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もしもこの世界で、あなたと  作者: 白銀
第2章〜校外戦争〜
45/52

第45話  必要とされる力

もしヒーローの物語だったら問題だったかもしれない。

笑われていたのかもしれない。

誰かに助けを求めるヒーローがどこにいるかと。

助けに駆けつけるのがヒーローではないかと。

しかしこれはヒーローの物語ではない。

三村湖也と言う1人の少年が様々な化け物に立ち向かっていくような感じの物語である。

1人の少年はその物語を覗く。

例え助けを求めようとも…


1


「助けてくれ!」

もう一度湖也は叫んだ。

湖也の意思をみんなに届けるために。

「助けるよ!みんなで戦おう!そのために俺たちはここに来たんだ!」

上伊は叫び返す。

「なんで観客席にも夢境がいるんだ⁉︎しかも沢山なんか聞いてないぞ!」

亮矢が頭を抱えながら叫ぶ。

血斗と上伊は装甲を身につけて湖也の目の前に飛び降りた。

「全く、ずっと戦ってきたってのに、みずくせぇこと言うなよ。少しは俺たちを信用したらどうだ」

血斗は優しい言葉をかけなかった。

「ごめん。みんなはもう戦えないと思ってたから」

「1人で抱え込んではいけない。俺は校内戦闘以来君達が仲良くしてくれたから今もこうして戦えてる。湖也が教えてくれたんだよ。みんなと一緒に生きていくことがどれだけ素晴らしいものか」

「あぁ。そうだな!もう1人で抱え込むのは辞めた!ありがとう。大切な仲間達!!」

湖也の言葉を聞いて2人は力強く頷く。

その様子を見ていた夢境は震えていた。

驚きによる震えだった。

「君達のデバイスは破壊したはず!何故デバイスが動く⁉︎何故装甲がある⁉︎全く理解できない!」

夢境の言葉を聞いて湖也は納得の様子で2人を交互に指差す。

「確かに、なんで2人とも装甲持ってるの?しかも登のは形が違うし」

「詳しいことは後で話してやるよ」

血斗の言葉を力強く遮るように夢境は叫ぶ。

「いや、問題はそこではない!私には超感覚が備わっていたはずだ!それを使えば君達の動きは完全に分かっていたはず!何故君達の行動が分からなかった⁉︎戦いの中で使えていたから消えた訳ではない!何故能力が弱まっている⁉︎」


モニターで夢境が叫んでいる様子を眺めながら翔士はゲラゲラと大きな声で笑っていた。

「だから言ったじゃねーか。いくらあんたでも人間である以上扱えるものには限りがある。記憶スロットが足りねーんだよ。新しい能力を使おうとすればするほど、既存の能力は薄れていく。もうあんたは超感覚を使うことはできない」

使えなくなっていたのではなく弱まっていたというのが今まで気づかずにいた原因だ。

初めから使えなくなっていたら異変に気付けていたのかもしれない。

もう1つのモニターに目を移す。

「装甲無しで来た奴らも決して無駄ではない。元々夢境が暴走した時用の武器を隠してあるからな。これがあれば必ず勝てるとは言えるものではないが、ある程度は戦えるだろう。場所はあいつが教えたらしいしな」


「ちょっと上伊先輩!登先輩!2人ともそっち行ったら2階の私達どうするんですか⁉︎」

葉種は観客席にいる夢境に怯えながら叫んだ。

「武器があるだろ!それで戦え!」

血斗が叫び返す。

「先輩の鬼!悪魔!ゴミ!」

「ご、ゴミ⁉︎葉種ちゃん⁉︎」

葉種の言葉に驚き空は聞き返す。

そんな2階にいるみんなの手には武器が握られていた。


ー上伊と凛が体育館へ向かう最中の事だった。

「少しいいかしら」

駅へ向かおうとしていた2人の耳に聞き覚えのある声が届く。

紗水の母、河原純恋。

夢境と深く関わっており、湖也達が学校を離れていた時アルバイトとして雇ってくれたり湖也を立ち直らせてくれたりと色々助けてもらっている。

「あんた、何でここに…」

上伊の口から声が漏れた。

「そんな事はどうでもいいの。夢境の話は聞いてる?って聞いてなければ焦ってないか…」

「要件を!俺たち急いでるので!」

「あんた、装甲を持たないのに戦うの?」

純恋は凛を見て言った。

確かに凛のデバイスは完全に破壊されて装甲は使えない。

「生身で向かうのは無謀かもしれないけど、でも湖也君1人だけに世界を背負わせるわけにはいかない。私だって行くよ」

凛の表情は真剣だった。

声も先ほどまでの明るい雰囲気とは違い、少しトーンが低くなっている。

その様子を見た純恋は微笑んだ。

「1人で突っ走った湖也をみんなが助けに行く。いい絆ね。感動したわ」

そこで純恋はポケットに手を突っ込んだ。

取り出したのは折り畳まれた紙である。

「これはあんた達の学校の地図よ。マークしてある場所に行きなさい。夢境に有効な武器が置いてあるはず」

「え⁉︎夢境特効の武器なんてあるの?」

「ゲーム脳だなお前」

上伊は肩を落とす。

「そんな便利なものではないわ。これを使ったからって一瞬で夢境を倒せる訳ではない」

(元々、自身のパラメータをいじった翔士が使う予定だったもの。彼が使わなきゃ真価は発揮されないけれど)

「それでも何もないよりは大分マシになるはずよ。戦う気があるなら、この武器を手に取りなさい」ー


葉種達が持っていたのはどんぐりのように後部の尖ったハンマーのようなものだった。

しかし所々にまるで電気の流れが見えるかのように光の通路が走っており、どこか近未来的なデザインをしている。

「でも、みんなで倒せなかった夢境の分身をこれだけで戦うってのは…」

「グズグズ言ってる暇ねぇぞ!大体お前がみんなを集めたんだろうが!」

亮矢は葉種に激昂する。

「わ、分かってますよー」

その様子を一階から眺めていた湖也は、葉種の持ってるハンマーを指差して、

「ねぇ、俺の分のアレないの?」

「俺達は装甲があるだろ」

血斗が適当に答える。

「でも俺だってアレ使いたい」

「おい!無駄口叩くくらい元気になったなら戦え!」

大羅が湖也の言葉を遮るように叫んだ。

その言葉に反応したのは血斗だ。

「あぁ⁉︎化け物が何偉そうに言ってんだ?いいかお前らは俺たちに手を貸してんだ。お手伝いさんなんだよお前らは!そこんとこ理解してんのか⁉︎」

血斗は大羅に近づき鋭い目つきで脅す。

その言葉に大羅の怒りは沸点を超える。

「んだとゴラ!!お前ら遅れて来てずいぶん態度がデカいじゃねぇか!俺たちが結んでいるのは協力だ!お手伝いじゃねぇ!協力というのはお互いの立場が同じ時に成り立つものだろうが!分かったら『遅れて来て申し訳ありません』って今すぐここで土下座でもしろや!」

「ヒーローは遅れてやってくるものだろうが!」

「かっこいい登場したからって調子乗んな!」

2人がぶつかりそうになるところを上伊は間に入った。

「2人ともこんなとこで言い合いは辞めろよ。大羅君、一緒に戦ってくれてありがとう。絶対に夢境を止めよう」

「ふん、そっちにも色々な奴がいるんだな」

「良かった。丸く収まった…」

湖也が肩を撫で下ろした直後、遠くからズンズンと足音が聞こえるのが聞こえた。

「ちょっとなんなのあんた!適当なこと言ってくれちゃって!馬鹿じゃないの⁉︎それにそっちのあんた!私達の事はさん付けで呼んでもらうわよ!」

「お前はこれ以上話をややこしくするな!!」


「もういいのかな」

ミラー達の騒ぎが収まるのを確認して夢境は口を開いた。

その言葉には呆れの感情が篭っている。

上伊達はどうぞどうぞと譲るように夢境に手を向ける。

「君達は一体何をしに来たのかね。新しい装甲を手に入れたからと言って私に叶うわけがない!」

その言葉に対して血斗は自慢げにチッチッチと指を左右に振る。

「それはどうかな」

その様子を見た大羅が嫌そうな目つきで、

「おうなんだ貴様」

夢境も少し苛ついた様子で、

「君の装甲は少し形が変だが…ただそれだけのことだろう!」

夢境が動き出そうとする。

まずは血斗に狙いを定めたようだ。

しかしその瞬間、夢境の体は止まってピクリとも動かなくなってしまう。

「え?」

声を漏らしたのは湖也だった。

「…なにこれ」

「時間停止なんだと」

平然と血斗は答えた。

「あらえっち」

ミラーが適当に声に出す。

実はトルボが血斗によって撃破されているのを能力で知ってしまっている。

今その事で争っていても無意味だと感じ適当に返したようだ。

しかしミラーのそんな発言もどうでもよくなってしまうほど湖也達は驚愕していた。

いや、驚愕を大きく超えてもはや無感情に近い感覚だ。

「そういやトルボも持ってたっけ。そんな感じの能力」

大羅が1人で呟く。

血斗はトルボから奪ったことを説明しようか悩んだがまたグダグダ言い合いするだけになるので大羅の言葉を無視しつつデバイスに指を置く。

右腕の装甲が展開した。

迷わず固まった夢境目掛けて飛び出し、その腹に右腕を突き刺した。

次の瞬間、ボッコォォン!と大きな爆発が起こる。

それを見ていた湖也達はただただ唖然としていた。

「…これで終わり?」

湖也の口から声が漏れる。

しかし様子が変だ。

本体が消えたはずなのに分身が残っている。

「時間…停止…?馬鹿な…」

分身の1人が口を開く。

観客席に座っている分身の夢境はどこか機械的に熱狂していたが、口を開いた夢境は人間らしく驚きの表情をしている。

「おい、本体倒せば終わりじゃないのかよ」

そう言った血斗は驚いている夢境を睨みつけている。

それに答えたのは上伊だ。

上伊は顎に手を当て考えながら、

「いや、俺がさっき倒した烏の奴は本体を倒せば分身も消えた…」

「そういえば、夢境は俺らの能力をさらに強化して使うんだったか?」

大羅が適当に呟く。

「分身能力の強化?」

湖也が首を傾げる。

「例えば、本体倒しても瞬時に分身にその本体を移せるとか?」

ミラーが手探りに案を出す。

それを聞いてみんなはそんなわけあるはずがないと現実逃避しようとするが、そんな彼らに現実を突き詰めるべく先ほどまで驚いていた夢境は一階までゆっくり飛び降りながら答えた。

「正解だよ。今はこの私が本体だ」

「それってつまり、ここにいる夢境全てが分身であり残機でもあるってことか⁉︎」

血斗が叫び声を上げる。

その血斗に対して夢境はイライラしているようだった。

悪い子を叱る先生のような口調で血斗に問いかける。

「なんだこれは…君は違うと言うのに。時間停止とかいうふざけたもの持ってきて。全く君たちが来てから不可解なことばかり目に映る」

「神であるあんたにも知らない能力があるんだな。そりゃ、こっちにとっちゃ有難いことだ」

血斗は夢境を煽るように言った。

また夢境の体が固まる。

「こうやって一体ずつやっていけばいずれ分身も尽きる!」

しかし体の固まった夢境に迫ろうとしたところを観客席から降り立った夢境が立ち塞がる。

遠くから見ていた湖也達は異変に気づいた。

今降りてきた夢境に対して血斗は何やらモタモタしている。

「登!そいつの時間もさっさと止めてくれー」

湖也からの言葉に血斗は汗を流し振り向いた。

「いや、俺の能力一体にしか使うことができないんだ」

つまり今一人の夢境を止めているので、今来た夢境に使うことは出来ないと言うことである。

「なんだよ使えねぇ奴だな!」

大羅が怒鳴った。

「いや、それでも十分嬉しい!」

「さっすが上伊は優しいな!」

ガハハと笑いながら血斗は上伊の肩をパンパン叩く。

直後、その血斗を潰すような勢いで夢境の拳が飛んだ。

金色のオーラを纏っており見ただけで何故か恐怖を感じるような拳だ。

これだけは喰らってはいけないと脳が直感しているのかもしれない。

「危ない!」

上伊は血斗の前に飛び出した。

ゴキィン!ととてつもない音が炸裂する。

しかし上伊の体は潰れるどころか1ミリも動いていなかった。

湖也達は状況が理解できていなかった。

先ほどまで赤色だった上伊の装甲が青色になったいる。

直後、瞬時に赤色に切り替わり上伊の強烈な一撃が夢境を殴り飛ばした。

爆発の音が鳴り響き湖也達が驚き声を出そうとするが、それを遮るように2階の観客席から叫び声が聞こえてくる。

新しいおもちゃを買ってもらってワクワクしている子供のような声だ。

「おーこのハンマーすげー!」

湖也達がその方向を見ると、亮矢が手に持った武器を振り回しているところだった。

しかし武器が夢境とぶつかる瞬間、普通のハンマーではまず聞くことがないであろうボカァン!と爆発音にも近い音が響き渡った。

原因は武器にある。

機械で出来たその武器は振り回すと後部から真っ赤な炎が噴き出ると言うものだったのだ。

遠心力と炎の噴出の力で打撃の威力を高めているのである。

生身の人間がそんなものを軽々と振り回していいのか不安になるが、破壊力だけは装甲並にあってもおかしくはない。

亮矢は湖也に対して釘付けになっている夢境の分身の1人に真後ろから強烈な一撃を与えた。

「こいつら分身だからか大したことねぇ!」

「本当ですね!」

「これなら!私でも戦えるかも…!」

2階にいる紗水達は分身に対して優位に立ち回っていた。

その様子を見た本体の夢境は1階に降り立ち、焦りと苛つきを混ぜたように歯をギリギリならし、

「私の残機を減らしてもらっては困る…」

直後、先ほどまで機械的な動きをしていた分身がそれぞれ意思を持ったかのように動き始めた。

それぞれ紗水達に対して水や炎等能力を使って応戦している。

しかし分身が自我を持つように行動を始めた途端、本体であるはずの夢境の動きに変化が生じた。

先ほどより動きが鈍くなっているような気がする。

「なんだここに来て体の老化が加速したか?クソジジイめ」

大羅が土で竜を作る。

竜はガバッと大きな口を開くと夢境の体に噛みつき、その醜態を晒し上げるように首を上に持ち上げる。

そこへミラーのドス黒い矢が放たれ夢境の体を貫いた。

また爆発が起こる。

夢境が次々に倒されていく。

「お前らが来てからさっきまでの苦戦が嘘だったかのように突破が楽になったな」

大羅が楽すぎて何かあるんじゃ無いかと警戒するような様子で言った。

その声に血斗は胸を張り、

「だったら俺に感謝しろ!」

「するかボケ」

次の本体が降りて来た。

頭を抱えながら呟いている。

まるでテストで詰まった受験生でも見ているような気分だ。

「何故だ…分身をAI制御にすれば消費資源は加速するが私の五感に干渉することなく動くはず…何故だ…何故分身の五感情報が私になだれ込んでくる…!」


河原純恋は自宅にあるパソコンを操作していた。

「ダメよみんな頑張ってるのにそんなインチキしちゃ。それに資源消費を加速させちゃいつこの世界が壊れるかもわからない。そもそもこの世界をあんたに壊させる気私にだって無いんだし」

そんなふうに独り言を呟いているとモニターの隅に小さいウィンドウが現れた。

「翔士君か…どれどれ…」

そこにはこう書かれている。

『だったらあんたが夢境を消せばいいんじゃないか?』

「いやよ私は男と違って野蛮な戦闘は趣味じゃない。それにここで私が夢境を消しても彼の見たいモノが見れないじゃない?あなたが人の想像力を見て、私が人々絆を見たように、彼にもこの世界で見たいモノがあるんだから、それを邪魔するのはチームメンバーとしてどうかしら」



「おい、肝心の本体がこのザマじゃチェックメイトだな」

血斗がおろおろと狼狽えたある夢境を見て吐き捨てる。

「だが観客席の方が活発になってしまっているぞ。いいのか」

大羅は土の竜を2階の観客席の方まで向かわせる。

「そうだな、あとは俺がやる。みんなは上を頼む」

湖也はそう言ったあと、あっと何かを思い出したかのように声を漏らした。

「どうした?湖也」

上伊が足を止めて湖也の方を向く。

「みんなのおかげで助かった。ありがとう!」

「バーカまだはえーよ」

血斗が軽く返す。

みんなが2階に飛んで行った。

1階には夢境と湖也しかいなくなる。

2階で様々な音が飛び交う中、2人は静かに目線を合わせていた。

「…なんだね」

夢境は湖也は睨みつけ、怒りを静かに吐き出すように呟いた。

「上伊君達が来てから予想外な出来事ばかりが起こる…いや、彼らが君こと自体が予想外だったが…君がみんなを繋ぎまとめ上げたのか」

「俺はそんな大したことないはしてねーよ。俺はリーダーシップなんかないし、別に喧嘩が強いってわけでも無い。だから俺の欠点をみんなで補おうとしただけだ。まさか上伊達が来るとは思わなかったが」

「予想以上に君が成長していたのかもしれない。だが、君1人で私に勝てるとでも思ってるのかね」

「その状態でよく言うよ。ボロボロになりながらなおも神と自分を棚に上げるか」

気の抜けた声で湖也は言った。

夢境の呼吸の間隔が先ほどより短くなっていた。湖也がそれに気づいていれば、夢境が焦っていると勘づいたかもしれない。

2階にいる上伊達の相手をしながら、それでも湖也を真っ直ぐと見据え、

「今だからこそやらなければいけないのだよ。今こそ私が君を殺して世界を破壊しなければ!」

「?」

夢境の言葉に湖也は首を傾げる。

次の瞬間、夢境の周囲を真っ暗な壁が囲った。

それと同時に分身達の動きが少し鈍くなる。

「うそ⁉︎まずい!」

先に声を上げたのはミラーだった。

自分の能力だからこそ、その壁の危険性を熟知している。

そしてミラーじゃなければ阻止出来ない壁である。

もう誰も夢境に干渉することはできない。

ただそれだけでは無い。

「あいつ!壁の中で力を溜めている!死神君の能力だ!」

「死神?」

ミラーの言葉に湖也は反応する。

「それって腕の色が銀やら金やらに変化するやつか?」

「そう!時間をかけて自分の生命力を犠牲にしてとてつもないパワーを生み出す能力なんだけど、銀色の時点で君たちの装甲の防御力など意味がなくなるほどの破壊力を得るの。金やその上の色だとその倍以上だわ」

「確かにあれはめちゃくちゃ痛かった…じゃあそれより上はどうなるんだ!?」

「私にも分からない。それに夢境は私たちの能力を強化して使うことが出来るって話でしょ!?その力がさらに強くなったら…」

「それこそ世界崩壊の力になりうるってことか!?まずいじゃねーか!」

その話を戦いながら聞いてた上伊は手を止めて、

「死神って湖也が2番目に戦ってた奴だよな?あいつって凄い強かったのか…」

手の止まった上伊を狙う夢境の分身を武器を持った亮矢はフルスイングで殴り飛ばす。

「おい!いくらその青い装甲が頑丈だからってよそ見してんじゃねぇぞ!」

「あ、あぁすまんすまん」

「じゃあ、一体どうするんだよ!あいつにもう手を出せねぇんだろ!?」

血斗が分身の時を止めてから叫ぶ。

その固まった分身を空が武器で打ち砕いた。

「ノボリの能力で止めることはできないの?」

「いや、それは無理だろうな」

ドラゴンの姿で空を庇いながら大羅は答える。

「んだとてめぇ!それと空を守るのは俺の仕事だ!」

「いちいち突っかかるな!あの壁の中には能力は通じないって言ってるだけだ!」

「じゃあどうするの⁉︎ここまで来てゲームオーバーは嫌だよ!」

凛が夢境の生み出した氷の壁を壊しながら叫ぶ。

「私だって諦めてませんよ!」

葉種も凛に続くように言った。

やはり武器だけでは敵わないのか、葉種達は少々押され気味だ。上伊達のための隙を作るために立ち回っている。

だがそうしても今世界を壊そうとしている本体をどうかしなければ意味がない。

湖也は覚悟を決めるように拳に力を込めた。

「…俺がやるしか無い…」

「湖也…」

その様子を見た紗水は心配そうだった。

「ちょっと、あんたに何ができるって!」

ミラーが壁で分身の攻撃を防ぎながら叫ぶ。

「この壁を弱らせることができれば、まだ希望はあるはずだ。これは俺にしかできないことだ!」

「ちょっとまたそんなこと言ってるの⁉︎」

「頑張って湖也!」

紗水は観客席から身を乗り出し叫ぶ。

「湖也が世界を守ってくれるって信じてるから!」

その時だった。

天井に設置してある監視カメラの赤いランプが付いたのは…


「せっかくなら湖也君にいい思いして欲しいじゃない?」

純恋はパソコンを操作する。

画面には体育館のカメラの映像が映し出されていた。

右下に小さいウィンドウが現れる。

『そんな無意味な事やって何になる?』

「別に意味は無いけど、ヒーローはヒーローらしくあるべきだしね。これもまた絆の一つかもしれないわよ」

『とんだ茶番だな』


突然駅前のビルの大型ディスプレイに体育館の映像が映し出された。

通行人の内の何人かは何故突然映し出されたか、そこに映ってるものは何か分からず立ち止まってキョトンとしている。

仕事帰りのサラリーマンは目線をディスプレイに固定したまま隣にいた先輩に、

「何かのドラマですかね」

「こんなドラマ見た事ないが…」

近くにいた女子高生がモニターを指差して隣にいた友人に、

「あ、あの画面の端にいるのってあれじゃない?」

「ちょっと何よあれって」

「最近チラッとネットで見たんだけど、人を襲う化け物と戦うヒーローがいるって」

「そう言う撮影じゃないの?」

「いや実際に動画もあるんだって」

その女子高生はスマホを取り出し動画共有サイトに投稿されている動画を友人に見せる。

「確かに…」

「私も最初は信じられなかったんだけど、どう見ても編集には見えないよ」

とその時だった。

放送で女性の声が街中に響いたのは。

それを聞いてる女子高生達やサラリーマン達、またその他の人々は知らないが、その声は河原純恋のものだった。

『今、皆さんがご覧になられているのは、市立大陸高校の体育館の様子です。画面中央に映っている真っ黒の四角い物体は、この世界を今から滅ぼそうとしているイかれた科学者、夢境影利。彼が動き出せばこの世は終わり。跡形もなく消えるでしょう』

彼らは耳を疑った。

唐突に言われても脳が処理しきれない。

「やっぱりドラマなんじゃないですか?今度やるドラマのCM的な…」

「いきなり滅びるって言われてもな…今まで普通に生活してきたのに」

女子高生も危機感の無い声を発している。

「世界を滅ぼす科学者とか古臭い設定今どきはやらないと思う」

「あー言われると作り物としか感じないわ。あんなの無視して早く待ち合わせ場所に行こうよ」


『おそらくこの映像を見て、危機感を感じている人はごくわずかでしょう』

これはどこのご家庭にもある液晶テレビ。

その画面にも体育館の映像が映し出されている。

画面に釘付けになって見ている子供を抱えて心配そうにしている主婦がいる。

その状況を飲み込んだと言うより、いきなりよく分からない映像を映し出されたという恐怖を感じているようだった。


『しかしこれはフィクションではありません。あと数分すれば、夢境は動き出します。そうすれば手の施し用がありません』

田舎に住んでいるおじいちゃんとおばあちゃんもテレビから映し出される映像を見ている。

「なんや。今歌謡曲祭がいいところだったのに」

「最近のテレビは不便ですこと」


しだいにテレビだけでなくパソコンのモニターやスマホの画面にも強制で移され始める。

日本だけじゃなく、世界中の電子媒体から配信されている。

スピーカーからはそれぞれの公用語に翻訳された音声が流れていた。


電気も通っていない小さな国で、畑の雑草を抜いていた少年が指差して叫ぶ。

「ママー、何あれ?」

その言葉に気づいた親が顔を見上げると、空には大型ディスプレイが横に付けられた飛行船が浮遊していた。

全人類がその映像を見ていた。

『そして、夢境を止める為に命をかけて戦っているのは、画面右下に映っている特殊装甲を纏った少年。三村湖也です。この世界の命運は彼にかかっています』


「おい、これってマジなのか?」

と段々半信半疑になり始める人が現れた。

「これ本当のことだよ!だって私本当に怪物にあったもん!あの子に助けられたの!」

と実体験をもとに話を信じる人もいた。

SNS上でその子を擁護する形で信じる人が増えていく。

「お母さん、死んじゃうの?うわぁん!」

泣き叫ぶ子供を抱える親。


湖也は両手を前にいる夢境に向けてかざす。

「頼む!壁が消えればまだなんとかなる!」

全身に力を入れて昨日発現した能力を使おうとする。

しかし、装甲にも壁にも変化は無い。

「無理よ!昨日のは奇跡的に使えただけで!今は何も起きないじゃ無い!」

ミラーが湖也を睨みつけて言った。

しかしその声に負けないように紗水は湖也の耳に声を届ける。

「頑張って湖也!絶対出来るから!」

「ちょっとあんた!そんな応援意味ないわよ!」

「頑張ってーーーー!!!」

上伊達は2階で分身との戦闘を続けている。

みんなが協力して戦っているおかげで観客席を埋め尽くすほどいた分身の数はどんどん減ってきている。

後残るは一階にいる本体。

ここまで強力な力は分身は扱えない。

本体を潰せば阻止出来る。

「きぃぃぃぃえぇぇぇぇろぉぉぉぉ!」

唸るように湖也は叫ぶ。

いつ世界が滅んでもおかしくない状況。

ミラーが諦め目を瞑ろうとしたその時、

『頑張って!』

体育館のスピーカーから声が響いた。

知らない人の声が。

湖也は始めキョトンとしていた。

すっかり体の力も抜けている。

段々スピーカーから響く声の数が多くなっていく。

『頑張れ!』『負けるな!』『世界を救ってくれ!』

『世界の命運はお前にかかってるんだろ⁉︎負けるんじゃねぇぞ!』『お兄ちゃん頑張れー』『そこの少年!絶対勝てる!頑張るんだ!』

次第にごちゃごちゃと何を言っているのか分からないほどに声援が溢れ出してきた。

「これは…」

湖也が声を漏らす。

その言葉に反応するように、スピーカーから聞き慣れた声が響いた。

まだ声援はたくさん響いてるはずなのに、何故かその声だけは明確に聞こえてくる。

『これは世界中の人の応援する声よ。今この状況は全人類が見てる。みんな湖也君がこの世界を救うヒーローだって事を理解してる。みんなが君を応援しているの』

「お母さん⁉︎」

紗水は驚きの声を出す。

「世界中の…みんなが⁉︎」

湖也がハァ…ハァ…と呼吸を整えながら言った。

言葉だけ聞いてもあまり実感が得られない。

「ちょっと俺にも声援ないんすかー」

ぶー垂れたように血斗は言った。

その言葉を隣で聞いた空はニコッと微笑んで、

「頑張れ!」

まるでハートマークが目に見えてくるような甘い声援を血斗に送る。

「かー!やっぱり1番は彼女の声援だよな!」

『あら、世界中の声援は君達にも送られてるのよ?みんながヒーローなんだから』

「そう言われると、ちょっと照れるな。なぁ」

亮矢は頭をかきながら葉種の方を向く。

そのことに気付いた葉種は亮矢の横っ腹に飛び蹴りした。

「ぐぉ⁉︎」

「気持ち悪い顔しないでください」

「理不尽⁉︎」

『さぁ、あなたはどうするの?三村湖也。こんなにも君の活躍を待ってる人がいる。それなのにダメでしたで終わらせていいの?あなたはまだやれるんだから、絶対に夢境を止めなさい』

「凄い言い方厳しくないですか?」

『これは私の声援よ』

こんなにも応援してくれる人がいる。

俺の戦いは無駄ではなかった事を思い知らされる。

世界中の人から応援をされ、逆に重圧を感じることもあるのではないかと考える人もいるかもしれない。

応援されて失敗したらどうなるのかと考える人もいるのかもしれない。

ただ今の湖也なら大丈夫。

みんなからヒーローと認められた少年なら、重圧を感じることはない。

何故なら世界の為に戦うヒーローとは、応援を受ければ受けるだけ力になるものだから。

1人の少年はみんなの想いを受け継ぐ。


「湖也!」

もう一度紗水は湖也を呼ぶ。

湖也が紗水の方を向くと紗水はガシッと拳を握り締め首を縦に振った。

「あぁ、ここまでされたら頑張るしかないよな!」

ビリリ…と装甲に電気が走る。

ドシンと足を構え、手を夢境にかざす。

「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

全身に力を込める。

ビリ…ビリリ…と全身に電気が連続して走る。

「頑張れ湖也!」

上伊の声が湖也の背中を押す。

夢境を囲っていたドス黒い壁が次第に虫に食われた様にポツポツと穴が空き始める。

「いけた!」

その様子を見たミラーが安堵の気持ちを乗せて叫んだ。

段々と穴が大きくなっていき、壁が消失していく。

しかしそこで湖也が見たものは、力を完全に溜め込んで腕が白く光っていた夢境の腕だった。

だが湖也はまだ壁を消すのに集中していて動けない。

「くそ!間に合わねぇ!」

夢境は凄く集中しているようで壁が消えていることに気付いていなかった。

「これで、終わりだぁぁぁ!」

独り言のように言い、その腕を振り下ろそうとする。

終わった。

湖也はそう思った。

しかし、夢境の腕が振り下ろされることはなかった。

ガキィン!と、金属がぶつかる音が響いた。

それが紗水の投げた武器と夢境の腕がぶつかる音だと理解するのに時間がかかった。

「???…?」

夢境は何が起きたか分からず体を固まらせている。

その思考の停止が腕の力を抜き、元の状態へと戻している。

「何故、壁が消えている?」

床に転がっている武器を睨みつけ、

「誰が邪魔をした?」

「俺がずっとあんたの邪魔をしてんだろうが」

はぁとため息が聞こえた。

「うわっとっとっと!」

その声を聞いて夢境と湖也は紗水の方を見る。

初めに2階の手すりに捕まり足を出した後、手を離して飛び降りる形で1階に来ていた。

近くに落ちている武器を拾い、夢境を睨みつけながら湖也の方へ歩く。

「ふざけてんじゃないわよ。あんたが暴狐やら世界崩壊やら問題を引き起こしたせいで湖也がこんな頑張ることになって、私は心配で仕方がなかった!こんなに悩んだり辛い気持ちになったのは初めてよ!全部あんたのせいなんだから!私は許さないわよ!」

「ここは君が出てくる幕では無い!」

夢境は竜の姿になり紗水目掛けて飛び出した。

紗水は決死の覚悟で武器を握りしめる。

ドゴォン!と爆音が鳴った。

しかしそれは夢境が紗水に噛み付いた音では無い。

「紗水に手を出すのは俺が許さない。というかお前を許したことはない!」

ふらつきながら夢境は立ち上がる。

「君はここで終わりだぁ!」

氷の矢が2人目掛けて振り落とされる。

それだけで終わらない。

夢境は竜の口から火を吹き出し、地震が2人の足元を襲い、ピカっと雷が炸裂する。

しかしそれらは2人には当たらなかった。

2人に向けられた攻撃が、だんだんと威力が低下していき、2人に触れる前に消滅してしまっている。

湖也の方を見ると黒い装甲にビリリ…と電流が走っていた。

「ま、まさか…!」

夢境の顔が驚きの表情で固定される。

固まった夢境の懐に潜り込み、顎を狙う形で紗水はハンマーを下から振り上げる。

しかし先ほどの武器までとは違う部分があった。

武器の後方から噴き出す炎、先ほどまでは赤い炎だったのに対して今紗水の使っている武器は青い炎を噴き出している。

当然威力も変わる。

1段階強化されたかつて無いほどの一撃が夢境の顎を襲い、蛇状の体をのけぞらせる。

その武器を振り上げる瞬間も湖也の装甲は電流を走らせていた。

(こ、これが覚醒した三村湖也の力!他人の能力に干渉する力!その強弱を自在にコントロール出来る、この世界の主人としての力か!)

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

夢境は肺を押し潰す勢いで力を込めて叫んだ。

その体が蛇状のドラゴンから巨大な人形へと変化していく。

能力は無意味と悟った今、物理で沈めようと考えたのだろう。

これで終わらせるしか無い。

湖也もこの戦いの終わりが近いことを予感していた。

「紗水、お前は下がってろ」

「え?」

「こいつとの決着は俺だけでつけなければいけない。なんかそんな気がするんだ」

「でも!」

「お前の気持ちもわかる。でももう助けられたからいいんだ。夢境が腕を振り下ろす時、紗水の一撃が無かったら全て終わりだった。ありがとう」

「…分かったわ!私も今のでスッキリしたし。絶対勝ったよね!」

「あぁ!」

湖也は前に出る。

観客席の分身も数が残りわずかとなっていた。

あと数分で終わる。

世界が終わるか、それとも夢境の野望が終わるか。

湖也にかかっている。

「貴様に私が倒せるのかぁ!」

ドヒュン!と勢いよく地面を蹴る音が響き渡る。

今までの老体とは似ても似つかない剛腕を湖也の腹に思い切り突き刺す。

「グボァ!」

体内の空気を全て吐き出すような声と共に湖也の体がぶっ飛びゴン!と体育館の壁でぶつかる。

「大丈夫⁉︎」

紗水が駆け寄ろうとするが、瞬時に湖也は起き上がり、

「そんなものかよ!世界を滅ぼそうとするバケモンの力ってのは!」

今度は湖也が動き出した。

装甲により強化されている身体能力で夢境の懐まで潜り込み、力を込めて引いていた右拳を思い切り夢境の顔面に叩き込む。

ぶっ飛びはしなかったものの、重心をずらされた夢境の巨大はそのまま後ろへと倒れ込んだ。

ドシーン!と地響きが起こる。

「おら立てよ!体はデカくなっても心は老耄のままか⁉︎あぁ⁉︎」

「言うようになったね君も」

倒れ込んだ夢境は起き上がる動作を一旦中止し、腕で体を支え両足で湖也を蹴り飛ばす。

湖也はノーバウンドで両足で壁に横向きに着地し、足をバネのように折り曲げ今の衝撃を吸収し夢境目掛けて勢いよく飛び出した。

「なるほど、君を倒すのに私の計算は間違えてしまったようだ」

「気づくのがおせーよ!」

能力無しの完全な肉弾戦が続く。

ドカン!ボゴ!グシャ!と強烈な打撃音がなん度も響き渡る。

「俺はお前を倒してこの世界を守る!天と約束したし、陸もそれを望んでるはずだ!」

「いいやここで終わらなければならないのだよ!」

「湖也!」

2階から上伊の声が聞こえた。

吹き飛ばされた湖也が声の方向を向くと、

「2階の処理は全て終わった!残りはその本体だけだ!」

その言葉を聞いて2階を見渡す。

2階での戦いを終えた葉種達がこちらを向いて微笑み、親指を立てている。

湖也の最後の背中を押すように。

力強く。

「お前の分身はもういない。後はお前だけだ」

「なら分身を作れば…」

「作れねーよ」

キッパリと湖也は言う。

ビリリ…と装甲を電気が駆け巡る。

直後、現れた分身が質量を持つ前に光の粒になり消えていく。

「だったら君の時間を止めて…」

「あんたはそれ使えねーんだろ?」

記憶スロットが足りず、能力の存在すら知らなかった夢境には時間停止は使えない。

「クソ…」

壁を作ろうとするもミラーならの妨害を受ける。

「同じ失敗は2度としないから!」

悔しい気持ちを押し殺そうと本気で奥歯を噛み締めた夢境の拳が、湖也の顔面にあたる。

「これは君の為でもあるんだぞ!いいのか!私が元の世界に連れ戻してあげようとしているのに!」

力強く踏ん張り倒れるのを阻止した湖也は強い決心とともに夢境の腹をぶん殴る。

「今更そんなこと言って俺の心が揺らぐと思うか!例え陸と天に会えなくても!2人だけじゃない!これまでみんなが守ったこの世界を!俺たちを応援してくれたみんなを!俺が守り抜くって決めたんだからなぁ!」

夢境の体が宙に浮く。

湖也は勢いよく地面を蹴り高く飛ぶ。

「これ使って!」

紗水の声と共に武器が投げられる。

湖也はその武器をキャッチし、振り上げる。

落下ダメージと遠心力と武器のエンジンの力を乗せて夢境の体目掛けて勢いなく振り下ろした。

「今度は逃げるんじゃねぇぞ弱虫。決心した俺たちの気持ちの強さを舐めるな!」

ドゴォォン!と言う爆音と共に夢境の体が地面にとてつもない勢いで叩きつけられる。

夢境は意識が薄れていく中、戦いの前の河原純恋との会話を思い出していた。


『このタイミングで終わらせないと彼が危ないって、あなたの行動はいつも自分勝手すぎるのよ。今回ばかりは賛成出来ないわね』

『だからと言って、邪魔しないでくれよ。これは最後の試験でもあるのだからな。この機を逃せばもう戻れない』

『…1ついいかしら』

『何だ?』

『私達はこの世界で自分の見たいものを観察してきた。翔士君は想像力、私は絆。あなたの見たいものは何?』

『そんなものは最初だから決まっておる』

少しだけ間を空けて夢境は口を開く。

『成長だよ』


「君の成長は素晴らしいものだ…これなら…」

ドッッッガァァァァァァァァァァァン!と凄まじい爆発音が体育館だけでなく山全体に響き渡った。


「勝った…?」

煙が晴れ体育館の中が見えるようになって湖也はあたりを見渡す。

湖也は装甲を外す。

夢境の姿がどこにもない。

この期に及んで逃げたとも考えられない。

湖也の手には手応えだけが残った。

「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!」

湖也は拳を天に掲げ力一杯叫んだ。

世界の崩壊は免れたのだ。

2階にいた上伊達も喜びの叫びを上げたりハイタッチをしたり抱きついたりとそれぞれアクションをとっている。

「ほら!そこのお2人さんも!」

凛は近くにいた大羅とミラーにハイタッチを求める。

しかし2人は仕事を終えたのでさっさと帰りますと言った感じで、

「おい忘れたのか?俺たちの協力関係は夢境を倒すまでだ。その後は敵同士なんだよ」

「あ、そうなの?でも勝てたんだしさ」

「私はあなた達との馴れ合いには興味ないから」

そう言うとミラーは竜の姿になった大羅の背中に乗って帰って行った。

「…あんたは良かったの?」

空を飛びながらミラーは大羅に訊ねる。

「さっきも言ったろ。もう協力関係は終わった。リーダーが待ってる。俺たちには俺たちのやるべき事が残ってる」


「湖也!おめでとう!これで世界は救われたんだよね!」

紗水が叫びながら駆け寄る。

「あぁ、みんなのおかげで倒せた。ありがとう!」

その時、手に持っていた武器が消えた。

その先端から煙のように空気中に溶け込むように消えていったのだ。

「あれ⁉︎なんで消えるんだよ!」

2階にいた凛が思い出したように言う。

「これって夢境特効の武器なんだよね。夢境が消えたから役目を果たして消えたとか?」

「そんなゲームみたいな事あるか?」

上伊が首を傾げる。

「まぁ勝てたからいいじゃねーかよ。俺たち新聞とかに載るんじゃね?」

亮矢はテンション高めで話しかけてくる。

「私は新聞に載るために戦ったわけではありません」

葉種はプイとそっぽを向いて言う。

だがその頬には嬉しさが混ざっているのが見えた。

世界を救った一員になれた事を嬉しく思っているような。

「お前ニヤついてんぞ」

「馬鹿なこと言わないでください!天先輩がここにいてくれたらどれだけ良かったか」

「俺じゃダメなのかよ」

「ダメ」

「難しいな」

その隣では血斗が2階の観客席から1階に飛び降りていた。

夢境が弄っていた機械に近寄りながら、

「結局、これはなんだったんだ?」

「夢境が世界を滅ぼすのに使うって言ってたけど」

湖也が返す。

「でも結局これ使わなくても滅ぼせたんだろ?」

「さぁ、俺にはさっぱり」

血斗は装甲を着け、思い切り機械をぶん殴る。

「ノ、ノボリ⁉︎」

空は飛び降りる勇気が出ず階段を降りて1階まで来たようだ。

「だめだ、どうせこれも頑丈に設定されてる」

「叩いて動いちゃったら…」

「そんな昭和のテレビみたいなことあるか」

「ま、とにかく俺たちも帰ろう。なんか終わったらどっと疲れが押し寄せて来た…」

湖也はヨロヨロとふらつきながら歩く。

あわてて紗水が肩を貸す。

「そうね。お疲れ様、みんなのヒーロー」

「いや、俺はヒーローなんかじゃないよ」

キッパリと湖也は言う。

「ヒーローかどうかは俺の決めることじゃない。俺が戦って平和に暮らせる人がいて、その人達が決めることなんだ」

「だったら、あなたに助けられてる私が決めてもいいんじゃない?」

その言葉に湖也はハッとした。

紗水達みんなに迷惑を掛けないようにと言うことだけを考えていたが、みんなを助けている存在だと考えたことはなかったからだ。

湖也は照れくさそうに微笑み、

「そうだな。でも、だったら紗水や上伊達、応援してくれたみんなもヒーローになるぞ。みんなに俺は救われたからな」

「わ、私はいいわよ」

照れて目線を逸らしながら紗水は言う。

(みんながヒーローだね!)

(なんかそれいい響きだな)

一瞬、天と陸がいた気がして視線を送るが、そこには何もなかった。

激戦を終え、みんな家に帰っていく。


2


「お、おかえりー。神様気分はどうだった?」

パソコンの画面を眺めていた翔士は奥の通路から顔を出した夢境に向かって気さくに話しかける。

「あの武器、君が作ったんだろ?何故あの子達の味方をした!」

「いや、あれを渡したのは純恋さんだし。まぁ作ったのは俺だけどさ」

「君の権限があればすぐにでも消せたはずだろ!それなのに全員分まで揃えおって!あれが無ければまだ幾分時間稼ぎもできて勝てる可能性もあったと言うのに!」

「そう喚くなよガキかあんた」

その言葉を聞いて夢境は頭の血が沸騰するかと思った。

翔士の胸ぐらを掴み壁に押し当てる。

「いいか。あのタイミングが絶好のチャンスだったのだ!ここで湖也君をこの世界へ連れ戻す必要があった!」

「でも最後考え改めてたじゃねーか」

「それはあくまで結果論だ!戦闘の末湖也君の戦闘が見えたからひとまず様子見としたが、ここで連れ去るのが最善なのはかわらない!」

「あんた、いつから自分がヒーローだと勘違いしてんだ?」

壁へ押し付ける夢境の力を跳ね返すように翔士は1歩前へ出る。

「いいか俺たちはただの科学者だ。あの世界ではただ観察をしていたにすぎない。あんたもそうだろ。だったら黙って今後の展開を観察しておこうじゃないか。結果が出ればそれを次へフィードバックすればいい」

「…」

まだ何か言い足りないといった感じの夢境だが、とうとう諦め手を離してしまった。

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