に」

「いいえ違うわ。事情は全て天くんから聞いた。あなたが変な力を使ってみんなを操ってるって」

「いや操ってるわけじゃないですよ」

「そうです!私たちは何もされてません!」

クラスの誰かが叫んだ。

先生は構わず続ける。

「いじめは許されない事だわ。今すぐ辞めなさい」

「と言って、みんなが辞めると思います?」

上伊はめんどくさそうな調子でいった。

「あなたが辞めればいいじゃない」

「いや俺何もしてませんし」

上伊は教室にいるみんなを見ると

「彼らはね、自分の意思で動いてるんですよ。強い意思でね。俺がどうすることもできないし、彼らに言っても辞めないと思います。この状況はどうすることもできません」

「じゃあどうしてこうなったの?」

「知りませんよ。気づいたらこうなってた」

「でも、あなたがやったって…」

「そもそも、その情報正しいと言い切れますか?星川くんが勝手に俺に罪をなすりつけている可能性も否定できません。そこんところよく調べてからこの話をしてください」

「先生になんて口利いてるの?」

「先生、ホームルームの時間終わりますよ」


チャイムが鳴った。

授業が始まる合図だ。

結局先生は上伊を止めることは出来なかった。

先生は廊下の壁に背中を預けていた。

一時間目は担当する授業はない。

何事もなかったように授業を受けている上伊、湖也たち、そして教室のみんなを遠くから見つめながら、いじめを止められなかった罪悪感に小さな涙をこぼした。


黒木花蓮は自分の席から先生と上伊の言い争いを見ていた。

どうやら彼から不思議な力が働いているらしい。

前を向く、背中を突く。

湖也は振り向いた。

「ん?何?」

「君も大変だねー周りのほとんどが敵状態だなんて」

「ほんとに大変だよ。早く戻ってくれればいいんだけど…」


3.


その後も湖也はみんなのいじめを受け続けた。

トイレに行こうとするとクラスの男子がトイレに猛ダッシュし、満席にしていた。

気づいたら机や椅子の上に除菌シートが敷かれていた。

「何これ?」

と質問すると、クラスの女子が「だって三村くん汚いんだもん。綺麗にしておいたの」

(俺はばい菌扱いかよ)

小学生のいじめを連想させる。

湖也がシートを取ろうとすると、

「あ、ダメダメ〜今日一日これで授業受けなきゃ」

と凶悪な笑みを浮かべて言われる。

流石にこれは先生に注意され助かったが、いじめがなくなることは無かった。

そしていじめは始まると日が経つにつれてエスカレートしていくものである。

金を取られ、天と陸以外近づかなくなり、時には湖也のプリントがゴミ箱に捨てられることもあった。


その光景を上伊は最初ニヤニヤしながら眺めていたが、途中からその顔は余裕を失っていき、顔を青くすることが多くなった。

こんなひどいいじめに発展するとは思わなかった。

「おい、もうそのくらいにしとけよ」

みんなに命令しようとするが、

「何言ってるんですか、こんなのはいなくなった方がマシです」

と反論され止めることが出来なくなっていた。

みんなは上伊の奴隷になったわけではない。

位を与えてやっただけで、完全にみんなを支配できるわけではない。

校長室に行ってみた。

「もう大丈夫ですから、学校を元に戻してください!」

しかし校長はこう言った。

「何言ってるんだ。これは私にはどうにも出来ない」

「どういうことですか?」

「私は君の欲望を叶える手助けをしただけだ。君が辞めたいと思えば勝手に戻るはずなんだが」

「本当ですか?じゃあなぜ学校は元に戻らないんです?もう辞めてもいいと思ってるんですが」

「それは君の意思が弱いんだろう。それかまだやり足りないことがあるとか心に不安が残ってたりしたら戻るものも戻らなくなる」


上伊は家に帰った。学校を戻すことは出来ない。

学校を戻したいと願ったが、それは叶わなかった。

上伊は心に不安を抱えていた。

戻してもいいのか、戻っても大丈夫なのか。

上伊は学校のトップに立たないと安心できなくなっていた。

上伊は机に置いてある写真立てを見た。

そこには家族の写真が入っている。

母と父、そして上伊と上伊の姉が写っていた。

写真を見ながら思う。

(…どうしたらいい?お姉ちゃん)


湖也はいじめを受けている。

それもだんだん耐えられない物へとエスカレートしていった。

湖也はたまに上伊の方を見た、見るたびに上伊の顔はだんだん青くなっていく。

湖也は疑問に思った。

(お前が作った学校だろ。何顔を青くしてんだよ)

そこで湖也はあることに気づいた。

もしかしたら上伊もこれを辞めたいと思っているのかもしれない。学校を元に戻したいと思っているのかもしれない。

湖也は上伊に近づこうとしたが、やはりクラスのみんなに止められて話すことが出来ない。

そしてその度に殴られ蹴られ、体をボロボロになっていく。

「湖也、大丈夫か?」

陸が湖也を見ながら質問する。

膝からは血が出ていた。腕の一部が青くなっていた。

「湖也、もうこれダメだよ!もう学校を戻さなきゃ湖也の体が…」

天が言う。これが震えていた。

「大丈夫だよ。あいつらは俺しかいじめない。陸と天には手を出さない。俺が我慢すればいいだけの話だ」

「そんなのダメだよ!湖也だけがいじめにあうなんて…」

深刻な顔をして話をする三人を見て、紗水は笑っていた。

「どこまでもつんだろうね、その体」

湖也はイラついて殴りたくなったがなんとかその気持ちを抑える。

「お前も前はいじめられてただろ。いじめを受ける辛さがわかっているはずだが?」

「あー確かにそんな時期が私にもあったわねぇ」

でも、と付け足すと紗水はぐにゃりと顔を歪ませて凶悪な笑みを浮かべてと

「自分がいじめられるのは嫌だけど、他人のいじめを見るのは楽しくてしょうがないわ」

「クソ野郎が」

湖也は紗水に聞こえないくらい小さな声で呟く。

「ん?今なんか言った?」

「なんも言ってませんよ」


学校にいるとずっといじめられる湖也だが、いじめを受けない時間が存在した。

家に帰った後だ。

家に帰ると毎日紗水から「なんで置いて帰ったの⁉︎」とメッセージが来る。

事情を話そうと思ったが、理解してもらえそうにないから辞める。

文句のメッセージも、学校にいるときの紗水に比べたら可愛いものだと思い毎回「悪かった悪かった」と謝罪の文を送る。

学校に行ってはいじめられ、家に帰ったら文句を言われ、湖也のストレスはどんどん増えていく。

心を休ませることができるのは休日だけになっていた。


4.


「なあ、この学校大変なことになってるぞ」

花蓮はジト目で呟く。

校長は窓の外を眺めながら

「大変なこととは?」

と質問する。

「クラスで、いや学校で三村湖也のいじめが起こっている。これはどうにかしないといけないな。お前も前言ってたろ。いじめはくだらないことだって」

ギクッと校長は肩を震わせる。

「なぁ、あれは一体どうなってるんだ?生徒のようすがが学校の中と外で全く違うんだが」

わずかに黙った校長は、はぁと息を吐くと

「話さなければいけないか?」

「出来れば話してほしい」

「…そうか。しかし一つだけ約束してほしい。このことは他の誰にも話さないでくれ」

「んーなんだか分からんけど約束しようじゃないか」

花蓮の声を聴くと校長はポケットから鍵を取り出した。その鍵を机の引き出しに付いている鍵穴へ差し込んで回して開ける。

中から出てきたのは一冊の本だった。

辞書のように分厚い本で、表紙は真っ白で不思議な外見だ。

それを見て花蓮は質問する。

「なんだこれは?」

「これは人の欲望を叶える本だ」

「は?」

花蓮の反応を無視して校長は本を開く。

パラララ…という音を立てて、一番新しいページを見せる。

ページには名簿表みたいな何かを書き込む欄がある。

そして一番上の一番左の欄に、大橋上伊の名があった。

そして真ん中の欄には生徒に順位を与える。と書いてあり、一番右の欄には校長のハンコが押されてあった。

そのページを見せながら校長は説明する。

「一番左の欄には対象の人間の名前を書く。そして真ん中の欄にはその人のやりたいことをを書く。そして一番右の欄に私のハンコを押す。これでその人の欲望が現実に現れる」

「そんな魔法みたいなことが出来るのか?」

「お前さんは見てきただろう。これの力でこの学校の生徒は上伊くんの支配下になってしまったわけだな」

「 恐ろしいものだな」

「しかし上伊くんは湖也くん達を順位の一番下にしてやったわけだな。これでいじめが起こってしまった。これの力は絶対だ。誰にも逆らうことは出来ない」

「ん?ちょっと待てそれは間違ってるぞ」

花蓮は教室の様子を思い出しながら

「三村湖也、土方陸、星川天の三人にはこれの力は働いていない。この状況を不満に思っている」

「おそらく上伊くんが『三人は強制的に従わせる必要ない』と思ったんだろう。一番下の者が暴れても他のみんなが何とかしてくれる。実際そうなってるしな」

「どうしてこれを大橋上伊に与えてやった?」

「彼は何か悩みを抱えているように見えた。だから少し助けてあげようと思ってな」

「でもこれの影響でいじめが始まってしまったんだぞ。本末転倒じゃないか?」

校長は顔を曇らせる。

「元に戻せるのか?」

「無理だ。これは対象者の欲望を叶える手助けをする為の道具だ。一度叶えてしまったらこれでは戻せない。今の学校は上伊くんが辞めたいと思うまでずっとこのままなんだ」

「しかし学校の外だとみんな普通に戻ってるんだが?」

「この力は学校内で、そしてうちの学校の生徒教師にのみ使うことができる。お前さんは他校の生徒扱いだから影響されん。ここの生徒だって学校から出たら効かなくなっちまう」

「なるほどなぁ」

花蓮はソファに寝っ転がる。

校長は苦い顔をしながら

「いじめは無くならないといけないがこれはもう私にはどうすることもできん」

「クソみたいな校長だな。自分の学校の問題を解決できないとか」

「だから君に頼みたいのだよ。どうにかならんかね」

「その行動もクソだな。自分の学校の問題を他の学校の生徒に任せるとか」

「わかっておる。しかしこの問題は生徒じゃないと解決できないのだ。大人が注意しても生徒は聞かないからな」

「わかった。出来るだけのことはやってみる」

花蓮は校長室を出て行った。

しばらくして、再び校長室の扉が開いた。

入ってきたのは美百合先生だ。

「校長、あの…」

「ん?どうしたのかね?」

「うちのクラスの三村湖也くんが、みんなにいじめられているらしいんです。どうしたらいいのでしょうか」

再び校長は肩を震わせる。

鍵のかかった引き出しに目をやり、

(なるべくこれの説明はしたくないなぁ)

と考える。

校長は初めて聞いたフリをして

「そうか、それはいけないな。私が今度全校集会でみんなに注意しておきましょう」

「でも、彼らは注意を聞きません。よくわからないけど、みんな上伊の支配下になってしまって、彼に注意しても聞きませんし」

「大丈夫です。私が注意したら何とかなりますよ」

校長は足をガクガクさせながら答える。

もちろん嘘だ。今この学校の生徒は全校集会や文化祭などのイベント事の時にしか姿を見せない校長より、生徒の上伊の方を信用している。上伊自身がそう設定していた。

「そう…ですか。そうですね。ありがとうございます」

「いえいえ」

先生はお礼を言うと校長室から出ようとする。

ドアを開けると、校長の方を見て

「校長…」

「なんだね」

「私、大事な生徒がいじめられるのがすごく辛いんです。見てられないんです!みんな平等で楽しいクラスでありたいと思っています。だから、よろしくお願いします」

涙を流しながらそう言うと、先生は扉を閉めて行った。

校長は再び窓の外を見る。

「私も、何とかしないとな」


5.


もう学校が変わってから二週間経った。

元に戻す為の手掛かりは全く無い。

それは湖也、花蓮、美百合先生全てに当てはまっていた。

湖也は学校に行くと殴られ、蹴られ、傷だらけになっていった。

いじめは精神的にも大きなダメージを与える。

だんだん元気が無くなっていく。

ただ陸と天がいたから何とか学校に行くことは出来た。

三人でいると辛く無くなってくる。

そして母と妹にはこの事を隠していた。

言っても解決する事じゃ無いし、心配かけたく無い。

二人は頬にできた痣を見て驚くが、

「本当に大丈夫だから」

と無理矢理笑顔を作って答える。

テレビを見て稀里(キリ)が笑う。

それだけで疲れは取れていった。

が、自分の部屋へ行き学校のことを考えると疲れが戻ってくる。

毎日のように紗水から

「何で置いてくの?嫌いになった?何か悪いことしたなら謝るから!」

とメッセージが来る。

はぁ、とため息をついた。

「嫌いになってないよ」

と彼氏の慰めメールみたいな文しか送れなくなっていく。

(いつまでこれを続けなくちゃいけないのだろう)


そして翌日。

湖也は制服を着て、カバンを持って自転車を走らせた。

顔はとてつもなく暗くなっている。

家から数メートル離れた交差点で、湖也は自転車を止めた。

(どうせ学校に行ってもいじめられるだけ…疲れが増えるだけ…)

そう考えると、いつもはまっすぐ行くはずの道を左へ曲がった。

その先には駅がある。

(どこか遠くへ行きたいな…)


不登校。

いじめから逃れたいという気持ちが溜まり、湖也はとうとう学校へ行くのをやめた。


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