第44話 神への反逆
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時刻は6時。
大羅とミラーと湖也は夢境影利が待ち構える高校の体育館へ向かっていた。
何を考えているのか夢境は夜7時に世界を滅ぼすというのだ。
「おい、何で俺をこき使うんだ!」
「だってこれが1番楽じゃん」
大羅は湖也とミラーを乗せて空を飛んでいた。
「それにお前のもう一つの能力で下の人達には分からないし。本当都合がいいなお前」
「お前夢境倒し終わったらすぐに潰してやる…」
「昨日負ただろ?」
「クソが、今度は負けねぇって言ってんだよ!」
ミラーはため息をつきながら下を眺めていた。
「はぁ、なんかめんどくさくなってきちゃった」
「おいおいそちらの方は何を言ってるので?」
ごちゃごちゃ言う大羅をほったらかしにして湖也はミラーの方へ顔を向ける。
「というか花蓮はどこ行ったんだよ。お前の能力で分かるだろ?」
「あんたには教えなーい」
「何でだよ⁉︎」
「私たちは夢境を倒すために協力してるの。別にこっちの問題を話す必要ないでしょ」
「でもあいつも協力者だろ⁉︎何で来ないんだよ!」
「あのね。リーダーはただの人間ってこと知ってるでしょ?生身でどうやって立ち向かえっての。だったらあんたのお仲間呼べばいいでしょ?」
「う…それはごもっとも」
「おい、そんな事はどうでもいいが本当にあんな作戦で夢境倒せんのかよ」
「正直怪しい。けど掛けるしかない!」
ー数時間前
キャンピングカーにて。
「では今から作戦会議を始める」
「あ?何勝手に始めようとしてんだ」
「嫌よあんたの考えた作戦なんて。どうせ私たちを捨て駒にするんでしょ。べーだ!」
「これから一緒に考えようって言ってるの!何のための会議だよ」
「じゃあ作戦その1、お前が囮になって殺されろ。大丈夫俺ら2人で何とかしてやる」
「なんで俺が死ぬ前提なの⁉︎もっと他の奴は!」
「じゃあ私から、もうこの世界なんていらないから終わりまでパーと楽しみましょ」
「何故その案が通ると思ったのかな…俺たちは夢境を止めるために…」
「あ、でもこの作戦リーダーが怒るかも」
「人の話を聞け!お前は何ゲームしだすんだ!蓮真の奴だろそれ!」
「おうお前もやるか?」
「やらねぇよ!」ー
「はぁ、なんで戦う前から疲れなきゃいけないんだよ本当」
「人に乗っといてよく言うぜ」
「ホントホント」
「お前が1番何もしてないんだけどな」
緊張感の無い空気のまま体育館へ向かう。
体育館の前まで来た。
「おっしじゃあ行くか。世界を救いに!」
「どうだミラーさん。扉の奥にあいつはいるか?」
「いる。強い気配を感じる。それに何この沢山の気配…」
「沢山の気配?」
「どうでもいいけどミラーさんって違和感あるなー」
「だって呼び捨てすると怒られるから」
「気をつけて、多分あいつの分身」
「「は?」」
湖也と大羅は思わず声が出た。
「多分ってなんだよ。お前能力で体育館の中分かるんじゃないのか?」
「あいつの能力が強すぎて正確に姿を感じ取る事は出来ない…ただ、数えきれないほどの気配を感じるのは確か」
「おいおいどうなってんだよ。敵は1人じゃねーのか⁉︎」
「1人でも倒すのが困難なのに…でも、やるしかない!入ったらすぐ実行!作戦1を開始する!」
「あぁ」「うん」
湖也はバァン!と勢いよく扉を開けた。
目を疑った。
体育館に入って最初に目に入ったのは奥にある巨大な機械と異形な姿をした夢境影利。
そして次に目に入ったのは、2階の観客席に一席欠けることなく座っている大量の夢境の分身。
わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!と歓声が響き渡る。
「あ?なんなんだこいつら」
大羅がキョロキョロ見渡して呟く。
「周りに気を取られてる場合じゃない。とりあえず動いて」
「あーはいはい」
大羅の返事を聞いて湖也はゆっくりとコートを歩く。
機械に向かって作業をしていた夢境だが、湖也の気配を感じ取りゆっくりと振り向いた。
「やぁ湖也君。君なら来てくれると思ったよ」
「当たり前だろ。お前にこの世界は壊させない」
「君の事だから無謀にも1人で挑んでくると思ったが、少しは成長したのかね。まさか敵である大羅君とミラー君を連れてくるとは。だが残念、君達に私は倒せない」
「ずいぶん趣味悪いな。自分の分身で観客席を賑わせるとか」
「安心したまえ、ただの観客ではない。もしもの時の戦闘員だよ」
「それを聞いて安心する方がおかしいって。後ろの奴が世界を壊す装置か?」
「そうとも。神である私でさえも作るのに少々時間がかかってしまってね」
「いつまで神名乗ってるんだ!今から倒されるくせに!」
「おぉ!まだ勝てる自信があるというのかい」
湖也は装甲を付けた。
真っ黒な装甲が湖也をの体を包み込む。
そのまま夢境目掛けて突っ込んだ。
「ずいぶん単純で逆に怖いね」
夢境が真っ黒な壁を作り守ろうとした。
しかし、壁は作られなかった。
いや、一瞬作られたがすぐに消えてしまったのだ。
瞬時にそれはミラーの妨害によるものだと察した夢境は真横まで来ていたミラーに手を出そうとする。
次の瞬間、地面から土の竜が飛び出した。
夢境の首を狙って飛び出す。
「小賢しい事をする」
夢境が瞬間移動をしようとした瞬間、今度は地震が起こった。
大羅が地面を揺らした。
ガガガガガガ!と大きな音と共に地面が揺れる。
唐突の地震に夢境の反応が遅れた。
大羅の竜の首を湖也が一気に突っ込む。
もう一度壁を張ろうとするがまたすぐに消えてしまう。
「作戦は上手く行ってる!」
大羅が叫んだ。
「よし!」
湖也は右腕を展開する。
「こんなものかい」
ドゴォン!と大きな音と観客席の歓声が体育館に響いた。
湖也の拳と大羅の竜の首が確実に当たった。
「ふぅ。やったか」
大羅は額の汗を拭きながら息を吐く。
「馬鹿!そんなこと言うな!」
「…まだよ」
夢境は湖也の背後にいた。
急いで湖也は距離を取る。
「私が壁を作ろうとした時、私よりひと足先に同じ場所にミラー君が壁を作ったのかい。ミラー君に妨害されて私の壁は作れず、すぐに自分の作った壁を無くすことで味方の妨害にもならない」
「これくらいしかこの壁の対処方法はないからね」
ミラーが髪をいじりながら言った。
「そして地震で意識を妨げて瞬間移動を封じる。あとは君たちの攻撃をあてるだけ」
「まぁ、この2つさえ封じればある程度は戦えるだろう」
「考えが単純すぎる。神も舐められたものだな」
「まだ言ってやがる」
「今の君は動く事出来ないだろう?」
「ミラーさん大羅頼む」
湖也の情けない声に2人はため息ついた。
「そういや必殺技使ったら一定時間固まるんだっけ」
「めんどくせぇなぁ」
次の瞬間、ミラーと大羅の頭上に無数の氷の矢が出現した。
ドドドドッ!と降り注ぐ矢を2人は能力でガードする。
その隙に夢境は拳に力を入れて湖也に急接近した。
拳がギンッ!と銀色に変化した。
「あの能力は…」
湖也はゆっくりと思い出す。
「2番目に戦ったやつのか!」
ギンッ!と今度は金色に変化した。
「まずい!」
夢境が金色の拳で殴ろうとした瞬間、土の巨人が夢境の背後を襲う。
夢境は巨人の間に巨大な木を生やし身を守る。
だが一瞬の隙は作れた。
その隙を逃さないように大羅は土の竜を生み出し動けない湖也に向かわせる。
噛みつき、遠くへ運ぼうとするが、夢境の金の拳が竜の首に当たった。
ドガァン!と大きな音が鳴り響き土の竜は崩れて湖也は放り出される。
「ぐぇっ!もう少し人の体を丁寧に扱えよ!」
「うるせぇ!これしか方法なかったろ!」
「まだ私にダメージを与えられていないようだが…」
「くそっ作戦2!」
「それしかねーな」
「ちょっとそれ私が嫌なやつじゃ無い!」
「大丈夫俺もいやだ!」
「じゃあ辞めようよ!」
体が動けるようになった湖也はミラーの元へ走った。
同時に大羅もミラーの元へ向かう。
「一点に集まって大丈夫かい?」
「うるせぇ己の心配でもしやがれ!」
大羅は怒鳴った。
「おー怖い怖い」
ミラーは3人を囲うように壁を生成した。
ミラーの能力によって作られた豆腐のような建物に夢境は困惑する。
「閉じこもってどうしたんだい?何もしないならこのまま世界の終わりを見届けたまえ」
夢境が機械の元へ向かおうとすると湖也達の声が聞こえた。
湖也達は壁の中で土に押しつぶされそうになっていた。
「急いで!夢境が機械へ向かってる!」
「もっと土をこの中へ!」
「無理だもう入らねぇ!夢境の場所は?」
「そっから真っ直ぐ!」
「そこの壁を無くせ!」
「わかった!」
ミラーは壁の一部分を解除した。
その瞬間、壁の中で圧縮していた土がそこから夢境目掛けて鉄砲のように勢いよく流れ出す。
しかし次の瞬間夢境の姿は消えた。
「君が壁の中から超感覚で私の行動を追えてたように、私も君たちが何をしようとしていたのかわかっていた。とんだ茶番劇だな」
次の瞬間、地面から凄い衝撃が生まれた。
まるでマグマの吹き出ない噴火とでも言ったような感じで、地面が膨れ上がる。
「まずい!ミラー壁消して!」
「ミラーさんでしょ!」
「おいミラー!壁消せ!」
ミラーが壁を消した瞬間、ボゴォン!と地面が破裂した。
「「「うわぁぁぁぁ!」」」
強い衝撃によって3人は空中に放り投げられる。
観客席から1人の夢境が飛び降りた。
そのまま巨大な大剣に変わり夢境が掴む。
空中にいる3人目掛けて振り下ろした。
「大羅!」
「わかってら!」
地面から土の巨人が現れガキン!と夢境の大剣を跳ね除ける。
巨人が3人を掴み地面に下ろした。
「俺は巨人で夢境と戦う!お前は機械の方へ!」
大羅は巨人の中に入りながら叫んだ。
「あぁ!」
湖也は機械に向かって走る。
「全く、余計な事を…」
夢境が湖也のところへ行こうとするが
「お前の相手は俺だ!」
大羅が夢境の体を引っ張る。
しかし、夢境の体は煙の様に消える。
次の瞬間、大羅の土の体にドス黒い矢が何本も刺さった。
「うぉっ…!」
「あ!ごめん!」
ミラーが夢境目掛けて打ったものだった。
「夢境狙ったのに!本当ごめん!」
「あぁ、お前が仲間を狙わない事くらい分かってる。本体に当たらなくて良かった。それよりあいつは?」
「あそこ!」
大羅は迷わず体を竜に変形させ体をミラーが指差した方向に飛び出した。
「え⁉︎大羅!なんで俺目掛けて…!」
突然向かってくる大羅に湖也は驚きの声あげる。
しかし竜の牙が湖也の当たることはない。
「ぐふ…!油断してしまったようだ」
透明になり湖也を狙っていた夢境の体に噛み付いた。
「よし!掴んだ!」
「君は湖也君の敵だろう。何故湖也君に協力しているのかい?」
「うるせぇ!ただの利害の一致だ!俺らだってお前なんか消し去りてぇんだよ!」
「私はみんなから嫌われているのか…悲しいねぇ」
「嘘つけ!」
「アンタは私達の事見下してるんでしょ⁉︎自分で作った世界の住人だって!」
「お前をぶっ倒してもこの世界がぶっ壊れたりしねぇよなぁ⁉︎」
また夢境の体はフワッと煙の様に消える。
入り口付近に姿を現した。
「安心したまえ。私を倒してもこの世界は無くならない。第一君たちでは私に勝てない」
「何なんだこの機械…」
湖也は夢境が整備していた巨大な機械を眺める。
「これはもう動いているのか?どうすれば壊せる?」
とりあえず勢いよく殴ってみる。
「うおおおおぉぉぉぉぉ!」
ゴン!と鈍い音が響き渡る。
しかし機械はビクともしない。
ガン!ガン!と殴り続ける湖也の隣に夢境は現れた。
「気が速いのぉ君は。まだその機械は起動してないわ」
夢境は体の中からチップを取り出した。
「これがこの世界の情報を詰め込んだチップだ。これを入れれば機械は作動し、もう止められなくなる」
再び夢境の体の中に埋め込む。
「つまり私がこの世界を壊すトリガーとなっているのだ!世界を守りたければ私を倒してみろ!三村湖也!」
夢境は右腕を引き力を入れる。
ガキン!と拳に氷を纏わせる。
「臨む所だ!そのために俺はここに来たんだからなぁ!」
湖也も拳に力を入れる。
2人の拳がぶつかる。
ゴン!と鈍い音だけでなくドッパァン!と強烈な衝撃波までもが響き渡った。
「お前を倒して世界を守る!」
湖也は一旦離れて距離を取り、助走をつけて一気に飛び上がる。
お腹目掛けて飛び込もうとするが、突然突風が吹き荒れ、横から殴られたかの様に飛ばされてガン!と壁にぶつかる。
「風に氷に噴火に…本当に何でもありかよ」
「避けろ!三村ぁ!」
「⁉︎」
大羅の声に湖也は焦って横に飛ぶ。
ピシャ!ドゴォン!とさっきまでいた場所に雷が落ち、轟音が鳴り響いた。
「質量でぶっ潰す!」
翼竜の姿になり飛んだ大羅は夢境の真上に来ると土の巨人に姿を変えそのまま落下した。
しかし瞬間移動で夢境はそこから消え、ドシン!という音だけが響く。
「クソ!どこ行った!」
「いやぁ!」
ミラーの悲鳴を聞いて2人は振り向く。
夢境はミラーの背後にいた。
「まずは1人目…」
「世話の焼けるやつだ…!」
夢境の拳がミラーの体を貫こうとした時、ボコッと地面が膨れ上がった。
そのまま巨人の体になり、体で拳を受け止める。
ボゴォッ!と大きな音がなり体が砕ける。
その破片がミラーに向かって飛び散った。
「きゃあ!」
ガラガラ…と瓦礫の下敷きになる。
「ミラーさん!」
「おいミラー!」
2人が駆け寄ろうとするとボコッ!と瓦礫の山の中から手が飛び出してミラーが這い出てきた。
「嘘だろ⁉︎生身で瓦礫埋まって生きてられるの⁉︎」
「うるさいわね!こう見えて私暴狐の姿なのよ!生身より耐久力あるわよ」
「え!そうなのか!」
ミラーは平気な顔して立とうとするが、上手く足に力が入らずガクッと跪いてしまう。
「おいやっぱりキツそうじゃん!」
「他人の心配しとる場合か?」
湖也が振り向くとそこには巨大な剣を持った夢境がいた。
「大羅ミラーを連れて逃げろ!」
「え⁉︎」
「距離取るだけでいい!」
大羅はミラーを抱える。
「うお、お前重いな」
「…言うな」
苦しそうな表情で一言言うとそのまま眠りについた。
ミラーを抱えて大羅はその場を離れる。
「惜しかったよ。1人でここに来るなんて馬鹿な考えをしなかったことには感心した。だがもうここまでだ。君を殺して私は世界を滅亡させる」
「俺は死なねぇしお前はここで終わりだ!」
「…?何をしようと言うのかい?」
「どーせお前の事だ全てわかってんだろ!」
湖也は夢境に向かって手を掲げる。
その様子を見た大羅が叫んだ。
「お前!出来るなら最初からやれよ!」
「出来るかどうかは分からない!でももうこれくらいしか方法はない!」
(昨日の大羅との戦いでやった、相手の能力の弱体化!あれを夢境に出来れば…!)
「うぉぉぉぉぉ…」
うめき声の様な小さな声が湖也の口から出る。
しかし夢境に何の変化もない。
「クソ!昨日は何であんなことが出来たんだ!」
「君は何を言っているのかい?ふざけるならもう終わりたまえ」
「ふざけてなんか…」
「よろしい。ならば君に試練を1つ与えよう」
「…⁉︎」
次の瞬間、湖也は公園にいた。
「あれ⁉︎今俺あの体育館で夢境と戦ってて…」
「君相手だと鷲羽君の能力も存分に扱える」
夢境が湖也の隣に立つ。
気づけば湖也の装甲は外れており、夢境も人間の姿になっていた。
「どうなってるんだ⁉︎お前、何をしたんだ!」
「今私たちがいるここは私が君を中心に別の領域に再構成した世界だ」
「なんだそれ!世界を壊して作り変えたってことか⁉︎」
「安心したまえ、まだ世界は終わってはいない。これは簡単に言うならば現実で見ている夢みたいなものだ」
「幻覚みたいなもんか」
「それとは違うな」
砂場で遊んでいる2人の子供がいる。
2人とも仲良さそうで笑顔ではしゃぎながら遊んでいる。
「なんか、懐かしく感じる風景だな」
「実に楽しそうに見えるだろう?」
「あぁ、だがそれがどうしたんだよ」
「遊びの内容をよく見たまえ」
「内容ってただの砂遊び…」
そこで湖也は目を疑った。
作った砂の山を1人の子供がもう1人に思い切りぶっかけていた。
それでもかけられた子供は笑っている。
砂場の砂に水をかけ、泥団子を作りぶつける。
服は汚れるが、それでも笑っていた。
「おいおい、辞めさせるべきなんじゃないか?」
「何故、2人とも楽しそうだよ?」
「何故って!あれじゃ一方的にいじめてるだけだろ!」
「あれは若者の中ではいじりというものじゃないのか?」
「はぁ⁉︎」
「ほれ、友達が集まってきたぞ」
湖也が注目すると泥や砂で服が汚れた子供の元に3人くらいの子供が駆け寄ってきた。
みんなで対等に遊んでいる様に見えて1人の子供を笑い汚しているだけだ。
汚れた子供は笑いながら弱々しく手でガードをする。
「おいおいおい、マジでやべーって!」
湖也が駆け寄ろうとした時、
「近づかないで!」
汚れた子供が叫んだ。
(え…?)
一瞬戸惑ったが、それは周りの子供に発した声だと解釈し再び駆け寄る。
しかし、また叫び声が聞こえた。
「来ないで!お兄さん!」
「あいつ、何で…」
湖也の足が完全に止まる。
「僕は楽しいから…みんなで仲良く遊んでるだけだから…」
「との事だ。そっとしておこうじゃないか」
「お前、今はただの神様気取りかもしれないけど一度は学校の校長したろ?何故ほっとけるんだよ!こんなもの見せて俺にどうしろってんだ!」
「もし君があの子の立場ならどうする?」
「みんなと戦う」
「1人でかい?」
「そうだ」
その答えを聞いて夢境は深いため息をついた。
「少々、遊ばせすぎたのかもしれないな」
「遊んじゃなんかいねぇよ。俺は逃げたりしねぇ」
そう言うと湖也は歩き出した。
汚れた子供の元へ。
「来るな!」
叫ばれても足を止めない。
「なんでお前はそんなに強がるんだ?」
「強がりじゃないもん!本当に楽しいと思ってるもん!」
「嘘つくな。俺はお前と似た様な事があったから、俺には分かる。辛い事が沢山あるはずだ」
「それでも!みんなといたいんだよ!嫌だと言ってみんなが離れたら僕はひとりぼっちになっちゃうから!それだけは嫌だ!」
「だったら戦え」
「え?」
「きちんと自分の意思を示すんだ。『俺は弱くない。俺にだって意思はある。俺の心はここにある』と、相手としっかり戦って自分の居場所を勝ち取れ」
湖也は子供の胸を拳でポンと叩き言った。
「…うん!」
汚れた子供はいじめっ子達と話し始めた。
汚れた子供は一生懸命思いを伝える。
その様子を見た湖也はほっとする。
しかし次の瞬間、信じられない事が起こった。
いじめっ子達は化け物になったのだ。
「は?」
突然の出来事に湖也は声を漏らすことしかできなかった。
背の高い真っ黒な化け物になったいじめっ子達は手を鎌状に変形させ汚れた子供に向かって振り下ろす。
「危ない!!」
湖也が飛び出し汚れた子供を抱えて避けた。
「なんだこいつら!暴狐なのか⁉︎」
「ほら、やっぱり1人じゃ何もできないじゃないか。人間はね、助け合っていかなきゃ駄目なのだよ。1人ではなにもできない。そもそもの話、君が介入した時点でその少年は1人で問題解決できていないじゃないか」
「うるせぇ!俺はただ解決策を教えていただけだ!暴狐になるとは思わないじゃん!」
「さてここからが試練だ。君にこの化け物達を倒す権利をあげよう。しかしそれじゃあ君の掲げた理念に反してしまう。その少年の手助けをするかしないか。その少年が心の底からの笑顔を見せる様になったらこの世界から出してあげよう」
「お前は俺に何をやらせたいんだ…」
「グズグズ言ってる暇は無いぞ」
「お兄さん達何を言ってるの?」
汚れた少年は困惑していた。
「いいか小僧、こいつらは決して怖い存在じゃ無いんだ」
汚れた少年と少年に向かって必死に話しかける湖也、2人に向かってゆっくりと怪物は足を動かしていた。
「お兄さん何あれ…みんなどうしちゃったの?」
「俺だってよく分からない」
「怖いよ!逃げようよ!」
「逃げるな!」
湖也は力強く叫んだ。
「小僧よく聞け、こいつらはお前をビビらせようと姿を化け物に変えてるだけだ。お前が強い心を持てば絶対大丈夫」
「嫌だよ!無理だよ!助けてよ!」
少年は泣きそうになりながら叫んだ。
心の底から出た声に湖也はハッとする。
「僕、強くなんかないよ。1人で戦うなんて無理なんだよ!!助けてよ!言葉であーしろこーしろ言わないで!お兄ちゃんは何者なの⁉︎」
ブレーキの効かない、溢れ出す感情を一気にぶつけてきた。
「お兄ちゃんなら助けてくれるよね⁉︎もう学校でいじめられたり悲しくて泣いたりすることなくなるよね⁉︎お兄ちゃんが嘘つくなって言ったから僕全部言ったよ!だからどうにかしてよ!」
湖也はしばらく固まっていた。
困惑していたわけではない。
むしろ凄いと感じていた。
俺には出来なかった事をこの子はきちんと出来た。
助けを求める、人に頼れる事が出来ていた。
湖也は深く考える。
人に頼る事を全くしてこなかった訳ではない。
しかしここ最近はずっと1人で突っ走っていた。
誰にも迷惑を掛けたくない、みんなはもう戦えないからと。
大羅とミラーについては頼っているように見えるが、これも実際は2人を道具のように扱っているだけなのかもしれない。
そもそもの話、2人は敵である訳だし心の底から信頼することはできない。
「お前、凄いじゃねーか。ちゃんと自分の気持ちを吐く事が出来た」
「お兄ちゃんが教えてくれたんだよ。ありがとう」
「あはは、感謝されるほどの人間なんだかな俺は」
「?」
(もしも人に頼っていいのなら…でもあいつだけは、紗水だけは巻き込みたくないな…)
「うっし。俺がこいつらをぶっ倒してやる。後はお前がなんとかしろ。俺だってやれる事には限りがあるからな」
「うん!」
湖也は装甲を付けた。
迫り来る化け物を次々と倒していく。
こんな化け物、大羅やミラーなど今までに戦ったやつに比べたら強くはない。
ドサドサ…と湖也にやられ化け物達は倒れ、段々と光の粒になって消えていく。
「お兄ちゃん強いね!」
汚れた少年は笑顔を浮かべて言った。
砂場で遊んでいた時のような虚偽の笑顔ではなく、心の底からの笑顔だった。
その顔を見て湖也はどこか寂しげな表情をする。
夢境の言った通りであれば、元の世界へ帰る合図という事だ。
「もしもこの世界でお前と一緒に成長していけたら、充実した人生を送れているだろうな」
「え?」
少年は首を傾げる。
「僕、お兄さんみたいになるから!」
少年は目を輝かせていた。
「俺もお前みたいになるよ」
「お兄ちゃん?」
次の瞬間、いたのは体育館だった。
先ほどまでの公園や少年の姿は無く、目の前に夢境、遠くに大羅とミラーが見える。
「どうだったな?」
夢境は遊園地に来た子供に聞く父親の様な調子で訪ねる。
「お前の言いたい事、分かった気がする。確かに俺は1人で何でもやろうとしていた。だが分からないな、何で世界を滅ぼそうとしている奴が俺にこんな事を教える?」
「仮にも校長だからね。生徒である君に教育をしているのだよ。まぁ、世界を滅ぼす前の余興とでも言おうか」
「頭おかしいんじゃねぇの」
「おい!お前どうしたんだ!」
大羅の声が遠くから聞こえてきた。
「大羅!夢境を倒すまで俺と手を組むって話だったよな?」
「あ、あぁ悔しいがそういう約束だ」
「だったら俺に手を貸せ!夢境にお前の巨人の質量をぶつけるんだ!」
湖也の体は小刻みに震えていた。
素直に言いたい事が言い出せない怒りによる者だった。
「いいが、そんな事してなにになる⁉︎」
「いいから!クソ!」
大羅は土を操り巨人の体を形成させる。
その体を夢境に思い切りぶつけるべく勢いをつける。
「そんな事ををしても無駄…そろそろ終わらせてもいいだろう」
夢境は壁を生成しようとする。
しかし、今度も壁は生成されなかった。
「起きていたのかね。何度も邪魔されると流石にストレスが溜まるものだ」
夢境は今までにない、怒りを込めた声を発した。
「あんな攻撃で倒れるかっての」
ミラーはふらりと起き上がった。
壁が作れない以上、大羅のタックルを止めるのは難しい。
次の瞬間、夢境の体は消えた。
大羅の体は虚無へと突っ込み、そのまま体育館の壁はぶつかる。
大羅の背後に回り込む様に夢境は姿を現した。
その時、ドゴォン!と爆音が響き渡った。
遠くで見ていたミラーは一瞬何が起きたか分からなかった。
それは夢境が地面に突っ込んだ音だった。
姿を現した瞬間、隕石の様に地面にぶつかっていた。
あの夢境がだ。
自分でぶつかったのかとありえない可能性を考えたが実際はもちろん違う。
湖也が叩き落としたのだ。
「いてててて、何が起きた?」
夢境も状況を理解できていない。
その脳内の霧を晴らすように湖也の声が響き渡る。
「単純なんだよバァカ!今までの攻撃もそうだった。攻撃を防ぐ事ができなければ背後に回って避けようとする。次に現れる箇所は概ね予想できてた!」
今までの怒りをぶつけ、煽るように湖也は言った。
もう色々疲れているのかもしれない。
いつもより口が悪くなっているのを自分でも感じ取っていた。
「何が余興だ!1度ターンが回ればこっちのものだ!てめぇの様な老耄なんか直ぐに潰してやる!」
ビリリ…と湖也の黒い装甲に電気が走った。
それを見て大羅は嫌な予測を立てる。
(昨日見た雰囲気とは違う。これは、あの時の…)
湖也が暴走するのかもしれない。
実際今湖也は負の感情をむき出しにしている。
ハデスが消えてから負の感情に取り込まれる事なく黒い装甲を身につける事ができ、暴走しなくなったが再び取り込まれる可能性が無いわけではない。
夢境が起き上がるより前に湖也が動いた。
夢境の体を蹴り飛ばそうと急接近する。
「ふぅぅぅ…!」
大羅は湖也の口から獣の様な声を聞いた。
「どうした!負の感情を抑え込めていない様じゃないか!また暴走してもいいと言うのかね!」
「あいつ!三村の感情を操作してるのか!」
湖也の攻撃が当たる直前、夢境はふわりと宙を舞った。
湖也の足は虚無を蹴る。
その装甲はバチバチと火花を散らしていた。
夢境のよって負の感情を最大限まで増幅されている。
その夢境を見て月に向かって吠える狼の様に湖也は叫び声を上げる。
もうほぼ暴走状態だ。
「とうとう壊れ始めているのでな。もうこのまま自爆してもらおうか。この終わり方はどうかと思うが、君が引いた引き金だ。私を憎まないでくれ」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
手が出せなくなった湖也は怒りを地面にぶつけるべく地団駄を踏んだ。
あまりの威力に地震と間違えるほどの地響きが起こる。
「ちょっとあんた!落ち着きなさいよ!」
もの凄い揺れで立たなくなり尻餅をつきながらミラーは言ったが当然湖也には届かない。
夢境に手が出せなくなった湖也は標的を大羅へと変更させる。
「おい!俺たちは協力関係だろ!ふざけんじゃねぇぞ!」
大羅に向かってゆっくりと歩み寄る。
首を小さく振りながら。
大羅にはそれが助けてを求める信号の様に感じられた。
暴走しているが、まだ心の奥ではこんなことをしたくないのかもしれない。
「あぁクソ!そんなの俺にはどうにもできねぇよ!!どうしろってんだ!!俺に助けを求めるな!!!」
その時だった。
2階の観客席のドアがガバっ!と開く音が聞こえた。
観客席の夢境達が外へ出たのではない、明らかに外から観客席に飛び込んできた様なドアの開け方だった。
外から入ってきた者は、湖也の目に飛び込んできた者は
一瞬にして湖也を正気へと戻した。
負の感情より大きな驚きと安心の感情によって。
一気に湖也の目から涙が溢れる。
その黒い装甲が小刻みに震えているのが大羅には伝わった。
その戦場に乱入したのは、上伊だった。
「遅れてすまない!湖也!」
新たに装甲を手にした上伊が駆けつけてくれたのだ。
それだけじゃない、上伊に続く形で血斗達が飛び込んでくる。
「おい湖也!テメー1人で全て解決しようなんて考えてんじゃねぇよ!」
「そうですそうです!」
「わっ葉種ちゃん押さないで!」
「俺たちずっと戦ってきただろうが!少しくらい頼ってくれよ!」
「まだ世界は終わってない様だねー」
「湖也!!」
紗水は観客席から身を乗り出し湖也に向かって叫んだ。
「私だって湖也の力になりたいの!凄い勝手なことかもしれないけど、でも湖也だけが苦しむ姿は見たくないから!」
「お前ら…」
湖也は足の力が抜けた。
体育館の中心でそのまま膝から崩れ落ちる。
一方夢境は驚きを隠せていなかった。
「君達一体何故…全く気配は感じていなかった」
大羅は軽いため息を吐いた。
「全く、お前は恵まれてやがるな」
ミラーはそっけなく言い捨てる。
「あんた、言いたい事があるんじゃないの?」
湖也は再び顔を上げる。
目にはみんなが映っている。
あの汚れた少年の叫び声が脳裏をよぎる。
もしも俺も同じ様にしていいなら、ずっと勝手に1人で突っ走ってきたけどまだ引き返せるのなら、そこでみんなが待っていてくれたのなら!
「頼む、みんな」
湖也は震える声を必死に出す。
「俺たち3人で戦ってきたけど、倒せなかった…絶望しかなかった…だから」
もう一度このみんなの顔を目に焼き付けて、心の底からのお願いを叫ぶ。
「助けてくれ!!!俺と一緒に戦って、夢境を倒して、世界を救ってくれ!!」




