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もしもこの世界で、あなたと  作者: 白銀
第2章〜校外戦争〜
40/52

第40話  立ち向かう為に

翔士は目の前のモニターを見て笑う。

「夢境の奴のパラメータ、とんでもねぇ事になってんな。そんだけやっても自分の思考が追いつかないだろうに、いくら天才的な科学者でも」

今度はもう一枚のモニターを見た。

「この前まで悲惨な思いばっかだったけど、大分治ったな」


1


「え?この気配…」

ミラーが呟いた。

「どうした?」

花蓮が訊ねる。

「三村湖也達の気配を感じる。でも意味分からない所にいるの。ここよりもずっと遠くの山の中」

「夢境の居場所を探し当てたとでもいうのか?」

「え⁉︎しかもその近くに影森もいる!私のあの壁は⁉︎まさか、夢境探しに夢中で能力切れてた⁉︎」

「あいつ、とうとう抜け出してきたか」

「ごめんなさい、リーダー。私がうっかりしてたばかりに」

「気にする事はない。これはむしろチャンスだ。こっちの戦力が増えたと考えればいい」

「ただ、彼が私たちに応じるかどうかは別だけどね」

花蓮は地面に生き残っている者の顔を描き始める。

「もう残るはミラー、大羅、トルボ、影森、そして私、あとは普通の生徒数人と言った所か。もうこの戦いも終盤だな」

「夢境までもう少しね」


2


「あぁクソ!あの野郎逃げやがって!」

湖也は地団駄を踏んだ。

「マジで反応しねーなこれ」

湖也は血斗の声に振り向く。

そこにはデバイスを失ったみんながいた。

今この状況で戦えるのは湖也だけ。

振り出しに戻ってしまった。

「俺のデバイスまで…湖也みたいに強くなれると思ったのに」

上伊は悔しそうに呟く。

「俺らこれからどうするんだ⁉︎戦えるのが湖也だけじゃ、どーしようもないぞ!」

亮矢が焦りの表情を見せる。

「ごめんなさい。みんなの足引っ張っちゃったかな…」

空は今にも泣きそうだった。

「いや、これは俺の責任だ」

湖也がキッパリそう言った。

「俺が何も策を考えずに奴のアジトに突っ込んだから、みんながこんな事になってしまった。俺が悪い。みんな、すまなかった」

「いや俺も悪いよ。星野の言葉、『空を大切にしてあげる』約束をすっかり忘れてた。俺がもっと周りを見れていたら…」

「俺も…」

上伊は言葉が出かけて詰まった。

「なんだよ、上伊」

湖也が聞き返す。

「あ、いや!俺も悪い所があったから、湖也達だけのせいじゃないよ…ってこと…」

「まあ今日はもう引き上げだな。車も無いんじゃあそこに行きようがない」

「あ!お母さん!まだ向こうにいる!」

紗水は慌てて携帯を取り出す。

「ノボリ、どうする?」

空が血斗の袖を引っ張る。

「どうするって一旦帰るしかねーだろ。デバイスが破壊されちゃ打つ手無いし、さっきのところまで何時間かかるか分からない。大体、もうあそこにいないかもしれないしな」

みんな帰り始めた。

その中でただ1人、残ってる者がいた。

上伊は自分の手を眺めてため息をつく。

「どうしたの?」

声をかけられビクッと体を震え上がらせながら前を見ると、そこには凛がいた。

「さっきからずっと元気が無いようだけど…」 

上伊はまたはぐらかそうと思ったが、彼女の真っ直ぐ自分を心配してくれてる目を見て正直に話す事を決めた。

「俺、ちゃんとみんなの戦力になれてたのかな…湖也や天や登みたいに大きな戦力になった人、陸や蓮真や漣さんみたいに大切な事を気付かせてくれた人、みんな役に立ってきてた。けど俺はまだ何もしてあげれてない。結局装甲の色も変化せず使えなくなったし、リーダーとしての役割も湖也に取られた。もう俺の取り柄は何もない」

上伊は頭に重りを乗せられたかのように下ろし、今にも泣きそうな声で話した。

その姿が凛の目にはとても小さく見える。

今までリーダーとして大きく映っていたはずなのに。

そう思うと自然と言葉が出てきた。

「上伊君のそういう所、初めて見た」

上伊の肩をポンと叩く。

「私、上伊君の事憧れてたんたよ。クラスをまとめてくれて的確な指示を出せる、常に自信を持って行動していたあなたの事、かっこいいと思ってた。でもそうじゃなかったみたい。ちゃんと悩み事もあって安心した」

「そういう所、見せちゃいけないと思ってたから…少しでも自信の無いところを見せたらいじめられると思ってた…」

「そんなんでいじめられてたら私なんかもっといじめられてるって」

「でも姉ちゃんはいじめで死んだ!いつも真面目で優しくて成績が良かった姉ちゃんが!そして俺は知ったんだ。ただ優しいだけじゃダメだ。常に自信を持って行動しないといじめられるって…そういう力が必要なんだって!」

「あ…」

そこで凛は思い出した。

大橋のお姉さんは数年前自殺をしていた事。

「この世界で死んでも元の世界に戻るだけ。でもそれでも姉ちゃんがいじめられていたことに変わりはないんだ!それで死にたくなるほどの深い傷を心に刻んだ事は変わらない。鋭い言葉の刃が胸に突き刺さらないように強くならなくちゃいけないんだ…」

「で、でも!そんな焦る事じゃ無いと思うよ!」

「もうこの戦いも終盤なんだぞ!みんないろんな力を付けてきた。その証が装甲の色だ。だが俺の装甲はずっとデフォルトのまま、何も力を付けていない証拠だ。俺は無力のままだ…お姉ちゃんの言っていた事守れなかった…」

そこで凛は悟った。

上伊にはさまざまな顔が存在する事。

教室でリーダーとして振る舞っていた顔、みんなの事を考えてくれている部分がある反面、自分の自信に不安があるところもあって、お姉さんに甘えたかった一面もある。

「上伊君の気持ちは分かるよ。でもここで悩んでても仕方ないと思う。だから一緒に歩こ!駅まで一緒に考えようよ」

凛は上伊の腕を引っ張る。

「凛さん…」

「凛でいいよ。私も呼び捨てで呼んでいい?」

「う、うん」


2人は校門を出た。

「上伊は湖也君と仲良いよね。前から?」

「いや、さっき話した校内戦闘事件があってからなんだけど…なんでかな、ずっと昔から一緒にいたかのように仲良くできるんだ」

「それは上伊がリーダーをやってたからだと思う。みんなの事ちゃんと見てて、湖也君の事も見てたからそんな喧嘩した後でも仲良くなれた」

「でも最初は俺の早とちりだったんだ。湖也が妙に調子乗ってると思って喧嘩を仕掛けたのはこっち。それで負けていじめられると思ったのも今考えたらすごい恥ずかしい事だった。お姉ちゃんの言葉を変に解釈しちゃってた」

「それが分かったのならいいじゃない」

「でも今度はみんなの役に立たなくなってた。俺がもう少し強ければ夢境を倒せたかもしれない。装甲の力を最大限に発揮していれば…」

「そうやって強くなって弱くなっての無限ループか…怖くない?」

「怖いよ…自分でもどうすればいいか分からないんだから」

「うーん…じゃあ、これはどう?」

凛の明るい声に上伊は顔を向けた。

「どっちも受け入れればいいんだよ。強い自分も弱い自分も。それだけじゃない。誰かに甘えたい自分も優しくしたい自分も全部受け入れて進んでく。『俺はこういう部分を直さなきゃいけないんだ』じゃなくて『俺はこういう人間だから』って思ってれば楽になると思わない?」

「受け入れる…」

「そう。私はすでに上伊の強い部分弱い部分も受け入れられてるよ。受け入れられなかったら相談に乗ってないし一緒に隣を歩いて帰ってなかったと思う。みんなも受け入れてくれるよ!後は君自身だけ」

「…そうかもな。重く考えすぎてたかもしれない」

「だと思うよ〜。私達暴狐と戦う事を除けばただの高校生なんだから、難しく重いことじゃなくて楽しく生きる事を考えるべきだよ。ねえ、今度2人で遊びに行かない?」

「え?まぁ、いいけど…」

「やった!」

凛は上伊の顔を見て微笑んだ。

その表情の暖かさに上伊は一瞬心を奪われるが、次の瞬間顔を赤くして目を逸らす。


「じゃあ、また2週間後ね!」

笑顔で手を振ってくる凛に軽く手をあげ別れの挨拶をした後、上伊は歩き出した。

「こんなに相談に乗ってくれたの初めてだ…」

どこか胸に熱いものを感じていた。

「女子と2人で遊ぶって初めてだな…どうしよう」


3


『おい、ちょっといいか』

「始めの一言目がそれはちょっとどうなのかな…」

リーダーは冷静に返す。

電話の相手は影森だ。

「影森、君は夢境の所へ行ったんだって?ミラーですら探し当てることができなかったのに、どうやって」

『そんな事はどうでもいいんだよ。お前、校長室の奥にある隠し扉の鍵を持ってるな?』

「え?あぁ、持ってるけど」

『今からそっちへ行く。鍵を渡せ』

「ただ渡すわけにもいかないだろ。そうだな、君が今からしようとしてる事を話してもらおうか」

『仕方ねぇな』



数時間後、

花蓮が待ってるとトラックが海高の駐車場に停まった。

助手席から影森が降りてくる。

「タダ働きご苦労だったな。もう帰っていいぞ」

運転手に向かって叫んだ。

「ひ、ひえぇぇ!」

顔を真っ青にした運転手が慌ててトラックを走らせて逃げていった。

「さっきの人は?」

「言うまでもないだろ。夢境の所の近く走っていたトラックに乗せてもらった。仕事中とかほざいて泣きながらここまで運んでもらったわ」

「本当にお前は外道極まりないな」

2人は校長室まで来た。

奥にある隠し扉の前に立つ。

「この扉がオートロックだったら良かったのにな。あまりにも頑丈で壊せねぇ」

「で、何が目的だ」

深いため息をつくと影森はポケットからスマホを取り出す。

画面に手を翳すと、画面いっぱいに図面や文章が表示された。

「これを作るんだよ」

「これは?」

「三村湖也の付けていたデバイスの内部設計やプログラムの中身だ。俺があいつのデバイスを掴んで手に入れた」

「そういや君の能力は電子系だったね。夢境のパソコンの映像も姿が分からないよう弄ってたようだし。それにしても、触るだけでデバイスの全てが丸わかりとは、便利なものだ」

「これを作るための設備が、奥の扉の向こうに眠ってる。この拡張性を持った初期型のデバイスが俺のものになれば、俺はもっと強くなれる。ま、作るのにそこそこ時間はかかるだろうがな。ほら、鍵を渡せよ」

「仕方ないな。私も入れて欲しいと言っても君はダメと言うだろうからね」

「当然だろ。馬鹿なのか」

そう言いながら影森は校長室の奥へ向かっていった。


4



「全く、ガッカリだよ」

夢境は酷くイラついた様な感じだった。

自分のパソコンの画面と睨めっこしながら呟いている。

そのパソコンからはコードが伸びており、何やら大きく複雑な構造の機械に繋がっていた。

「もう少し成長していると思ってたのだがね。結局、初めて装甲を手にした時と変わらない。いや、それよりもっと前、君が酷く苦しんでいた時と同じだ。文化祭の時、紗水君がいじめられてると私に報告してくれた君の目には少し期待するものがあったが…もう終わりにしよう。この世界はおさらばだ。ただ…最後に何か見せてくれるというのなら…」


(…次こそは絶対に倒す)

湖也はベッドに座って休んでいた。

充電ケーブルに繋がれて日の当たっていない暗い部屋の隅に置かれた携帯からピコンと音が鳴る。

「なんだよこんな時に」

湖也は画面を見た。

次の瞬間、湖也の目がこれでもかというくらいに開いた。

夢境からのメールだった。

信じられない文章が書かれていた。

『三村湖也君、君が何の成長もしていない夢に溺れたただの少年って事は分かった。最後の戦いをしようじゃないか。私は2週間後の19時、この世界を終わらせる。私を止めたければ、その時間に山の奥にある円形の体育館まで来い。翔士君が爆発させた場所だ。覚えておるだろ。私を倒すことができれば、世界は終わらない。どうするかは君次第だ』

「な、なんだよこれ…」

とうとう夢境が動き出した。

しかもいきなり世界を終わらそうとしている。

あまりにもぶっ飛んだ内容に頭がパンクしそうになっていた。

「俺1人でどうすればいいんだよ…」


何日間も、

湖也は考えていた。

どうやって戦うか。

1人で戦うか。

ただどれだけ考えても答えは導き出せず、時間だけが過ぎて行った。

湖也は焦っていた。

(どうにかしてあいつを倒す方法を考えないと…みんなはもう戦えない。俺1人でやり遂げるしか無いんだ…期限は明日…)

そう、夢境の宣言した日時は明日に迫っている。

考えたのにいい案が見つからなかった。

何もしなければ世界は終わる。

部屋の窓から外を見る。

(あいつは全ての能力を使えると言っていた。なら瞬間移動でここに来ることも可能なはず。でもあいつは指定した時間まで大きな動きは見せない。何故だ?)

下の方を眺めるとちょうど紗水がインターホンを押そうとしていたところを見つけた。

周りをキョロキョロしながら押そうか悩んでいるらしい。

湖也は窓を開けて声をかけた。

「おい、紗水何やってんだ?」

その声に紗水は驚き肩を震え上がらせる。

「え⁉︎湖也、見てたの⁉︎ずっとここら辺でウロウロしてたところ⁉︎」

「いや、今見たばっかだが…お前ずっとウロウロしてたのか?別に戸惑うことないだろ。俺たち、恋人だろ?」

「馬鹿そんな大声で恋人とか言うな!今暇でしょ!どっか遊びに行きましょ!」

「こんな時に何言ってんだ!…」

一旦怒鳴ったが今の状況を冷静に考えて、ここで考えてても意味がないと判断した。

少し頭を落ち着かせる必要があるかもしれない。

「分かった。今から支度するから待ってろ」

「え?いいの⁉︎うん待ってる!」

「お前は拒否られる前提で来たのかよ」


2人で電車に乗る。

「でもなんでいきなり遊ぼうって言い出したんだ?」

「もう何日も会ってなかったし、前夢境のところ行った時顔怖かったから、色々回って楽しんでもらおうと思って」

「嘘、そんな怖いか?」

「怖い」

「まぁ、天も陸もいなくなったからな…遊ぶ相手がいないしお前がいてくれて良かったわ」

「そりゃ湖也に守られてるからね」

「だって紗水を守るのが俺の役目だろ?もうお前は戦えないんだし、これからは俺1人で守らなければいけない」

「その約束、続いてたんだ。今考えると恥ずかしいな、あれ」

紗水は顔を赤らめる。

「ま、今は恋人の関係だしな。でも何で急に家に押しかけてきたんだ?スマホで連絡すればいいだろ」

「したわよ」

「え?」

湖也は鞄からスマホを取り出す。

通知が沢山溜まっていた。

夢境の事で頭がいっぱいでみてなかった様だ。

「俺が悪かったです」

「よろしい」

「それで、どこ行くの?」

「着いてからのお楽しみ」


2人は遊園地へやってきた。

「えぇ…ここかよ」

「2人で来た事なかったじゃん。いい機会だと思って」

「いい機会って…ていででで!俺絶叫マシン無理なんだけど!」

「私がついてるから!ほら、行くよ!」

2人は遊園地に入る。

2人でジェットコースターに乗り、湖也は大声で泣き叫んだ。

「湖也、ジェットコースター乗ったくらいで泣きそうになってる!」

「うるせぇ!お前に絶叫マシン苦手な人の気持ちわかるかよ!」

「でも、いい体験になったでしょ?」

「あぁ、いい体験になったわ。もう二度と乗らねぇ」

「でも絶叫ダメなら遊園地楽しめないじゃん」

「観覧車とかあるだろ」

「あらあら、お可愛い事」

2人は観覧車に乗った。

「見て!あんな遠くに私たちの学校がある!」

「あぁ、めっちゃ小さいな。ここからだとこの街がよく見える。俺たちが頑張って守ってきた街が」

「そうだね。今この状況で暴狐が現れて、観覧車破壊されたらどうする?」

「当たり前だろ。俺がお前を抱っこしてここから脱出する。もちろん、他の人も見殺しにしない」

「湖也って本当に強くなったよね」

「…かもな」

紗水の何気ない言葉に湖也の表情が一段と優しくなった。

(もう紗水を戦いに巻き込みたくないや)

2人は観覧車から降りる。

「よし、次は何処回ろうか。紗水の好きなところでいいぞ」

「え?何で急に?あーもしかして褒められて機嫌良くなったな?」

「うるせーよだったら俺が決めるぞお化け屋敷だ!ほら行くぞ!」

「えぇ私怖いの無理!」

「大丈夫だって俺がついてる!」

その後2人は沢山遊園地を楽しんだ。

美味しいもの食べて、笑い合って、驚いて。

戦いのとこなんて忘れて、ただ今を全力で。

気づけば空が夕焼けによって真っ赤に染まっている。

2人は遊園地を出た。

「あー今日は楽しかったわ。ありがとな」

「私も湖也の楽しそうな顔、久しぶりに見れて嬉しかったわ。また遊びに行こうね」

「あぁ」

満足した表情で歩いていた湖也は、急に隣にいた紗水がいなくなった事に気づいた。

「…!」

突然の出来事に声に出ない叫び声を発して周りを見渡すとちょうど数歩後ろで立ち止まっているのを見つけ心の底から安堵する。

「おい何やってんだ!紗水!」

たった数歩後ろのはずなのに異様に小さく見える紗水から小さな声が聞こえる。

「湖也、今日がなんの日か覚えてないの?」

「なんの日って…」

湖也が考えていると紗水は湖也のところまで来て両手を差し出した。

その両手には何かハート型の物が握られている。

湖也がそれを受け取った時にようやく思い出した。

「あー今日バレンタインか。これチョコだろ?」

紗水が下を向きながら頷く。

「初めてバレンタインチョコ貰ったかも。すげぇ嬉しい。ありがとな!」

「湖也はいなくならないよね?」

「え?」

突然言われたセリフ。

紗水の声は震えていた。

「天も陸もいなくなった…もちろん2人だけじゃ無い。これまで戦いで多くの生徒が命を落とした…そして私や上伊達は戦えなくなって、もう戦えるのは湖也だけ。負けて消えたりしないよね?」

次第に紗水の体も震えてきた。

涙も流れているかもしれない。

だがその体の震えを押さえる様に湖也は紗水の肩を叩いた。

「大丈夫だ。俺はお前の元から離れない。消えたりもしない。俺が強くなったの知ってるだろ?」

「うん」

「心配すんな。絶対夢境を倒して帰ってくる。ほら、今日はもう帰るぞ」

2人で電車に乗った。

電車の窓から見える景色がいつもより暖かく感じる。

紗水が降りる駅まで来た。

「じゃ、私降りるわ!またね!」

「あぁ、また」

手を振ってくる紗水を見ながら湖也は思った。

絶対に夢境を止める。

どんな手を使っても。

電車が出発して紗水が見えなくなった。

湖也はスマホを取り出す。

人の少ないところへ移動し電話をした。

『君からかかってからは思わなかったよ』

相手は花蓮だ。

「頼みがある。今から海高の生徒会の奴らを集めてくれ」


5


湖也は空き地のキャンピングカーに向かった。

蓮真が暮らしていて、昔みんなで過ごした場所だ。

ドアをノックし開ける。

「来たか」

大羅が振り向いた。

「…これだけか?」

湖也は集まっている人を見渡して花蓮に聞く。

そこには花蓮、大羅、ミラーしかいなかった。

「これだけだよ。ハデスと鷲羽はいなくなったし、トルボは付いて来なかった。影森は生徒会じゃないしな」

花蓮が答えた。

「そうか」

「でも湖也が私たちを呼ぶとは驚いたよ。要件は何?」

「…俺と一緒に戦って欲しい」 

「は?」

大羅はイラついた声を漏らす。

「お前正気か?俺たちが何か忘れたわけじゃねーだろうな。敵同士なんだぞ」

「分かってる」

「前私とは協力したくないとか言ってなかったっけ?」

湖也はその言葉に息を詰まらせる。

返す言葉が無かった。

「…分かってる!でももう戦えるのは俺とお前らだけなんだ!もう時間がない!俺たちだけで夢境を倒すしかない!」

「どういう事?」

ミラーが問いかける。

「明日の夜7時、夢境はこの世界を消滅させるといった。それまでに奴を止めなければ全て終わりだ」

3人は動じない。

「夢境の動きが分かったのは嬉しいけど…何で私たちに頼るの?」

「あいつは全ての暴狐の能力を使えると言っていた。それだけじゃない、オリジナルを超えた力を引き出せるとも。とても俺だけじゃ止められない」

「お前の仲間はどうしたんだよ」

「みんなのデバイスは夢境によって再起不能になった。俺のデバイスは俺の心とリンクしてるから奴の能力を受けなかった」

湖也は左手に着いてる黒いデバイスを見せる。

「それってハデスが作ったデバイス…」

「夢境曰く俺のデバイスは試作機だったんだ。まだ完成してなかったから拡張できる部分が残ってた。その部分をついてハデスはこいつを作ったんだな。その結果俺は陸を殺してしまった。この事実は絶対に変わらない事だ。だがその身を使って俺の目を覚まさせてくれた陸、そしてハデスを倒してくれた天のおかげでこのデバイスは俺の力となり俺は今も戦えてる。2人のおかげで俺は強くなったんだ」

「それがどーしたよ」

「でも俺だけじゃダメなんだ。さっきも言ったが夢境は全ての能力を使える。俺がどれだけ立ち向かおうが1人では勝てない。だからお前らの力を貸して欲しいんだ!お前らだって夢境を狙ってるんだろ⁉︎」

「ふざけるな!」

大羅は湖也の顔をぶん殴る。

「だからノコノコやってきたってのかよ。悪いが俺はそんないい奴じゃねぇ。『人数足りなくなったので埋め合わせお願いします』って言われて『いいですよ』って馬鹿正直に答える奴じゃねぇ。俺たちは敵同士だろうが」

「君、頼む時期間違えたわね。そりゃ私たちは君たちの仲間を沢山殺してきたわ。でもあなた達だって私たちの仲間を沢山殺してる。こっち側が仕掛けた戦いなのは承知だけど今更手を組む気にならない」

「お前らそんなこと言っていいのか⁉︎明日の夜7時にこの世界は消滅するんだぞ!逃げ場なんかない!それまでにあいつを止めなきゃ文字通り全てが終わるんだ!」

「おいお前表出ろ」

大羅は湖也の胸ぐらを掴んで引っ張り出す。

そこでは『土の巨人』が待機していた。

「何なんだよこれ…」

湖也が困惑の声を漏らす。

「今から俺と戦え。俺に勝つことができたらついて行ってやる。だが負けたらこの話はナシだ」

「勝ち負けの判定はどうするんだよ」

「尻尾巻いて逃げるか、それとも死ぬか」

「何でラスボスとの戦いが控えてるって時にお前と戦わなくちゃいけねぇんだよ…!」

「単純な力試しさ。強くなったんだろ?お前。あの紫の装甲を超えれるならこの俺に勝てるはずだ」

「紫の装甲って大政先輩か」

「あいつはお前らの中でも別格だったよな。さぁ、装甲を付けろ。その力を俺にぶつけてみろよ」

土の巨人は大羅を飲み込んだ。

みるみるうちにその土は巨大な翼竜へと姿を変える。

「何で話が通じないんだよ…」

湖也は装甲を付けた。

夜の空き地で2人の戦いが始まる。

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