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もしもこの世界で、あなたと  作者: 白銀
終章〜少年の進む道〜
51/52

第51話 記憶のかいとう

1


「⁉︎」

湖也は目を覚ましガバッと起き上がる。

ベッドの上だった。

「ここは…」

今回ばかりは本当に知らない天井だ。

見渡すと狭い部屋だった。

何か部屋全体が緑色の光に照らされている。

天井に灯と呼べるものは付いておらず、光源の場所を探すとベッドの隣に置いてある装置に付いているLEDからだった。

そこで湖也は顔に違和感を覚えた。

触ってみると顔にいくつもの電極が貼り付けられている。

その電極達はコードでベットの隣にある装置に繋がっていた。

(何なんだこれは…何で俺はこんな所に)

まだ頭がはっきりとしない。

俺はあの巨大な岩の上で花蓮と戦って、そして…

なんかあの時の出来事が夢であるかの様に感じる。

(そうか、俺あの時死んだんだ)

段々と意識がはっきりしてきた。

夢境曰く、あの世界で死んだら元の世界に戻るらしい。

つまりここは元々湖也がいた世界なのか。

と言うことは陸や天もいるのか。

(…いいや、違う)

何か違和感がある。

とりあえず外に出ようとした時だった。

ドアが開き声が聞こえてくる。

「やっぱり目覚めてたか」

「お前は…」

見覚えのある姿だった。

校内戦闘事件で体育館を爆破しようとしてた人物。

「本当に翔士なのか?」

「俺の存在に本当も嘘もあるか。お前だって分かってんだろ。俺もお前もあの世界で一度死んで、この世界に戻ってきた」

「やっぱり…!じゃあ他の奴も戻ってきてるんだよな!」

湖也は嬉しそうに言った。

紗水達には申し訳ないが、やっぱり陸と天に会えるのはすごく嬉しい。

と、その時だ。

翔士は湖也の反応を見てめんどくさそうにため息をついた。

まるで出来の悪い弟に勉強を教えてあげる兄のように。

「やっぱり気づいていなかったか」

「え?何が?」

翔士は適当に近くの壁に背を預けながら、

「いいか。これから大事な事話すから耳の穴かっぽじってよく聞けよ」

「うん」

「あの世界は、お前の夢だったんだよ」

「…は?」

聞き返す事しかできなかった。

いや、出来れば嘘と言って欲しかった。

だが翔士は続ける。

「お前の夢をコンピュータに取り込み、仮想世界として構築したのがあの世界だ。そしてお前の意識もその世界に放り込まれた。つまりだ、君の夢が世界を作るための資源だったって訳だ。そして君が夢から覚めた事で世界を構築する資源を失い、消滅したと言う事だ」

「訳が分かんねぇ。あの世界は夢境が作ったんじゃ無いのかよ。自称神様のあいつはなんだったんだ?」

「君の夢を元に世界を作ったのが夢境だ。簡単に例えるとお前の夢が粘土で夢境が粘土の職人、その粘土を使って自由に世界を作っていたと言うわけだ。だがいくら作り手が自由自在でも資源が変化してはどうしようもない。あの世界はお前の影響を受けていた。あの黒い装甲の能力とかな」

「じゃあ、紗水達は…」

「あいつらNPCだな、だがただ夢の登場人物として出てきた訳じゃない。仮想世界に取り込んだ際、AIによる制御を施した。だから一応1人1人はちゃんとした意思を持っていた。だが所詮は仮想世界のNPC、その世界が消えれば存在ごとそのままおさらばだ」

「…え、ぇ」

脳が理解をしなかった。

今まで一緒に笑い合っていた紗水達がNPCで、もうすでに存在していないなど。

「あの世界で実際に生きていたのは、お前とあの世界を構築した夢境、そして彼の研究に付き添った俺と純恋だけだな」

「そ、そんな!!陸は!」

「いない」

「天は!元の世界で待ってるって約束したんだぞ!」

「だからいないって」

「紗水は!まだ好きって伝えてない!あの世界で俺の帰りを待ってる!」

「だからお前が起きたから消えたんだって言ってるだろ!」

「う、嘘だろ…なぁ!嘘って言って!!俺だけ戻ってきたなんていやだ!あんだけ必死に戦ったってのに!結局全部失いましたなんて終わり方はいやだ!頼むみんなと一緒に楽しく過ごしていきたいんだ!だから嘘と言ってくれ!!」

「嘘じゃねーんだよ。だが失ったものばかりじゃない。あの世界で面白いものを見れたからな。今後の研究にも役立ちそうだ。俺はお前に感謝してんだぜ」

何のフォローにもなっていない。

「戻るには!あの世界に戻るにはどうしたらいい!!」

「無理無理。消えた世界にどうやって戻るんだ?そんな奇跡的な発想があるなら俺に見せてほしいな。いい材料になりそうだから」

「うぇ…いやだぁ…」

「男がそんな女々しい声出すなよ」

湖也は心の底から悲しみが溢れ、どうすればいいか分からず崩れることしか出来なかったが翔士は耳を小指でほじくるだけだった。

段々と現実に引き戻され、湖也は蘇って行く思い出を振り返った。


2


俺はいじめられていた。

昔からそうだった。

力が弱いと言うだけで囲まれ、殴られ自分のものを取られた。

だが俺には唯一の強い味方がいた。

お姉ちゃんだ。

お姉ちゃんだけはいつも明るく優しかった。

ある日、いじめられてボロボロになって帰ってきた俺を見てお姉ちゃんは激怒した。

「なんて酷いことする子達なの⁉︎許さない!」

お姉ちゃんはクラスメイトの子の家まで行って叱ってくれた。

先生とも話したと言う。

俺の為にここまでしてくれるお姉ちゃんがカッコよかった。

いつか俺もこうなりたいと。

お姉ちゃんみたいに強くなりたいと。

ところがある日、お姉ちゃんは居なくなった。

自殺だと言う警察からの話を聞いて驚いた。

その日の朝、いつもの様に笑顔で学校に行ったのに。

どうやらお姉ちゃんは学校でいじめられていたらしい。

俺をいじめた奴の姉がお姉ちゃんと同じ高校にいて、姉の事をチクッたらしいのだ。

俺がいじめられなければこんな事にはならなかったのにと強く嘆いた。

お姉ちゃんの葬式の日、俺は1人の先生と出会った。

お姉ちゃんのクラスの担任の黒木先生だ。

黒木先生はお姉ちゃんの普段の様子等を話してくれた。

そして、お姉ちゃんを守ることができなかった事を涙を流しながら必死に謝ってきた。

「希里さんを救えなかったのは私のせいだ。本当にすまない。もうこんな思いしたくない!誰にも辛い思いをしてほしくないんだ!」

俺はこの先生なら信用できると思った。

今通っている小学校の先生よりよっぽど優しくて頼りになると。

だから俺はお姉ちゃんと同じ高校に入ろうと思った。

例えお姉ちゃんが死んだ場所でも、いいやその場所と向き合ってこそお姉ちゃんの思いを受け止めらことが出来ると思った。

しかし中学では続いており、ちゃんと高校に進学できるかすら怪しくなっていった。

俺は力がなかった。

人の上に立てる様な人格でもなかった。

殴られるだけ殴られて、言われるだけ言われ段々学校に行くのが嫌になっていった。

どうしようもない毎日、消えてなくなればいいと思う。

毎日部屋で泣き叫んだ。

机の上には血と涙で汚れた教科書とノートが散らばっている。

部屋の片隅には玩具箱があり、小さい頃好きだったヒーローのグッズが山積みになっている。

片目でそれを見ても何の心の支えにもなってくれない。

ヒーローなんかいない。

きっとヒーローだって俺なんかに助けを求められても困るだけだ。

ある雨の日、いつもの様に学校の帰り道で殴ら飛ばされた時だった。

突然、自分の中で何かが切れた様な気がした。

それが何かは分からない、ただその瞬間もう自分の力では立たなくなっていた。

そのまま道端に崩れ落ちる。

傘は折られて使い物にならない。

水溜りに浸ってカバンもびちゃびちゃ。

もしかしたら教科書やノートもぐちょぐちょになっているかもしれない。

そんなものどうでもいい。

もうこのまま死んでいくだけかもしれないのだから。

その時だった。

俯いて地面しか見えない俺の視界に誰かの足が入り込んだ。

可愛らしい靴を履いていた。

きっと女の子だろう。

「君、こんなところで何してるの?」

優しく温かい声だった。

「ただ座ってるだけだよ」

「どうして?そこ濡れちゃうよ」

「そんな事どうだっていいよ。もう立てないんだ。どうやってもいじめられてばっか。反撃する力もない。言い返すこともできない。もうここで死ぬまでこうしてた方がいい」

「そっか…いじめられてるんだね」

その言葉に俺は怒りが込み上げた。

「なんだよ。人に理由聞いといてその態度は、他人事言うだけならとっとと帰ってくれ」

「ううん。君を放っておくなんて私のお父さんが許さないもの。すっきりするまで一緒にいてあげる」

「は?お前の父さんがなんだよ。ヒーローかなんかか?」

「ヒーローじゃ無くて教師だよ。高校の」

「高校の…教師…ってことはお前…」

湖也が顔を上げると女の子はニコッと微笑んだ。

「私黒木花蓮。初めまして、湖也君」

「か、可愛い」

安心したからか口からポロッと出てしまった。

「あら嬉しいな。そんなこと言ってくれるなんて」

「え、あ、いや。なんか出ちゃって。ご、ごめん」

「謝らなくていいんだよ!とりあえず…」

花蓮は鞄に手を伸ばしゴソゴソと漁ると、タオルを取り出し差し出してきた。

「まずはそのビショビショな体をどうにかしなくちゃ。家に帰りたくないならうち来る?」

「うん…え?」

受け取ったタオルで頭を拭きながら軽く聞き流していた湖也は固まった。

女の子の家に上がったことなど一度もない。

「お…お願いします」

「何でそんなかしこまってるの?」

それから俺はよく花蓮の家に行く様になった。

いじめの事で頭がいっぱいで家にいても落ち着かなかったのに、ここは何故か心が安らぐ。

それに花蓮に勉強も見てもらえていいことづくめだ。

親が教師だからか花蓮は頭が良く教えるのも上手だった。

「なぁ、お前ってよく男子とか家に上げてるの?」

「まさか、湖也以外上げたことないよ?なんで?」

「俺の事すんなり上げてくれたからさ」

「うーん」

花蓮は考えながらベットの上にすとんと座り込んだ。

「最初は湖也がずぶ濡れだったから仕方なくって所もあったけど、でも湖也といると楽しいって思えてきちゃって。私も友達多い方じゃないからさ。たくさん来てくれるの嬉しいんだ」

それを聞いて俺は顔が熱くなっていくのを感じた。

花蓮から見たら真っ赤になっているのかもしれない。

「同じ学校だったら良かったのにな」

「確かに、学校が楽しくなるね」

明るく話す花蓮を見て、俺はしばらく考えた。

自分が今言ったことは正しいのかと。

「…いや、やっぱりダメだ」

「なんでよ」

「俺と一緒にいたらお前までいじめの対象になってしまう。お前にそんな辛い事して欲しくない」

そして花蓮の顔を見て微笑んだ。

「放課後が楽しいだけで十分だよ。ありがとう」

「へへっ、どういたしまして」

どこまでも優しくしてくれる花蓮を見てると心が張り裂けそうになる。

好きと言う奴なのかもしれない。

この感情をどうにかしたくて、俺は勝手に体が動いていた。

勢いよく立ち上がると花蓮をベッドの上に押し倒していた。

「え?湖也⁉︎」

「なぁ、俺達付き合わないか?」

「…」

「俺はお前が好きだ」

「…」

黙り込む花蓮を見てやってはいけないことをしたんだと理解した。

飛び起き急いで花蓮から距離を取ると背を向けた。

「も、もちろん嫌ならそれで構わない。すまなかったな」

「ううん。嬉しい」

ガサッと音がした。

花蓮が立ち上がった音だと気づくのに数秒かかった。

花蓮は俺の隣に座って顔を向けていた。

「私のどう言うところが好きなの?」

「どうもなにも、ずっといじめられて友達もいなかった俺に寄り添ってくれたしそもそも女と話したことなんかロクに無かったんだから気軽に話せる子がいたら好きになるなんて当然だろ」

焦りすぎたのかもしれない。

頭が真っ白になって正直に思っていることを全部ぶちまけるた後の花蓮の表情はいいものとは言えなかった。

「それはちょっとショックかなー。だって話しかけてくれる子だったら誰でもいいってことでしょ?私の中身は全く評価してくれないじゃん」

「え?あっいやその…なんだ、つまり気軽に話せる明るさと優しさを持ち合わせてる所が花蓮のいい所だ。それに可愛い」

「…もう」

初めて花蓮の赤く染まった顔を見た気がした。

それからは2人で出かけることが多くなった。

息が白くなる季節だが2人でいれば寒さもそんな気にならなかった。

公園のベンチに腰掛ける。

「珍しいよな。小さい公園なのにこんなに立派な噴水があるんだぜ?」

「確かに。でもそこが好きなんだよね。小さいから人もそんなに来ないし、2人でゆったり眺めれるからさ」

俺はポケットに入れていた缶コーヒーを優しく微笑みながら噴水を眺めている花蓮の頬に押しつけた。

ポケットで温めていたし、さっき自販機で買ったばっかりだからまだ熱いはずだ。

「うあっつ!」

予想通りの反応をしてくれた時は嬉しかったな。

「いい反応するじゃんほれほれ〜」

「あまりからかわないでくれる?」

すっかりむくれてしまったが。

「…来年から受験生だね」

頬を少し膨らませたまま花蓮はそう切り出してきた。

「嫌なこと思い出させてくれる」

「湖也はどの高校に行くか決めた?」

「あぁ」

その時花蓮から見た俺の顔は少し真剣な表情をしていたのかもしれない。

「陸高に決めたよ。花蓮のお父さんもいるし。お姉ちゃんが通ってた所だから。卒業出来なかったお姉ちゃんの代わりに、俺があの高校をしっかり最後まで通いたいんだ」

そして俺は少し笑った。

「それに、あの高校はすごく偏差値が高い所でもない。担任の先生も今の俺の成績なら行けるだろうだとさ」

「うん。しっかり卒業しておいで。お姉ちゃんも天国で見てるよきっと」

花蓮は優しい表情で言った後、ぐぐぐっと伸びをした。

「じゃあ私はお父さんと同じ学校に行くことになるのか」

「いや、お前は別の所にしたほうがいい」

俺の出した結論はこれだった。

花蓮はすぐ俺の言いたいことを読み取ってくれた。

「一緒の高校に行ったら私までいじめられるんじゃないかって思ってる?」

「あぁ、お前を巻き込みたくない」

「そんなこと言わないで!」

花蓮の声が心に強く刺さったが、俺は花蓮の方を向かなかった。

「私だって一緒に戦う!湖也が学校でも嫌な思いをしないように!」

「例え痛い思いをしてもか?罪をなすりつけられ身に覚えのないことで怒られてもか?」

「うん。湖也と一緒なら私耐えられる」

そこまで聞いて俺は笑ってしまった。

「お前って俺にとっての光だよ。本当に眩しい」

花蓮はホッとしたように息を吐いた。

俺が話を理解したと思っているのかもしれない。

その思考を断ち切るように俺は言った。

「でもお前は一緒に来るべきでは無いよ」

次の瞬間、俺はぶっ飛ばされた。

公園のベンチから離れ、冷たい土の上に手をついてから花蓮に引っ叩かれたと理解した。

次に飛んできたのは花蓮の怒号だ。

「私は別に聖人君主じゃないんだよ。何でもかんでも湖也の言う通りになると思うな!何でそんなかっこよく引き剥がそうとするのかな⁉︎自分だけ苦しみを蓄えようとするのかな!私は湖也と一緒に行きたいんだ!いいじゃん私のわがまま聞いてくれたって!それとも他に理由があるって事⁉︎」

「あぁそうだよ!」

即座に飛んできた俺の声を聞いて花蓮は一瞬ポカンとしていた。

「別に俺にレベル合わせなくていいんだよ!お前はもっといい所に行けるんだろ⁉︎俺は遠慮してるんじゃ無い。

お前にいい人生歩んで欲しいと本気で思ってるんだ。恋に盲目になることなんかねぇんだよ!」

その言葉を聞いた花蓮は一瞬ハッとしたが、すぐに目を逸らして俯いた。

「な、何で湖也がそんな親みたいなこと言うのさ」

「もちろん花蓮の親父とも相談した。親父は賛成してくれたよ。今度じっくり話すつもりらしい」

「…湖也は酷いよ。勝手に話進めて」

「すまねぇ」

そして受験が始まった。

無事に合格した俺は姉が命を絶った学校へ行くことになった。

側から見たら狂っているのかもしれないが、俺は背を向けたくなかった。

そして、高校生になってからはいじめが無くなった。

普通に話せる友達もいるし暴力を受けることも無くなった。

色々忙しくなって花蓮と会うことも段々と少なくなっていった。

ただ、楽しい生活かと言われるとそうでも無い。

「馬鹿だなぁ。こんなことも分かんないのかw」

と友達に笑われることがあった。

本人は悪気が無く言ったことだろうけど何処か自分の心には刺さるモノがあった。

ちょっと嫌なことがあって友達に話した時も

「いや、それはお前が悪いだろw」

と笑われてばかりで俺の意見が通ることは無かった。

俺は笑っていたが段々心が壊れていってる気がした。

全面的に俺が悪くて、みんなが正しいんだと。

なのでみんなの前ではいつも通りいじられ役に徹していた。

そして2年生の文化祭の日。

俺は学校の前の坂を自転車で登っていた。

車のエンジンの音が聞こえ、次の瞬間俺の体は宙を待っていた。

車に撥ねられたのだと気づくのに時間がかかった。

地面にぶつかり意識がなくなる直前、その車に乗っていた人の顔を見た。

いつも一緒に話してた友達のお母さんだった。

助手席には友達も座っていた。

2人の表情を見てようやく気付いた。

俺は何も理解していなかったただの馬鹿だと。

結局高校でも陰でいじめられていたらしい。


3


文化祭の朝の出来事は事故として処理されたらしい。

俺は意識不明の重体として病院に運び込まれた。

「そこで現れたのが俺たちって訳だ」

翔士は何故か偉そうな口ぶりで言った。

夢境達は何かしら強い権力でも持っているのか、俺の情報を手に入れると病院から研究所へ俺を移したと言う。

そしてコンピュータと脳波をシンクロさせて情報を読み取り、その情報を元に仮想世界を作り出したと言うのが翔士の説明した内容だ。

「さっきも言ったがあの世界は君の夢を資源に構築された世界だ。だからお前の想いが強く反映された人物が何人かいる。まずはお前の分身だな」

そう言うと翔士は人差し指、中指、薬指を立てて湖也に示す。

「あの世界で3人に分かれていた」

そんな事を言った。

「お前自身の意思が宿ったのは1人だけど、お前の記憶を宿した人物が2人いたんだ」

それが、上伊と血斗だと言う。

上伊はいじめられて亡くなった姉の記憶を持っていた。

どうやらいじめられない様にクラスのリーダー的存在になりたいと言う俺の願いが上伊を生み出したと言う。

血斗はいじめられた過去と助けられた女の子の記憶を持っていた。

いじめに対抗できる力を手にしたいと言う願いが血斗を生み出したと言う。

「あいつらが…俺の分身だった…?」

「あいつら凄かったぜ?お前を信じて大羅とミラーと戦って見事倒すことが出来たんだからな」

「でもその世界が消えちゃ意味がない」

「あぁそうだ」

翔士は無駄に励ましたりはしなかった。

ただ事実を隠す事なく伝えている。

「そしてそれ以外にもお前の想いを反映させた人物が何人かいた。校外戦争にて絶対的な力を持っていた大成。あいつはお前が強さに憧れた事により生み出された存在って訳だな。だからあいつはハデスに卑怯な手を使われない限りは無敵だっただろう。あとは野田だ。ずっと臆病だった彼はお前の心が反映されて生まれたものだ」

「もういいよそんな説明。要は俺の夢の中で勝手に事件が起きて、勝手に悪者が出てきて、勝手に戦って世界を救った気になってただけって事だろ」

「よく分かってるじゃねぇか」

「こんな夢オチあるかよ…」

湖也はただただ泣き崩れるしかなかった。

そんな湖也を不思議そうに翔士は眺めていた。

本当に心の底から不思議そうに、

「俺はずっと事実を言ってるだけだろ。何泣いてんの?」


4


「戻ってきていたか。純恋君」

夢境は壁に背を預けながら呟いた。

消失感に駆られたような力の無い声だ。

ここは湖也達のいる部屋ではなく、メインコンピュータがある部屋だ。

ここで翔士と夢境は湖也の状態を監視していた。

その部屋にたった今純恋が入ってきた状況だ。

「何をそんなに落ち込んでる訳?」

純恋は机の上に腰掛けながら、心配するように聞いた。

と言っても彼が落ち込んでいる理由は何となく察せられる訳で、彼からの答えが返ってくるより前に、

「やっぱり、湖也君が心配?」

「当たり前だろう。最悪の結末になってしまった」

今までの苦労は何だったのかと夢境は両手で顔を覆った。

「私は湖也君があの世界で成長するために様々な事をやってきた。上伊君を使って全校生徒を湖也君の敵にすることもあった。化け物を作り上げて彼と戦わせるなんてこともした。しかしそんな生活を続けていながら、彼は心の底から楽しく過ごしていたのだ」

「確かに、紗水ちゃんや陸君達、上伊君達と仲良くやっていけてたわね」

彼の補足をするように純恋は相槌を打つ。

「このままではいけないと思った。このまま湖也君があの世界の人々と仲良くしていけば行くほど、この世界に戻ってきた時の衝撃は大きくなる。手を打たないと思った」

「そしてあなたが直接悪役となる事で湖也君をあの世界で葬ろうとしたのね」

純恋の声色は優しいものとは言えなかった。

実際に彼女は夢境の行いに呆れていた。

「あの世界でやれる最大限の課題を湖也君に与え、その課題の中で湖也君は成長した。しかし私の予想よりもその成長は大きすぎた。結果、彼の力を止めることはできず私は倒された」

「湖也君があなたを倒したことで、彼らの絆はより一層深いものになったわ。あなたのやった事は裏目に出たのよ」

純恋は淡々と告げる。

その様子に夢境はイライラし始めた。

『私は何も悪くありません』と言いたげな純恋を睨みつけながら、

「君は彼の為に何をしたんだ。君がやったことと言えば隠れていた私の居場所を教えたり湖也の手にノートが渡るように火凪君達を動かしたり!邪魔になるようなことばっかりじゃないか!」

ドシドシと荒い足音を立てて夢境は歩み寄る。

「私が倒されてもまだ希望はあった!花蓮に完膚なきまでボコボコにされれば湖也君だって少しは踏ん切りがついたかもしれないっていうのに!」

「別に、私はただ私の研究のためにやってただけだし。それに、夢の中とは言え姉と離れ離れになったまま終わるって可哀想じゃ無い。あなたのやった事は全て失敗に終わったの。上伊君と血斗君の敗北する所を見せて諦めてもらおうとしても、紗水ちゃん達の心を操って湖也君から離そうとしても」

「私は…ただ湖也君の為を思ってやってたのに…!」

「精一杯やったのならそれでいいじゃ無い。後は彼の判断に任せましょう」

結局、あの世界で夢境が起こした事は全て湖也の為だったのだ。

湖也がこの世界に戻ってきた時に向こうの世界に戻りたいなんて思わないように、こっちの世界で前を向いて歩いていけるようにしていた事だった。

花蓮が世界を支配し、湖也が世界中から悪とされるようにしようとした。血斗と上伊の敗北する所を湖也に見せて、仲間への失望感を与えようとした。紗水達の感情を操り、湖也への憎悪を吐かせる事であの世界での居場所を無くそうとした。体育館で、湖也が完全なヒーローとなる前に全てを終わらせようとした。

だが全て無意味な事だった。

「彼は…どうすれば…」


5


「あの世界に戻りたい…」

「そりゃそうなるよな。あの世界じゃヒーローで、みんなを救えて可愛い彼女もいて…おっと彼女はこっちにもいるか。心強い友達も沢山いたからな」

翔士は蹲る湖也のそばでヤンキーの様に座りながら言う。

直後の事だった。

翔士が勢いよく湖也の体を蹴り飛ばしたのは。

「…がふぅ」

力の無い声が漏れ湖也は転がる。

その様子を見た翔士イライラした様子で、

「何度も言わせんなよ。あの世界はもう消えたんだよ」

「うるさい…」

よろよろと湖也は起き上がった。

力の入らない足を何とか動かしてフラフラと歩き、翔士の目の前に行く。

そのまま力の入らない拳を何回も翔士の腹に押し当てた。

ぽす、ぽすと柔らかい音だけが響き渡る。

「あの世界じゃヒーローになれたとしても、こっちじゃただの貧弱な高校生だ。終わったんだよ。夢を見る時間はよぉ」

ガシッと翔士は湖也の髪の毛を掴んで首を持ち上げる。

「いい加減切り替えようぜ。お前はこれからどうするつもりなんだ?」

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