第49話 力の源
『このままだと湖也君が危ない。どうにかしてくれ』
電話越しにそんな声が聞こえた。
純恋は呆れてもう片方の手を頭に当てる。
「何がどう危ないか教えてもらっても?」
『彼が元の世界に来た時の事を考えてみろ。やり方は任せる。好きにしてもらっていい』
「何故私があんたの尻拭いをしなくちゃいけないのか分からないんだけど。神様のくせに」
『それはそっちの世界の中だけの話だろ』
「まぁいいわ。何とかやってみる」
『助かる』
通話を終えると、スマホをポケットにしまい顎に手を当てて考える。
「私の見たかったものを自分で崩すのは本当はやりたくなかったけど、これしかなさそうね」
1
「で、どうやっていくよ」
血斗が訊ねる。
それに答えたのは上伊だ。
「俺の装甲を使えば飛べる。2人を抱えていくことも可能だ」
「湖也!」
遠くから叫び声が聞こえ、その方向を向くと紗水達がこっちに向かって来ているのが分かる。
紗水は湖也の姿を見て驚いた。
「その格好…」
「あぁ、俺の最後の力。これで花蓮と渡り合えればいいが」
「でも、『人々を守りたい』という想いがある限り負けないってあんまりパッとしないな」
血斗は装甲を外し両手を頭の後ろに回しながら言う。
その言葉を聞いて湖也は鋭く睨みながら、
「人の最強形態にケチつけるんじゃねーよ」
「分かったよ」
「…もう行くんだね」
紗水の表情を見て湖也は笑いながら、
「何寂しそうに言ってんだよ。これでお別れって訳じゃないだろ。絶対戻ってくるから」
「なんか死亡フラグ臭いいい方だね〜」
ニヤニヤしながら火凪が言う。
「後ろうるさい」
「でも、また地上に復活した暴狐が現れたらどうすんだ」
穂花が湖也を睨みながら言う。
「もう周りゾンビになってるのに現れるか?」
上伊は首を傾げる。
「ま、ゾンビになっても最終的には戻してやラァ」
血斗が笑顔で言うと、柚子は吠える様に
「そうなりたくないから聞いてんだろうが!」
「んなもん自分の力でどうにかしやがれ!」
「わ、私!」
2人の言い合いの間に入る様に空が手を上げる。
「私頑張ってなんとかするから!ノボリ達は気にしないで!」
「空…」
血斗が意表をつかれている隣で湖也も感心していた。
最初は凄く臆病だったはずなのに凄く強くなったと。
「ま、一応私たちも神を倒した称号あるんだし?しょぼい奴ぐらいならなんとかなるよ」
空の肩に膝を乗せて凛は言う。
「今回は武器とかないし生身なんだけど」
ボソッと香里が呟いた。
「空ちゃん凛ちゃんがそこまで言うなら私は任せてもいいかな〜って感じ。あんたらは好き勝手暴れてきなよ」
穂花は空と凛の肩をポンと叩きながら言う。
みんなの様子を見た紗水が自信満々と言った感じで胸を張る。
「そんな訳で、こっちは心配ないわ。多分だけどね」
「そうか」
湖也が安心した様子で言った直後の事だった。
空から巨大な剣が湖也達目掛けて降り注いだ。
慌てて湖也達は避難し、先ほどまで湖也達がいた所に剣が突き刺さる。
ドシーン!と物凄い音と地響きが起こり、地震と勘違いしてしまいそうになる。
湖也は突き刺さる剣を見る。
土で出来た剣だった。
「大羅か」
湖也の声に反応する様に、土の剣が波の様に揺れ中から大羅が姿を表す。
「よぉ。そろそろ決着つけようと思ってな」
「へっ、夢境と戦ってから姿を現していなかったからビビって逃げ出したかと思ったが、ようやく負ける決心がついたって事か?」
血斗が見下す様にして言う。
「相変わらずムカつくやろうだなお前は」
「褒め言葉として受け取っておいてやるよ」
血斗は大羅にそう言った後、大羅を正面から見据えたまま今度は湖也達に向かって叫ぶ。
「こいつの相手は俺がやるから、お前らは先行ってな!」
「おぉよくあるパターン」
湖也が謎の感心をしていると上伊は装甲を付けて湖也の体を抱える。
そのまま宙に浮き始めた。
上伊は湖也を抱えて空を飛んでいた。
「こんな能力使い道無いと思っていたが、まさかこんなところで役に立つとはね」
笑いながら上伊は言う。
「何言ってんだよ。お前の力なんだから使い道無いとか言うなよ」
ゆっくりと2人は上昇し続ける。
「…ゆっくりだな」
「すまない。もっと速く移動できたら…」
「いやいいよ十分ありがたい」
まだまだ上昇中。
「2人になるのなんか久しぶりだな」
「みんな一緒に戦ってたからね」
「…なんか悪かったな」
「え?何が?」
急に謝罪の言葉を聞いて驚いた様子で上伊は言った。
「本来リーダーは上伊が適任なはずなのに、俺がみんなをまとめてた気がしたからさ」
「今更そんな事を言う?俺がリーダーとか絶対無理だって、君達から旅行の話を聞いた時から思ってた。『あ、俺こんな楽しい空気にさせることは出来ないんだ』って。あの時の君達本当に楽しそうに話すんだもんな。お前以上に背中を預けられる奴なんていないよ」
「そうか…」
一度俯いた湖也の表情を見て上伊は怪訝な顔をする。
だが次の瞬間、湖也は今までに無いほど明るい笑顔を浮かべて、
「俺ってそんなに立派な人間かな⁉︎いやー照れるな!ガハハ」
あまりの眩しさに目を瞑ってしまいそうになる上伊だが、装甲の奥で微笑んだ。
「湖也は明るい方がいいよ。暗いのは似合わない」
と、その時だった。
空から急に菱形の矢の様なものが降って来た。
狙いが湖也だと判断した上伊は湖也の体をぐるんと反対側へ持っていく事で矢を回避する。
「ただまったりトークしているだけでは行かないようだな」
上伊が空を見上げると、あと20mほど上空にある巨大な岩の端に立っているミラーが見えた。
「当たり前でしょ」
次の瞬間、信じられないことが起こった。
ミラーは岩の端に立ったまま、まるで気を失った様に滑らかに前に倒れたのだ。
前に壁などなく、そのまま岩から落下するのは目に見えて分かる。
そのまま頭から落下した。
「おい!あいつ何やってんだ!」
湖也が驚き声を上げると、ミラーはそのまま声を張り上げる。
「この上には行かせないんだから!」
「え?ちょっとおい!」
湖也がそう声に出した理由は、ミラーの軌道にあった。
明らかに湖也達とぶつかる様に落下している。
自分の体ごと湖也達を巻き込んで潰そうと言うのだ。
「うわぁ⁉︎」
また湖也は驚きの声を上げる。
だが今度の原因は自分にあった。
湖也の体が不自然に沈んでいくのが分かる。
湖也は何も理解できず両手両足をバタバタさせて、
「えっちょっとどうした上伊!」
「どうやら俺が送り届けられるのはここまでみたいだ。後は自分の力で行ってこい!」
「え!それってどう言う事⁉︎」
体が沈んだと感じた正体、それは上伊が湖也を掴んだ手をぐっと引いた事によるものだった。
つまり腕に力を込め、湖也の体を投げ飛ばす体制に入っていたのだ。
ついでにミラーの体が上伊の方へ向かっていく様に位置を調整し、上伊は声を張り上げる。
「絶対にみんなを元に戻してこいよ!」
上伊の装甲は力に特化した赤色になり、思い切り湖也の体を投げ飛ばす。
投げ飛ばされた湖也の体と上伊目掛けて落下していくミラーの体が空中で交差し、それぞれは目的の所へ向かっていく。
上伊の元へとミラーは突っ込んでいく。
「クソ!余計な真似をして!」
「もう少し賢そうな子だと思ってたけどIQ下がったか?単純に突っ込んで来ても避けるのは簡単だと分かると思うけど」
「うっさい!あの岩に到着される前に仕留めたかったのよ!」
ミラーは自身の体をドス黒い壁で菱形状に覆っていく。
まるで空から降り注ぐ隕石の様に見える。
上伊は考える。
(あいつは軌道修正は出来ない。こっちが避けて岩に行ってもいいが、何かしらの方法で戻ってくるだろう)
守り特化の青の装甲へ色を変え、ドス黒い隕石を体で受け止める。
(湖也と花蓮の邪魔はしたく無いしさせたくも無い。下でこいつと戦うのが1番いいか)
そのまま落下して行った。
2
紗水達は血斗と大羅の戦闘から離れていた。
「ノボリ、大丈夫かな」
空が細い声を出すが、紗水は空の目を見て強く返した。
「あんたが彼を信じてあげなくてどうするのよ。絶対大丈夫よ」
その言葉に空はハッとし首をブンブンと振った。
血斗を信じてあげられなかった馬鹿な自分が許せなかったからだ。
「そうだよね!」
「へっ、まだ青いくせにしっかりしちゃって」
柚子が小さな声で呟くが、空は反応しなかった。
理由は1つ、彼女の声をかき消す様に大きな声が聞こえたからだ。
「おい!いたぞ!反逆者達だ!全員で抑えろ!」
知らない声だった。
気づいた時には細い路地から、住宅街の屋根から、沢山の見知らぬ人たちが追いかけて来ている。
「黒木花蓮様の計画を邪魔する奴はそのままにはしておけない!直ぐに捉えるんだ!」
「え?ちょっと何これ…」
火凪が顔を引き攣らせて言った。
隣で紗水が走る準備をしながら、
「花蓮が私達を狙ってゾンビ達に命令したってこでしょ!」
凛が足をプルプルと震わせながらも自分のやるべき事を自分の中ではっきりさせる様に叫んだ。
「に、に、逃げるよ!」
紗水達は走り出した。
ゾンビと言っても思考を変えられているだけなので足は普通の人と変わらない。
真正面からもゾンビが来ているため、途中で曲がったりしながら何とか逃げていく。
だがそれでも限界がある。
曲がり角の先でもゾンビ達がこちらに向かって来ており逃げる場所がなくなってしまった。
「私達もうおしまいなのかな」
香里がどうでも良さそうに呟いた。
「このまま洗脳されて黒木花蓮の僕としてちょっとエッチな命令されちゃうってこと⁉︎ちょっとそれいろいろヤバくない?」
「あんたはちょっと黙ってちょうだい」
穂花の発言に対して紗水は強めに返す。
「ぎゃー‼︎こうなりたくなかったから護衛つけて欲しかったんだよ!」
柚子は頭を抱えていた。
しかし危機的状況の中、怯えずにいる方が2人、
「ま、上伊達がいないんじゃ私達でやるしかないよね」
凛が楽しそうな様子で言いながら空の方を見る。
その視線を受け取った空は拳をぐっと握り締め小柄な少女には似合わないようなファイティングポーズをとりながら、
「私達の敵は私達で戦うんだよ」
「ちょっとこんな大勢に囲まれちゃ無理だって!」
柚子が徹夜明けの様にげっそりとした時だった。
「うぉりゃ!」
勇ましい男性の叫び声が聞こええ、ドカドカ!と大量のゾンビが次々と吹き飛ばされていく。
「え?な、何⁉︎」
凛が火凪の後ろに隠れて不安そうに言ったが、その不安は直ぐに消えた。
ゾンビを吹き飛ばして空いた道を通ってこっちに来たのは、亮矢だった。
亮矢は紗水達の顔を見ると安心した様であたりに倒れているゾンビ達に向かって片手を顔の前まで持って来て謝罪のポーズを取る。
「何の罪の無い人達ってのは分かったんだが、河原達を助けるためだ。すまん」
「亮矢君⁉︎あんたなんでここに!」
亮矢に近づきながら紗水が聞くと、亮矢は呆れながら親指で後ろを指す。
「いやーこいつが連れてけ連れてけってうるさくってさー」
その言葉を聞いた紗水達が後ろに意識を集中すると、
「え、何これ」
亮矢の背後から真っ黒なオーラが見え、火凪は困惑する。
「…許さない」
奥から地響きの様な声が聞こえてくる。
「湖也先輩許さない。絶対に…」
「あ…この声ってもしかして…」
亮矢が道を譲る様に体を退けると、奥から真っ黒なオーラを放った葉種ちゃんが歩いて来た。
「どこですか湖也先輩は!今直ぐボッコボコにしてやります!」
「あらら、ラスボスより怖い存在出て来ちゃった」
紗水が苦笑いしながら言う。
「その100tハンマーどこから持って来た」
火凪が呆れながら言う。
「湖也先輩を差し出さない人は脳天叩き潰してやりますよ」
「おいこいつ黒木花蓮よりタチ悪いぞ」
「葉種ちゃん!一旦そんな物騒なもの置いて落ち着こ?ね?」
「凛先輩も肉塊になりたいですか?」
「ダメだこりゃ」
しばらくして、
「落ち着いた?」
紗水が腰に手を当てて聞く。
葉種へ紗水から受け取ったペットボトルを両手で持ちながら、
「落ち着いて無いけど落ち着きました」
頬を膨らませてすごく不満そうだ。
「たくなんであんなに三村湖也にブチギレてたのやら。紗水に奪われて悔しいのかよ」
柚子が適当に言ったのを聞いて、葉種はペットボトルを投げつけそうになりながら何とか抑え込む。
「違います!私夢境と戦ってた時先輩に言ったじゃ無いですか。私だって戦いますって。それなのにまた私は蚊帳の外ですよ!まるで頼りにされてない!おかげで3話分出れてないじゃないですか!」
「何だ出番が欲しかったのかよめんどくせぇな」
柚子が耳をほじくりながら言っていたので思わず置いた100tハンターを握りしめる。
残虐な場にならない様に何とか空と紗水が宥める。
凛は亮矢と話していた。
「あんたも葉種ちゃんと同じ気持ちだったり?」
「別にそうじゃねーよ。ただ友達が訳わからん連中に囲まれてたら助けるしか無いだろ。何が起こってるか分かんねーけどよ」
「そうだよね説明してないもんね」
紗水達は亮矢と葉種に花蓮がやろうとしている事を説明する。
「なるほど、それで最近周りがおかしかった訳ですか」
「ただ全人類を自分好みのゾンビにするとか、悪趣味にも程があるぜ」
「そういえば、葉種ちゃん達は大丈夫なの?襲われたりしてない?」
空が2人顔を心配そうに見る。
「あぁ、俺は大丈夫だけど」
「私も襲われたりして無いです」
「んなもん信用できんのかよ」
2人の返事を聞いて火凪が疑り深く2人の顔を見る。
その時、鋭い女性の声が紗水達の会話を引き裂く様に響いた。
「みんな集まった様ね」
声のした方を振り返ると、そこには2人の影があった。
「え?お母さん⁉︎」
紗水がそう言った通り、1人は純恋だった。
そしてもう1人は…
「ぅ…」
弱々しく声を出して体を震わせたのは葉種だった。
強烈なトラウマが蘇る。
紗水が葉種を庇う様に力強い声で、
「何で、お母さんがハデスを連れているの?」
ハデスがコンピュータで蘇った。ここまでは分かる。
だがどんな目的で蘇ったのか。
純恋も花蓮の仲間だったのか。
「この子は私がコンピュータから連れて来たの。遠隔で操作してね」
「だから何で」
次の瞬間、信じられない言葉が返って来た。
「夢境からのお願いでね」
「夢境⁉︎」
紗水がそう聞き返す。
夢境は死んでいなかったのか、それとも元の世界で別の計画を企てているのかは分からないが、何か企んでいると言うことなのか。
しかし、純恋は紗水からの質問をスルーした。
より大切な事を言わなければならないと言った様子で、
「それで、私としては不本意なんだけど…今からあなた達、殺してもらうわ」
3
血斗と大羅は睨み合っていた。
「お前、俺の能力の事忘れてんじゃねーだろうな」
血斗は笑いながら言う。
血斗の持つ時間停止能力。
1対1なら使った瞬間勝ちが決まる様なものだ。
しかし大羅は笑っていた。
どこか楽しそうに見える。
「まさか。俺が何の対策も無しにのこのこ来た様に見えるか?」
「それが見えちゃうんだな!お前馬鹿そうだもん」
「あぁそうかい」
血斗は大羅の時を止めた。
大羅の体は動かない。
その体をぶっ飛ばして終わり。
そのはずだった。
ギュォン!と空気の裂く音と共に背後から噛みつかれた。
土で出来た竜だ。
「なっ!こいつ単体で動けんのかよ!」
ギチギチと顎の力を強めながら上空へ飛んでいく。
血斗は咄嗟に今自分に噛み付いている竜に能力の対象を変更し、動かなくさせる。
動かなくなった竜に噛みつかれながら地面に激突していく。
「いってぇ!こら!離しやがれ!」
竜の頭を叩き壊し這い出て来た血斗が見たのは、全長50mの土の巨人だった。
「分かってんだろうが、俺を倒さない限りその竜は何度でも蘇るぞ」
「へへっ。めんどくせぇ事させやがって」
壁によって結晶化したミラーを抱えながら上伊は地面に激突する。
軽くクレーターが出来上がるほどの重量の結晶を何とかどかして周りを見る。
知らない学校の校庭だった。
「なかなか頑丈ね。あんたの装甲」
結晶化を解除して起き上がるミラーの声を聞き振り返る。
ミラーは飛びかかっていた。
手にはドス黒い物質でできたクナイが握られている。
それを上伊目掛けて振り下ろす。
上伊は行動に移ろうとしなかった。
クナイと装甲がぶつかる。
弾かれたのはクナイの方だった。
その結果を見たミラーは諦めたようにポイとクナイを放り投げる。
「私の生み出してるこの物質。一応この世で1番硬いって事になってるんだけど?」
「そんな禍々しい物質がダイヤとかで構成されているとでも?」
その言葉を聞いたミラーは一瞬鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をするが、直ぐに何かに納得したように、
「私の目線では超感覚の影響で薄いピンク色に見えているんだけど、周りからはそう見えているんだったわね」
空中にドス黒いクナイ生み出し掌の上でフワフワと浮かせる。
「この物質はこの宇宙の端っこ、宇宙の壁と同じ材質で出来てる物質なのよ?ダイヤよりも硬いわ」
その言葉を聞いた上伊は思わず笑ってしまう。
「宇宙の壁を観測した人がいるのかね」
「まぁいないわよね。それにあなたの装甲が防げてる時点で1番硬いってのは嘘って事になる。夢境がこの世界を作る時適当に定義したのでしょうね」
「で、あんたはどうするよ。もう俺に勝ち目ない様に見えるけど」
「それはあなたもじゃ無いかしら」
ミラーは薄く笑うと両手を広げる。
「ほら、どうしたの?攻撃しないの?」
怪訝な顔をする上伊だが、何も無いのであれば攻撃する以外はない。
「…女の子を殴るのは気が引けるが」
思い切りぶん殴る。
しかしミラーはビクともしなかった。
何も反応がないミラーに上伊は驚く。
「そんなに驚く事?あんた、その青い装甲の時パワー出ないでしょ。守り特化だもんね。原因はあんたにあるって訳。そして別に色に切り替えると私のクナイが通るって訳」
「…なるほどね」
血斗はどう動くか考えていた。
時間停止は背後の竜に使っているため目の前の大羅を止めることはできない。
質量では圧倒的に向こうが上。
「流石、暴狐達の幹部と言った感じか?でもお前、1回湖也に負けてるんだよな?」
「うるせぇよ。あの時はあいつがよく分からねぇことして来たからだ!」
初めに動いたのは大羅だった。
と言ってもその巨大を動かした訳ではない。
どこかに隠れていた翼竜が血斗を狙ったのだ。
「まずっ…!」
血斗は急いで翼竜の時間を止める。
すると今度は動ける様になった竜が血斗を狙う。
「くそっ!3対1は卑怯だろ!」
「さっきまで余裕ぶっこいてたのにもうお手上げか?だらしねぇ姿見せんじゃねぇよ!」
竜か翼竜どちらの相手をしようか迷ってる血斗に向かって大羅は躊躇無くその巨大な拳を振り下ろす。
4
上伊対ミラー、血斗対大羅の戦いをカメラが捉えていた。
その映像を見ていた夢境の隣で翔士が両手を頭の後ろで組みながら、
「まーだあの子に執着してんのかよ」
「まだあの子を救う方法はある。ここで上伊君と血斗君の敗北する所を捉えることが出来れば…」
夢境は必死に画面と睨めっこをする。
5
上伊とミラーはぶつかっていた。
学校の校庭にキン!と甲高い音とドガ!と鈍い音が何度も響き渡る。
しかし互いにダメージは受けていなかった。
上伊は防御に特化した装甲なので向こうにダメージを与えることができない。
ミラーは両手にドス黒い色のクナイを両手に持って応戦している。
やはり上伊の装甲に傷をつけることはできない。
「あんたいつまでこれ続ける気⁉︎」
ミラーはクナイを手元でクルクルと回しながら言う。
完全に呆れていた。
「君が降参するまでと言ったら?」
「話にならない。私が降参する意味ないでしょ。どちらかと言えば君が追い詰められてるんだから!」
ミラーは右手のクナイを放り捨てる。
地面につく前にサラサラ…と砂の様に消えていく。
そのまま右手を天に掲げた瞬間、巨大なダイヤモンドのような形をしたドス黒い物体が現れる。
「さっき見ただろ。そんなものでこの装甲は傷つかない」
「一度だけなら…ね」
さらに2個、3個と次々にドス黒いダイヤモンドは生まれていく。
(ミラーは俺が装甲の色を変えずに受け止めると思っている。なら攻めるのは今しかない!)
ミラーがダイヤモンドの隕石を上伊の元へ降り注ごうとした時、上伊の装甲の色が変化した。
スピード特化の黄色の装甲になり、目に見えない速さでミラーの背後に回り込む。
凄まじい蹴りと共にドンッ!と鈍い音が響き渡り、ミラーの体が水平に吹き飛んでいく。
「もう1発!」
上伊が駆け寄ろうとした時だった。
上伊は見たのだ。
ミラーが2本の足で立っている所を。
あれだけ素早い蹴りを叩き込んで、倒れてなどいなかった。
ただ今更止まることはできない。
追撃に走ろうとミラーの懐に飛び込む。
その時、頭上からものすごい数のドス黒い色のクナイが降り注いだ。
「嘘だろおい!」
上伊は咄嗟の判断でミラーから離れる。
途中でクナイが装甲をかすった。
それだけで装甲に綺麗な切り口が出来る。
黄色の装甲じゃなければ、頭上からのクナイで全身は限界を留めていなかったかもしれない。
かすった場所は右目のあたりであり、生身に傷はないが切れ目から上伊の右目が見える。
上伊は左目で機械的な映像、右目で裂け目からの現実を見る事になり脳がバグりそうになりながらも必死に考える。
(…俺の速度には普通は追いつかないはず。あの雨で周囲一帯を適当に攻撃したとは言え何故タイミングを合わせられた?)
「あら残念ね。もう少しであなたの体真っ二つに出来たのに」
上伊は再度飛び出す。
土を力強く踏み締め、凄まじい速度でミラーの懐に飛び込み顔面を狙う。
ミラーは対応できないはずだった。
しかしミラーは右拳に力を込めドス黒いグローブを生み出すとそれを飛び込んできた上伊のお腹目掛けて突き刺した。
「ふん!」
力強いこえと共にグローブが上伊の装甲を砕いていく。
上伊の体が水平に飛び、何度もバウンドしながら地面を転がる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
腹部にものすごい激痛が走った。
四つん這いに起き上がり、お腹の右辺りを触る。
殴られた箇所を中心に装甲にヒビが入っている。
そしてそのヒビの隙間から赤黒い血液がポタポタと流れ出していた。
慣れない強烈な痛みに脳が一瞬麻痺しガクンと足の力が抜けて地面に倒れ込む。
「もうボロボロじゃない」
何とか起きあがろうとする上伊を眺めながらゆっくりとミラーは近づいてくる。
「おかしいと思った?あれだけ素早く動くことができて、何で対応できてるんだって。私のもう一つの能力、超感覚は色々応用が効いてね。あなたの目の動き、呼吸、細かい仕草からあなたの行動を少しだけ予測することができるのよ」
上伊の元まで来るとゆっくりとうつ伏せの体をゴロンと足で転がし仰向けにする。
そのまま足をゆっくりと上げる。
その足にドス黒いブーツが生み出される。
「じゃあね。あなた、嫌いじゃないわよ」
上伊の体を踏み潰す。
粉々にする。
その直前で、上伊の装甲は青色になりブーツを両腕を交差させて受け止める。
青い装甲とは言えヒビの入った場所は危ないと判断したからだ。
「まだ…だ…!」
竜と翼竜を相手にしている血斗目掛けて大羅は容赦なく巨大な拳を叩き込む。
避けようが無かった。
いくら装甲と言えど拳に潰されればひとたまりもないだろう。
しかし叩き込む直前、その拳が血斗に当たる前に拳が粉々に砕かれていた。
(何故拳が砕ける⁉︎)
大羅は血斗を見る。
竜も翼竜も粉々に砕かれていた。
血斗の両足が一回り大きくなっているのが分かる。
装甲を展開していた証拠だ。
血斗は両足を展開すると両手で体を支えてブレイクダンスの様に足を振り回していたのだ。
「だが、それを使えば動かなくなるって言うのは知ってんだよ!」
装甲やデバイスの仕様は湖也から聞いていた。
装甲は展開することによって一時的に最大限までパワーを引き出し使うことができるが、代償として展開が終わった後は一定時間動けなくなると言うこと。
再び形作った竜と翼竜が血斗の体目掛けて突っ込んでいく。
血斗は動けないので避けられない…
なんてことはなかった。
血斗は素早く振り返ると、竜の顎を避け翼竜の体の上に乗る。
翼竜の体を蹴って飛び上がり、咄嗟の判断で殴りかかろうとする大羅の拳に突っ込んでいく。
「おらおらどうした?デカブツは攻撃がワンパターンなのが悲しい所だよな!」
拳と拳がぶつかり合い、衝撃波が生み出される。
勢いを失った大羅の拳を血斗は勢いよく蹴り上げた。
上へ跳ねた拳は糸でぶら下がった振り子の様に肩を中心に回転し大羅の顔面に激突する。
血斗は一度アパートの屋上に着地すると再び飛び拳を顔に突っ込んだまま動かなくなっている大羅の体を勢いよく蹴った。
後ろへ体が傾きバランスが崩れ大羅はそのまま倒れてしまう。
ドシィィン!という爆音が響き渡った。
足元に血斗は着地し、
「へっ、時間停止が効かないからなんだ。そんなノロマだと止める必要もないわ」
「な…何故動けるんだ。あいつめ俺を騙していたのか!」
「別にあいつはお前を騙したわげじゃねーよ。俺が強すぎたんだ。経験の量が違うからな」
そこまで聞いて、現状が不利である事を理解しつつも大羅は笑った。
「はははは!やるじゃねーか。やはり俺と殺り合うにはこのぐらい強くねーとな」
その言葉を聞いた血斗はトルボとの戦いを思い出す。
「…どうやら俺は、敵と仲良くなることが多いらしい。お前とも戦ってて楽しいと思ってるんだぜ?」
敵を認めた上で、なお冷たく言い放つ。
「だが戦いを長引かせるのも良くはない。じゃあな」
その言葉を聞いた大羅は思わずお腹の底から笑っていた。
「何がおかしい」
「いや、ちょっと褒めてあげただけですぐに調子に乗るところがなぁ!」
痛い所を突かれて血斗は思わず感情的に大羅にトドメを刺そうとする。
しかし次の瞬間、大羅の姿が消えた。
見えない、聞こえない、気配すら感知できない。
「あ?どこ行ったんだあいつ」
思わずと言った調子で出た血斗の呟きに反応する様に、声のみが聞こえてくる。
「こっちだ間抜け」
「…!」
ドゴッ!と鈍い音が地響きと共に辺り一体に響き渡った。
真横に蹴り飛ばされた。
起き上がりながらそう判断するのに時間がかかり、さらに隙を生んでしまう。
見えない何かに噛みつかれ、宙を舞う。
「クソ!見えないんじゃ対応のしようがねぇじゃねーか!」
力強く噛まれた後、地面に叩きつけられる。
「へっ、どうした。装甲はもうボロボロのようだぞ?」
起き上がった血斗の装甲は潰された影響か凹んでおり噛まれた跡もついている。
「まだ立ち上がるか」
血斗には見えていないが、大羅は今巨人の姿を捨て血斗と同じ装甲を土で形作っている。
その右手に捨てた土を集約させていく。
必死に辺りを警戒している血斗の顔面に向かって全身の力を乗せ思い切り拳を叩き込んだ。
バキィッ!と何かが割れる音が聞こえ血斗の体が水平に飛び住宅街の民家の壁に激突した。
蜘蛛の巣状のヒビを作った後、血斗の体に力が抜けそのまま地面に倒れ込む。
「さぁ、次でトドメと言った所か?」
倒れ込む血斗に向かって大羅は姿を現しゆっくりと近づく。
その時、ガラ…と小さな音が聞こえた。
大羅は目の前の光景を疑った。
あれだけの攻撃を受けながら、血斗はまだ立とうとしている。
生まれたての子鹿みたいに足をプルプルと震わせながら、それでも2本の足でゆっくりと立ち上がる。
顔面の装甲の左半分が割れていた。
割れた部分から血斗の顔が見えている。
頭から血を流しながらそれでも目の前にいる大羅をしっかりと見据えている。
血斗はゆっくりと、しかし力強く言った。
「ま…だだ!」
「ねぇ、もう諦めない?」
上伊に塞がれた足をギチギチと震わせながらミラーは言う。
「君の装甲はもうボロボロ、この足を防ぐくらいしか力も残っていない。なのに何で、君の瞳は諦めていないの」
切れ目から見える上伊の目にはまだ闘志が残っていた。
「お前はもう十分戦ったよ。俺が認めてやる。だからもう力を抜け。楽になれ」
ゆっくりと近づいて来る血斗に向かって、もう警戒する必要はないと言った感じに腰に手を当てながら大羅は言う。
「お前が死ぬのを見届けてから上に加勢に行ってやる。それとも何だ。俺の助けが必要か?」
大羅は割れた顔面の装甲、その奥にある今にも瞑って力が抜けていきそうな程弱々しい目を見る。
必死に腕に力を入れながら上伊は叫んだ。
「何が諦めるだ!まだ負けたと!世界が終わったと決まったわけじゃないだろうが!」
ふらりふらりと力の無い歩き方をしながら血斗は呟いた。
「湖也の戦いの…邪魔はしたくねぇ…お前を行かせるわけにゃ…いかねぇんだよ」
「もう世界は終わりよ。あなた達にとってね。三村湖也はリーダーに敗れ、世界はリーダーの都合の良いように動き始める」
「確かに三村湖也は強かったが、流石にリーダーには勝てない。安心しろ。お前らの勇姿は永遠に記録に残る。これを使ってな」
大羅は親指を使って後ろを示す。
そこには夢境が仕掛けたカメラがあった。
「…ねぇ、何でそこまでして勝とうとするの?何で諦めないの?」
ミラーの言葉を聞いて、上伊はフッと笑った。
ミラーには装甲の切れ目から細めた目が見えているだろう。
「お前、どうして立とうとする?戦おうとするんだ?そんなにフラフラしながらさぁ」
そこで大羅は見た。
大羅の言葉を聞いて血斗は涙をボロボロと流す所を。
そして2人はそれぞれに対して言う。
この戦いにおいて1番大事なことを。
「「分からねぇのか。俺が湖也を信じてるからだよ」」
「…は?」
ミラーは一瞬思考が止まった。
今更何を言っているんだと。
その隙がダメだった。
一瞬力が抜けて浮いた足を見た上伊はその足を跳ね飛ばし、横に転がり距離を取り立ち上がる。
「あいつを信じているから俺だって戦える。あいつが逃げずにみんなを救おうとするから俺もそのために動ける」
「何よそれ。自分の意志で動いていないって事じゃ無い!あいつが戦いをやめたらあんたも辞めるというの⁉︎」
「もちろん俺にも意志ある。でも今の俺たちの大将は湖也だ。俺はあいつの思いを尊重する」
「じゃあその体粉々に砕いてあげる。あんたらの大将は相当傷つくでしょうね」
「もう辞めねーかそんな幼稚な考え。まだ続けると言うなら無理やり止めるぞ」
直後、上伊が動いた。
ミラーは予測を立て、拳にドス黒い物質をグローブのように纏わせる。
目線などから予測した結果目の前に来るはずだった。
しかし次の瞬間、ミラーは背後から衝撃を受け前方に吹き飛ばされる。
何メートルも飛び、校庭の端に立っている木にぶつかる。
休む暇も無く、起き上がった瞬間目の前に上伊が現れる。
「…何で!予測したはずなのに!」
「そう、予測だ。あんたは未来を見てるわけじゃ無い。俺の目線などから予測を立ててるだけ。だったら予測されない動きをすればいいだけ」
上伊は真っ赤な装甲、その右腕を展開する。
力を込める。
装甲のヒビから血が噴き出るが関係ないと言った様子で、
「あんたはいい幹部だったかもしれねーが、こっちの方が上らしい」
「あんたなんかに負けてたまるものか!」
ミラーはドス黒い壁を生み出し自身を守ろうとする。
「すでに勝敗は決してる」
上伊は展開した腕を力一杯突き刺した。
ドッ!と鈍い音がした後、バリバリッ!と割れる音が響いた。
ミラーの壁は砕かれ、顔面に拳が突き刺さる。
爆音が生じた。
上伊がミラーに勝利した。
「そらいい友情だな」
大羅は認めた。
「俺もあんたらを信じられたら良かったかもな」
「今からでも遅くねぇぞ」
ゆっくりと呼吸を整えるように血斗は言う。
「残念。もう遅いんだ。俺達にとってリーダーは絶対だからな。化け物になった時点で寝返ることはできない。寝返っても…な」
大羅は寂しそうな目で血斗の目を見て言った。
その意図を汲み取り血斗は目を逸らす。
蓮真と愛羽。
湖也達の方へ寝返った結果、湖也側の手によって消された2人。
あれにはハデスの思惑が絡んでいたが、遅かれ早かれ結末は同じだったかもしれない。
「だから最後に優しく終わらせてやる。大丈夫、あんたに敬意を表して2人の戦いには手を出したりしないでおくさ」
そう言うと大羅は駆け出した。
血斗の懐まで飛び込み顔面を狙う。
ドゴォッ!と。
衝撃を喰らったのは大羅だった。
大羅が殴る直前、血斗がいち早く動き力強く大羅の顔面を殴り飛ばした。
勢いよく地面に叩き落とされる。
「…まだそんな力が残っていたか」
「当たり前だ。俺は負けない。空と笑顔で過ごしていたいから…湖也なら!そんな未来を見せてくれるんだ!」
仰向けになっている大羅の胸の中心に血斗は拳を叩きつける。
土の装甲にヒビが入り、大羅は肺の機能が一瞬停止したのか物凄く呼吸を早くしながら咳をしている。
追撃しようと足を上げた時、大羅の姿が消えた。
さっきも喰らった見えない一撃。
今度は生ぬるい攻撃などして来ない。
おそらく次の一撃を喰らったら間違いなく終わる。
大羅は声をかける事もしなかった。
そんな事で位置を特定されたら笑い話にもならない。
周りの土をかき集めて巨人になり、その巨大な拳を真上から血斗の脳天目掛けて振り下ろす。
(まずい…何か手は無いのか!)
いつ攻撃が来るか分からない極度の緊張に血斗は最大限に脳を働かせる。
「…一か八か!」
血斗は拳を展開した。
その拳を、地面に向かって振り下ろす。
ドゴォ!と凄まじい音と共に地面にヒビが入り、バキバキ!と割れていく。
半径1キロにもなるクレーターのような大穴が生まれた。
周りの建物は崩れ、地面は抉れる。
それは土で出来た大羅の体も例外ではなかった。
地面を伝った衝撃で土で出来た巨人の体はボロボロに崩れていく。
「馬鹿野郎!こんな無茶あるか!」
思わず叫びながらも大羅は必死に崩れる土を呼び戻し巨人の力を形作る。
だが巨人の体はすぐに出来上がる訳ではない。
「楽しかったぜ。お前との戦い」
ふと、そんな声を聞いて大羅は我に帰る。
焦って一つの能力に集中しすぎたせいかもう一つ能力は完全に切れていた。
竜と翼竜が血斗を襲うが止められない。
翼竜の時間を止めて動けなくすると、その固まった翼竜の体を文鎮のように竜の頭に叩きつける。
動けなくなった竜から目を離し血斗は足に力を込め、勢いよく飛ぶ。
巨人の中心、大羅のいるところ目掛けて。
「ボロボロのお前のどこにそんな力が…」
「そんな特別なものでもねーよ、力の発生源なんか。みんなを守りたいと言う想いだけで十分だ」
「やっぱりお前は無茶苦茶だよ」
「分かってる」
右拳を展開し、力を込める。
巨人の全身にヒビが入っていき、
直後、爆散した。
血斗は大羅に勝利した。




