第43話 2人のヒーロー
1
トルボと血斗がグラウンドで戦闘している時の校長室。
ドサッ。
と何かが放り投げられる音と
ガチャッ。
と鍵がかけられる音が静かな空間に響いていた。
影森は目を覚ます。
「ん?あぁ生きてたのか俺は。運がいいのか悪いのか。ってここはどこだ?」
見渡すと校長室だった。
「ん?なんで校長室なんだ?俺は奥であいつと戦ってたはず…」
起き上がって鉄の扉の前に立つ。
扉を開けようとしても鍵がかかっており開けられなかった。
「…誰が閉めたんだ?」
2
血斗はフラフラしていた。
「もうダメだよ!このままじゃ死んじゃう!」
空が叫んだ。
「別にこの世界で死んでも大丈夫なんだろ⁉︎だったらやるだけやって死んだほうがマシだ!」
血斗はガンッ!と足に力を入れて飛び出した。
拳に力を入れる。
「やっぱりユーと戦ってると最高に楽しいよ!」
トルボは氷で盾を作って血斗の拳を塞いだ。
そのままグローブになり血斗の体を殴り飛ばす。
「くそ!水を自在に操れるならなんでもし放題じゃないか!」
血斗は異変を感じ取る。
地面が暗くなった気がした。
ばっと空を見ると雲が血斗の真上を飛んでいる。
「雷か!」
血斗は咄嗟に飛ぶ。
ピシャ!ドゴォォン!と光と音が同時に放たれる。
「おい!これ無しにしないか!耳と目もやられちゃたまったもんじゃねぇ!」
「クレイジーボーイ。エネミーの言うこと聞くわけないじゃん」
「クソ…」
血斗はデバイスに触れ、両腕を展開する。
思い切り飛び出し、トルボの懐に潜り込む。
トルボは再び氷の盾を作って構える。
ガゴッ!と鈍い音が響き盾と拳がぶつかる。
「まだまだ!」
ガゴッ!ガゴッ!と左右の拳を交互に盾に叩きつける。
次第に盾にヒビが入り始め、とうとう砕かれてしまう。
しかし同時に両腕の展開も終わる。
「あ、動いてノボリ!」
空は反動を気にして叫んだ。
せっかく盾を砕いたのに動けないんじゃただ攻撃を喰らうだけ。
しかし血斗は平然と返した。
「言われなくても、この隙を誰が逃すか!」
血斗は右腕に力を込めトルボの腹を思い切り殴った。
「ぐばぁっ!」
トルボは口から血を吐きぶっ飛ばされる。
「あれ…?あっ…」
空は初めて血斗が暴狐と戦ってた時のことを思い出す。
あの時も血斗は反動を気にせず動けていた。
「反動ぐらいで俺を止められると思うな夢境!俺はそんなヤワな男じゃねぇ!」
ゆっくりとトルボへ近づく。
「ほら立てよアホ英語野郎!俺と戦いたかったんだろ?そのくらいでへばるんじゃねぇよ!」
血斗はトルボの顔目掛けて拳を振り下ろす。
しかしそれはトルボには当たらなかった。
血斗の拳は地面にあたりドガァンと地面を砕いた。
「お前のもう一つの能力だな?」
「エグザクトリ、正解だよ」
トルボは血斗の背後に現れ背中を蹴飛ばそうとする。
しかし、血斗は直前で足をガシッと掴んだ。
「瞬間移動なんか影森の能力とあまり変わりねぇじゃねぇか」
しかし次の瞬間、後頭部を殴られた。
気がつくとトルボは血斗から抜け出している。
「今お前何したんだ?後頭部殴られた気がしたんだが、瞬間移動だけってんならそこまでは出来ないはずだ」
「そこは違う」
今度は腹に衝撃が来た。
しかも1発だけでは無い。何発もの殴られたような衝撃が血斗の腹を襲う。
「ぐおっ!」
血斗はよろめき腹を抑える。
「ノボリ!どうしたの⁉︎急に固まったりして!」
「お前…これ…まさか!」
「そう!ミーの能力は対象者のタイムをストップすることが出来る能力なのだ!」
「ふざけてる…!」
氷や雷だけで対応するのに精一杯なのに、時間停止能力を持っていると知った血斗は絶望した。
「でもミーこれあんまり好きじゃ無いんだよね。楽しく無いし。でもユー強いから使う」
また来た。
一気に何発もの背中を蹴り飛ばされる衝撃。
血斗の体は吹き飛び校舎にぶつかった。
ドゴォン!と大きな音が鳴り壁にヒビが入る。
「ゲホッ…」
血斗はふらりと立ち上がった。
もうしっかりと立つ事は出来ない。
「今度こそユールーズ!」
「…」
血斗は朦朧とする意識の中で考える。
(どうにかして…ここを切り抜けないと…なんのためにこのデバイスを奪い取ったんだよ…)
いつ殺されてもおかしく無い状態。
どれだけ対策法を考えても時間を止められたら終わり。
絶体絶命の中、血斗には走馬灯が見えかけていた。
(あぁ…俺の人生、いじめしかなかったな…元の世界でもいじめられてたんだろうか…また空と会いてぇな…)
「…やっぱり嫌だ」
次の瞬間、血斗の装甲にビリリ…と電流が走った。
「ワッツ?」
トルボは異変に気付き遠ざかる。
その判断が間違っていたのかもしれない。
「…」
血斗は動かない。
「これでフィニッシュだよ!」
「ノボリ!ダメ!動いて!」
トルボは両腕に氷のグローブを作り血斗の顔面目掛けて飛び込んだ。
血斗の時間は停止、動けるはずもない。
しかし次の瞬間。
「ウォラァ!!」
ドゴッ…!と鈍い音がトルボの腹に響き渡った。
「ぶほぁ⁉︎」
トルボの体がもの凄いスピードで吹き飛ばされる。
「え?え…?」
トルボは予想外の事態に頭が回らなくなっていた。
血斗の時間を止めたはず。
彼は動けず、後はサンドバッグ状態の彼をタコ殴りにするだけ。
血斗がトルボ目掛けて飛んでくる。
トルボは血斗の時間を止めようとした。
しかし止まらない。
(⁉︎…ミーの能力が無くなってる⁉︎)
次の瞬間、背中から強い衝撃を受け体が吹っ飛んだ。
血斗が背後に回って背中を思い切り蹴飛ばしたのだ。
「あれ⁉︎ユーは前から向かってきてたはず!一瞬でミーの背後に…!」
そこでトルボは最悪の事態を思いついた。
(まさか…能力が奪われた⁉︎そんな事はインポッシブル!)
「ポーズか、こりゃいいや。ありがてぇ物を貰った」
血斗はトルボの前に立つ。
段々と血斗の装甲の色と形が変化していく。
「あ?訳わからねぇと言った感じだな。お前の顔熊だから表情止め無いが…簡単な話だよ。俺は昔からいじめられてたから個性というものが無かった。個性を発揮する場面がなかったんだ。だからお前の『個性』を貰った。まさかポーズが貰えるとは思わなかったが」
装甲の色が灰色へと完全に変化した。
形は従来の機械的な見た目に加えて所々獣の毛の様な突起が生えている。
「そんなクレイジーな話あってたまるか!」
血斗が一瞬で横へ移動した。
直後、血斗のいた場所に雷が落ちる。
「こりゃ大当たりだな。攻撃、防御どちらにも使える」
「ヌヌ…」
絶望的な状況を認識した直後、
「プフフ…アハハハ!」
トルボは純粋な子供の様に笑った。
「何がおかしい。絶望的すぎて頭狂ったか?」
「今までそれはつまらないから嫌いだったけど…ユーがそれを持ってくれるならちょうどいい!どうやってバトルしようかと攻略をエンジョイできる」
「お前、負けを見ても楽しそうに戦うか」
血斗は右足を展開する。
トルボは氷で両腕にグローブを作った。
「おりゃぁ!」
情けない声と共に絶望的な状況に狂った様な表情をしながらトルボは血斗をぶん殴ろうとする。
「こんな感じで出会わなければ、俺はお前と友達になれたかな」
血斗は一瞬でトルボの背後に周り、トルボの背中を殴り飛ばした。
「…!」
トルボの体が校舎にぶつかりボゴォン!と大きな音を立てて爆発する。
校舎に巨大な穴が出来た。
「さらば、強敵」
血斗は穴を見て呟く。
「ノボリ…」
空は言葉が出なかった。
勝ったはずなのに、嬉しいという感情が湧かない。
「仕方ないだろ。倒さなきゃ前に進ませてくれないんだし。ここで戸惑ってる場合じゃない。見ろ、もうあと2時間くらいしかない!駅へはどうやって行けばいい⁉︎」
「時間止めれるならいくらでも間に合うんじゃない?」
「いやそれは出来ねぇ。どうやらこの能力は対象者の時間を止められるだけの様だ。夢境がこの場にいない今時間を止めても意味がない。とにかく急ごう。駅まで走るぞ!」
「うん!あ、ちょっと待って」
「おい!空何してんだ!」
キキ〜!と血斗は急ブレーキをかける。
「さっき繋がらなかったけど、今なら紗水ちゃんと繋がるかもしれない」
2
1時間前…
「う〜ん。こっちのパフェも美味しいけど私的にはこっちの方が好みかな…これ上伊君にあげるよ」
上伊と凛は喫茶店にいた。
「まぁ…俺も金払うんだしな」
「ん?いいよ私奢るから」
「え⁉︎それはダメだよ!じゃあ俺が奢る!」
「え〜何で?」
「こういう時は男が奢るものなんだ!」
「いや私が払うね!何のためにデートしてるか分かってるの?上伊の頭のモヤモヤを吹き飛ばすためでしょ?なのに上伊の財布を飛ばしてどうするの」
「え?じゃあ…」
「今日1日私が全部払うね」
「ばっっっっっっっっっっっっっっかじゃないの⁉︎そんな気の使い方かえってこっちがモヤモヤするだけだ!よしここは公平に半分ずつ食べて半分ずつ払おう」
「ただの割り勘じゃん」
「上伊君ってあんまり友達と遊ばないでしょ。クラスのリーダーで人気者のくせに」
「うん。いじめられない様にするのに必死だったから…」
「いや、じゃあ今まで楽しめなかった分今日は楽しまないとねー。私がとことん教えてあげる!今日は私を姉だと思って甘えてもいいよ!」
「気遣ってくれるのは嬉しいけどそこまでしなくてもいいっていうか…逆にどの様に接したらいいか分からなくなって苦しくなる…」
「わっ、それはごめん。でも、何も悩む必要ないよ」
「え?」
「自分の好きな様にすればいい。上伊、家では甘えん坊さんだったでしょ」
「な、何急に!」
「学校ではクラスのリーダーやってみんなの上に立って、でもそんな強い上伊とは別にいじめに怯える弱い上伊もいる」
「う、うぅ。間違ってはないよ」
「自由にすればいいんだよ。誰も弱い上伊は見たくないなんて思ってないんだから。弱いところは相談して、強いところは自分に任せて、そうやって人は弱点を補っていくんだと思う」
「なんか凄い…人間の在り方を説いてくるなんて」
「ちょっと偉そうだったかな。まぁいいじゃん。ほら今度どこ行きたい?」
2人が街を歩いている様子を1人眺めているものがいた。
カラスの暴狐、名前は黒部。
「あいつかー。あの時蓮真と一緒にいた奴だな…」
2時間前、黒部はリーダーから指令を受けていた。
ー『え?俺にこの上伊という男を殺せと?』
『あぁ、彼は要注意人物なんだ。湖也の能力が覚醒しつつある今、彼もいつ能力を発揮するか分からない状況になっている。一刻も早く殺してほしい』
『何故そこまで彼に…』
『元々彼は校内戦闘の時に暴狐になりかけている。湖也のお陰でなんとか暴狐にはならなかったが、彼の過去を見る限り、彼の持つ能力は危険度が高いものである可能性が高い』
『一体どんな能力が…』
『おそらく自分の周りの人間を意のままに支配する能力だろうな。彼は学校を支配することを目的としていた。それがそのまま能力になってもおかしくない。私たちだって支配されるかもしれない』
『そんな力が彼に⁉︎それは急がなきゃいけないですね』
『あぁ、こっちはもうお前しか自由に動ける奴がいない。もう時期だ、今日のミッションが終わったら敵はいなくなる。幸いにも彼は今デバイスを使えない状況にある。頼んだぞ』
『了解です』ー
「…まぁ、適当に殺してとんずらこくか。にしてももう俺らの仲間が生徒会しかいないって、結構追い込まれてるな…この状況ひっくり返せるのは俺の活躍次第といったところか」
黒部は人混みに紛れる。
ポケットにナイフ、フードを被り顔を見られない様にしている。
(俺の任務はこいつを殺すこと…騒ぎも起こしたく無いしわざわざ暴狐の姿にならなくてもいい…)
上伊の背後に近づき、ポケットからナイフを出そうとした所で上伊のスマホがなった。
「ん?葉種ちゃん?電話なんて珍しい」
「あら、仲良しなのね」
「別にそうってわけでも無いけど」
上伊は電話に出た。
「もしもし、葉種ちゃん?どうしたの?」
『どうしたもこうしたもないんです!!』
「えぇ⁉︎」
いきなりの叫び声に思わず困惑する。
『いいですか!!!落ち着いて聞いてくださいね!!』
「お前がまず落ち着け!」
『どうやら夢境がとんでも無いことするようなんです!あいつはこの世界を消し去ろうとしてるそうなんですよ!!』
「なんだって⁉︎夢境が動き出したのか?」
上伊が凛に手招きして葉種の声を聞くよう誘導する。
(ん?…)
後ろで会話を聞いていた黒部は耳を疑った。
『どうやら夢境が現れるのは今夜の7時、場所は学校の奥にある体育館らしいです。私は場所分からないんですが、どうやら裏山の中にあるらしいんですよ。それまでに夢境を止められなければ世界は終わりです。私は空先輩から聞きましたが、湖也先輩誰にも相談せずに1人で夢境を止めようとしてるって言うんですよ!馬鹿ですよね!!湖也先輩大馬鹿ですよ!』
「湖也が⁉︎無茶な8人がかりでも倒せなかったんだぞ!いくらなんでも無茶だ!あいつ、また1人で抱え込みやがって…」
『私、体育館に向かいます!生身のままですが、何もしないよりはマシです!』
「あぁ、そうだな。あいつに何もしないまま世界が吹き飛ぶのだけはごめんだ。分かった、俺たちも向かう」
『では!』
プツッと電話が切れた。
「凛、今の会話聞こえてたか?」
「うん、こんな所でのんびりしてる場合じゃないね!」
「な、夢境の手によってこの世界が吹き飛ぶ⁉︎」
「「わっ!!!」」
唐突な背後からの叫び声に上伊と凛は肩を震え上がらせる。
「ちょ、お前誰だよ!勝手に人の話聞いてんじゃねぇ!」
「夢境が世界を吹き飛ばす事リーダーは知ってるのか?」
「人の話を聞け!ってリーダーってお前もしかして海高の生徒か?」
「あ、あぁそうだ。バレてしまっては仕方がない…!」
黒部は暴狐の体へと変化させる。
烏のような姿になった黒部を見て上伊は叫んだ。
「あ!お前キャンピングカーの時の!」
「上伊知ってるの?」
「あぁ、前戦ったことある。分身能力持ちだ」
「リーダーからお前を消すよう指令が出てる」
黒部が上伊なら手を出そうとしたその時、周りから大きな声が聞こえた。
「きゃー⁉︎」
「化け物だぁ!」
突然街中に暴狐が現れれば当然のことである。
しかし黒部はこれを嫌った。
「わーぎゃーわーぎゃーうるさいなぁ。だからこっそりやろうと思ったのに…」
黒部は標的を上伊から騒ぐ人々へと変更させた。
「おい!よせ!何をするつもりだ!」
「騒ぐなら死ね…」
黒部は鋭い足の爪で騒いでる人の体を貫こうとした。
ドゴッと鈍い音が響き、
次の瞬間、黒部の体は吹っ飛ばされた。
「はぁ…はぁ…」
上伊は思い切りタックルしていた。
「くそ…装甲があれば戦えるのに…」
「お前、装甲を持ってないのか。生身のままで暴狐に立ち向かうなんて無謀な事。何で今邪魔をした」
「うるせーよ!今は装甲は無いけど暴狐と戦った身だ。一度首突っ込んだからには後には引けないんだ!俺が狙いなんだろ!関係ない周りを巻き込むなよ!」
「さっき聞いてたぞ。夢境がこの世界を吹き飛ばすって。あれも関係ない人々を大勢巻き込んでると思うけど」
「あぁ、だから止めるんだ!」
(こいつが能力を発揮するようには見えないけど…)
「まーリーダーの指令だ。逆らうわけにはいかない」
黒部は足の爪で上伊の体を貫こうとする。
上伊は必死に横へ飛んだ。
ガッ!と石を削る音が響く。
今度はスピードをつけて嘴で頭を狙う。
「くそ…避ける事しかできない…」
上伊はまた横に飛ぶ。
「いーよー上伊!今の攻撃避けたら少し隙が生まれるから弱攻撃2回叩き込むチャンスだよ!」
凛が上伊に向かって叫ぶ。
「俺はゲームの操作キャラクターかなんかか!」
「次5連撃くるから最後の一撃だけ回避して近づいて弱攻撃!」
「ゲームじゃないんだし相手はNPCじゃないんだから動き読めるわけねーじゃん!」
「なるほど、あいつも仲間か」
上伊は黒部の足をガシッと掴んだ。
「俺に用があるんだろ?」
「お前俺の能力忘れたのか?」
「うわなんだ急に!」
凛の声が聞こえて振り向くと黒部の分身が凛を襲っていた。
「くそ…どうすればいいんだ」
黒部の足を掴んでる上伊の腕は震えていた。
「お前、かっこいいこと言ってたけど本当は怖いんだろ?生身で戦うのが」
「…!」
「人前ではかっこいいように振る舞おうってか?ただ裏にある恐怖心が隠し切れてない」
「別に隠してるわけじゃないんだよ」
上伊は黒部の足を両手で持ち上げた。
「凛!そこをどけ!」
「え?うん!」
「おい!お前何を…!」
動揺する黒部を無視して、凛の所にいた分身に向かって上伊は黒部の体をぶん投げた。
「「ぐぼぁ!」」
2人の黒部の声が響く。
「そりゃ怖いさ!化け物目の前にして生身の人間が何も恐怖を感じないはずがねぇ!逃げ出したいさ!助けを求めたいさ!だがどうだ!生身でお前の体を振り回した俺がただ怖そうにしてるだけだと思うか⁉︎」
「何が言いたい…」
黒部はむくりと起き上がる。
「全てが俺なんだ!怖そうにして逃げ出したいと思ってる俺も!凛や周りの人達を守りたいと思ってる俺も!関係ない人達に危害を与えるお前に怒りを覚える俺も!お前なんかどうでもいいから早く夢境を止めたいと思ってる俺も!」
「ねぇ最後の酷くない⁉︎」
黒部はショックを受ける。
「人間様々な感情があって当たり前だ!その膨れ上がる感情をずっと胸にしまって生きていくなんて苦しすぎる!そんな事しなくてもいいと凛から教わった!だからもう俺は悩まない!俺の全てを受け入れて俺はやりたいようにやる!」
その時、上伊のデバイスが虹色に輝き始めた。
「え⁉︎」
上伊は驚きの声をあげて目を細める。
光が収まるとデバイスは四隅に赤、青、緑、黄が配色されている。
「使えるようになったのか⁉︎これで…」
デバイスを起動しようとした時、上伊の周りに黒部の分身が集まり覆っていく。
「こいつはやっぱり危険な匂いがする!いけ!俺の分身たち!つつけ!殺せ!」
しけし、次の瞬間黒部の分身達は吹き飛ばされた。
そこには炎のように真っ赤な装甲をつけた上伊が立っている。
「まさか…あいつの能力が覚醒したというのか?」
「これは怒りの赤。燃えたぎる怒りが装甲に表れとてつも無いパワーを生み出す」
「?」
唐突の上伊の説明に黒部はキョトンとした。
(なんだ?何言ってんだ?あいつの能力は支配する能力じゃなかったのか?)
「パワーがなんだ!それ以上の力で叩き潰せばいいだけ!」
黒部は分身を次々に生み出した。
分身達は集まり固まり一つの大きな烏になり、上伊目掛けて突っ込む。
ドカァン!と大きな音が鳴り響き、衝撃は地面に伝わりヒビが入る。
しかし上伊は平然と立っていた。
いつのまにか上伊の装甲の色は青に変化している。
「なんだ⁉︎さっきは赤だったはず!」
「これは守りの青。みんなを守りたいと言う思いが装甲にとてつも無い強度をあたえる」
「何がみんなを守りたいだ!結局それは自分の身を守るためだけの物だろ!」
「みんなを守るためにはまず俺が生き延びなくちゃな」
「クソ…」
黒部は距離をおこうとした。
しかし次の瞬間上伊の体は目の前に迫っている。
装甲の色は黄色だった。
「今度はなに⁉︎」
「これは逃げの黄色。逃げ出したいと言う思いが装甲にとてつも無いスピードを与える」
「逃げてねーじゃん!」
「全ての自分を受け入れて力に変えたのがこの装甲だ!そして!」
上伊ら黒部の体をガシッと掴んだ。
そのまま勢いよく飛ぶ。
「これが飛行の緑、楽しく生きたいという無力感がこの装甲に浮力を与え飛行を可能にする」
「飛べるのがなんだ!俺だって飛べる!そして…」
上伊が下を見ると黒部の分身が大量に表れ凛や通行人を襲っていた。
その内の何体かが上伊目掛けて突っ込む。
「いで!」
お腹をつつかれ上伊は手を離してしまった。
「お前の弱点はもう分かったぞ!お前は四つの能力が使えるが二つ以上を同時に使うことは出来ないんだろ!だったら今浮いてる状態ではそれ以外何も出来ないよなぁ!」
「なんで他の人を巻き込む!俺だけを狙えばいいだろうが!」
「こっちは大丈夫だから!」
突然下から声が聞こえた。
凛の声だった。
凛は他の人を避難させながら上伊に手を振った。
「もう近くには誰もいない!思う存分暴れていいよ!こいつらはただの分身!本体を仕留めれば消えるはず!」
「分かった!」
「ただ浮くだけのお前に倒されるほど弱くないぞ!」
黒部は分身で上伊を覆った。
「今お前の周りには5千を超える分身が飛び回ってる。こいつらが一斉にお前を狙えばどうなるか分かるか?」
「クソ…抜け出せねぇ!」
次々と上伊目掛けて分身は突っ込む。
ドス!ドス!と鈍い音が何度も響いた。
「だが凛がやってくれたのなら!」
上伊は装甲の色を赤に変化させた。
ズザッ!と鋭い音が響き周囲の分身を一瞬にして蹴り飛ばす。
「だがお前は落ちるだけ!」
「俺の悩みは凛が全て解決してくれた!」
ズドォン!大きな音が響いた。
「俺は他の人を巻き込むことだけが嫌だった!だが凛が避難をやってくれたおかげでもう誰もいない!これで思う存分戦える!」
着地をした上伊の装甲は青だった。
「ふん。器用に装甲を扱いやがる。だったら!俺の1万の分身でお前を叩き潰してやる!」
ドスン!と上伊は大地を踏みしめた。
ジュゥ…と燃えるような音と共に装甲の色が黄色に変化していく。
黒部は自分の体を分身で覆い巨大な烏になった。
ものすごい勢いで上伊に向かって突っ込む。
「お前の様な下級怪物に負ける俺じゃ無い!!」
「…!」
勝負は一瞬だった。
誰の目にも追えない速度で上伊が跳んだ。
黒部の巨大な体の中を貫通し凛の隣に着地する。
「お疲れ様」
凛の声はいつもと変わらなかった。
全く不安や恐怖を感じていない、上伊が勝つのが当たり前と言うかの様に喜びも、悲しみもない明るい声。
「私のアドバイス。役に立ったでしょ」
「あぁ、もう俺は迷わない」
2人は何事もなかったかの様に歩き始めた。
次の瞬間、ボゴォン!という凄まじい音と共に黒部の体が空中で爆散した。
「ってこんなカッコつけてる場合じゃ無い!夢境が動き出すのは7時だったよな⁉︎今何時!」
「やば!もう5時だよ!次電車いつ⁉︎ここから学校まで間に合う⁉︎」
「とにかく走ろう!」
「よっしゃ競争じゃー!」
「なんでお前は楽しそうなんだ!」
3
「…そう。分かった」
紗水は通話を切った。
深いため息をつきバフっとベッドに転がる。
空から今日の事を聞いた。
しかし体がベッドから離れない。
まるで接着剤でくっつけられた様に。
「…結局、私じゃ力不足なんだね」
もうこのまま世界が滅んでもいい気がしてきた。
(湖也が私に連絡をくれなかったのは、私を必要としていないから…)
『俺が強くなったの知ってるだろ?大丈夫。夢境を倒して戻ってくる』
「馬鹿だな、私」
紗水の目から涙が溢れる。
無意識のうちに流れたそれを感じ取ると、途端に気持ちが爆発した。
一気に滝の様に涙が流れる。
グシャグシャと顔が崩れ、ヒクッヒクッと胸が痙攣したに震える。
「湖也に全てを託したのは私じゃない!世界の命運なんて重いものを背負わせて!無責任な涙で覚悟決めさせて!今は私に頼ってくれなかったことに嫉妬して!何がしたいの私!今までの私たちの関係が今のこの状況を生んでる!今まで何も考えずに楽しんでた毎日が!今このどうしようもない状況を生み出してる!」
ふーっふーっと呼吸を整える。
しーんとした空気が続く。
枕をガシッと掴む。
放り投げようとして腕が固まる。
「…!」
行き場のない感情。
どこにどうぶつければいい?
ふと冷静になって考える。
「そうじゃん!大体この状況を生み出したのは夢境じゃん!何で私がこんな辛い思いしないといけないの?嫌だよ私は!あいつのせいで色々考えるなんて!悪いのは全部夢境!あー腹立ってきた!」
スマホで時間を確認する。
まだ遅くない。
あいつにどうにか一泡吹かせてやる!
とそこで紗水はスマホの壁紙に目がいった。
この前遊園地で撮った写真で、仲良く笑う2人が写ってる。
『ならさ、付き合ってくれねーか?』
『うれしい』
(そういえば、まだはっきりと気持ちを伝えてなかったな…)
バコン!と部屋の扉を開ける凄まじい音が響く。
「お母さん!出掛けてくる!」
そう言ってそのまま玄関を飛び出した。
キッチンで料理をしていた純恋はその声を聞くとにっこりと微笑んだ。
(みんなで守っておいで。この世界を)
「いででででで!何すんだお前!」
葉種は亮矢をポカポカ殴っていた。
「湖也先輩の馬鹿ー!」
「俺に当たんな鬱陶しい!」
亮矢と葉種も学校に向うべく電車に乗っていた。
「大体、お前その体育館の場所分かんのかよ。裏山の奥に体育館があるなんて聞いたこともねぇ。にわかには信じがたいがなぁ」
「私だってそうですよ!湖也先輩は知ってるらしいんですけど!あの馬鹿!」
再び葉種は殴り始める。
「だから俺に当たんなって!ただまぁ、信じられることは夢境が世界を滅ぼすって事だな。雪山でのあいつを見たらそんなぶっ飛んだ事やってもおかしくねぇ。装甲が無いから何だってんだ!そんなんで怖気付いてちゃ生きていけねえ!」
「そうです!先輩分かってますね!湖也先輩は分かってませんけど!」
再び葉種は殴り始めた。
「だー!うるせぇ!」
各々は学校に向かっていた。
夢境が世界を滅ぼすのを阻止するために。
世界の存続をかけた最大の戦闘が始まる…




