最終話 明日へ向かって
「俺が起きたから…あの世界が無くなった」
「あぁそうだ。あの世界はお前の夢を元に作られていた。お前が起きて夢が消えれば、自然と世界も消える」
「じゃあ、俺のせいで紗水は…上伊は…登は…」
「もちろん消えたな。お前のせいで」
「じゃあ俺はあいつらを殺したも同然だ」
湖也は両手で顔を覆いながら言った。
適当に聞いていた翔士はそこで一瞬驚いた表情を見せ、直後笑った。
大きな声で、
「あっはっはっはっ!その発想は無かったな!別に命があるわけでも無いのにな!」
「黙れ…」
湖也はゆっくりと起き上がる。
翔士は耳に手を当てて、
「あ?何だって?」
「黙れよ!」
湖也は激昂した。
翔士の胸ぐらを掴む。
翔士は笑顔のままだった。
「あいつらはあの世界で本当に生きてたんだよ…俺が目覚めなければあの世界で楽しく暮らせたんだ。それを俺が奪ったんだよ」
「そうかそうか!あはっはっは!愉快だな!」
湖也が涙を滝のように流しながら言っても、翔士の心には届かない。
ただ笑うだけだった。
その様子に湖也はとうとう堪忍袋の尾が切れ、拳を振り上げる。
「笑うなよクソ野郎!!!」
「おい」
次の瞬間、翔士は向かって来た拳を払い掴み返す。
「何悲劇のヒーローぶってんだ。確かにお前の中であいつらは生きているかも知れねぇ。だが他人からしたらお前はただ目が覚めただけだ。意識不明の重体だったんだぞ。喜ばしいことじゃねーかよ。それが何人を殺しただ何帰りたいだ!あの世界に帰りたいんだったらもう一度車にでも轢かれて来るんだな!今度は永遠にいられるかもしれないぜ!」
そのまま壁に向かって吹き飛ばした。
「…」
壁にぶつかり、地面に這いつくばり翔士の声を聞いていた湖也はそこで一度ある考えが思い浮かんだ。
ゆっくりと起き上がり、翔士に向かって問いかける。
「俺だけか?」
「あ?何だ急に」
「もしかして俺みたいにお前らに連れ去られた人がいるんじゃないのか?」
「あ、何だそんなことかよ。そこに関しては安心しろ。今の所はお前だけだ」
「今の所…」
「だが今回の研究は実に面白いデータが取れた。人の夢の中ではその人の想像力が直接影響を及ぼすからな。姉の幽霊が出てきたり化け物が出てきたりその化け物と戦ったり。夢境も大きく関わっているがあの世界のほとんどの出来事はお前の影響を受けて変化していった。人によってどのように影響が出るのか見てみるのも面白いなぁ」
「それでどうするつもりだ」
「そうだなぁ」
翔士は勿体ぶった様子で顎に手を当て考える素振りを見せた。
見せただけだった。
決断は速かった。
「分かりやすく言えばクスリだよ。人の想像力を極端に増幅させ脳を影響を及ぼす。そうすれば実際には無いものが見えるようになる!」
「…何を言ってるんだお前は」
反抗期の息子に優しく問いかける様な口調で湖也は言った。
湖也は翔士を可哀想な瞳で見ることしかできなかった。
「そんなものを見て楽しめたら誰も努力しないだろ」
「いいのか?これはお前のためでもあるんだぞ。このクスリが完成すればまた愛しの紗水ちゃんや仲間達が見れるかもしれねーんだぞ?」
「⁉︎」
湖也は心臓が止まるかと思った。
まだ紗水達と会える可能性が残っている。
湖也の様子を見て翔士は確信した。
こいつはいい手駒になると。
「俺の研究に手伝ってくれれば1番に試させてやるよ」
「何をやれば…」
「そうだな…」
翔士はしばし考え、
「もっと研究材料が欲しい。5人ぐらいな。知人でも他人でもいい。生きていれば手段も選ばなくていい。ここに運び込んでくれ」
「それってつまり、俺と同じ苦しみを味合わせると言うことか?」
「何そんなつもりはないさ。クスリが完成すればその苦しみからも解放されるだろう」
「…」
泣き過ぎて目の淵が赤くなりながら湖也は考えた。
これは正しいことなのか。
もし翔士の言っていることが本当ならまた紗水達に会えるかもしれない。
ただそのためだけに、自分のためだけに他人を巻き込んでいいのか。
湖也は現実世界での優しかった花蓮の顔と、向こうの世界の紗水の顔を思い浮かべる。
段々とまた目に涙が溜まり始めた。
「答えは出たか?」
翔士の問いかけに、湖也は立ち上がる。
まっすぐ翔士を見つめ、そして、
「う、うわああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
湖也はベットの上でくしゃくしゃになっていた布団を翔士に向かって投げ飛ばす。
「な…!おい何やってんだお前!」
そこそこの重量のある布団を喰らい翔士は体勢を崩し尻餅をついた。
その隙に湖也は枕を掴むと何度も翔士に叩きつけた。
翔士は何故こんな事が起きたかさっぱりだった。
「ちょっ!お前何すんだ!やめろ!」
湖也はまた涙を流しながら叫ぶ。
「そんなのは駄目だ!絶対駄目だ!俺1人のためだけに他人を巻き込むなんて!やってはいけないことなんだ!」
「ちょっと落ち着けよ!これはみんなの為だって言ってるだろ!」
翔士は何度も叫ぶが湖也の耳には届いていない。
もう湖也はみんなを失った消失感といじめられてた現実世界に戻ってきた絶望から何か感情を爆発させないと気が済まないようになっていた。
何か叫んで、暴れ回らないとどこかおかしくなってしまいそうな、そんな得体の知れない衝動に取り憑かれていた。
「そんな危ないもの作られていいはずがないんだ!お前は暴狐か⁉︎なら俺が倒さなきゃな!」
「こいつ!正気を失って…」
火事場の馬鹿力という奴か、なんと湖也はベッドをゆっくりと持ち上げ翔士に向かって投げ飛ばしたのだ。
「えぐ…」
ドシィン!と爆音が響いた後、翔士の声は止まっていた。
ベッドに押しつぶされて、どうなったか分からない。
ただ隙間から赤黒い液体が徐々に漏れていくのが見えた。
「はぁ…はぁ…俺はやったぞ。悪党を倒すことができた」
湖也はゆっくりと起き上がると、部屋のドアを開け外へ出た。
ずっと薄暗い廊下が続いていた。
どうやら今いた部屋は1番奥だったらしい。
湖也はひたすら歩き続ける。
何もない廊下をゆっくりと歩いていくと、少しずつ冷静に慣れていってる気がした。
翔士はどうなったのだろうか。
戻って確かめるのも怖かったので、振り返らずに進む。
「あははははは…現実世界でも人を殺したかも知れないな」
普通に生きていたらまず言わないであろうセリフが飛び出てくる。
それを笑いながら言えてしまうほど、今の状況は湖也にはどうしようもできなかった。
これからどうやって生きていく?
考えながら歩いていた時、10m先にある扉から誰かが出てきた。
廊下の明かりの感覚が広いので初めは誰か分からなかったが、段々見覚えのある顔が近づいてくる。
「あなたも黒幕だったんですね」
純恋は特に顔色を変えることなく言う。
「まぁね。私は人の絆の強さを研究する為にあの世界に入り込んでたの。人とNPCがどれだけ絆を結べるかね」
「じゃあ紗水の事もただのNPCとしか見てなかったって事ですか」
湖也の腕がプルプル震えた。
「初めはそうよ。けど世話していくうちに愛着が湧いてきたわ。これも絆って言うのかね」
「絆なんてもの見てあなたは何をするんですか」
研究していたからにはそれを活用する方法を考えているはず。
翔士がクスリを作ろうとしていたように。
そう訊ねたが純恋は人差し指を顎に当てて、
「そーいや考えてなかったわね。ただ見ることしか頭になかったから」
「…は?」
「単純な好奇心よ。データをどう活かすかなんてこれから考える事もできるし」
「ただの好奇心ってだけで俺と紗水達に絆を結ばせたって事ですか」
「まーそうなっちゃうわね」
「…最低だな」
湖也は抑えきれなかった。
「クズだな。アホだな。マヌケだな。あいつらを失った俺がどうなるのかも知らないで…そんな無責任な事して、俺から何もかも奪ってそれで終わりなんですか…」
「あらあら口が悪いわね」
「お前らのせいだろうがぁ!!!!」
いつまでも反省の色を見せずに適当に相槌を打つ純恋にとうとうブチギレた湖也は純恋の胸ぐらを掴み壁に押し当てる。
純恋の足が地に付かなくなるほど高く持ち上げる。
「ただの好奇心で1人の少年の人生ぶち壊してんじゃねぇよ」
「元々壊れてるでしょあんたの人生」
これがあの世界で色々手助けしてくれた人の言う事なのか。
いや違う、この人はただ演技をしていたにすぎない。
「まだやり直せる段階だったんだよ!あんた達が絡むまでは…」
「だったら今からやり直しなさいな。あなたはあの世界でどんな逆境からも這い上がる根性を身につけたはずよ」
「殺されてぇのかてめぇは…」
「死ぬのはいやね。ビンタ1発くらいならしてもいいわよ」
湖也にした事に罪悪感があるのだろう。
許可を得て湖也は瞬時に腕に力を込めた。
拳を握りしめ、純恋の顔面目掛けて突き刺す直前、
「その前に1ついいかしら」
純恋の落ち着いた声に湖也の腕は寸止めでぴたりと止まった。
「あなた、翔士君はどうしたの?」
「あの部屋の中ですよ。もしかしたら死んでるかもしれません」
「だとしたらあなた殺人犯ね」
「もう殴っていいですか?」
「気が変わったわ」
次の瞬間、湖也の体が吹き飛ばされた。
純恋が両腕を使って湖也の体を突き飛ばしたのだ。
一瞬何が起きたか湖也は分からなかった。
しかし分からなくてもいい、純恋をぶん殴ることができれば。
再度湖也は純恋の顔面を目掛けて拳を振るうが、今度は直前で避けられた。
そして直後、純恋は素早い動きで湖也の拳を払うとその腕を掴んで背負い投げをした。
「お、お前…」
あの世界では自分のパラメータを好きなようにいじくれたのかも知れないが、この世界では当然そうはいかない。
純恋のこの身体能力は本物。
そもそもの話、あの世界では純恋は戦闘を一切行っていなかった。
湖也はあの世界で純恋の情報を何も得ていなかった。
背中を打ち数秒思考が止まった湖也だが、そう休んでる暇はない。
次から次へと攻撃が飛んでくる。
「まさか、お前格闘技のプロとかじゃないか?」
なんとか避けながら湖也は質問を投げかけた。
それに対して純恋はニヤリと口角を上げ、
「何ちょっとかじった程度よ」
純恋の動きは素早く、蹴りなどの技は的確な場所を突いてくる。
しかし湖也は倒れなかった。
理由は簡単。
攻撃を避けたからだ。
湖也は力を込めて叫ぶ。
「あの世界でどれだけ俺が化け物と戦ってきたと思ってんだぁ!」
純恋以上の攻撃を行ってくる怪物なんてゴロゴロいた。
あの世界で生きるか死ぬかの戦いなんて両手じゃ数えきれないくらいやってきた。
その経験が今に活きていた。
装甲も何もないから大した力は出ない。
喰らったらそりゃ痛い。
ただ経験を元に攻撃を避ける事はできる。
攻撃を与える事はできる。
幾つもの死闘が今の湖也を最大限に強くしていた。
決着は割と早かった。
素早く繰り出してくる純恋の攻撃を直前で躱し、足を引っ掛け転倒させた湖也は馬乗りになり、
「俺がっ!気が済むまでっ!お前を殴り続ける!」
鈍い音が何度も響き渡った。
湖也は何度も純恋の顔面を殴り続けた。
純恋の口から血が噴き出た。
時々拳が滑って地面に直撃する事もあり、湖也の拳からも血が出ていた。
殴られながらも、純恋は笑っていた。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!あんたは悪魔だよ!人の為に、人を守る為に使ってきたはずの力を今は自分のために人を傷つける力として使ってる!」
「俺だってこんな事に使いたくねーよ!」
顔をくしゃくしゃにしながら湖也は叫んだ。
何度殴っただろうか。
赤い絵の具をぶちまけたかのように血を流しながら動かなくなった純恋から離れ、湖也は再び歩き始める。
純恋の言葉が心に刺さったままだった。
(あんたは悪魔だよ!)
「…悪魔なのはどっちだよ」
頭を抱えて呟いた。
拳に付いていた血が頭についたがどうでもいい。
「紗水…」
結局俺は直接思いを伝える事ができなかった。
「陸…天…」
また一緒にバカやって笑いたいよ。
「花蓮…」
この世界の花蓮は今どうしているのだろうか。
俺に愛想尽かして別の男に乗り換えているだろうな。
そもそも俺は何年眠ってたんだ?
まだ分からない事が沢山ある。
湖也がそんな事を考えながら長いトンネルのような廊下歩いていると、50m先にある扉が開いた。
飛び出して来たのは見知った顔だった。
「湖也君!」
目の前にいる夢境はそう呼び掛けてきた。
俺が何か言うより前に、夢境は精一杯の土下座をして、
「すまなかった!この通りだ!私は君の成長が見たくて研究を進めて来た!一定以上の成長が見れたら研究を止めるつもりだった!だがあの世界での君の成長は想像以上で私の手では止める事が出来なかったんだ!結果、君があの世界に残りたいと言う思いを強くしてしまった!君が今絶望しているのなら私の責任だ!どうか許してほしい!」
「…」
湖也はしばしその光景を見ることしかできなかった。
やがて口を開く。
「あんたはこの研究結果を使って何をしようとしていたんだ?」
「君の成長を見る事で君のような境遇に立っている子供達の手助けができると思った!そのような子達を救うために私は研究を進めて来た!」
そこまで聞いて、湖也は思わずため息をついた。
「あの世界では1番の悪党だったはずの夢境が、俺を…俺みたいな奴らを救おうとしていたとはな」
夢境は湖也を見た。
拳や頭に付いている赤黒い液体を見て、
「2人は…どうしたんだ?」
「向こうでくたばってるよ。生きているかは知らない。なぁ、ひとつ聞いていいか?」
「なんだ?」
「俺はどれくらい眠っていた?」
「5年と4ヶ月程だ」
「ははは…浦島太郎よりはマシか」
そう言うと湖也は夢境の隣を通り抜けていく。
その先へ行こうとする湖也を夢境は呼び止めた。
「待ってくれ」
「…」
無言で立ち止まる湖也に向かって質問を投げかける。
「君はこれからどうしていくつもりなんだ」
「何、向こうの世界と変わらねぇ。俺は俺が守ってきたみんなの思いを背負って、この世界でも戦っていく。救いを求める人達のために」
研究所を出るとそこは山の中だった。
そう言えばあの世界でも夢境が篭っていたのはこんな山の中だったっけ。
雪が降っており地面に積もっていた。
吐く息も白い。
「5年…か」
湖也はスマホを取り出した。
通話アプリを開き、連絡先のリストから1つの名前を選択する。
黒木花蓮。
通話ボタンを押そうとして、少し悩んだ。
(5年も経てば忘れてくれてるか…)
しばらくして頭に積もり始めている雪をどけ、勇気を振り絞って通話ボタンを押す。
恐る恐るスマホを耳は当てる。
ワンコールも鳴り終わらなかった。
『もしもし⁉︎湖也⁉︎ねぇ湖也なの⁉︎』
焦りと驚きの声が聞こえてくる。
『ねぇ!返事して!無事なの⁉︎今どこなの⁉︎』
「ぁ…あぁ…」
ダメだ。また涙が出てしまう。
5年も経ち、全く連絡していなかった相手に対して1番最初にした事が心配だった。
どれだけ優しいんだ。
「今どこかは分からない…俺は…無事だ」
『良かった!本当に良かった!今すぐ探しにいくから!周りの特徴教えて!』
「いや、いいんだ」
『え?』
「少し…話しがしたくてな」
『…なんでそんな声震えてるの?』
「いや…これは…何でもないんだ」
『泣いてるの?』
ついさっきまで夢の中で殺し合いをしていたとは言えない。
殺意むき出しで殴り合っていた相手が心配をしてくれてる。
何だか凄く申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「へ、ヘーキだし。泣いてねーし」
『強がりな所、全然変わってないね』
笑い声が聞こえてきて、こっちも自然と笑顔になった。
「花蓮はどうだ。5年経ったらしいし、もう大学生か」
『え?あぁ…うん。毎日忙しいけど、頑張ってるよ』
あ、やべっと湖也は思った。
らしいなんて使ったら何年も眠ってた事がバレそうな気がした。
『湖也は?』
「え?あぁ…俺のことはいいんだよそれよりもう新しい彼氏とか出来たか?花蓮は美人だからモテるだろ」
『出来る訳ないよ!湖也と過ごす日々が楽しかったから…また湖也に会えると信じてたから…私も悪かったって思ってる!高校入ってからあまり連絡が取れなくなって、湖也が事故に遭ったって知ったのもニュースを見てからだった。本当にごめん!だからまた一緒にやり直そうよ!』
その言葉を聞いて、湖也は首を縦に振りそうになった。
振りそうになり、何とか留まる。
「ごめん。それは出来ない」
『…何があったの?事故にあった後、何かあったんでしょ?』
「まぁ…な。もうそっちに戻ることは出来ない。花蓮は俺といてはいけないんだ。俺の事は忘れてくれ」
『またそうやって自分で勝手に決めつけて…私の意見も少しは聞いてよ!』
そこで湖也は一度息を吐いた。
「もう俺と花蓮では生きてる世界が違うんだよ。もしもこの世界で花蓮と過ごしていたら、花蓮は心が深く傷つくことになる。それぞれの明日へ向かって歩き出すのがいいと思ったんだ」
『世界が違うって何…?意味がわからないよ!ねぇ!』
「今日は少しだけだけど話せてよかった。俺の事今日まで心配してくれてありがとう。そして、さようなら」
湖也は通話切断ボタンを押し電源を落とすとスマホをポケットにしまう。
「…これでいいんだ。これで」
「ねぇ、こんな噂知ってる?」
「何々?」
「ここ最近いじめをしていた子が次々と姿を消しているんだって」
「あ、それニュースで見たかも。ここ1ヶ月で5人いなくなってるって。でもいじめをしていたとかは見てないな」
「ネットの書き込みによると消された子にいじめられてたっていう子が必ずいるみたい」
「そうなんだ。でもなんでいじめっ子達が消されてるんだろうね」
「巷じゃ神隠しとか神の天罰とか言われてるんだって」
「え、何それ。怖い」
1人泣いている子供がいた。
そこへ1人の少年が笑顔で話しかけてくる。
「君、大丈夫か?」
子供は泣いている訳を話した。
「そっかいじめられたんだね。でも安心して、お兄さんがそいつらやっつけてくるから」
「お兄ちゃん、誰?」
子供からの不意な問いかけに、湖也と呼ばれる少年は笑顔で振り返り、
「俺は名乗るような大層なものじゃないよ。頑張れよ、少年」
不良少年の2人組が港の廃倉庫で少女をいたぶっていた。
「いたい!辞めて!離して!」
不良少年の片方は泣き叫ぶ少女の腕を強引に引っ張っていた。
正確にはそこに握られている財布だ。
「テメーがこの財布から手を離せばいいだろうが!」
もう片方がくすくすと笑いながら、
「こんなところで大声出しても誰も助けに来ねーよ」
そう言うとようやく財布から手を離した少女を倒し上に跨る。
「え…なっ何?」
「女ってのはこの年頃が1番食べ頃なんだよなぁ…いい感じに膨らんだ胸がたまらねぇぜ!夜まで付き合ってもらうから覚悟してろよ」
「い…いや!誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
とその時、廃倉庫に1人の少年の声が響き渡った。
「おいおい、少年だけじゃ無くていたいけな少女にも手出してんのかよ。お前らあれだな、気色わりーな」
入り口からその少年がゆっくりと歩いてくる。
「なんだ貴様」
「教えたところで何になる?さぁその子から離れてもらおうか」
「グズグズうるせぇ奴だなぁ!」
不良少年の1人が少年に襲いかかった。
しかしその少年、三村湖也には当たらない。
「なんだその生ぬるい攻撃は、勢いがいいのは声だけか?」
湖也はその不良少年を軽く突き飛ばすとその拍子に落とした少女の財布を拾い、少女に跨る不良少年へと向かう。
「死にてーのか貴様ぁ!」
その不良少年は立ち上がるとポケットに隠していたナイフを握りして湖也の元へ向かう。
しかし湖也は恐れない。
その少年を直前で躱し少女の元へ歩くと、奪い返した財布を差し出した。
「さぁ、もう大丈夫だから家にお帰り」
「は、はい!ありがとうございます!」
そう言うと少女は一目散に走って行った。
「これで、よしっと」
少女が完全に居なくなった事を確認して湖也は一度息を吐いた。
「何がヨシだ!」
「おいもう逃げようぜ」
「うるせぇ!」
湖也は近くに転がっていた鉄パイプを手に取ると懲りずに襲いかかってきた不良少年の顔面を思い切り殴りつける。
「ぐはぁ!」
殴られたら少年はそのまま後ろは倒れ込む。
「…は?」
もう1人の不良少年は理解のできない状況に絶句するしかなかった。
が、次の瞬間逃げるしかないと思い全力で駆け出した。
湖也がその不良少年の方へ向かっていたからだ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!」
おぼつかない足取りで必死に逃げる少年に向かって湖也は持っていた鉄パイプを思い切り投げつける。
「がぁ!!」
足に衝撃が走りバランスを崩して転んだ少年はすぐそこまで迫っている湖也を見た。
「…どうなった?」
最初に殴られ倒れた少年は意識が朦朧としながら辺りを見渡す。
「がふ…げふっ…お…」
段々と小さくなっていく声が聞こえその方向を見ると相棒が鉄パイプを待った湖也に殴り殺されているのが見えた。
相棒は動かなくなっており、鉄パイプの先端が赤く染まっている。
ゆっくりと湖也は起き上がりその少年の方へ向かった。
「た…頼む、許してくれ」
「いじめを許す奴がどこにいるんだゴラァ!」
湖也は死体の中から財布を取り出し、中身を見て残念そうに呟いた。
「おいおいこんな少ない金じゃ生活苦しいだろ。もっと沢山財布に詰め込んどいてくれや。まぁいいや、あと金になりそうなものは…」
ある程度漁ってポケットに詰め込むと、湖也は死体に油をぶちまけ火をつけた。
「火葬くらいはしてやる。感謝するんだな」
轟々と燃える火を背にして湖也は歩き出す。
「紗水、俺はこの世界でもヒーローを続ける。あんたと過ごした時間を無駄にしないために」
いじめられてる少年少女を助ける少年三村湖也。
彼の行いは善か悪か…




