第42話 大切な約束
1
血斗と空は海高に向かって走る。
「空も付いてくるのか?」
「うん。私だって何かできる事があると信じてるから。じゃないと、世界が終わっちゃう…!」
「強くなったな…いや、違う」
「え?」
「お前は元々強かったな。いじめで挫けそうになってた俺を助けてくれたんだから」
「でも結局ノボリに守られてばかり…」
俯く空を見て血斗はニカッと笑う。
空の頭をワシャワシャと掴んだ。
「ちょっ、ちょっとノボリ⁉︎」
「そりゃあ俺はお前の彼氏なんだから。守るのは当たり前だろ!うじうじしてねーでデバイス奪い取るぞ!」
「うん!」
2人は海高まで来た。
「どこに校長室があんだ?」
「学校の構造はどこも大体同じだと思うけど…」
静かな校舎の中を進む。
「暴狐が隠れてたりしないかな」
「出てきたとしても俺が何とかしてやる」
ピシャッ!と窓の外が光った。
直後、ゴロゴロゴロッ!雷の音が鳴り響く。
「あれ?さっきまで晴れだったけど…」
「外にかまってる暇はない。とにかく早く校長室に行かないと…」
2人が一階を半周した時、
「あ!あれ見て!」
校長室の文字が見えた。
血斗はドアの前に立ち躊躇いなくドアを開ける。
「校長の部屋の造りは俺らのとこと同じだな」
「この校長室も夢境が使ってたんだよね」
「あぁ。影正の方はただの分身って話だったからな。実質的に夢境影利が使ってた事になる。部屋の造りが同じなら、確か扉は…」
上伊が本棚をずらす。
鉄の扉が現れた。
「ここに鍵を使えばいいと」
「ノボリ!そーっとだよ!音を立てたらバレちゃうから!」
「どの道戦うことになるからいいじゃねぇか…と言いたい所だけど、戦う直前まで気づかれたくないのは確かだな」
血斗はゆっくりと鍵を入れ回す。
「よし。空、お前に一つ頼みがある」
血斗は振り返り空の目を見て言った。
「え?」
空はキョトンとしている。
「俺が入ってから出てくるまで、ここで待っていてくれ」
「え?ノボリ1人で行くの?危ないよ!私も行くよ!」
「お前がいても足手纏いになるだけだ」
「んな!何その言い方!私だって力になりたいのに!」
「だったら俺の頼みを聞いてくれ。俺はお前の強さを知ってる。力になりたいという気持ちを理解している。だから、一つ約束してくれ」
「約束?何?」
「俺が戻ってくるまでの間。ここを誰も通すな。どんな敵が来ても、そいつからここを守ってくれ」
「敵って…」
「まぁ来たらの話だけどな。約束できるか?」
「う、うん」
空はゴクリと唾を飲み込みながら頷いた。
「ありがとう」
血斗は微笑みながら言った。
「じゃ、行ってくる。大丈夫、すぐ戻ってくるから」
ガチャリッ…と静かに開けながら血斗は中へ入って行った。
扉を閉め終わると、空は扉に背を預ける。
壁に掛かっている時計を見ると、午後3時を過ぎている。
約束の時間まで後4時間だ。
(湖也君、何で私たちに言ってくれなかったんだろう)
校長室を見渡す。
「葉種ちゃんとかは知ってるのかな?」
空は携帯を取り出し葉種に電話をかける。
『はい、先輩?どうしました?』
「うん。ちょっと聞いて欲しい事があって…」
空は今日起こる事を話した。
『そっ!そんなとんでもない話急に話されましてもっ!!!』
「あはは…そうだよね」
『ばっっっかじゃないですか⁉︎湖也先輩は!!つまり誰にも言ってなかったって事ですよね⁉︎』
「多分ね…」
『もうすぐ世界が終わると言う時に戦える戦えないは関係無いでしょ!私も何かできる事があったら手伝います!とりあえず亮矢先輩と上伊先輩に連絡してみますね!』
「うん。お願いね!紗水ちゃんと凛ちゃんは私から伝える」
プツッ…と電話が切れた。
「えぇっと…次は紗水ちゃんかな?」
紗水に電話をかけようとする。
プルル…と電話がなり、『空ちゃん?』と紗水の声が聞こえた時、またピシャッ!ゴロゴロゴロ…と雷が落ちた。
同時に電話の通話が切れ、ツーツーツーという音が流れる。
「え!何で⁉︎もしもし⁉︎」
呼びかけても応答がない。
アクシデントはそれだけじゃない。
コツ…コツ…と廊下から足音が聞こえてくる。
突然の足音にぶるっと空は体を震え上がらせる。
その足音が段々近づいてくる。
(ど…どうしよう…)
「ハイ!」
トルボはひょこっと校長室に顔を出した。
「あれ?」
しかし校長室には誰もいなかった。
いや、正しくはいない様に見える。
空は校長の机の裏に隠れていた。
「あのボーイとガールがここに入っていくの見たけど…ワッツ?」
トルボは部屋を見渡す。
「オーウ、つまらなーい」
誰もいないと思ったトルボは校長室から出ようとする。
「ん?」
そこであるものが目に入った。
鉄の扉だ。
「ワッツ?」
トルボはその扉に近づく。
(やばいやばい!あの扉開けちゃう!どうにかして離さないと!)
空は隠れながら必死に考える。
「この中にいたりして」
ドアノブに手をかけようとした時、
ガバっと空は立ち上がって叫び声を上げた。
「うわあああああああああああああああああああ!」
突然の至近距離からの叫び声にトルボも驚きの声を上げる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ピシャッ!ゴロゴロ…とまた雷が鳴る。
「あ!ユーあのボーイと一緒にいたガール!もう!脅かさないでよ!アングリー!」
「そ、その扉から離れて!」
「ノー!」
トルボは気にせず開けようとする。
「だ、ダメ!」
思わず空はトルボに向かって突進した。
そのまま両手で突き放す。
ドサッとトルボのバランスが崩れ倒れる。
「んてててて…」
トルボは突然の出来事に困惑しながらもむくりと起き上がる。
見上げると空が立っていた。
「ユーに用はナッシングよ。通して!」
「この扉は、絶対に通さない!ノボリと約束したから!ノボリが私に頼ってくれたから!あなたがどれだけ強い怪物だったとしても!ここだけはぜっったいに通さないんだから!」
「ユー装甲はどうしたの?」
「もう無いのよ」
「じゃあ強く無いじゃん。そんなんじゃミーを止めることはできないよ」
シュゥゥと白い煙が上がってトルボの体はシロクマの姿に変化する。
いつのまにか両腕には氷を纏っていた。
大きくゆっくりと腕を引く。
そのまま空目掛けてぶん殴る。
「きゃっ!」
空は避けて距離を取る。
空はトルボの能力を分析した。
(彼が使ってるのは氷、一つの能力は氷関係で間違いなさそう。でも前雷降らしてたのも見えた。それにここにくる前は晴れていたのにここに来た瞬間急に雷が鳴り始めた。それも彼の能力だとすると)
「君の能力は氷と雷の二つといったところかな?」
トルボは両腕を前に突き出した。
「ノンノンノン!」
空はある違和感を覚えた。
空気がいつもと違う様な。
何か乾いた様な感覚。
それに気づいた時にはもう遅かった。
ボン!と音が鳴り体が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「ガフッ…!」
倒れ込んだ空の体は濡れていた。
トルボが水の弾丸を手から放出したのだ。
「つ、冷たい!」
空はびしゃびしゃになった体を両腕で擦り温めてた。
「ミーの能力は空気中のウォーターを操ることだよ!アイスを作ることも出来るし、雲を作ってサンダーを落とすことも出来るんだ!オフコース、今みたいにウォーターをそのまま放出することも出来る」
「嘘、それ全てが一つの能力ってこと⁉︎」
「イエス!」
「じゃあ、まだもう一つ能力を隠し持ってるって事…?」
「イエーース!!」
トルボは腕をブンブン振って嬉しそうに答える。
空は絶望した。
とても生身で戦える相手じゃない。
「でも、そんなペラペラ喋っちゃってもいいの?」
「ウップス!!」
トルボは咄嗟に両手で口を塞ぐ。
「まーいーや!ユー強く無いし!ミーに挑まない方がいいよ!」
「…いやだ!」
2
ガチャリと扉の閉まる音が鳴る。
血斗はコソコソとゆっくり足音を立てない様に進んだ。
階段を降り、奥へ進む。
一つの扉が現れた。
その奥から赤い光が漏れている。
血斗はゆっくりと近づきその扉に耳を当てた。
独り言が聞こえてくる。
「ハハハハハ!もうすぐ出来上がるぞ!これを付ければ俺はさらに強くなれる!夢境なんか目じゃない!完成が楽しみだ!」
(良かった…まだ出来上がってはないみたいだ…でもここからどうするか…)
「しかしまぁ陸高の生徒は雑魚ばっかだったなぁ。主戦力の三村湖也もあの程度じゃ、こいつを手にした俺じゃ相手にならねぇしよ。でもあのおでこにハート書いてあった落書き野郎はいつ思い出しても笑っちまう!ククク、ハハハハハ!」
次の瞬間、ガシャァン!とドアが蹴り破られた。
影森はビクゥ!と体を震え上がらせる。
「だ、誰だ⁉︎」
血斗は部屋にゆっくりと入ってくる。
「いやー参った。こっそり入ろうかと思ったけど、彼女の悪口言われてムカつかねー奴はいねーからよ。悪かったな。ビビらせちまったか?」
「お前…確か三村湖也と一緒にいて、落書き女と喧嘩してた奴…そしてあの落書き女がお前の彼女なのか。何でここにいる⁉︎」
「あんたらのお偉いさんから鍵もらったもんで」
「リーダーか…あいつ鍵のコピーを作ったったとは…いや、あいつなら普通にやることか。詰めが甘かったな。何しにきた!」
「おいおい言わなくても分んだろうが」
血斗は部屋の真ん中の台に置かれたデバイスを指差す。
「そいつが出来上がるまであとどのくらいだ?」
「お前に教えると思うか!」
影森の体が煙の様に消えた。
「はぁ」
血斗はため息をつく。
背後から影森が姿を現す。
現れた時には魔王の姿をしていた。
思いっきり頭をぶん殴ろうとするが、あっさりと避けられる。
血斗は前へ転がる様に避け、素早く立ち上がり影森と距離を取る。
「そう焦りながら戦うと動きが単純になって避けられやすくなるよ」
「うるせぇよ」
「そして、その様子を見るとデバイスがもう少しで出来上がりそうだってことも分かる」
ピピピ…と中央の台から電子音が鳴る。
『デバイスの内部プログラム書き込み完了まであと1分』
「…どうやら、それが出来上がるまでの時間らしいな」
「へっ、それまでに殺せばいい事だ」
「お前、デバイス使えないんだろ?」
影森が聞いた。
「さっきの話で大体察しがつく。お前は何かあってデバイスが使えなくなった。そこでリーダーから鍵と俺、そして制作中のデバイスのことを聞いた。そうだろ?」
「だったらどうした」
「生身の人間が勝てると思ってるのか!」
影森は姿を消した。
「はっ、別にお前を倒すことが俺にとっての“勝ち”じゃねぇ。デバイスを手にすれば俺の勝ちだ」
血斗はバッと前へ飛び蹴り飛ばした扉を掴む。
扉で現れた影森の拳を受け止めた。
「ま、うっかり倒しちまうかもしれねーが!」
今度は扉を水平にもち、影森の首目掛けて振り回した。
影森はまた姿を消し、血斗は勢い余って扉を壁にぶつける。
「いてて…あまり強く振り回すもんじゃないな」
「よそ見してると死ぬぞ」
影森は血斗の背後に立ち背中を思い切り蹴飛ばした。
ボゴン!と血斗の体が壁に当たる音が聞こえる。
「いってーな」
「いってーなで済むとはなかなか頑丈じゃねーか」
「こんぐらいの蹴りなんざ昔何発も喰らったからな」
「なんだ、いじめでもあってたのか?そういや夢境のスマホから情報盗んだが、1人変な名前の奴がおったなぁ!確かチートとかってキラキラネーム!ぶわっははははは!」
「!?」
次の瞬間、血斗は勢いよく飛び出した。
影森の胸目掛けて蹴ろうとするが姿が消える。
姿が現れては攻撃を仕掛けるがすぐに消えるため当たらない。
「なんだ、攻撃が単調になったじゃないか。もしかして、図星か?ハハハハハ!」
「お前余裕ぶっこいてるみてーだけど、大した事ねーじゃねーか。能力もただ煙の様に消えるだけ、蹴りも殴りも並程度。雪山でカッコつけて現れた割には拍子抜けだな」
「あぁ⁉︎」
「なんだキレてるのか⁉︎ほら殺してみろよ1分経つぞ!」
「へ、俺の能力はこれだけじゃねぇんだよ」
ギィィ…と物が動く音がした。
血斗が天井を見ると、2つの砲台がこちらを狙ってきている。
「なんだこれは…」
「夢境はもしもここに誰かが勝手に侵入した時の為にいくつかの撃退装置を設置しておいたんだ。あいつもバカだな、こんなのすぐに悪用されるの分からないのか」
ドヒュン!と2つの砲台から矢が飛び出した。
「ウォァ!」
血斗はギリギリで飛び込み回避する。
「お前が操ってるのか」
「俺のもう一つの能力は電気系。こんなの操ることなど朝飯前だ。そして」
影森の姿が消えた。
「同じことを何回も繰り返す気か!」
血斗は警戒する。
しけし予想外にも正面にヌッと影森の姿が現れる。
「しまっ⁉︎」
ガシッと体を影森に掴まれてしまった。
「お前はすぐ出る拳には咄嗟の判断で避けていたなぁ…ゆっくりと追い込む様に掴んじまえば案外簡単に捕まえられるもんだ!」
「くっそ!」
影森は砲台の方へ血斗の体を向ける。
「掴んじまえば避けられるわけがねぇ!」
砲台から矢が飛び出した。
胸にと左足に刺さる。
「グァ…!」
血斗は動かなくなった。
普通生きてるはずがない。
ドサッと体が床に落ちる。
「フフフ…ハハハハハ!死んだ!邪魔者はいなくなった!どうだ!所詮生身の人間がこの怪物様に勝てる訳がないんだ!あとは俺がこのデバイスを手にするだけ!」
『ピピピ…内部プログラムの書き込みが完了しました』
「来たか!」
しかしその時、信じられないことが起きた。
「ガッ!ハァ!ハァ!」
バン!とデバイスを置いてある台を思い切り叩く音が響く。
「何⁉︎」
その光景に影森は驚き思考が停止する。
「ハァ…ハァ…」
ゆらりと血斗は立ち上がり、ガシッとデバイスを掴んだ。
「これは…俺のもんだ!」
デバイスを右腕に付ける。
「貴様…確かに矢はお前の心臓にブッ刺さった筈!何故生きてる⁉︎」
「ふーあぶね。ここに来る途中使わなくなったデバイス新しいの付ける時邪魔になるから取って胸ポケットに入れておいたんだった。運良くそこに矢が当たった良かったよかった」
「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
影森は血が沸騰する様な勢いで怒り叫んだ。
「あ、なんだようるせぇな」
「そ、そんなギャグ漫画の様な回避方法でいいのかてめぇ!」
「実際ここに当たったからしょうがねぇだろ」
「だ、だがお前左足にも刺さったよな?そっちは確実に刺さった筈…!」
「あぁ、確かに刺さってる」
「普通に立ってられるわけがねぇ…」
その言葉を聞いた血斗は左足に刺さった矢を掴む。
「ぐぉぉっ!」
思いっきり引っこ抜いた。
「こんなもん根性でどうにでもならぁ!俺は彼女を待たせてんだ!そしてこのデバイスは確かに俺が貰った!もうここに用はねぇ!じゃあな」
「おいふざけんな!あんな落書き女の為になにをそんな…!」
「俺の彼女の悪口はよせ。それに、あいつの顔に落書きしたのは俺だ」
「お前かよ!クソ…せめてそのデバイスだけでも取り返せれば…」
「残念だったなぁ!このデバイスは初めに装着した人しか認識せず起動しない。俺の腕につけた時点でお前の負けは確定してるんだよ!」
血斗は装甲を装着する。
「な…⁉︎なんの能力も持たねぇ奴がぁ!」
砲台から何発もの矢が降り注いだ。
しかし装甲には傷ひとつつかない。
「お前やっぱり弱ぇよ。終盤に出る幕じゃねぇ。そんな魔王みたいな見た目もお前の強さにゃ釣り合わねぇ。だいたい、自分の能力じゃなくて装甲に頼ってる時点で自信が持ててない証拠だ」
「俺はただより強くなる方法を探しているだけだ…!より安全にこの戦争の勝者になる方法をな!」
「悪いが勝つのはおまえじゃねぇ。俺たちの方だ」
血斗はドッ!と勢いよく飛び出した。
影森の判断が追いつく前に懐まで飛び込み、顔面をぶん殴る。
「がばぁ!…」
ガンッ!と壁に影森の体があたりそのまま床に崩れ落ちた。
「俺の女を悪く言った罰だ!」
「ひでぇマッチポンプだ…」
「あぁ⁉︎なんか言ったか⁉︎」
血斗はボカスカと影森の体をタコ殴りにした。
「っと、そういや暴狐の体は爆発するんだったな。この装甲着てれば安全だが、もしもの事があるし空も心配だ!」
血斗は動かなくなった影森を見ると出口の方へ向かっていった。
3
「ユーは何しにここへ?」
「あなたからこの扉を守るため!」
「生身のピーポーで?このミーに?」
(少しでも時間を稼がないと…)
「まぁ素通りすればオーケー!」
「あ!あなたはそれでいいの⁉︎生身の女一人倒さないで勝手に行くなんて!それでも敵の幹部?そんなの恥ずかしいじゃない!」
「ユーは死にたいの?」
「死ぬのは怖いわ。でも死ぬ気であなたを止める!」
ブォン!と言う音と共に床に氷が走った。
一瞬で部屋中の壁や天井が冷凍庫の様に氷に包まれてしまう。
「きゃ!っぐ!足が⁉︎」
足が氷に捕まってしまい空はパニックになる。
冷たさと痛みが足からじわじわと伝わり涙が溢れそうになった。
「それでユーは動けないでしょ!バーイ!」
トルボは苦痛に悶える空に手を振りドアの方へ向かう。
「あっ!ダメ!」
ふんぬな…!と空は急いで氷から抜け出そうとするが全く動かない。
「んもう!」
涙目になりながら空は靴を脱いだ。
幸いにも凍ってるのは靴だけだった。
ばっと駆け出しドアの方へ向かう。
「ん⁉︎」
トルボは目を疑った。
「だから私を無視しないでって言ったでしょ!」
空は扉の鍵を閉め持ち出したのだ。
「これがなきゃ入れないでしょ!」
「あ!そのキー返せ!」
「あなたのものじゃ無いでしょ!私のものでも無いけど」
(どうしよう、この場を離れてこの子以外がここに来たら対処しようがないけど、鍵は持ってるんだしこの子をここから引き剥がすのが正解かな…)
空は校長室を飛び出した。
「コラー!ミーはもうアングリーよ!」
「はっはっ追いつけるものなら追いついて見なさい!」
空は頑張って廊下を走る。
(もう結構距離を離した筈…)
空は振り向いた。
心臓が飛び出るかと思った。
走って逃げた筈なのにトルボはすぐ真後ろにいたからだ。
「え⁉︎はや…」
次の瞬間、トルボが消えた。
振り返ると、前方に立っている。
「うでっ!」
ドテッと空はぶつかり尻餅をつく。
「なんで⁉︎あっ…」
そこで空は思い出した。
前会った時の事と血斗と湖也の会話。
『あのガキのもう一つの能力…ワープか?別の奴が使ってたと思うけど』
『能力がかぶることなんざザラにあるだろ』
「そうか、あなたのもう一つの能力は瞬間移動…」
「さぁ、キーを返して!」
「いやだ!…っ!」
空はトルボの体を押し除けて走った。
「ワッツ⁉︎」
走った方向にあるのは窓だ。
「えいっ!」
空は窓に向かって体当たりした。
(出来るだけ遠くへ…!)
バリィン!とガラスが割れ空の体は外へ飛び出す。
「良かった!ここのガラスはうちの校舎みたいに硬くない!」
「もう!いいかげんにして!」
トルボは目の前にいる。
「私だって…ノボリみたいに強くはないけど…約束したもん!!」
「…⁉︎」
空は近くに落ちていたナイフの形状をしたガラスの破片を両手で掴んだ。
空の手からポタポタと血が落ちる。
「ユー!ストップ!何もユーがそこまでする必要無い…」
「うわぁぁ!」
空はトルボに向かって斬りかかった。
トルボは一瞬で消える。
「…仕方ない!」
次の瞬間、空の両腕の周りが白く曇り出した。
氷の手錠が生み出される。
「冷た…!」
今は冬の夜、ただでさえ寒いのに手には氷。
しかも両手はガッチリと固まっているのでガラスを掴んだまま。
痛みと冷たさで空は涙を流しそうになった。
ガクッと膝をつく。
「ソーリー。でもユーが悪いんだからね」
トルボは空のポケットから鍵を取り出す。
「守れなかった…ノボリとの約束…」
とうとうポロポロと涙が落ちる。
「ユー凄いね。痛みや辛さじゃなくてボーイフレンドとの約束を守れなかった事に涙を流すなんて…でもミーはミーのやりたいことをやるだけだから!あのボーイと戦いたい!それだけ!」
その時だった。
「おーじゃあ今すぐやるか」
ふと聞こえた少年の声。
トルボは周りを見渡した。
「よっと」
割れた窓から外に出てくる。
血斗が戻ってきたのだ。
すぐに空の元へ駆け寄る。
「ノボリ…」
空は涙を流したまま血斗を見つめる。
「…」
トルボは能力を解除した。
空の手錠が外れる。
「ノボリ!」
空はガシッと血斗に抱きついた。
「ありがとう空。約束守ってくれて」
その言葉を聞いて空はとうとう思い切り泣き出した。
「約束守れて良かった…ノボリが生きて帰ってきてくれて良かった!」
「そうだ!俺あいつに勝ったんだ!見ろよこれ!」
ノボリはデバイスを見せる。
「湖也と同じ初期型らしいぞ!どうやってあいつみたいに強くなれるのかは知らないが、取り敢えず俺はこれで戦える!」
血斗は立ち上がる。
空は血斗の足を見て驚いた。
「ノボリ!その足!血が出てる!」
「血が出てんのはお前の掌も同じじゃねーか。心配すんなよ」
まっすぐトルボを見据える。
「下がってろ空。バトンタッチだ。こいつは俺が倒す。今までは空が俺を守ってくれたが、ここからは空を俺が守る!」
血斗は装甲を装着する。
「ミーはユーと戦いたいだけ。ガールには手を出さないから安心してよ」
「悪いがこっちはちと急いでてね。ここにはもう用はないんだが、そんなに死にてぇならすぐに楽にしてやる」
「前ボコボコにしてあげたのフォアゲットしたとは言わせないよ!」
巨大な氷の剣が宴を描くように何本も生み出される。
ズズーンと地面に刺さってその隙間を氷が塞いでいく。
「前やってた氷のリングか。これなら暴れても空に危害はいかないな」
「ユーの逃げ場もナッシング!これで前の決着をつけよう!」
血斗は飛び出した。
もの凄い勢いでトルボの懐に潜り込む。
トルボはパッと上に手を挙げた。
「いぃ⁉︎」
血斗が上を見るともくもくと雲が出来上がっているのが見える。
咄嗟の判断で横に飛ぶ。
ドガァン!と雷が落ちた。
「お前!正々堂々殴り合いで勝負しろや!」
「ユーのアホ!」
「アホは英語じゃねぇ!」
「ミーはただフルパワーでバトルできればオーケーなの!」
雲は即座に氷柱に姿を変える。
血斗めがけて降り注いだ。
「これくらいなら…」
血斗は腕で守りの体制をとる。
逃げることなく氷柱を全て受け切った。
しかし氷柱の雨が終わると同時にトルボが懐に踏み込んでくる。
氷のグローブをつけた右腕で力一杯血斗の拳を殴った。
ドスッ!と鈍い音と共に血斗の体がよろめく。
「もういっちょ!」
今度は左腕で血斗の顔面を殴り飛ばした。
血斗の体は勢いよく吹っ飛びドカン!と氷の壁にぶつかる。
氷の壁にはヒビや凹みは一切ついていない。
「どんだけ頑丈なんだよこの壁…」
血斗の体がガタガタと震え出した。
「くそ、氷に囲まれてるから寒い…」
血斗は飛んでくる拳を受け止めた。
「寒いから早く出よう」
もう片方の腕でトルボの腹を思い切り殴る。
「ウップス!」
再び氷柱が天井が生み出される。
しかし氷柱が降ると同時に血斗は掴んでいたトルボの腕を引っ張った。
そのままトルボの体を抱き上げ、傘にする。
「やっぱり雨の日は傘が必要だよな」
「オーマイガッ‼︎」
トルボは咄嗟に背中を氷で覆う。
ズドドドッ!と氷柱が背中に降り注いだ。
咄嗟に作った氷は薄くダメージを防ぎきれていない。
「ほらよ!」
血斗はトルボの体を投げ飛ばした。
ガンッ!と氷の壁にあたり転がる。
トルボはふらふらと立ち上がった。
「まだまだこれからだよ!」
トルボは手を上に上げる。
すると途端に空に水の塊が出来上がり、地面に向かって滝のように落ちてくる。
氷の壁で囲まれたここはすぐに水が溜まり出した。
「うわっ!水が…」
血斗は必死に手足を動かす。
上にあがろうにも常に滝が降り注いでいるので上がれない。
トルボは氷の板を作って水面に上がり避難していた。
「この装甲付けてたら水中でも息はできるがなぁ…さてどうやって奴のとこまで行こうか…下手に壁に穴開けて水が空の方に出たらまずいし」
考えてるうちに滝が終わった。
「よし!今のうちに…!」
血斗が上にあがろうとしたその時、こちらをのぞいて笑顔を浮かべるトルボがいた。
「ゲームオーバー!」
一瞬にして、溜まった水は氷に変わった。
「くそ、動けねぇ!そして寒い!」
トルボは氷の塊の上に立つ。
「これでKOだよ!」
腕をグググ…と引く。
その腕に氷がどんどん集まっていき、どんどん大きくなっていく。
「え?何あれ…」
空にもその腕は見えていた。
(まずい、あれ喰らったらほんとにまずい!)
血斗は必死に体を動かすが氷は全く割れる気配がない。
バキン!という音が響いた。
トルボの腕に氷がくっつき固まった音だ。
血斗の死の準備が完了したことを知らせる音でもある。
「ユーデッド!」
トルボはその拳を思い切り振り落とした。
バキバキバキ…ガゴォン!と壁諸共氷が砕け散る。
ガシャァン…と静かになった時には氷の瓦礫の山が出来上がっていた。
装甲をつけていてもこれではタダでは済まないだろう。
「ノボリ!」
「ミーウィン!」
トルボは喜び飛び回っていた。
「いやぁ…死なないで!」
空が近寄ろうとする。
その時、氷の瓦礫の山が動いた。
ガラガラ…と瓦礫が崩れる音が響き、やがてボコッ!と山の中から手が飛び出す。
血斗は死んでいなかった。
「ハァ…ハァ…」
顔を出し、胴をだし、氷の瓦礫の山から脱出していく。
「ハァ…勝手に勝敗を決めんなよ…」
ドン!としっかり2本足で立ち、トルボを見据えて血斗は叫んだ。
「まだ終わってねぇだろうが‼︎」




