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もしもこの世界で、あなたと  作者: 白銀
第2章〜校外戦争〜
50/52

第50話  校外戦争:終幕

1


ベシッと。

湖也は地面に叩きつけられた。

ここは空中に浮かぶ巨大な岩。

今世界中の人々がゾンビに襲われている、その元凶である花蓮がいる場所だ。

湖也はあたりを見渡す。

岩の上は全体的に荒廃した都市を想像させる風景だった。

壁の無くなったボロボロの建物や瓦礫を積み上げた山が見える。

そこで湖也はあるものに目がいった。

何も知らない人が見たら近未来的なモノリスだと思うであろう直方体。

この世界のメインコンピュータ。

湖也はさらに周囲を見渡すが、花蓮の姿はどこにも無かった。

建物や山の裏にでもいるのかもしれない。

湖也はもう一度コンピュータを見る。

もし今止めることが出来るなら…

どうせ横槍が入るだろうと思いながらも微かな希望が見えてしまった以上体が勝手に動いてしまう。

ゆっくりと湖也はコンピュータに近づく。

足音を立てることなく。

しかしそこで湖也は動く影を見た。

コンピュータの後ろから横に並ぶ様に誰かが姿を現した。

花蓮ではない。

確か前花蓮と一緒にいた…

「どうして君は動く?」

その男性から声が聞こえてハッとした瞬間、湖也は違う場所にいた。

先ほどまでの荒廃した岩の上では無い、商店街の歩道だった。

周りには平然とお買い物をしたり話をしながら歩いたりしている人達がいる。

しかしその人混みの中に紛れ込んでいながらも、2人はどこか浮いている様に感じた。

まるで2人だけ別の次元にいるかのような感覚。

「お前は誰だ」

湖也は叫んだ。

人混みの中でもはっきりと見えるその男性に。

「俺は鷲羽」

確か夢境が口にした名前だった。

「これはお前の能力なのか?」

「あぁ、俺は新しい世界を…何と言おうか。創造とかそこまで凄いものでも無いけど。分かりやすく言えばもしもの世界をシュミレーションする事が出来る」

夢境との戦いで1時期公園に飛ばされたのは彼の能力を使ったものだったのか。

「へぇ、そりゃすごいや。だが理由が分からねぇな。何故今俺の目の前に現れてその能力を使ったのか」

「君が戦わなくてもいい理由を示しに来た」

「は?」

「この世界の住民はみんな君の言う『ゾンビ』にされた人間だ」

「…!」

湖也はその言葉を聞いて周りを見渡す。

つまりは湖也達が負けた世界線だと言うつもりか。

「変わらないだろ」

鷲羽は短く言う。

『ゾンビ』になっているはずなのにみんなは普通の人間と変わらない。

ゾンビと言っても花蓮に都合のいい思考回路にされた人間達と言うだけなので、ゾンビ映画の様な残虐さは一切ないのは湖也も分かっている。

「だから花蓮を止める必要が無いとでも言うつもりか?」

そこで鷲羽は一度呆れた様にため息を出す。

「まぁ、俺はそんな事思ってないけどね。俺を復活させた人が君をどうしても止めたいらしいからこうして見せているだけ」

「そいつは?花蓮か?」

「夢境影利」

湖也は表情を変えなかった。

また夢境が邪魔してくることは想定していなかった訳ではない。

「分かっているだろうが俺は夢境から復活させられた以上彼の命令に背くことはできない。戦いは無駄だ。諦めて花蓮に世界を譲ってやってくれ。何も心配はいらないさ普通に過ごしていけばいい」

湖也はその言葉を無視した。

「どうやって元の世界に戻れる?俺はあいつを倒さなければいけないんだ」

それに対して鷲羽は平然と答えた。

まるでそう返されるのを予想していたかの様に。

「さーな。俺を倒すしかないだろう」

その言葉に反応する様に湖也はデバイスを起動させる。

しかし、湖也の装着した装甲は黒色でも黄金色でも無かった。

初めに着けていた薄い青色の装甲。

「言っていなかったがこの世界ではデバイスの機能を制限させてもらっている。左腕に付いているそれは使えない」

湖也は左腕のデバイスを見る。

確かに全く機能していない様だった。

「黒い装甲の力で俺の能力弱められては困るからな」

だが関係ない。

ここから脱出する。

湖也が動こうとした時だった。

気づいた。歩道を歩く人々がみんな止まってこっちを見ている。

直後、みんなの姿は一瞬にして化け物の姿へと変わった。

化け物の姿は統一されており、細長い小枝のような人型の体に正方形の顔、そこには鼻や口の様なものはなく大きい目が一つだけ付いているモノだった。

妖怪として昔の水墨画に描かれても違和感がないと思うと同時に監視カメラが擬人化したらこんな感じなのかもと言う印象を湖也は受ける。

その様な姿の化け物が何十何百と一斉にこちらを見てきているのだ。

異様な圧迫感がそこにはあった。

「何だこいつら…」

「言ったはずだ。この世界は俺がシミュレーションしている世界。この世界の花蓮の枠は俺。何をするのも自由だ」

世界を手にした人はこんな思考になるのか。

しかしやることは変わらない。

湖也は迷わず鷲羽の元へ突き進む。

同時に一気に周りの化け物が襲ってくるが、強くはない。

湖也は迷わず向かってくる化け物を叩き潰し、吹き飛ばし、振り回しながら進んでいく。

湖也が鷲羽に殴りかかろうとしたその時、

2人は居酒屋にいた。

西部劇に出てくる様な木造建築で、湖也と鷲羽は並んでカウンターの椅子に腰掛けている。

装甲も消えている。

「…?」

唐突の場面転換で湖也は脳がバグりそうになる。

鷲羽は何食わぬ顔でグラスに注がれた飲み物を口に運んでいる。

「…どうした?安心しろこれはただのオレンジジュースだ。アルコールは入っていない」

「いくらシミュレーションと言ったってこれはやり過ぎだろ」

「仕方ないだろ。あの場面でやられる訳にはいかない。まだ話が残っている」

「何を言ったって俺は花蓮を止める。これ以外何がある?」

「そうだな…君の成長に付いてでも話そうか」

話が長くなりそうだったので湖也はマスターに鷲羽と同じものを注文した。

即座にグラスに注がれ出てきたそれを飲みながら鷲羽の言葉に耳を貸す。

「文化祭の日、河原紗水の為に動いた君は様々な苦しみを味わいながらここまで来た。ただ1人の少女を守る所から世界を守る所まで来たんだ。凄いことだと思わないか?」

「お陰様で俺の青春はどこかへ行っちまったよ。気がつけば3月。2年生の半分以上はロクでもない事に巻き込まれちまってる」

「その言葉、夢境が聞いたらどう思うか」

「何でよ。元はと言えばあいつのせいなんだぞ!全部だ全部!」

「夢境は君を思って様々な事件を引き起こしたんだ。そして君は成長した。これ以上無い成果だよ」

「ん?ちょっと待て、じゃあ何であいつは俺の邪魔をしているんだ?」

「それも君の為だとさ」

「何で俺の為に町中の人々が襲われなきゃいけないんだ?」

「それは俺だって知りたいことさ」

1度、鷲羽はそこで話を止めた。

そして、オレンジジュースを飲み、ある可能性を提示する。

「もしかしたら、文化祭で君が紗水さんを助け出したことが原因かもしれない」

「どう言うことだよそれ」

「あの時の君の行動が夢境の心を惹きつけてしまった。紗水さんを助け出そうとした君が夢境のお気に入りになってしまった」

「どっちも同じ意味じゃねーか」

「つまりだ。君の行動が夢境を動かし、この校外戦争を始めたのかもしれない」

「戦争を始めたのは花蓮だろ」

「夢境も戦争を始めるきっかけとなったその1人だ。そして共に原因は君にある」

そこで鷲羽は一度話を止めた。

そして大事な事を口にする様に声のトーンを下げて、

「君によって戦争は始まり、陸高と海高の大勢の生徒が戦い消えていった」

「そんな言いがかりはよせよ!」

「俺は事実を言っている」

キッパリと鷲羽はそう返し、

「生徒だけじゃ無い、この戦争に巻き込まれて消えていった一般人も少なからずいるだろう」

湖也は先程影森と戦った時のことを思い出す。

彼と戦う前、彼は何の罪もない人々を惨殺していた。

湖也達を誘き寄せる為に。

湖也達の怒りを焚き付けて闘争心を引き出す為に。

「大量殺人犯となった気分はどうだ?」

湖也の心へ痛烈な一撃を与える為に放たれた言葉だった。

湖也は、鷲羽の話を聞いて、今までのことを改めて考え直して…

そして、ため息をついた。

「時間の無駄だったな。話ならない」

一言、呆れた様に吐き捨てる。

席を立ち上がり財布から200円取り出し机に叩きつける。

「美味かった。釣りはいらねーよ」

「530円なんだが?」

マスターの言葉を聞いて湖也は目を丸くする。

「嘘⁉︎こんだけで?」

マスターからの返事が何も無いので目を逸らしどうするか考えると、出した200円を手に戻し鷲羽に向かって言う。

「次のシミュレーションに移ってもらおうか」

「ヒーローがやることじゃねーな」


次の瞬間、湖也達はショッピングセンターにいた。

平和にショッピングを楽しんでいる人々を鷲羽はどこか悲しげに眺めている。

「戦いの再開と言った感じか?」

湖也は再び装甲を付ける。

今度は周りの人々が化け物になるなんて事はなかった。

湖也は一直線に鷲羽の元へいく。

顔に向かって拳を突き出す。

次の瞬間、鷲羽はいなくなっていた。

一瞬脳がバグったが何とか働かせて状況を整理する。

そこで以前会った時のことを思い出した。

「…そういや、お前のもう一つの能力瞬間移動だったっけ」

鷲羽は答えず、湖也の背後で湖也に語りかける様に、

「話を戻そう。君の成長の話を」

「まだなにかあんのかよ」

「君には1つも成長していない部分が1つある」

そう切り出した。

「どこだ?」

湖也はゆっくりと振り返り問いかける。

「子供である所だ」

「どう言う意味だそれ」

鷲羽が歩き始めたので、湖也はそれに付いていく。

「君は何のために戦っている?」

湖也は行き交う人々を見ながら、

「そりゃ、世界の為。こうやって平和に暮らしているみんなの笑顔の為」

「そこだよ」

「は?」

「そのみんなに君は入っているのか?」

考えていなかったことだった。

湖也の言葉が詰まる。

「そこだよ。自分の事を考えないのは決して偉いことじゃない。ヒーローを見てそれをカッコいい事だと思い込んでいるだろうがな。他人の為じゃないと戦えないと理由を作っているところが君が子供である所以だ」

「それは悪い事か?」

「人によるだろうさ。『守られる』ことに責任を負う人もいるかもしれない。私が守られてるから彼は戦わなければならないと、そうした重圧を感じている人がね」

その言葉を聞いて湖也は紗水のことを思い出した。

確かにあの時、助けてって声が自分の服を引っ張っている事を言って傷つけてしまった。

「何か心当たりがあるようだな」

「じゃあどうしろって!」

「自分の為になる事をやればいい。逃げてもいい。人に押し付けてもいい。君が言うみんなの中に自分が入っていると言う事を頭に入れておけ」

その時だった。

湖也の中で何かが切れる音がした。

堪忍袋の尾かもしれない。

一瞬にして湖也の装甲はブワッと前方から広がる様に黒色へと変貌していく。

デバイスの機能は制限されているはずなのに。

「何故…その姿になれる⁉︎」

「知るか。いいか、お前は上手く俺を言いくるめようとした様だがそれは逆効果だ。自分の為に逃げてもいい?戦いから?そんなのが許されるのは力の発生源を見失ってる奴だけだ。俺はみんなの代表として紗水から世界を守って欲しいと言われてる」

「…それがどうしたってんだよ」

鷲羽の顔には汗が流れていた。

湖也は1度大きく息を吸い込むと今まで溜めていた思いを一気に解放する。

「俺は紗水が好きだ!あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「…は?」

唐突だった。

見当違いの返答が来て鷲羽は一瞬思考が止まった。

しかし湖也の声は真剣だ。

「俺が好きな紗水が助けてと言ってるんだ!だったら喜んで助けてやろう!それが俺のやりたい事だ。みんなの中に自分は含まれているかって?今思い出したよ。含まれている。俺はまだ明確に紗水に『好き』と伝えていない。これを伝えるまでは俺は倒れる訳にはいかない!花蓮の好きな様に思考を変えられるわけにもいかない!!理由はこれで十分だろうが!!!」

湖也はゆっくりと鷲羽に歩み寄る。

ビリリ…とデバイスに電流が走る。

「後もう一つ、俺の怒りが爆発してるから貴様に丁寧に教えてやろう。さっき貴様俺に言ったよな?『大量殺人犯になった気分はどうだ?』って、さっきも言ったが話にならねーんだよ。そもそもの話ヒーローだって1人の人間だ。敵と戦う力は持っていても、何も神様という訳じゃない。全てを救える訳じゃねーんだわ。途中で仲間を失う事もある。助けられなかった人達も大勢いる!そこに非難を浴びながらも、俺達は必死に戦って来たんだ!大量殺人犯じゃねぇとは言わねぇよ。全ての元凶がもしかしたら俺なのかもしれない。だが俺は自分の選択を後悔していない!いじめに会っていた紗水を救い出すことが出来たからな!自分の選択をしっかり受け止められて来れなかったら今ここにみんなの思いを背負って立ってねーんだよ!分かったか!」

そこで1つ、不思議な現象が起こった。

突然何も無い所から腕が伸びたのだ。

その腕はガシッと湖也の腕を掴むと勢いよく引っ張り上げる。

その瞬間、バリバリッ!とガラスが砕ける音と共に世界が崩壊していく。

正確には、鷲羽がシミュレーションしていた世界が。

湖也の体はそのまま引っ張られて放り出される。

ベシッと地面にぶつかって起き上がるとそこは巨大な岩の上だった。

元の世界に戻ってきた。

湖也が横を見ると湖也の体を引っ張ったときに勢い余ったのか尻餅をついている人がいた。

花蓮だった。

「お前!何で!」

湖也は驚き飛び跳ねる。

「湖也の黒い装甲のおかげだよ」

ゆっくりと花蓮は起き上がる。

「それのおかげで鷲羽の能力が弱まってね。そっちの世界に干渉することが出来た」

「お前の装甲は能力の影響を受けないんじゃなかったのかよ」

「それは私に対する能力だけだ。能力で周りを囲まれたり君に対してだったりしたらどうしようもない」

「何故俺を助けた」

「おっと勘違いされては困るよ。私は彼がとてつもなく気に食わないだけだ」

花蓮は鷲羽の顔を見る。

「『夢境によって復活した』彼がね」


2


「殺すって…何?どう言うこと?」

その言葉だけでは全く理解ができなかった。

紗水は必死に頭を回転させる。

誰を殺す?どうやって?いやそもそもなんで私達に殺しを要求するの?

その様子を見たハデスはニヤニヤした様子で、

「あ、もしかして本当に殺す所を想像しちゃった?包丁とか拳銃とか使って人の命を奪う事を」

「な!そ、そんなわけないでしょ!」

「キャー!紗水さんのエッジの効いた大胆な妄想が私の脳を震わせるぅ〜!」

ハデスが頭を抱えて楽しそうに叫ぶので、紗水は本気で殴りたくなる。

「静かにしなさい」

興奮するハデスに向かって言ったのは純恋だ。

ハデスがしゅんと静かになったのを確認すると今度は紗水達に目線を向ける。

「簡単な事よ。あなた達が湖也君の事をどう思っているかだけを教えてくれればいいの。今この世界の住民全員の未来を背負って戦っている彼について」

「湖也の事を?それが殺すにどう繋がるの?」

「詳しいことは言えないわ。さぁ、教えてちょうだい」

唐突にそんな質問されても…

と言った感じで紗水達は考える。

湖也についての事だけでなく、その質問がどんな意図を持って投げかけられたのかまで。

「さぁ、始めましょう」

純恋の声に反応する様にハデスは動いた。

紗水達の怒りの感情を最大限までに引き出す。


3


「さて、まずは彼を始末しようか」

「あぁ、邪魔者は一刻も早く消えてもらわないと」

湖也と花蓮は鷲羽を見据える。

黒い装甲と光の装甲が並ぶ。

最初に動いたのは鷲羽だった。

瞬間移動で花蓮の背後に回り込み、花蓮の首を狙って足を振り上げる。

しかし気づいた湖也によってその足を掴まれ地面に叩きつけられる。

「瞬間移動の弱点は動き自体が速くなるわけでは無いと言う所だな」

湖也は笑いながら花蓮に言う。

「クソ…」

鷲羽は吐き捨てた後、世界のシミュレーションを行った。

自分の体が無限にある世界を。

無限に増殖する鷲羽は数の暴力で2人に襲い掛かろうとする。

しかし湖也の装甲にビリリ…と電気が駆け巡ると鷲羽は1人になってしまう。

湖也によって鷲羽の能力が弱体化しシミュレーションした世界が保てなくなったのだ。

困惑し動きの鈍った鷲羽を花蓮は見逃さない。

物凄いスピードで鷲羽のお腹目掛けて蹴りを入れる。

見えない速度で鷲羽の体が吹っ飛ばされ、荒廃した建物の柱に勢いよくぶつかる。

柱が何本も折れ、ようやく止まりゆっくりと鷲羽は立ち上がる。

そこで嫌な音を聞いた。

ガララ…と建物が崩れる音だった。

柱が折れ支えが無くなった建物が倒壊しようとしていた。

鷲羽は咄嗟の判断で瞬間移動をし、その場を離れる。

その1秒後、ガラララ…!と建物が崩れ落ちるものすごい音が響き渡った。

「まさか君達が手を組むとは思わなかった」

息を整える。

考える時間を確保する。

その為に鷲羽はゆっくりと言葉を続ける。

「いいのか?リーダー。俺はあなたの仲間なんだぞ。あなたは仲間を大事にしただろう」

「すまないが、何を言われても私の気持ちは変わらない」

「それこの前も言ってたな」

湖也が笑いながら言う。

そして肩をすくめて続ける。

「あんたは本人じゃねーだろ。本人のデータを元に作られたただのコピーだ」

「もう何を言ってもあんたらの気持ちは変わらないと言うのか」

「初めからそう言ってるだろう」

花蓮が呆れながら言う。

湖也はしっかりと鷲羽の顔を見据えながら、

「俺は今まで散々迷って来た。逃げ出す時もあれば別の道を行くこともあった、その度にみんなが俺に救いのてを差し伸べてくれたから俺はここに立っているんだ。最後ぐらい自分で決めてもいいだろ。この気持ちを変える気はない」

地面を蹴る音が響く。

湖也が物凄いスピードで鷲羽に近づいていく。

その様子にすっかり怯えてしまった鷲羽は判断が遅れ、瞬間移動を使う前に湖也に首を掴まれる。

そのまま地面に叩きつける。

鷲羽は背筋に強烈な痛みを感じ、脳がバグり視界がグラつく。

湖也は鷲羽をグッと目の前まで持って来て、

「例えお前がどれだけシミュレーションをしようが、どんな奴を味方に付けようが無駄だ。その事に気づかせてくれた事には感謝してやる」

再び鷲羽の体を地面に押し付けるとそのまま勢いよく走り出した。

地面に背中を擦り付けられ火花が生じる。

背中が削られる痛みと摩擦から生じる熱さで鷲羽の意識はほぼ無くなっていた。

「ほらよ、花蓮」

そう言うと湖也は鷲羽の体を花蓮に向かって下から放り投げる。

花蓮はこれ以上余計な事はしなかった。

ただこちらに向かって飛んでくる鷲羽の体を力を込めてぶん殴る。

2人の攻撃を受けた鷲羽の体は爆散した。

その爆発を挟むように湖也と花蓮は互いを見据える。

「このまま最終決戦といくか?」

「いいや、少し待ってくれ」

そう言うと花蓮は一度装甲を外した。

メインコンピュータまで歩くとそれを操作している。

「何をしている?」

「別に大した事はしないさ。ネズミがもう1匹いるからそいつの駆除をお願いするだけ」

「え?どこ?」

湖也は焦って周りを見渡す。

一面に広がる荒廃した岩の上には花蓮と湖也しかいない。

「気にする必要はない」

花蓮は目を瞑り短く言った。

そしてゆっくりと開き、湖也を真正面から見据える。

「さぁ、始めようか。この世界の命運を賭けた、最後の戦いを」


4


純恋の狙いは単純なものだった。

紗水達から湖也に対する不満、怒りの罵詈雑言を吐かせる事。

おそらく夢境はこの状況を監視しており、純恋達の会話を聞いているだろう。

純恋が何かをする訳ではない。

彼女は材料を夢境に提供する。

それをどう使うかは夢境が決める事だ。

ただ1つ言える事は、これが夢境の望んでいるものだと言う事。

その為に純恋はハデスを蘇らせた。

ハデスによって紗水達の怒りの感情を操作する為に。

「さぁ、始めましょう」

純恋の合図が聞こえ、ハデスは動き出す。

紗水達の怒りを増幅させる。

後は紗水達の口から罵詈雑言を聞くだけだ。

紗水は口を開く。

「湖也の事…」

湖也に対する思いを吐き出す。

「大好きよ!!!」


「…は?」

純恋はポカンとしていた。

ハデスは怒りの感情を操作したはず。

ならば不満や怒りの言葉が出てくるのが先だ。

何故いきなり愛の告白なんてしてるの?

対する紗水は顔を真っ赤にしながら、

「もうお母さん!この場で愛の告白させるなんて酷いじゃない!殺すってこう言う意味だったのね!確かに公開処刑だわ!」

キャー!と両手で顔を覆ってしまった。

隣にいた凛は純恋を睨みながら、

「いくらお母さんだからって娘さんにしていいことと悪いことがあると思いますなー」

空は顔を赤らめて目を逸らしながら、

「私はこんな恥ずかしいことしたら泣いちゃうかも…」

純恋は頭が真っ白になっていた。

「ち、違う…こんなはずじゃ…」

純恋は勢いよくハデスの方を見る。

子供が見たら泣き出すのではと思ってしまう程の形相だ。

「あんた…」

ハデスも焦っていた。

親に買ってもらったラジコンが動かなくなってしまった子供の様な表情で、

「こいつら、湖也に対する怒りの感情が無いんだ!」

「はぁ⁉︎」

ガバッと勢いよく紗水の方を振り返り、

「あんた達、湖也君に対する不満とか無いの⁉︎少しくらい気に入らないところあるでしょ⁉︎」

純恋の変貌ぶりに紗水達は困惑の表情を見せる。

しかし、紗水は1度深く呼吸をすると純恋の目をしっかり見た。

「不満ぐらいあるわ。あいつは優柔不断で何かあるとすぐうじうじ悩むし、昔の事をずっと引きずるし。何もかも自分で背負い込もうとする。でも、そんな湖也だからこそこの世界を守っていけてると思うの」

「ばーさん、私達の味方じゃなかったのかよ」

火凪がギロリと睨みつけながら言う。

続いてその視線をハデスの方へ向ける。

「こいつを使って何か企んでいた様だが、私達がちょっとぐらいの不満で怒りをぶつける様な人間に見えるか?だったら甘いよ。湖也に影響を受けた私達を甘く見過ぎ」

「あんたは湖也とあんまり関わってないでしょうが!関わってほしく無いし」

紗水から強く返されるが、火凪は気にしていないようだ。

「で、思い通りにならなかった様だがあんたらこれからどうすんの?もしかしてだけど、そのバケモンを私達に襲わせるなんて事はしないよなぁ?」

純恋は諦めないと言った様子で葉種の顔を見る。

「あんた!さっき湖也君の事でめちゃくちゃ怒ってたじゃない!その怒りの感情はどこへ行ったの⁉︎」

そう言われ、葉種は考える間もなく叫び返した。

「馬鹿じゃないですか!あんた!」

「何が…!」

「私は湖也先輩の力になりたいから怒ってたんです!湖也先輩の足を引っ張る為に怒ってたんじゃありません!先輩に対する悪口を言う悪い後輩に見えますか!」

「見える」

香里がボソッと呟いたので葉種の怒りはヒートアップした。

「そもそもあんた誰なんですか!私ボソボソ言う人大嫌いです!」

「私もあなた嫌い」

「はぁ⁉︎」

突然口論を始める2人を見て純恋はポカンとする。

プルプルと体を震わせ、なるべくやりたくなかったと言う様に、感情に任せ吠える。

まるでゲームに負け続け苛立ちを隠せていない子供の様に、

「じゃあいいわ。あなた達ここで終わりなさい!」

その言葉に対応する様にハデスは動く。

紗水達に対して1つの感情を極限まで高めようとする。

「怒り」や「恐怖」だけじゃない、「喜び」などのプラスの感情でも高めれば精神崩壊に繋がる。

人間の脳で許容出来る範囲のその外側まで一気に感情を押し上げようとする。

生き物である以上、常に何かしらの感情は抱えているはずだ。

そこに干渉し、全員を壊す。

その直前の事だった。

ハデスの体が真横に真っ二つに斬られた。

「…え?」

ハデスは疑問の声しか上げる事が出来なかった。

次の瞬間、ハデスの体は爆散していく。

爆音と煙が吹き荒れた。

「一体、何が起こったっていうの⁉︎」

純恋の声に反応する様に、煙の中から落ち着いた声が聞こえてくる。

「ようやく、復讐を果たす事が出来た」

煙が晴れていく。

中から姿を現したのは、蓮真だった。

その右腕には日本刀が握られていた。

「コピー品とは言えハデスは先生を殺した張本人。何度だって地獄に送ってやる」

「蓮真君…」

「お久しぶりっす。紗水さん、それにみなさん」

「あなたも復活したのね…」

紗水の表情は沈んでいた。

助けてくれたのは有難いが、復活したということは花蓮の都合のいいように人格を変えられているという事だ。

いつ襲われてもおかしくない。

しかし蓮真は笑って言った。

「俺、ハデスを倒す命令しか受けていないので、あなた達は襲わないっす」

「ねぇ、それって本当なの?」

そう言ったのは空だった。

「だったら、私達の所に戻ってくる事もできる?」

「残念ながら、それも出来ないっす」

「え?」

「決められた命令を遂行すれば、自然と消える様に設定されているので、もうすぐ俺は消えるっす。最後にみんなを守れて良かったっす」

「そんな…!せっかくまた会えたのに…」

「俺だってコピー品なんすから、そんな悲しい顔しないで欲しいっす。それより、そろそろ登さんと上伊さんの戦闘が終わっていると思うので、行ってあげて欲しいっす」

空は流れそうになった涙を腕で吹くと力強く頷く。

紗水達も蓮真の言葉を聞いて足に力を込める。

体を180度回転させ、来た道を戻ろうと走る。

それを呼び止めようとする声があった。

「ちよっと!あなた達待ちなさい!」

純恋だった。

「ごめんなさい。お母さん」

紗水は振り返らずいう。

純恋の顔が僅かに歪んだ。

今まで積んできた来たものが崩れていく様な感覚。

急いで紗水の肩を掴もうとするが、その手は火凪によって阻止された。

火凪は純恋の伸ばした腕を強引に掴むと、

「ばーさん今いい所なんだ。止めようなんてつまらない真似はよしてほしいな」

「あなた達!何をしているか分かってるの⁉︎今までの戦いの映像を見せてあげた恩を忘れたの⁉︎」

「忘れた訳じゃないけど〜、それとこれは話が別っていうか〜」

穂花が指を左右に振りながら言う。

その言葉に柚子が続く。

「あんたがあいつらを引き止めて何になるってんだ」

「あいつらが戻っても何になるってんだって話だけどね」

香里がボソッと言ったので柚子が睨みつけた。

「オメーは一言多いんだよ」

「知ってる」

「ふっふふふ」

火凪達に邪魔をされながらも純恋は笑っていた。

「何笑ってんだよ」

「あなた達の絆の強さが見れたから嬉しくて。やっぱりそれを壊すことは出来ないわね」

純恋は光の粒となって消えかけている蓮真から日本刀を奪い取る。

気づけばそれは拳銃に変わっていた。

その拳銃を自分のこめかみに押し当て、迷わず引き金を引く。

「おい!ちょっとおばさん!」

火凪の声は届かなかった。

発砲音と共に純恋は道路に倒れ込んだ。


紗水達は走った。

「あれ⁉︎キャンピングカーってどのあたりだったっけ⁉︎」

そう、ゾンビに追われていたので来た道をよく覚えていなかったのだ。

「えぇと…確かこっち?いや、あっち?」

凛がキョロキョロ見回しながら言うが確証がないのかかなり小さな声だった。

何度か道を曲がった時だった。

「何あれ⁉︎」

1つの一軒家にものすごい数の人が押し寄せていた。

「こっちにいるぞー!」

と仲間を呼ぶ声も聞こえてくる。

「こっちにまだ花蓮様を知らない奴がいるぞ!」

その言葉を聞いた瞬間、紗水と空の体は無意識に止まっていた。

「ちょっと紗水⁉︎空⁉︎どうしたの⁉︎」

凛が慌てて呼びかける。

「多分、まだゾンビになって無い人だ」

葉種が空腕を引っ張りながら、

「ちょっと先輩行きますよ!登先輩達が心配じゃないんですか!」

亮矢は紗水の肩に手を置く。

「気持ちは分かるが…」

しかし紗水は手を振り払った。

「ごめん、私見捨てられない。先行ってて」

そう言うと走って行った。

「あーもう!仕方ないですね!1人じゃ危ないじゃ無いですか!」

葉種も追いかける様に走り出した。

空も向かおうとするが、亮矢が呼び止める。

「ここは俺達に任せて行ってくれ。登にはお前が必要だ」


凛と空は走る。

「凛ちゃんは襲われてる人のこと何とも思わないの?」

ややトーンの低い声だった。

さっき何も行動に起こさなかったことを怒っているのかもしれない。

「何にも思ってない訳じゃ無いよ」

凛は真剣な表情で言った。

そして続ける。

「でも、上伊には私が付いていなくちゃいけないから。自分勝手かもしれないけどさ。上伊をホッとさせてあげたい」


人だかりが出来ていた家の中。

「お母さぁぁん!怖いよ!」

外からの怒号に泣き叫ぶ子供を母親は力強く抱える。

外の人達の様子が変だ。

そう思って声をかけた瞬間、鬼のような形相で掴みかかって来たのだ。

なんとかその手を払い家の中に逃げ込んだがいつドアを蹴破られるか恐怖でその場を動けない。

「何で…どうして急にこんな事になってしまったの?」

言葉に出してもどうしようもない。

きっと私達は襲われる。

もうダメだと思った時だった。

先程まで聞こえていた外の声が止んでいた。

気になって恐る恐る立ちあがろうとした時、

背後の窓からコンコンとノックする音が聞こえて来た。

「!!?!?」

回り込まれたと思い込んだ母親は腰を抜かして倒れ込んだ。

しかし聞こえて来たのは怒号ではない。

優しい少女の声だった。

「大丈夫ですか⁉︎安心してください!私達は味方です!」

「…?」

ゆっくりと近づき、窓の鍵を開ける。

窓を開けると、少女が中に入って来た。

「良かった。まだ残ってる人がいた」

少女は優しく微笑みかける。

「あの、あなたは…」

母親が聞こうとした時、外から叫び声が聞こえた。

「あー!紗水先輩手柄を横取りしてる!」

「あの人混み引き剥がしたの俺らなのに!」

「いいじゃない。安全確認が最優先よ」

ワイワイと話している3人に向かって、母親は訪ねる。

「もしかして、この前テレビで見たヒーローですか?」

夢境との戦いは、テレビやビルのモニター等に映し出されて全人類が見ていた。

その言葉を聞いて紗水は湖也から言われたことを思い出した。

『お前も立派なヒーローだよ』

少しばかり顔を赤くし、自分が照れている事に気づき必死に頭をブンブンと振り回す。

「今は私もあなた達と同じですよ。ヒーローに全てを委ねましたから」

「よっヒーロー」

「かっこいいですヒューヒュー」

「2人ともしばき倒すわよ」


「ちょっと何これ!」

地面に出来た巨大なクレーターを見て凛は叫び声を上げる。

そのクレーターの中央に血斗が倒れているのを見つける。

「ノボリ!大丈夫⁉︎」

凛と空はクレーターを滑り降りて行き、空は血斗の頭を膝の上に乗せる。

「…へへ、空の膝枕だ」

「良かった…生きてて…」

「あぁ…なんとかな…」

そこで3人はザザザ…と砂を削る音を聞いた。

音のする方を見ると上伊がクレーターを滑り降りていた。

「上伊!」

凛が駆け寄る。

体の力が抜けており、滑り降りている途中でバランスを崩しそこからはゴロゴロと転がりながらクレーターの底まで来ていた。

「ちょっと大丈夫⁉︎」

慌てて凛は上伊の元へ駆け寄り肩を貸して立たせる。

「お前ら無事だったんだな」

「うん。上伊と登君が戦ってくれたから。ありがとう」

「そう言われると、命をかけて戦った甲斐があったと感じるな」

上伊は血斗の元へ向かう。

「なんとかミラーは倒したぞ」

「じゃあ後は黒木花蓮だけか」

血斗が細い声で言う。

みんなは空を見上げた。

空に浮かんでいる巨大な岩、最後の戦場を。


紗水も窓の外に見えている巨大な岩を見ていた。

胸が締め付けられるような感覚を覚える。

「頼んだよ。私達のヒーロー」


5


戦いの前にちょっとした会話があった。

花蓮は腕を水平に振るう。

それを合図に、花蓮の背後に何枚かの映像が空中に映し出された。

その映像では見知らぬ人々が勢いよく叫んでいる。

『花蓮様頑張って!』『私達の為に戦って!』

『頑張れー!』

そんな声が聞こえて来た。

花蓮は静かに問いかける。

「どうだ?夢境との戦いの時背中を押してくれた声援が君に牙を向いた今の心境は」

「それはお前が作り出した声だろ。ゾンビみたいに人々の人格を変えて。別にそれで俺は折れたりしない」

「生徒が全員敵になっていじめられた時逃げ出した奴とは思えないセリフだな」

手始めに花蓮はそこら辺に落ちていた小石を手に取り、手首の動きだけで投げ飛ばす。

たったそれだけで小石は光の速さで湖也目掛けて飛んで行った。

その小石は軌道上に風を生み出し、地面である岩の表面を抉り取っていく。

細かい塵が巻き上がり湖也の姿が見えなくなる。

スピードと破壊力は比例する。

なんの変哲の無い小石でも、限界までスピードを出せば弾丸以上に威力が増すだろう。

装甲もタダでは済まないはずだ。

これで決着がついてもおかしくないほどの一撃。

塵が晴れて湖也の姿が見えてくる。

しかし湖也は立っていた。

その装甲は黒色から黄金色へと変わっていた。

湖也は真っ直ぐ花蓮を見据える。

耳元で囁く声が聞こえた。

上伊の姉の声だ。

(大丈夫だよ。私や紗水さん達はいつでも君の味方だから)

その言葉を受けて一歩前に出る。

ゆっくりと花蓮に向かって近づく。

「君のその黄金の装甲、『守りたいと思う気持ちがある限り負けない』だったか?」

「あぁそうだ。それがどうかしたか?」

湖也の質問に答えるかのように花蓮の背後にさらに複数枚のモニターが表示される。

こんな声が飛んで来た。

『死ね!三村湖也!』『人類の敵!』『負けないで花蓮様!そんな奴に!』

湖也の心に刺さる声ばかりだった。

一昔前の湖也ならこれだけで心が折れて跪いてたかもしれない。

「こんな言葉を飛ばしてくる人々を守りたいと言うのか?」

しかし湖也は笑っていた。

装甲を付けているので表情は見えないが、花蓮は不思議と感じ取っていた。

「こんなの聞かされちゃ余計取り戻したくなっちゃうな!!!みんなの暖かい想いを!!!!!」

その言葉を合図に、2人は勢いよく近づいた。

戦闘が始まった。

花蓮は光の速さで湖也の懐に潜り込む。

首を掴んで思い切り地面に叩きつける。

しかし湖也は力尽きてなどいない。

自分の首を掴んでいる花蓮の腕を掴み、力を込める。

思い切り握る。

「くっ…!」

流石に耐えられないのか苦しむ声が聞こえた。

今の湖也は想いのボルテージが極限にまで達している状態だ。

自分でも想像出来ないほどの力が出ているのだろう。

あまりの激痛に参ったのか花蓮は湖也の体を思い切り放り投げた。

光速で瓦礫の山にぶち当たる。

背中に強烈な痛みを感じ、一気に肺の空気が押し出される。

「ガハッ…」

休んでる暇はない。

すぐさま花蓮の体が飛んできた。

蹴られ、踏み潰され、再び首を掴まれる。

2度目は流石にまずい。

直感でそう感じ取った湖也は花蓮のお腹に向かって頭突きを喰らわす。

湖也を掴んでいた腕から変な音が聞こえ、花蓮は怯む。

花蓮の腕から逃れた湖也は花蓮の顔面をぶん殴り、倒れた所へ足を振り上げ胸を思い切り踏みつけた。

湖也は荒い息を吐く。

「どうだ?負けそうになる気分は」

花蓮も呼吸を整えようとしながら、

「そっちこそ、ボロボロじゃないのかい」

「そんなことねぇよ!」

湖也は花蓮の体を思い切り蹴った。

勢いよく飛んだ花蓮の体は何度もバウンドし、鉄骨の山にぶつかった。

先ほど鷲羽と戦った時に、崩れた建物の残骸だった。

花蓮はその鉄骨を勢いよく放り投げる。

光速で放たれた鉄骨は避けることはできない。

何本もの鉄骨が湖也の顔面に襲いかかる。

「ガフッ!ブヘッ!ウガッ!」

何度か情けない声を発しながらも、湖也は拳を前に突き出した。

飛んで来る鉄骨が粉々に砕ける。

再び2人は近づく。

目の前の顔面を狙うべく拳を突き出す。

それぞれの拳が顔面に当たり、2人の体が真後ろに吹っ飛ぶ。

2人の戦闘力はほぼ互角だ。

一方的な虐殺とか、大逆転劇があるわけではない。

共に少しずつHPを減らしていく戦い。

光速の殴り合いや、鉄骨などの重い物質の飛ばし合いを見れば常人ならとんでもない事が起こっていると思うかもしれない。

しかし、2人の間ではそんな感覚は無かった。

ただ相手のHPを減らす。

その為に殴られながらも殴り返し、吹き飛ばされながらも相手を吹き飛ばしていく。

最後に立つのが自分だと証明する為に。

ドン!ガッ!と装甲と装甲がぶつかる音だけが巨大な岩に響き渡る。

どのくらい戦っただろうか。

お互いにボロボロになりながら、すぐ目の前にいる敵を見据える。

「これで最後にしようか」

息を切らしながら花蓮はデバイスに指を乗せた。

右足の装甲が展開される。

「あぁ、そろそろ終わらせよう」

湖也もデバイスを起動し、右腕の装甲を展開させる。

なんとか踏ん張っているが、かなりフラフラしていた。

おそらく花蓮も同じ、そう長くは持たない。

次の瞬間、2人の姿が消えた。

正確には消えたのではない、一瞬にして2人は間合いを詰めたのだ。

花蓮の右足と湖也の右拳がぶつかる。

ドッッッッッッッ!

と太鼓を叩いた様なとてつもなく大きな音が衝撃波の様に響き渡った。


上伊達にもその音は聞こえていた。

体が痺れる様な感覚もある。

それほど衝撃は凄まじかった。

「…決着がついたみたいだな」

血斗は空の膝に頭を置きながら言う。

「あぁ、今この世界の命運は決したんだ」

「おー上伊が厨二病みたいなこと言ってる」

凛が感心した様に言うので上伊は顔を赤らめながら

「いいじゃん今くらい」


家の中にいる紗水達にもその音は聞こえていた。

まるで地震でも起きたかの様に窓もカタカタ震えている。

心配そうに眺める紗水を元気着けるように、葉種と亮矢は明るい調子で、

「大丈夫ですよ。先輩が負ける訳ないですから」

「あぁ、きっと大丈夫だ」

その時、幼い声を聞いた。

「ねぇ」

母親がずっと抱き抱えていた子だった。

その子は母親の腕から紗水の方へ首を伸ばす。

「もう怖い人たちいなくなった?」

紗水は微笑むとゆっくりと膝を曲げて子供と目線を合わせる。

「もう大丈夫。怖い人たちみんないなくなっちゃったよ」


2人は展開した足と拳をぶつけたまま動かなかった。

互いに荒い息を吐く。

「強がりは辞めろよ」

「そっちこそ」

花蓮はそう言い動こうとした時だった。

「あ、まず…」

体の力が抜け、ふらりと倒れ込む。

湖也は拳を引っ込めると倒れ込んだ花蓮を眺めながら、

「俺の勝ちだ」

「はははっ、参ったな。まさか私が負けるとは…」

湖也はコンピュータの方へ歩き始める。

花蓮の体が爆散したが、湖也は振り返らなかった。

ゆっくりと、ゆっくりと足を進める。

その足がガクガクと震える。

もうまともに歩く力も無かった。

身体中から強烈な痛みを感じる。

装甲を外すと、肩や足から血が出ていた。

肩を抑え、何とかコンピュータのところへ進む。

大羅やミラーが戻ってこないと言うことはおそらく上伊と血斗が倒してくれたのだろう。

もう敵は居なくなった。

後は世界を元に戻すだけ。

変な事件や平和を脅かす怪物の無い、平凡な世界がそこに待っている。

「陸…天…」

俺はやったよ。

「紗水…」

待っててくれ。

もうすぐ、戻るから…

湖也は小石に躓き、倒れ…

動かなくなった。

ハッピーエンドとバッドエンド、どちらがいいですかね?

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