第6話 再生
これから段落ごとに番号を書いてこうと思います。そうした方が見やすいかなーって
1.
目を覚ますと、上伊は学校の保健室で寝ていた。
「…知らない天井だ」
※知っている天井です。
すると、ベットの横に座っている校長が話しかけて来た。
「馬鹿者。入学して間もない頃校内案内でここに来ただろ」
「え!?なんで校長先生がいるんですか!?」
「三村くんと喧嘩して倒れたところを私がここに運んできたのだよ」
「え?あれ見てました?」
「あぁ、最後の方は見てたよ」
「すみません!校内で暴れてしまって!」
「いいんだよ、この学校は強くしてあるからね」
「…知っています。椅子を窓にぶつけても傷一つ入らなかった」
「椅子を投げるのは良くないねぇ」
校長に指摘され上伊は下を向くと
「すみません…」
と謝り、
「しかしなんで強くしてあるんですか?」
と聞く。
校長はう〜んと少し考えた後
「昔は酷かったからなぁ」
と呟く。
「何が酷かったんですか?」
「喧嘩だよ。昔は乱暴な高校生が多くてねぇ。一般的にはつっぱり時代と言われているものだが、不良生徒が増えて他校の生徒や校内でも仲の悪い生徒同士が暴れまわってガラスやドアをめちゃめちゃにしてしまった。いちいち取り替えてもすぐ壊されてお金の無駄だし、喧嘩しても大丈夫な学校にしようと当時の校長は思ったらしい」
「なるほど…」
「しかし、なんで喧嘩してたの?」
聞かれて、上伊は黙った。
自分の位を守るためとか自分勝手な理由であんなことをしたとは絶対言えない。
「言えないのかね?」
「言わないとダメですか?」
「別に言わなきゃいけないってことはない。人間人に言えないことは誰にでもある」
それから沈黙が訪れた。
しばらくして校長が口を開く。
「君はいい生徒だ。ちゃんと室長の仕事もこなしてる。きっと喧嘩も自分なりの理由があってやったんだろう」
上伊は黙って校長の話を聞く。
「本当なら放って置いてはいけない事だが、今回は見なかったことにしておくよ」
「…ありがとうございます」
「君はまだ力を発揮していない」
唐突に校長はそんなことを言った。
「何ですか急に」
「君は室長の仕事をしてくれているし、必要最低限のことはしてくれる。文化祭の時だって、与えられた仕事はきちんとしてくれた。しかし、それ以外のことはしなかった。自ら進んで何かをやろうとはしない」
その言葉が上伊の心に突き刺さった。
彼は自分から発言したりはあまりしない。
室長だってみんなに頼まれたからやってるだけだし、文化祭の時何か案を出したわけでもない。
本当だったらカメラ係をしても良かったのに、自分がもっと発言していれば、隙だらけの文化祭を作ることもなかったのに。
「君はやりたいことが出来ていない。そうだろ?」
それは…と上伊は何か言おうとするが先に口を開いたのは校長だ。
「そこで、君に一回チャンスをやろう」
上伊はえ?と聞き返す。
校長はニッコリと笑顔を作ると
「君の願いを一つ叶えてやろう」
と言う。
「何ですかそれ、願いを叶えたら俺の時間を奪うとかそう言うやつですか」
「違う違う、そうじゃない。無償で君の願いを叶えてあげる。一つだけならどんなことでもな」
「俺まだ七個集めてない」
「だから違うって」
校長は困りながら頭をかく
「冗談ですって。ですが本当に叶えてくれるんですか?」
「あぁ。あ、でも条件があってな」
校長は何かを思い出したかのように言う。
「学校の中で叶えられるものしかダメなんだが、その条件をクリアしていればなんでもいい。何かないのか?」
「じゃ、じゃあ」
上伊は唾を飲み込む。
「俺をこの学校で一番の権力者にしてください!」
校長はニヤリと笑う。
「あぁ、いいとも」
2.
湖也は家のドアを開ける。
「おかえりー、遅かったじゃない」
とお母さんの声が聞こえた。
リビングに行ってソファに寝転ぶ。
「ふひぃー」
思わず息を漏らすと妹の希里がこっちを見てきた。
「わ!お兄ちゃんその顔どーしたの!?」
ん?と俺は首を傾げる。
希里の声を聞いてお母さんがこっちに来て顔を見る。
「あんた!その顔どーしたの!?」
いやおんなじこと言われても…
俺は鏡の前に立ち顔を見てみる。
「わぁ、すごい顔だ」
もともといろんな意味ですごい顔だが、青あざが出来てたりたんこぶが出来上がってさらにすごい顔になっている。
語彙力ない感想を頭の中で並べながらリビングに戻ると二人が俺の前に立ち、
「おにーちゃん集団リンチにあった?」
と聞いてくる妹。
よくそんな言葉知ってるな。
「いじめられた?学校で嫌なことがあったらいつでもお母さんに相談しなさい!」
と泣き顔の母。
真っ先に俺のことを心配してくれるいい母親だ。
俺はソファの横に放っておいた学校の鞄を手に取ると
「大丈夫!少し喧嘩しただけ」
と言い自分の部屋に行こうとドアを開ける。
その時二人の奥にあるテレビが目に入った。
ニュース番組がついている。
そこには黒木先生が映っていた。
(あれから一週間もたつのに、まだやってるんだ)
そう思いながらテレビを眺めていると、
「土曜日に生徒虐待の容疑で逮捕された黒木容疑者は、『自分が何であんなことをやったか分からない。大事な生徒なのに』供述しております」
とアナウンサーが喋っていた。
(ふん。何今更いい子ぶってんだよバーカ)
そんなことを思いながら俺は自分の部屋へ向かった。
机に向かドアを閉めて机に向かう。
「さて!ゲームでもするか!」
3.
次の日
今日は土曜日だ。
湖也は天と陸とラーメン屋へ来ていた。
三人で昼飯を食うのは初めてだ。
メニューを見ながら話し合う。
「どれ食う?」
「俺はこれやなーやっぱり」
「俺もそれにしようかな」
それぞれ何を頼むか決めた後、湖也は店員呼び出しボタンを押そうとして、手を止める。
あ、そういえば俺、コミュ障だった。
クラスメイトとか知ってる人となら話せるが、知らない人となると全く口が動かなくなる。
(どうしよう)
押さなければ昼飯はゲット出来ない。しかし、押せる勇気がない。
動きが止まってる湖也を見て天と陸の二人は
「ん?どーしたん湖也」
「どしたの?」
と話しかける。
俺は無理だ。絶対無理だ。
だって…
湖也は頭の中で想像する。
もしも噛んでしまったら…
「ご注文を承ります」
「俺は野菜たっぷりラーメンで」
「俺は激辛味噌ラーメンで」
「…」
「どないしたんや湖也」
「じゃ、じゃあ俺はこってるっゔ!…こってりとんこつラーメン…」
絶対に恥ずかしいやつやーん
他にも、注文したものが無かったら…
「ご注文は…」
「俺味噌ラーメン」
「俺台湾ラーメン」
「俺とんこつラーメン」
「…すみません。今とんこつラーメン無いんですよー」
「…なん、だと?」
無理無理!絶対無理!
湖也は決心すると、
「天、お前がボタン押して?」
向かいの席に座っている天にお願いする。
「え、いいけど」
ボタンを押そうとする天に向かってもう一つ
「それと、俺のも注文しといて?」
天は手を止めて尋ねる。
「え?なんで?」
「だって俺、コミュ障だし」
…
「「あ」」
天と陸が同時に口を開いた。
その瞬間時が止まった。
誰もが悟ったのだろう。
『俺には無理』だと、『二人に頼むしか無い』と
三人は目を合わせ、頷くと
「「「じゃんけんぽん!」」」
大声をだしてじゃんけん大会を始めた。
一回目は全員パー、すごい確率だ
三人は汗を流し、再び拳を握る。
「「「じゃんけんぽん!」」」
陸と湖也が負けた。
「…陸、まさかお前とここで決着をつけるとは思わなかったよ」
「あぁカイ、生きるか死ぬかの真剣勝負や」
うぉぉぉぉぉぉぉ!と二人が同時に叫ぶ。
「「じゃんけんぽん!」」
どっちが注文するのか決めるじゃんけん大会。
最終決戦が始まった!
一回目はどちらもグー
二回目はどちらもパー
三回目はどちらもグー
四回目は…
「あの子達、ものすごいじゃんけんに夢中になってますね」
「あぁ、一体なにを賭けてるんだろうな」
厨房で店員と店長が腕を動かしながら話していた。
テーブルでは少年二人がじゃんけんをしている。
あれから三十分は経ったがまだ決着はついてないみたいだ。
結局注文は三人分天がしてくれた。
二人の叫び声を聞きながら店員と店長は、
「しかし、何かに集中できるっていいっすね」
「そうだな。俺も何か声を上げて熱くなれることを見つけたいよ」
知らない人に大切なことを伝えていた湖也たちの日常であった。
4.
紗水は友人と本屋に来ていた。
参考書を買おうかと思いながら棚に並んでいる本を見ていく。
(数学、英語、物理…)
「紗水は勉強熱心だねー」
横歩きで移動しながら本を探す紗水を見ながら友人の漣愛羽は呟く。
「別にそんなことないよー。定期テストもあるし来年から受験生だし」
「受験のことは受験生になってからでよくない?じゃあ私漫画コーナー見てくるわ」
「はいはい」
愛羽が去った後も紗水は棚の商品を眺めながら横歩きしている。
一つの棚を見終わろうとした時、ゴッと肩に軽い刺激が走った。
誰かとぶつかってしまったようだ。
「ごめんなさい!」
紗水は謝りながら顔を上げると、そこにいたのは、
「って、湖也⁉︎」
「あれ?紗水じゃん」
偶然の出来事に湖也も声を漏らす。
昼飯を食べ終わった後、三人は本屋へ来ていたのだ。
「お前も本買いに来たのか?」
「えぇ、私は参考書を買いに」
「え?」
湖也は固まる。今まで参考書を買おうと思った事が一度もないからだ。
「あなたも参考書を買いに?」
質問をされた湖也は目をそらしながら
「ちょっとなに言ってるかわからない」
と返す。
すると、湖也の後ろから声がして誰か近づいて来た。
天だ。
「ん?カイーどーしたーってうぉ⁉︎」
紗水がいることに驚き変な声を出す。
その声に反応して陸も近づいてきた。
「ん?どしたん天?」
天は近づいて来る陸を遠ざけながらコソコソと事情を話し二人で作戦を考えることにした。
「なに⁉︎カイと紗水が一緒にいるって⁉︎これはデートのチャンスや!俺らは邪魔をしてはいけない!」
「だね!ここは二人を置いて俺たちだけでどこか行こう!」
と話し合っていると、湖也と紗水がこっちへ歩いてきた。
「どうした?二人固まって」
「カイ!お前と河原さんのデートを邪魔するわけにはいかない!俺らはどこかへ行くから、二人の時間を楽しむんやで!」
「は?いやいや言ってる意味がわかんねーし」
「そそそうよ!なんで私達が付き合ってるみたいなこと言うの⁉︎何言ってるかわからないわ!」
湖也は微妙な顔をしているが、紗水の方は顔を赤くして肩を震わせていた。
そこへ漫画コーナーに行ったはずの愛羽がいいタイミングで戻ってきてしまった。
「ん?そこにいるのは三村君じゃない?テレビで出てた!」
「ん?愛羽変なタイミングで戻ってきて…あーそうよ、この湖也が文化祭の時私を助けてくれたの!」
「誰?」
湖也は紗水に質問する。
「私の友達の漣愛羽。小学校の時から良く遊んでるの」
「へぇー、小学生の頃からねぇ…俺はもう小学生の頃の友達なんか名前も思い出せねぇわ」
「寂しいやつね」
愛羽は湖也や紗水とは別の高校っている。紗水とは小学生の頃の友達で中学から紗水が引っ越したため一緒じゃなくなったが高校生になってもこうして一緒に買い物に行ったりしているのだ。
そして愛羽は紗水の異変に気付いた。
「ん?紗水、なんか顔赤くな…ふうん!」
全てを察した愛羽は紗水の耳元に口を持って来ると
(紗水って三村君と付き合ってるの?)
と聞く。
紗水は顔を真っ赤にしながら
(は⁉︎ち、違うわよ!たしかに彼は私を助けてくれたのけど彼氏じゃない…)
色々言ってくる紗水をほったらかし、愛羽は湖也の目の前までくると、
「これからも紗水をよろしくね!」
と言った。
湖也はボディーガードのことかと思い、
「ん?あぁわかった」と言う。
そこに反論したのは紗水で
「なにがわかったなのぉぉ湖也ぁぁ!」
「え?ボディーガードのことじゃないの?」
「違うわよ!彼氏とか彼女とかって話よ!」
「なんでそんな顔真っ赤にして怒ってくるんだよ!」
と言い合いが始まった。
愛羽はその風景をニコニコしながら眺めていると、後ろに知っている顔を見つけた。
「あれ?陸じゃーん」
「あれ?愛羽やん?」
陸も愛羽の言葉に反応して近づく。
「あれ?知り合いなの?」
天が質問すると、
「あぁ!愛羽とは中学の時三年間一緒のクラスでさー」
「久しぶりだね!」
「やな!」
陸と天と湖也は中学までは別々の学校に行って、高校から一緒になったわけで、三人はそれぞれの昔の事情を知らない。陸と愛羽は一緒の中学にいたのだ。
「そーいえば陸もテレビで出てたよね!あれ見たよ!」
「まさか俺んとこまで取材に来るとは思わなかったわ!ていうかお前身長伸びたん?」
「結構伸びたのよー!陸はあんま変わんないね!」
「やめてこの話はもう終わりにしよう!お前今部活やってんの?」
「うん!今もバスケしてるー」
「バスケってモテるよなぁ、いいなぁ」
「それって男子限定だと思うけどなー」
「お前がリレーで転んだのは今でも忘れない…」
「陸だって、合唱コン本番でくしゃみしたじゃない!」
湖也と紗水が口喧嘩し、陸と愛羽が中学生の頃の思い出を語って、取り残された天は、
「陸まで…陸まで俺を裏切った…」
とメソメソしながらその光景を眺めていた。
5.
あの後五人は一緒に映画を見に行った。
「まさかお前と映画を見る日が来るとはな」
湖也は紗水の方を見ながら呟く。
「だって五人一緒になることなんてあんまりないし。たまにはいいじゃない」
「まぁそうだな」
二人の後ろでは陸と天が
「ひょっとして俺たちって今周りからイケてる連中だと思われてんやね!?」
「男子三人女子二人って陽キャ集団の黄金比だよね!」
とはしゃいでいる。陽キャ集団の黄金比ってなんだよ。
ちなみに愛羽はポップコーンを買いに行った。
戻ってきた愛羽を見て陸は
「なんで今ポップコーンなんか買ってるんや?映画見る前も買ってたやん」
「お土産用、ここのポップコーン美味しいじゃん?」
「あーそういやお前弟いたっけ」
「そう。でもまさか陸と映画見る日が来るとは思わなかったわー」
「俺もや、まさかまさか映画見にいくとは思わなかった」
夕日が綺麗な空を背に、五人はショッピングモールから出てきた。
「いやー今日は楽しかったわ」
湖也は呟く。
「休日に外に出たのなん年ぶりかなー」
「あなたはもう少し外に出なさい」
「私も楽しかったわ!また五人で遊べるといいね!」
「俺もお前と久しぶりに会えてよかったわ。中学の頃の奴とは高校に入って全く会わなくなったし」
「この男女比サイコー」
ニヤニヤしながら呟く天に湖也は
「まだそれ言ってたのか」
と軽いチョップを入れた。
愛羽は自転車に跨ると
「陸、一緒に帰らない?」
「家の方向一緒やし俺も自転車やし一緒に帰るか!じゃあカイと天。じゃあな!」
と二人で帰ってしまった。
「いいなー俺だけ負け組じゃん!二人は俺の味方だと思ってたのに。あ、でもカイは違うか」
「おいおい、まだ誰も俺たち付き合ってまーすとか言ってないし。陸だって付き合ってるわけじゃないだろ。俺達は負け組。いつまでたっても仲間さ」
「わかったよ!じゃあ、またね!」
そういうと天は自分の家の方向へと自転車を漕ぎ出した。
最後に残った二人は空を見ながら、
「あの日と同じ綺麗な空だな」
「あの日って、文化祭のこと?」
「あぁ、文化祭事件もそうだし、金曜日もそうだった」
「なんか嫌なことばかり思い出させる空ね」
「またなんか変な事が起きなきゃいいけどな」
紗水は湖也の方を見ると
「心配しすぎじゃない?それよりもうすぐ中間テスト…」
「勉強に関する言葉は聞きたきゃねーな。お前そんな分厚い本買って中間までに出来んのか?」
「誰が中間までにやるって言ったかしら?これは受験用なの」
「あー受験とかもっと聞きたくねー。来年受験生とか考えたくねーよ…」
一瞬静かになり、紗水はクスッと笑う。
湖也が紗水の方を見ると
「毎日こんな会話ができるといいね」
と言った。
それが湖也には少し綺麗に、美しく見えて目をそらすと
「勉強がどーのこーのって会話はしたくねーな」
「違うの。平和な会話ができるといいねって話」
「まぁ。そうだな」
そこまで話すと、二人はそれぞれの家へ帰る。
数メートル走ったところで湖也は自転車のブレーキをかけ振り返り、紗水に向かって
「じゃ、月曜日な」
と言い、紗水も
「うん、月曜日に」
と返す。
家に向かって自転車を漕ぎながら湖也は「これが青春って事だろうか」と考えていた。
(少し顔が熱く感じるのは陽が顔面に当たっているからだ。そうに違いない)
6.
休日が終わり月曜がくる。
きっと先週より騒がしくなるだろう。
闇が再び動き出す。
前より強大な力を持って。
誰もが抗えなくなり、一つの大きな国となるだろう。
これは闇に力を与えたわけじゃない。
一つの逆転劇を見てみたいという願望が彼の心にあった。
「大丈夫か?」
そんな声が聞こえてきた。
携帯からだ。
「大丈夫だ。問題ない」
校長は応える。
「そーいえば私の存在忘れてない?明日からそっち行くって話なんだけど」
「忘れてないよ。ただ少し厄介なことになってしまってね」
「『やばい奴』が現れたのか」
「まだそう断言するのは良くない。彼はいい生徒だ。彼なりに考えて行動しているのだと信じてる」
椅子に座り茶を飲みながら校長は話す。
大橋上伊はクラスのリーダーであり、常にクラスを支えている存在だ。いなくなっては困る。
しかし、最近出てきた三村湖也が学校を変えようとしている。
(果たしてクラスのリーダーの座を勝ち取るか、それとも負けて引っ込むか)
「面白くなってきたなぁ」
校長は呟く。
「ん?何の話?」
電話越しの黒木花蓮が聞くと、
「いや、こっちの話」
「で、今回はどんな事件だったの?」
「それはこっちにきてからのお楽しみににしとけ」
「まだ続いてんのか?」
「まぁな、続いていないと言ったら嘘になる」
花蓮はん?と首をかしげる。
「お前んとこの学校最近事件多くね?いじめに虐待に喧嘩に」
「たしかに多いな」
校長は認めてから呟く。
「…いつか、平和になってくれる日が来るのだろうか」
「んじゃ、明日頼むよ〜」
「はいはい」
そう言うと校長は通話を切ってテーブルに置いた。
7.
(あぁ〜学校行きたくないよぉ〜)
呟きながら湖也は駐輪場に自転車を止める。
もう学校に着いちゃってるんだけどね
「あ、カイじゃん」
声をかけたのは天だった。
「あぁ、天か。あぁ〜帰りて〜」
「どうしたの急に」
二人は昇降口までの道を歩く。
「まさか楽しい週末の後の月曜日がこんなに辛いだなんて思わなかった…」
「あーそれはあるね〜。でもカイには彼女がいるじゃん?」
「いやあいつは彼女じゃねーし」
「でも土曜日楽しかったんでしょ?」
「それは天と陸と一緒に遊べたから楽しいと言ったわけであって、あいつといたことが楽しかったわけではない」
「それ、河原さんが聞いたらどう思うかな〜?きっと号泣して逃げ出しちゃうよ?」
「ん?別にそうはならんやろ」
「なっとる!やろがい!」
「いつ?」
「水曜日の朝!ビンタされたの覚えてないの?」
「あー思い出した」
そんなことを話し合いながら二人は階段を上って教室へ向かっていく。
教室にたどり着くと、生徒たちが騒いでいた。
その様子を見ながら湖也は呟く。
「ん?なんだあれ?」
「わ!教室がめちゃくちゃになってる!」
教室の中を覗いてみると、机や椅子がいろんなところへ散らばって転がっていた。
(あ、直すの忘れてた)
湖也は顔を青くする。
金曜日の事件が終わった後、湖也は片付けないで帰ってしまったのだ。
(だって校長先生が帰っていいって言ったから…)
誰かに責められてるわけでもないが、湖也は頭の中に言い訳を並べる。
教室にいる人たちで机を直していた。
湖也はその中に紗水を見つけ、近づいていく。
別に特別仲がいいとかじゃないが、挨拶くらいはしようと思ったのだ。
紗水の近くまで来ると、
「よう。おはよう」
と言ってみる。これもコミュ障にはきつい試練だ。
湖也の挨拶に紗水は反応し、振り向く。
湖也の姿を認識した紗水は、口を開く。
「何?底辺が私に話しかけないで」
ーーえ?