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もしもこの世界で、あなたと  作者: 白銀
第2章〜校外戦争〜
46/52

第46話  蘇る恨み

1


あれから数日が経った。

世界を滅ぼす計画を立てていた夢境影利に見事勝利し、みんなを守ったヒーロー三村湖也。

彼はその称号を得て街では黄色い歓声が響き渡り、国から感謝状と大量のお金が送られ、未来永劫紗水さんと仲良く暮らしていくのであった…

「ってならないの?」

血斗はそう言うとストローでコーラを勢いよく飲み干した。

ここはファミレス。

反対側の席に座っていた湖也は呆きれを通り越し、かける言葉も見当たらないと言った様子。

とりあえずため息を1回つき、

「なるわけねーだろ。陸が言いそうなことを言うな」

「でも一応あの時の映像が全世界に配信されているわけで、世界を救ったヒーローがいることを認知している。あとは名乗りあげれば現実になりそうだけど」

「俺は誰かに褒められたくてやったわけじゃない。そうやって調子に乗るのは懲り懲りだ。それにあの時も言っただろ」

湖也はそこでコーラを飲み、

「あの時倒せたのはみんなのおかげだって。俺だけがヒーローって訳じゃない」

「なるほどなぁ」

血斗は湖也の言葉を深く受け止めた。

しばらく考えて、パァッと顔が明るくなる。

「だったら俺が名乗り出てもいいって事か!」

「やめとけやめとけ」

そんな湖也の隣では紗水が頭のてっぺんまで真っ赤にしながら頬を手で覆っていた。

「そ、そんな湖也と一緒に暮らしていくなんて…」

「最初のクールな紗水はどこ行ったんだ?」

湖也はめんどくさそうに紗水の方を見る。

「お前ってひょっとしてバカなんじゃ」

「ばっ!バカとは何よ!それが彼女にかける言葉⁉︎」

「あぁそうだ。お前はバカだ。うんざりするほどにな」

「あー言ったわね!言った方がバカなのよ!」

「小学生かまったく」

2人のやり取りを見て血斗は真剣な顔をしながら、

「紗水さんって可愛いな」

言った直後、隣からものすごい気配を感じ血斗は冷や汗を流す。

その方向を見ると、空がニッコリと微笑んでいた。

「ノボリ?浮気は良くないよ?」

空の声を聞いて血斗は首を横に振る。

「本気で受け止めるなよ。ハハハ…」

「って言うか、何で俺たち集まってんの?」

今更言うのも何だけどさと後ろに付け足し、湖也は人数を数える。

ここにいるのは湖也、紗水、血斗、空の4人。

「あれおかしいな。上伊に呼ばれたはずなんだけど」

血斗が頭を掻きながら言った。

確かに湖也達も上伊からの連絡を受けて湖也達は来ていた。

その時だった。

まるで会話を聞かれているのかと言うようなタイミングでファミレスのドアが開き、上伊が入ってきた。

上伊に続くように凛も入ってくる。

「お待たせー」

「やっほー」

「遅いぞお前ら!って何で2人一緒なの?」

「あらやだ失礼。来ちゃまずかった?」

「あぁいや別にまずくはねーけど、唐突だったから驚いただけ」

「ノボリ?」

「他の女との会話すらダメなの⁉︎もう少しセーフライン高くしよ?」

2人が席に座る。

「で、これはどう言う集まりなのか説明してくれ」

湖也は集めた張本人である上伊に訊ねる。

「デバイス持ってるのって俺らだけだろ?これからの戦いにどう立ち向かっていくかと言う話をしようと思ってさ」

その言葉に疑問を持ったのは血斗だ。

「え?夢境を倒して終わりじゃないのか?」

「ま、そこんところからだよなまずは。もう奴らが攻めて来ないのかどうか」

上伊は腕を組んで考える。

手にしたポテトで空中に円を描きながら血斗は湖也に向かって、

「どうなんだ湖也。あいつらから詳しい話は無いのか?」

「あいつらは一時的な協力と言っていた。そして夢境が倒れその協力が終わった今、敵に戻っている。でもあいつらの目的は達成されたはずだ!あいつらのリーダーである花蓮は夢境の撃破を目的に行動していた。それが果たされた今あいつらが暴れるかどうか…」

「まぁ、よく分からないよな」

上伊は今度は顎に手を当てた。

「花蓮に連絡は取れないのか?」

「あれ以降音沙汰なし。何か良からぬことを考えている気がしないでも無いんだよ」

「ま、俺たちこの世界を作った神様を倒しているんだし。何か来ても大丈夫だろ。な、空」

血斗はハンバーグを頬張りながら空に言った。

「う、うん!みんなならきっと大丈夫!」

「あいつらもその神を倒したと言う称号を持ってるんだぞ。協力して倒したんだからな」

上伊が確認をとるように言った。

その横では頬杖をつきながら凛がみんなの話を聞いている。

「ふーん。なんかレイドボスみたいな扱いだね校長って」

「間違ってはいないな」

「とにかく、何か起きたらすぐに対処出来るよう備えた方がいいわね」

紗水が今までの話をまとめ上げるように言う。

湖也は悔しそうに顔を顰める。

「本当は未然に防ぎたいんだがな…奴らの居場所も考えもわからない以上それは難しい…紗水の言う通りにするしかないか…」

それでもあまり納得はいかないと言った様子の湖也。

他に何かいい案はないか考えようとした時だった。

「いーや!別に僕はたいしたことして無いですよー!がはははは!」

店の外から声が聞こえた。

それだけだったら湖也達は気にしないが、キャーキャーと外が騒がしい。

流石におかしいとみんなは思い、会計を済ませ外に出る。

外に出た瞬間、耳を疑うような言葉が飛び込んできた。

「いいやあなたは世界を救ったんですもの!全人類が感謝すべきよ!」

「やっぱりあれは集団幻覚なんかじゃなかったんだ!ヒーローは本当にいたんだ!」

1人の男性に群がって人々がそんなことを言っていた。

湖也の眉毛がピクリと動く。

「あいつなんだ?」

「知らない顔だけど…」

紗水が不安そうに言う。

「あの時鎧を着て夢境とか言う化け物と戦っていたのはあなたなんですね!」

「えーえーそうですとも!みんなの命を守るため!仲間が死のうと必死で戦ってきました!最後に生き残ったのは僕だけですけど、みんなの笑顔が見れるなら仕方のない犠牲かなと、しょうがないのかなと今笑顔で立っていられますよ!がはははは!」

「はぁ⁉︎」

あまりの内容に一瞬感情的に声が出てしまう血斗。

湖也の体もプルプルと震えている。

「ヒーロー!ヒーロー!」

男性の周りに集まる人々は彼の言葉に拍手をしていた。

おそらくしっかりと聞いていないのだろう、ヒーローが目の前にいる興奮だけが人々の体を動かし騒ぎ立てている。

まるで集団催眠にかけられているように、どんどんと騒ぎを聞きつけた人があつまり、彼に声を上げている。

「おい!あいつ俺たちのなりすましをしてとんでもないこと言ってるぞ!」

血斗が止めさせようとした所を、湖也が肩を掴む。

血斗はガバッと振り返り、

「何で⁉︎あいつはお前の称号を使ってるんだぞ!それに、仲間の犠牲をしょうがないで済ました言って、お前あいつの事許せるのかよ!」

上伊も血斗の言葉に賛同する。

「お前がどれだけ仲間達を大切にしてきたか、失うたびにどれだけ悲しい気持ちになったかを俺たちは知ってる。俺も奴を見過ごせない!」

「いや、みんなあいつの言葉を信じちゃってる。今更俺たちが何と言おうがあいつが俺たちを悪者扱いすればみんなは聞く耳持たない」

「証拠だったらあるだろ?」

上伊が腕につけてるデバイスを見せる。

ずっと戦ってきた証だ。

「そうだよ!私だって湖也君達が悪く言われるようになるのはいやだよ!」

空も血斗達に賛成した。

それでも湖也は首を横に張る。

「いいんだ。あんな奴に本気で言い争ってもこっちは得しないさ。適当に言わせておけ」

「そんなんでいいのかよ!」

血斗が叫び返した時だった。

みんなに囲まれていた自称ヒーローの耳に低い男の声が入ってくる。

「おうなんだその言い草は、陸高にはそんなやつもいるのか?」

その声に自称ヒーローは反応した。

「あ?なんだりくこうって、大体俺32だし」

「そりゃ驚いた。じゃあ三村湖也か登血斗の親族さんか何かか?」

ゆっくりと、敵意を見せないような穏やかな声で話しかけてくる。

突然出てきた名前に自称ヒーローは吹き出し、

「なんだその名前⁉︎チート?DQNネーム過ぎねーか⁉︎馬鹿みてぇ!」

次の瞬間、自称ヒーローの体がぶっ飛んだ。

質問した人に殴り飛ばされたのだ。

殴り飛ばした張本人である音坂陽平は自称ヒーローに馬乗りになり胸ぐらを掴んで顔の前まで引き寄せる。

「テメェみてぇな幼稚な野郎が救世主語んじゃねぇ!仲間の事を何も思わねぇ野郎が立っていい土俵じゃねぇんだよ!」

「え?な、何急に」

「お前あの映像に映ってた化け物倒したんだよな?じゃあ俺と殴り合いでもするか?俺は生身の人間なんだ余裕だよな」

「なんだお前!世界を救ってくれたヒーローから離れろ!」

「あんた何でそんな酷いことするの⁉︎」

陽平の行動に周りは驚き自称ヒーローから引き剥がそうとするが、陽平は強めの言葉で一蹴する。

「いいか!こいつは別にヒーローでも何でもねぇ!時の話題に便乗しただけのただのクソガキじみたジジイだ!こいつの言葉を鵜呑みにすんじゃねぇよ!」

「あ、あんた証拠は?」

「まずこいつがヒーローって証拠がねぇだろうが。あの場には三村湖也や登がいた!本当のヒーローならあいつらを知らない訳がねぇ。それにそんな簡単に人の事を笑うやつが他人のために動くことはありえねぇ!分かったかよ!てめぇの器じゃヒーローを扱う事は出来ねぇってこった!理解出来たなら2度とでしゃばんじゃねーぞ。人を騙して変な事を吹き込もうとしたこの社会の屑が!」

説教をしながらボカッ!ボコッ!と顔面を殴り続ける。

痛みと恐怖に耐えきれずとうとう自称ヒーローは泣き出してしまった。

「あーあ泣き出しちまったよ。情けねぇ奴だな」

めんどくさそうな調子で自称ヒーローを眺めると目線を周りにいた人々に移し、

「いいかてめぇら!本当のヒーローはこんな風に仲間を笑ったりしねぇし自分からアピールもしねぇ。分かったらとっとと解散だ!ガゥ!」

自分の所によって来ないようにするためか、最後にみんなに威嚇するような声を出しその場を去っていった。

陽平は血斗達の所へ近づいて行く。

「まったく、このままだったらあんたらの印象最悪になる所だったぞ?」

めんどくさそうに頭をボリボリかきながら陽平は言う。

「あ、ありがとう陽平」

「全く、お前も世界を救ったんだから、もう少しシャキッとしとけ!」

「分かってるよ」

「盛り上がってる中いい?登、そいつは?」

2人が仲良さそうに話している中割って入るのを少し申し訳なさそうに湖也は口を開いた。

「あぁ。こいつは音坂陽平。まーなんつーか俺のライバル的な奴だ」

「お、あんたが三村湖也だな?あの夢境っつー奴を倒したのはあんたなんだろ?もう少し誇ったらどうだ?」

「別に俺が倒したわけではない。みんなの力が無ければ勝てなかったからな」

「そんな謙遜すんなよ。みんな冷めちまうかもしれねーぞ?」

陽平は冗談混じりに笑いながら湖也の背中をバンバン叩いた。

「でも何で俺の名前を知ってるんだ?血斗が教えたのか?」

「いや、俺は言ってねーけど」

「あぁ、なんか通りすがりの女の子が教えてくれたんだよ」

「通りすがりの女の子?」

上伊は眉を顰める。

その言葉に湖也も引っかかっているようだ。

「どんな感じの女の子だった?」

「あぁ、俺たちと同い年くらいの奴だったなぁ。なんか3人友人連れていたけど」

「それって!大羅とミラーじゃない⁉︎」

紗水が思わず叫んだ。

「え?だ、だい…え?」

知らない名前が出てきて陽平は困惑する。

「いや待て、じゃああと1人は誰なんだ?」

湖也は首を傾げる。

「影森なんじゃないかな?」

「いや、あいつは俺が倒した」

「え?そうなの?」

考えても進まなそうだったので、とりあえず陽平に彼女達がいた所へ案内してもらうことにした。


2


空中に浮かぶ土の塊。

まるで巨大な岩石が飛んでいるかのように見えるその上に大羅は立っていた。

空中に佇む謎の物体など下にいる人々からしたらパニックになってもおかしくない状況だが、大羅の能力により気づく人は誰1人いない。

真下にある交差点ではバッグを持ったサラリーマンやスマホを耳に当てている高校生達がいつもと変わらないと言った様子で歩いている。

「いよいよこの時が来たんだな」

両膝を曲げカエルのように座り下に見える風景を見渡しながら呟く。

「あぁ、夢境が倒れこの世界は神がいなくなった。よってこれより、その空いた椅子に座り私がこの世界を支配しよう。奴が作ったこの世界を私の色で染め上げる。これが私の計画の最終目標」

花蓮は土の塊の中央に立って何かを握りしめながら言った。

「そのために大羅とミラーは湖也と協力し夢境を倒す力になってもらった。色々面倒かけたな。ありがとう」

「結局、あの場に俺は必要だったのか謎だけどな」

「いや、間違いなく必要だったよ。おかげで湖也は1段階成長し夢境を倒すことができたんだから。2人がいなかったら1人で無防備ながら突っ込んで散っていたに違いない。そうなれば夢境は誰にも止められなかったさ」

「でも倒して終わりじゃないってのがリーダーの憎悪の強さを感じるよ」

「当たり前さ。文化祭の日、夢境によって改変が起こらなければお父さんはあんな事にならずに済んだ。あの時私のお父さんを人生のどん底に突き落としたんだから。私の家族を壊してくれた原因、奴の作った世界を使ってやろうじゃないか」

花蓮は掴んでいた何かをふわっと真上に投げるとパシッと掴み直す。

それは湖也達が使っているのと同じデバイスだった。


3


陽平に案内され来ていたのは路地裏だった。

路地裏にしてはそこそこ広い幅で、男性5人が並んでも通れるだろう。

壁や地面は汚れておりにドラム缶のようなゴミ箱が立っている。

ダクトから濃い匂いが放出されておりあまり居心地がいいとは言えないような場所に来て、陽平は首を傾げる。

「あれ?さっきここで会ったんだけどなぁ」

「こんな人気の無い所でか?お前普段こんな所通ってるのかよ…」

「あいつらに誘われたんだ!ここであの映像に映っているのが空ちゃんだったことも、夢境を仕留めたのも三村と言うことも聞いた」

周囲を見渡してみるがどこにもいない。

「まだ近くにいるかもしれない。探してみるか?」

血斗がそう提案した。

「そうだな。来た道はいなかったからまっすぐ進めばいるかもしれない」

湖也がそう言った時だった。

ダクトからボォンッ!とものすごい音が鳴り響いた。

突然の轟音に湖也達はびっくりし、急いでその場を離れる。

「何だったんだ今の⁉︎」

「明らかに爆発音だったよな⁉︎」

「もしかしたら花蓮さんが動き出したのかもしれない!表に出てみよう」

「え?ちょっと化け物の戦いに俺を巻き込まないでくれよ⁉︎」

いきなり戦闘になると思ったのか、そんな事を陽平は言うが、何が起きたか気になるためそしてみんなといた方が安全という理由でついていく。

裏路地を抜け、先ほど爆発があったと予測される地点へ向かう。

現場に着くより前に、大勢の悲鳴や逃げ出す人々が大変な事態が起こっている事を知らせてくれた。

そして騒ぎを起こした張本人らしき声も湖也達の耳に入って来る。

「ギャハハハハ!テメェら全員地獄に叩き起こしてくれる!許しを得ようなどするな!いいぞ泣き喚け!その顔をもっと俺に見せろ!」

何かに訴えるように、悲しみを吐き出すように狂ったような声を叫んでいる暴狐は見境なしに次々と物を壊し、人を襲っている。

煙で姿はよくわからないが、その声は大羅でもミラーでも影森でも、花蓮でも無かった。

「おいここまで街中で派手に暴れてるヤツは初めてだぞ!」

湖也は走りながら叫ぶ。

「俺に任せとけ!チャチャっと終わらせてやるよ」

「頼む!」

湖也の声を聞くと血斗はデバイスを起動し装甲を身につける。

即座に暴狐の時間を止め動けなくする。

そのまま血斗がトドメを刺そうとした時、煙が消え暴狐の姿がくっきりと見えた。

四足歩行のその暴狐の体は、丈夫な鱗で出来ていた。

まるで死にたく無いという思いが表れたかのような。

暴狐の姿を見て凛は立ち止まる。

「え…?」

紛れもなく野田の姿だった。

「ちょ、ちょっと!」

凛は何か言おうとしたが、気づかず血斗は右足を展開し暴狐に強烈な蹴りを入れた。

即座に暴狐は爆散。

「あ…」

普段あまり見ない暗い表情をしている凛に隣にいた上伊が気づいた。

「ん?どうかした?」

「う!ううん、私の気のせいだ。たぶん」

凛は必死に見間違いだと自分に言い聞かせる。

野田はあの時死んでおり、もし陸高の生徒が暴狐になったのなら湖也達のデバイスは使えなくなるはずだから。

だからこれは違うと言い聞かせる。

しかし、

「…今の、野田君だった」

抑えることは出来なかった。

ポツリと口に出てしまう。

「間違いない!あの時見たもん!」

「野田ってあの臆病だった奴か?」

装甲をしまったか血斗が近づいてくる。

「あれが野田って、どう言うこと?」

上伊が優しく訊ねる。

凛は今見たのが間違いなく野田である事、彼はみんなが知らない時に暴狐になった事、そしてその時暴狐にやられた事を話した。

「なるほどなぁ。あの時デバイスが使えなかったのはそういうことだったのか…でもそれじゃあ幽霊がいたって事になるな。俺が今倒したのは幽霊だったのか?」

血斗が腕を組んで考えた。

その言葉を聞いて湖也は思い出した。

湖也は一度死んだはずの上伊の姉に会っている。

ただその事は今この場では上伊と湖也以外覚えていない。

湖也は上伊の顔を見る。

上伊も湖也の考えてることに気づいたのか、湖也の目を見て静かに頷いた。

「悪い、ちょっとトイレ行ってくるわ。ここで待ってて」

そう湖也が言い、急いでその場を離れる。

「え?ちょっとこんな時に⁉︎」

紗水は突然の行動に驚き引き止めようとするが湖也は止まることなく走り去っていく。

「じゃ、俺もちょっとトイレに行こうかな」

「あんたもか⁉︎」

上伊の声を聞き陽平も声を上げる。

だが当然上伊も止まらない。


2人は先ほどいた路地裏まで来ていた。

湖也は壁に背を預ける。

「なぁ、さっきの幽霊。お前のお姉さんも関係してると思うか?」

「お姉ちゃんが暴狐を使って何かするとは考えられない…」

「そりゃあ、俺もお前のお姉さんが悪者だなんて言ってないさ」

「でも、関係が無いとは言えないかもしれない」

上伊は俯きながら言う。

悔しさと悲しさが声に表れていた。

「どう言うことだ?」

「あの時気づいているべきだったんだ。お姉ちゃんがこの世界に降りてきた時に、こんな大事なこと」

「おい、なんなんだよ。勿体ぶらずに早く教えてくれ」

「この世界は、死者が蘇る可能性があるってこと」

「はぁ⁉︎」

湖也は驚きのあまり叫び声を出す。

幸いここは路地裏なので誰にも聞こえてないが。

「何?この世界ってそんな常識も覆っちゃうわけ?」

「もうすでにいくつかの常識が覆ってるだろ?夢境がどのように世界を作ったのか知らないが、お姉ちゃんと今回の話を聞いてそう思った。まぁただの憶測に過ぎないが」

「そ…それって…」

湖也は少し複雑な顔をしていた。

湖也は別の事を考えるべきだっただろうが、可能性があるならそっちを優先してしまうと言った感じで、

「天と陸も蘇るのか⁉︎」

「俺には何とも言えない。ただ1つ言えることは。死んだ奴を復活させて悪い事をしようと企んでる奴がいる事。それが花蓮ちゃんであってもおかしくはない」

「てめぇら、まだそんな事で考えてるのか。本当あの女とつるむ奴ってロクなのがいねーな」

突然聞こえたドスの効いた女性の声。

湖也達は警戒し声のした方を向く。

「な!お前…!」

そこにいたのは柳沢火凪(ヤナギサワヒナ)だった。

後ろには彼女の仲間が3人ほど。

文化祭の日、紗水をいじめていた女。

その後の黒木先生の事件が大々的に報じられたので彼女達の事を覚えている人はあまりいないが、湖也達は覚えている。

「まさかお前も生き返ったのか⁉︎」

湖也は混乱して叫んだ。

「バーカ!勝手に死んだ扱いすんな!」

「お前ら、今更何しにきたんだよ」

上伊は警戒していた。

彼女達が何をするつもりなのか微塵も予測できない。

「別に何しに来たってよくな〜い?別にあんたらに危害加える訳じゃないんだし〜」

火凪の隣にいる穂花(ホノカ)がネイルを見せびらかすようにパーにした手を口に当てて言った。

「アタシらはあんたにいい情報をあげようと思ってきたんだが、どうするよ?」

柚子(ユズ)がポケットに手を突っ込んで見下すような様子でそう言った。

これでも一応女である。

「いい情報ってなんだ」

「まぁ待て、まずはこっちの話が先だ。ただであげる訳ないもんね」

火凪は自分のスマホを湖也に向かって投げた。

慌てて湖也はキャッチし、上伊と一緒に画面を覗き込む。

湖也達は息を呑んだ。

そこに写っていたのは影森だったからだ。

「こいつを倒して欲しい。あんただって一度倒し損ねてる相手だろ。決着つけようとは思わないか?」

「お前、何でその事を知ってる?」

「ずっと見てきたんだよ。この前世界中の至る所にモニターが出現しあんたらの勇姿を写したように、割といろんなところにカメラはある。あんたが最初に化け物と戦った時から、ずっと見てた」

火凪は上伊の方を見る。

「だったら、お前らも協力して戦ってくれたって良かったじゃん!それを今更のこのこ出てくんな!」

「ふざけんな。華奢で可愛い女に戦いなんかさせんじゃねーよ」

「言葉遣いが可愛くないんだが」

湖也のツッコミを完全に無視し火凪は湖也を睨みつける。

「影森の件、引き受けてくれるか?」

「事頼む態度じゃねーのは確かだが、影森が何か企んでるならこっちも放っておけねーからな。やってやるよ。なぁ、いいよな上伊」

湖也はくるりと振り向き後ろにいた上伊を見る。

上伊は火凪の話を整理しているようだ。

しばらく考えて、湖也の隣まで来て火凪に訊ねる。

「先にいい情報ってのを教えて貰うことは出来るか?今夢境を倒して一件落着したように見える状態だ。それなのに復活した暴狐が街で暴れてる。全く状況が読めない。どんな情報だって欲しい」

「逆にあんたらの持ってる情報がすくないんだよ」

火凪の後ろに隠れてた香里(カオリ)がひょこっと顔を出しか細い声で言った。

「いいぜ。私が知ってる事全て教えてやる。今から何が起きようとしているか」

「と、その前にだ」

湖也は今にも語ろうとしていた火凪の言葉を遮った。

「おい!今いいところだったのに!」

唐突な湖也の行動に上伊も思わず声が出る。

湖也はガシッと火凪の手首を掴む。

「っ!おい!お前何してんだよ!離せバカ!」

火凪は力を入れて抵抗するが湖也は気に留めず歩き出す。

「俺たち2人だけで聞いてもしょうがないだろ。それにお前は、一度紗水に謝れ」

「はぁ⁉︎何であいつに会わなきゃいけねーんだよ!嫌だ!嫌!」

「どのみちあいつらには表で待たせてるんだ。こんな所で長話していたら悪いだろ」

「確かに、凛達に申し訳ないな」

「火凪!」

穂花が叫んで湖也の手を掴もうとするが、上伊に肩を掴まれビクゥ!と体を硬直させる。

「ほら、君達も行くよ」


「あ、やっと湖也き…ぶふぉ⁉︎」

紗水は信じられない光景に驚き思い切り吹き出した。

「は〜な〜し〜て!嫌だ!」

今ま火凪は湖也に引っ張られていて、あれだけ強気だったのにいつのまにか少し弱気になっている。

「悪い悪い!遅くなって!」

湖也が笑顔で、しかし抵抗する火凪にだんだんイラついたのか頭に血管を浮かばせながら言った。

「ん?こいつら文化祭の日やらかした奴らじゃん。どうしたんだ?」

血斗は冷静に火凪の事を思い出している。

「さっきちょっと会ってさ。紗水に言いたいことがあるんだとよ」

「ぎゃー!無い!無いから!」

「もう手遅れだ。諦めろ」

騒ぐ火凪に上伊は冷たく返す。

わちゃわちゃしている湖也達を指差して血斗は空の方を向き、

「ほら!紗水さんと付き合ってる湖也だって他の女の腕引っ張ってるじゃんか!お前もあれぐらいはオーケーにしとこうぜ?」

「え…そ、そうなのかな…」

「そいつらだよ!さっき路地裏で会ったやつ!」

陽平は火凪を指差して言った。

「え?そうなの?」

陽平と会っていたのが花蓮だと思い込んでいた湖也は肩を落としたが、今は火凪の事だ。

「はい、はっきり言え!」

火凪を紗水の前まで持って行くとポンと背中を押しす。

「な、何よ今更」

「だよな!今更何言っても無駄だよな!誰が謝るってんだ!」

「謝れ」 

ゴーンと後ろから湖也の力強いチョップを頭にくらい火凪は頭を抑える。

「ったー!何すんだ!」

「いいのか?このまま謝らないでいると影森を倒しに行かないぞ?」

「く、くそ!鬼!悪魔!」

「お前のことだろそれは。見ろ!お前があの時紗水をいじめたせいで!」

湖也は紗水の後ろへ回り方をポンと叩くと、

「深いショックで馬鹿になったんだから!前のクールな紗水を返してくれ!」

ガゴン!ボガン!ドスン!

凄まじい音が響き渡り湖也は大量のたんこぶを頭に生やして倒れた。

「バカは湖也よ!少しは言い方を考えてよ!」

紗水は火凪の方を見る。

火凪は紗水の目を見て少し悔しそうな表情をしたが、堪忍したのかぺこりと頭を下げて、

「あの時は多大なご迷惑を与えてすみませんでした」

先ほどまでの態度からは予想もできない程の丁寧な謝罪文を述べた。

「おらお前らもだ」

湖也は上伊に捕まっている穂花、香里、柚子に向かって言う。

「「「すいませんでした」」」

感情のこもってない声で言い頭を下げる。

「確かにあの時は辛かってけどもういいわ。別にあなた達のこと許したわけじゃないけど、今あなたに構ってる暇ないもの。反省したのなら、あなたはそれでいいんじゃない?」

火凪はプルプルと体を振るわせた。

「クソ…」

「後で覚えとけよ…」

柚子が歯を食いしばりながら呟いた。

その言葉を聞いた湖也は紗水の前に出て、

「おっとまた紗水に手を出そうと考えないことだ。あれ以降俺は紗水のボディーガードをやってるんでな。何かしたら容赦しないぞ」

「か弱くかわいい私たちになんて事を…」

穂花は涙目になっていた。

「もう帰りたいな…」

香里は眠たそうにしている。

ひとまず4人の反省文が聞けたので、湖也は腕を組み頷いた。

「これでよし」

「でも何で湖也が柳沢さん達と一緒に」

「ん?あぁこいつら花蓮達の事について何か知ってるって言うから連れてきたんだよ。みんないるし、話してもらおうか」

「がー!もう謝らせたり話させたり人使いが荒すぎる!1対1の等価交換じゃなかったのかよ!」

「いや1つ目はお前が悪いんじゃん」

「教えてくれよ!まだ戦いは続いているのか、終わっているのか…いや、今日のことを見れば終わってねーのは分かるが…とにかく教えてくれよ!」

血斗は一刻も早く状況を知りたいと言った様子だった。

それはみんなも同じ。

みんなから期待の目を向けられて火凪は数歩後退りをするが、はぁとため息をついて口を開いた。

「しゃーねぇ。いいぜ。私が知ってる事全て教えてやる。今から何が起きようとしているか」

「さっきとセリフまんま同じ…」

香里がどうでも良さそうに呟いた。

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