第39話 1人のための世界
1
湖也達は車で移動している。
結局前の席には紗水が乗り、他は後ろの荷室に詰め込まれる。
狭く暗い空間のなかでガタゴト揺れる感覚しか分からない状況においてみんなは段々とイラつき始める。
「あーせめぇ」
「ちょっと暗すぎないか?周りの景色も見れないで揺られるだけとか拷問だろ!」
「天先輩…」
「ちょっと誰おならしたの!」
と言った感じでギャーギャー騒いでいる。
しかしそんな声は運転席と助手席に乗ってる親子には届いていない。
「ねぇ、お母さん」
紗水はそう切り出した。
「夢境とはいつ頃から連絡取ってたの?」
「さぁ、いつだったかしら。もうずっと前の頃からだわ」
「じゃあ、もう最初から知っていたのね。暴狐の事も学校の事も」
「まあ、全部じゃないけど。少しだけね」
「なんで黙ってたの?」
「黙ってた訳じゃないの。あなた達が頑張ってるところを見ると応援してあげたくなって…手を貸したらいけないなと思って言わなかっただけなのよ」
「結局黙ってるじゃない」
紗水ははぁとため息をつく。
「…怒ってる?」
「別に怒ってないよ。悪いのは全部夢境だし。そういえば、お兄ちゃんは?」
「家で寝てるでしょ。ほら、もう夜の一時よ」
「わ、もうこんな時間だったんだ」
「あなたも寝てていいわよ。まだ3時間はかかるわ」
「そんなに遠いの⁉︎」
途中車はコンビニに停まった。
運転席に戻り買ってきた缶コーヒーを飲みながら純恋は横で寝てる紗水の顔を眺める。
「やっぱり長くいると情が移るものね」
「湖也君達が来ておるな…」
夢境は湖也達の気配を察知しつぶやいた。
「純恋君の力を借りたか…全く無謀な真似を…」
「やっぱりどいつもこいつもバカばっか…片方に気を取られて俺の存在に気づいちゃいねぇ」
夢境の背後から声が聞こえた。
「もちろん。気づいていたとも、影森君」
夢境は振り返る。
「君は少々乱暴だねぇ。最初の生徒殺害といい今回といい。この周囲の警備員全員殺してしまうなんて」
「俺は誰にも縛られねぇ。リーダーにも、お前にもな。俺のやりたい事をするだけさ」
「ほう、では私を倒しに来たと?」
「いいや違う。一つ聴きに来た。三村湖也とやらの持っているデバイスについてだ。彼はお前のお気に入りらしいな。そしてデバイスの未完成品をあいつに渡した。そうだろ?」
「そうだな。湖也君と上伊君のデバイスは他の生徒のような完成品では無い。だがそれが君にとって何になるというんだ」
「それさえ分かれば十分だ」
影森はその場を離れようとする。
「何をするつもりだ?」
夢境は振り向き言った。
「なんだようるせーな。ちょっと遊んでくるだけだよ」
湖也達を乗せた車が急に停まった。
響く急ブレーキ音を聞いて紗水は目を覚ます。
「ふわぁ…ん?着いたの?」
純恋は険しい顔で返答する。
「うん。すぐ近くには来てる。でもあれ見て」
紗水は車の外を見て驚愕した。
今いる場所が山の中だったからだけでは無い。
それもあるが、目の前の木々が薙ぎ倒れている。
紗水はデバイスに向かって叫んだ。
「みんな!着いたわよ!」
その声は荷室に押し込められているみんなのデバイスに届く。
「ん?着いたって」
目を擦りながら空は呟いた。
「お、起きたか」
血斗が穏やかな顔で言った。
「おはよう」
「ノボリ、おはよう」
「こんな時間まで寝てるのお前だけだぞ」
「だって夜はちゃんと寝ないと」
と2人が会話している間、湖也と上伊は自分のデバイスを見つめる。
「なんで俺んところは声が聞こえないんだ?」
「俺のもだ。夢境に聞いてみるか」
湖也達は荷室のドアを開けて外へ出る。
「眩しいな」
そこに広がっていたのは1cm程度積もった雪に何本も聳え立つ木々だった。
「思いっきり山の中じゃないか…こんなところに夢境が…」
「ん…眩しいよ…」
目を擦りながら出てくる空を見て湖也と上伊は血斗を見た。
血斗は2人と目が会うと「しっ!」と口に人差し指を当てた。
「ねぇ!これ見て!」
紗水の声が聞こえて行ってみると木々が倒されているのが見えた。
「これって、暴狐の仕業なのか?でも俺たちの街から遠く離れてるだろここ」
「夢境が暴れた後かもしれないな」
その時湖也は動く影を見つけた。
倒れた木に隠れるように動いたのが見えたのだ。
すぐさまそこへ駆け寄る。
「ちょっと湖也!危ないよ!」
「救急車!ダメなら救急ヘリ!」
紗水の声を気に留めず湖也は純恋に叫び影が見えた場所へ行く。
そこには作業服を着た男性が倒れていた。
とても苦しい表情をしていて足が動かせないようだった。
「大丈夫か?これでも飲め」
湖也はポケットから水の入っているペットボトルを取り出し渡す。
男性はその水を勢いよく飲み干す。
「何があった?ゆっくりでいい。話してくれ」
湖也は優しく話しかける。
「か、怪物が…俺たちを…殺して…ヴォエ!ゲホッ!」
「大丈夫。落ち着いて」
静寂だった山の雰囲気が一気に変わった。
奥から声が聞こえたのだ。
「君が三村湖也君だな?人に頼ってばかりのガキだと聴いていたが…なんだ、今までの戦いを通して少しは成長したというのか?」
常に何処か嘲笑われてる気がする声だった。
ハデスとはまた違った狂気を感じる。
「お前は誰だ」
湖也は立ち上がった。
「俺は影森、海高の生徒にしてこの戦い『校外戦争』を始めた者だ」
そう言うと影森は黒い霧状の物体になり姿を消す。
湖也は彼がどこへ行ったか分からなくなり焦りながら見渡す。
背後から気配が感じた。
雪を踏む音が聞こえたのだ。
気づいた時には湖也の体は動き、こっちへ向かってきていた拳を受け止める。
影森はその腕を掴んだ。
正確には腕についているデバイスを。
「その能力、確かに夢境のパソコンの映像に出てきた奴そっくりだな。2番目に戦った死神野郎も似たような能力を持っていたが、やっぱり真犯人は別にいたか」
「あんな雑魚と一緒にするな」
生身で暴狐の行動に反応した湖也に血斗は感動していた。
「すげぇ、あいつ。いつのまにあんな強くなっていたんだ」
上伊も驚きを隠せないでいた。
「奴の覚悟はここまで決まっているらしいな。にしてもここに来てまた新たな暴狐か。もしかしてお前、生徒会の1人だったりするのか?」
影森に向かって呼びかける。
「いや、俺は生徒会なんかじゃねぇよ。そんなもんに俺は縛られねぇ。一人勝手にやってるだけさ」
「なるほど、それでこんな事になってるわけだ」
湖也の声には力が入っていた。
瞬時に影森はその力が怒りによるものだと察した。
「そうだよ。俺が殺した。この辺りの警備員をね。あ、でもそこに生き残りがあるじゃん良かったな」
「戦い慣れても人の命を大事にしない奴には慣れねぇもんだな。イライラしてたまらねぇや」
「いや君たちは俺に感謝すべきだよ。その警備員は夢境から特別な訓練を受けてる奴らでな、俺が殺しておかなければお前らは夢境に辿り着けなかったんだぜ?」
そう言った途端、影森の体は煙のように空気に溶けていった。
周りを見渡すと今度は紗水達の元へ姿を表していた。
「お前らが三村湖也の仲間ねぇ…ん?」
影森は空の顔をまじまじと見つめ、唾を吐き出す勢いで笑い出した。
「ダハハハハ!お前デコにハートマーク書いてんの⁉︎はっずかし!」
「えっ⁉︎」
その言葉を聞いた空は驚きをスマホを取り出した。
インカメで自分の顔を見た途端顔がトマトよりも赤く、ストーブよりも熱くなったのが分かる。
涙を目に溜めながら何か言いたげな様子で血斗を見つめた。
その血斗はと言うと空に背を向け必死に声を押し殺していた。
「ノボリ!」
「ぶふふふ!お前初対面の人にそんな顔晒してんの!」
「ノボリが書いたんじゃない!いつかいたの⁉︎」
「寝てる時だよ」
「どうやってとるのこれ!」
「水性だからそこらへんの雪でも取れるだろ」
「ノボリの鬼!悪魔!もう大っ嫌い!」
そう言うと空は紗水の胸に飛び込み泣き出した。
紗水は冷たい目線を血斗に向ける。
「登君、あなた本当に空ちゃんの彼氏なの?酷いと思わない?」
「でもあんたと湖也も似たようなことしてるんじゃ無いの?」
その言葉を聞いて紗水は随分前に湖也にやった罰ゲームのことを思い出した。
「そ、そんな事ないわよ」
空気が重くなったような気がした。
紗水達が言い争いをしているからだ。
影森は笑いながら語りかける。
「なんだ。お前ら協力しながらここまで来たんじゃないのかよ。なぁ三村、こんなグダグダなチームでよくやってこれたなぁ」
何かの気配を感じ取って影森は振り向く。
そこには装甲を着けた湖也がいた。
真っ白な雪の中に、真っ黒な装甲を着けた湖也が。
その姿を見て上伊は焦った。
暴走形態だからだ。
あの時の記憶が蘇る。
「待て!落ち着け湖也!」
必死に呼びかける。
だが次の瞬間、湖也は動き出してしまった。
ものすごい勢いで影森に近づく。
考える間も与える事なく影森の顔面をぶん殴った。
影森の体が吹っ飛んだ。
「なんだそのドス黒い見た目は、まるで悪役じゃないか」
首を鳴らしながら影森はいう。
いつのまにか怪物の姿になっていた。
機械的な装甲を纏う湖也とは対照的に、真っ黒な魔王のような見た目だ。
「紗水達は下がってて」
湖也の口から言葉が飛び出した。
その様子にみんなは驚く。
「こいつは俺がやる」
湖也は冷静だった。
装甲は黒、あの時と同じ色だ。
なのに暴走はしていない。
上伊は考えた。
「あの黒いデバイスを作ったのはハデスだ。ハデスが消えたから、デバイスの影響が弱くなったのか…いや、それだけじゃない。湖也の気持ちが前に比べて安定してるのもあるかもしれない」
湖也はジェット機のような速さで突っ込んだ。
影森の能力を使わせる前に再びぶん殴る。
影森は咄嗟の判断で受け身を取るがあまりの力に再び吹き飛ばされる。
「凄い、湖也。本当に強くなってる」
紗水が呟いた。
「黒い装甲の力を自分のものにしたんだ」
上伊が解説する。
影森は感心していた。
「なるほど、そのデバイス。未完成品ゆえのその拡張性。素晴らしいものだな」
「どうゆう事だ」
湖也が聞き返す。
再びものすごいスピードで距離を積める。
しかし今度は影森の姿が消えた。
「夢境が言ってたぞ。君と上伊とやらが持っているデバイスは未完成な物だと。だからハデスはお前のデバイスに細工が出来たんだ」
影森が姿を表す。
頭上だ。
湖也は気配に素早く気いた。
影森の体を掴もうとするが即座に消えてしまう。
影森と湖也の攻防は凄まじいものだった。
紗水達はただ見守ることしかできない。
あの中に入ったら即座に殺られてしまうと本能が理解している。
「なるほどな、大体のスペックは分かった」
影森の姿がまた消えた。
湖也は周りを警戒する。
しかし影森は姿を現さなかった。
「もう用は済んだ。一旦帰らせてもらうよ」
言葉がどこか遠くから聞こえた。
「湖也!」
紗水が駆け寄った。
「大丈夫?」
湖也は装甲をしまい振り向く。
「あぁ」
「もう邪魔者はいないみたいだし、行くか」
血斗が一番に進む。
「ノボリ!謝ってくれないの!」
空の震えた声が血斗の耳に届く。
血斗は心底ウザそうに振り向いた。
「そんな悪戯程度でギャーギャー言うなよ。影森に好感持ってもらえたなら良いじゃん」
「何もよくないよ!」
「はぁ」
「ちょっとお前、冷たすぎないか?」
亮矢が血斗の肩を掴んだ。
「でもそれより夢境の所へ行く方が大事だろ。こんなところで言い争いしてる場合じゃない」
「言い争いの種を撒いたのはお前だろうが」
「まあまあ、こんなギスギスした空気でラスボスへ行くのは良くないよ。もっと彼女を大事にしないと男としての価値が落ちちゃうよ」
凛が間に入る。
「なんだよ男としての価値って…まあいいや」
血斗は空の元へ向かう。
「悪かったな」
ハンカチを差し出した。
空は無言でそのハンカチを受け取る。
「純恋さんはこの人を頼みます」
湖也が警備員見て行った。
「分かったわ。みんな、仲良くね」
純恋が優しく言った。
2
湖也達が進むと雪景色の中にポツンと小屋が見えて来た。
「あれか?」
湖也は恐る恐る扉を開け中を確認する。
なかには下へと続く梯子があるのみだった。
「入るか」
「ま、それしかないよな」
下は真っ暗で何も見えない。
湖也達はスマホを光らせ梯子を降りる。
細い廊下のようだった。
スマホの光しか頼ることのできない状態で何があるか分からない道を進むのは結構勇気のいることである。
「死体が転がってるかもな」
血斗が言った。
「ここでそんな冗談言わないで」
紗水が冷たく吐き捨てる。
細長い廊下を進むと明かりが見えて来た。
道がひらけたと思ったらそこは部屋だった。
夢境がなにかを研究していた場所らしく、真ん中には机が置かれており、あたりには書類が散らばっていた。
湖也はその一枚を拾い上げる。
「デバイスの設計書っぽいのがあるな」
上伊は別の紙を拾い上げる。
「これは暴狐の研究か?いやこれも設計書っぽいな」
「なんで暴狐の設計書なんだよ」
「知らないよ」
「ちょっと!これ見て!」
凛は机の上にあるモニターの画面端に付いている付箋を見た。
3枚貼られており、それぞれに名前が書いてある。
夢境影利、川村純恋、そして…
「一宮翔士…って誰だっけ?」
湖也が首を傾げる。
「お前忘れたのか、体育館を爆発させた奴」
上伊が答える。
「あーあいつか。ってなんであいつの名前が書かれてんだよ」
「分かるかよ」
「おいおいおいちょっと待て!体育館爆発ってなんだよ」
2人の間に亮矢が割り込んだ。
現状あの時のことを覚えているのは湖也と上伊しかいない。
紗水は少しだけ湖也から話を聞いているが。
上伊は話すべきか悩んだ。
「仕方ない、正直に言うか。文化祭から、校内戦闘事件までの事を。少々話は長くなるぞ」
上伊はみんなに話した。
みんなはよくわからないと言った表情だ。
「つまりだ。お前が支配者になる為に変なノートで学校を変えたってことか?」
亮矢は訪ねた。
「そうだ。そしてその時の記憶はもう俺たちの中にしかない」
「そんなインチキ道具があるのかよ」
「夢境は俺の姉から貰った物と言っていたが、もしかしたら俺を利用する為に言った嘘だったのかもな。この世界を作ったあいつならなんでも作れるだろ」
「そんな奴にこれから挑むってのか…勝てんのかよ」
「大丈夫だよ!みんなで力を合わせれば!…」
凛は元気よく行ったがあんまり自信が持ててなかった。
「…さっき喧嘩してましたけど、大丈夫なんですかね」
葉種が目を逸らしながら言う。
「ノーと言えない段階まで来てるんだ。ほら、向こうへ道が続いてる。行くぞ」
湖也は険しい表情を一切変えることなく歩き始める。
その湖也の背中を見ながら葉種は紗水に囁いた。
「湖也先輩、前よりドライになりましたよね」
「今まで困難の連続だったから仕方ないのかもしれないわね。私がもっと支えてあげればいいんだけど…」
湖也達は部屋を出てさらに奥を進む。
進みながら湖也は考える。
「なんで3人の名前の付箋がモニターに貼られてたんだ」
「紗水のお母さんは夢境と繋がっていた。おそらく一宮も夢境と繋がっていたんだよ」
「そういやあいつ、化け物みてーな身体能力してたな。夢境に改造手術を施してもらったとか?だとしたら紗水のお母さんも何かあるのかもしれないな」
「ちょっと!私のお母さんを巻き込まないで!」
「もうとっくの前から巻き込んでるんだが」
少し進むとエレベーターが現れた。
「閉じ込められたりしないんですかね…」
葉種は紗水に抱きつきながら言った。
「夢境がそんな小賢しいことするわけないだろ」
湖也はそう返しなんの躊躇いもなくエレベーターに乗った。
みんなも湖也に続く。
エレベーターの中で上伊は自分のデバイスを見た。
「影森が言ってたな。俺と湖也のデバイスは未完成品だって。どおりでみんなのデバイスは通信できるのに俺達だけ出来なかったわけだ」
「あぁ、そうだな」
「湖也の装甲みたいに俺のも拡張性があるってことだよな」
「そうなんじゃ無いか?でもどうやってやるんだよ。まさかハデスが居てくれればとか言うんじゃないだろうな」
「いやいやそんなこと言う訳ないじゃん!俺もまだ成長の余地があるってことが分かっただけでちょっと嬉しいだけだよ。ほら、俺装甲の色変化してないし」
「俺もまだ装甲の色変化してないな」
血斗が呟いた。
彼から焦りの表情が見える。
「でも俺のは完成品、お前らみたいな拡張性は無いってことだろ⁉︎」
「落ち着け登、完成品だってみんなみたいに自分の色にする事が出来るんだ。焦る必要は無い」
「これからラスボス戦なんだぞ…」
そうこう言ってるうちにエレベーターが止まり扉が開いた。
明るい場所へ来たのか一瞬目の前が真っ白になる。
かなり広いところへ来たようだ。
体育館ぐらいの広さがある。
「よくここまで辿り着いたな」
目の前には夢境がいた。
「そうか、警備員は全員影森が殺したと言っていたっけな。ならここに来るのも簡単だったか」
「全員じゃない。1人助けたぞ」
湖也は硬い表情で言った。
「その表情、文化祭の時見たまだ柔らかかった表情とはまるで違う。だいぶ成長したようだな」
夢境は文化祭の時の湖也が紗水の助けを求めて来た時の事を思い出しながら言った。
「お前は俺の父親かよ」
「いいや違う。私はこの世界を作り上げた神そのものだよ」
「いきなりふざけた事言うじゃねーか」
「事実だから仕方ない」
「こんな山奥に籠る神がどこにいるんだ」
「君たちこそなぜ来たんだ?君たちに私と戦う理由があるってのかい?」
「お前が暴狐の親玉でありこの校外戦争の元凶である方は分かってる。お前がいなくならない限り、この世界に、そして俺たちに平和が訪れる事はない。だからここで倒す」
「ほう」
「分身はどうした。夢境影正、あいつはお前の分身なんだろ?」
その言葉に夢境は驚いた表情をした。
「やれやれ、あいつベラベラ喋りおって」
次の瞬間、夢境の体が増えた。
湖也達の背後に回るように、2人で湖也達を挟み込むようにして。
「そうだ。影正も私。影利も私。つまり私1人で暴狐と湖也君達の管理を行なっていた訳だが…」
2人の体が1つに戻る。
「もうバレているなら仕方がない。いいだろう!私が君達の相手になってやる!」
夢境の体に異変が起こった。
段々と怪物の姿になっていく。
タコの触手のような複数の足に、背中から生えた天使の翼、両腕から伸びる虎の牙のような爪、そして顔面に集う蜘蛛のような目の集合体。
一言では言い表せないような異形の怪物だ。
(湖也君、もしもこの世界で、あなたが成長できたとするならば。私を超えられるはずだ)
みんなは装甲を身につけた。
今までお世話になってきた校長との戦いが始まる。
3
まず初めに動いたのは亮矢だった。
足に力を込め、すごいスピードでその赤い装甲を夢境に接近させる。
しかし、亮矢が夢境に接触することはなかった。
気がつくと夢境の姿が消えていた。
「そんなものか?」
振り向くとみんなの背後に夢境がいる。
「瞬間移動か?」
今度は血斗が動いた。
「瞬間移動がなんだ!こっちが攻撃し続ければお前の攻撃ターンはこねぇ!」
「そう思うか?」
夢境が冷たく囁く。
血斗は何か異変を感じ取り退く。
夢境の背後から腕が伸びて血斗を狙っていたのだ。
土で出来た腕だった。
また夢境の姿が消えた。
今度は紗水の背後に回り込む。
「だったら私の能力で!」
紗水は拳を握った。
紗水の装甲の能力、『相手より先に行動できる』。
しかしその攻撃は夢境には当たらない。
紗水のパンチは真っ黒な壁によって塞がれていた。
「その壁…!あの暴狐が持っていたの同じのか!」
上伊が驚いた声を上げる。
「まさか…」
つぶやいた瞬間、上伊の体が崩れ落ちる。
体が酷く震えていた。
まるで強大な恐怖に襲われたかのように。
「全ての暴狐の力を…」
「今更何を驚いているんだ。私は神そのものだぞ。なんでも使えない方がおかしい。空君、そこにいるのは分かってるよ」
超感覚。
夢境は透明化して背後に忍び寄る空に対して言う。
「馬鹿!勝手に動くな空!」
血斗が怒鳴った。
次の瞬間、空の装甲が消えた。
ただデバイスが機能しなくなっただけじゃない。
今までにないような。
完全な破壊だった。
「えぇ⁉︎」
空は戸惑いデバイスに何度も指を当てる。
一切反応しない。
「私は暴狐の力をさらに強化する事が出来る。ハデス君では至らなかったような完全なるデバイスの破壊。もう空君は戦う事は出来ないよ」
夢境の頭上に氷柱が生成される。
「このまま消えるか?」
「空!」
血斗は叫びながら走った。
狙われる空の前に立つ。
「庇うか。なるほど」
次の瞬間、血斗の装甲が消えた。
「まずい!」
氷柱が血斗目掛けて飛ばされる。
血斗は空を抱いて横へ飛んだ。
間一髪で避けた。
「ノボリ…」
「分かってんのか!お前のせいでデバイスが破壊されたんだぞ!お前の勝手な行動のせいで!」
「ごめん…」
2人が言い争ってるのを気にせず夢境は上伊に目を向ける。
恐怖は既に消えており、怒りが湧き上がっていた。
「何でだよ。このデバイスは夢境が作ったものだろ。自分で作っておいて自分で破壊するなんて、どんなマッチポンプだよ」
「私はただ君達の相手をしているだけだ。上伊君、あの時の臆病でワガママで不器用でノートを使わなければ夢を実現できなかった頃からどのくらい進歩したのか確かめてあげよう」
夢境は無数の火炎弾を生み出す。
上伊は素早く夢境の懐に潜り込んでそれを躱す。
しかし攻撃する前に夢境の体は黒い霧状になった。
上伊から離れた所に姿を現す。
「ただ能力を無差別に使ってるだけ。戦闘経験は無いと見た」
「鋭い観察眼だ。伊達にリーダーやって無いな」
「最近は湖也に越されてるけどね」
湖也は夢境の前に立った。
「さぁ、今までの戦いでどれだけ君が成長できたか。私に見せるがいい」
湖也は足に力を入れてものすごいスピードでジャンプした。
夢境は湖也のデバイスを壊そうとするが…
(壊れない⁉︎何故…)
湖也の拳が当たる瞬間に夢境の体が消えた。
慌てて距離を取る。
「なるほど、ハデス君が付けたその黒いデバイス。2つのデバイスがリンクして私の能力を受け付けない。黒い方は電力では無く君の心で動いているからどうすることも出来ないか。今の君には恐怖も無いし。これは計算外だ」
「お前を止めて世界を救う!」
「しかし、仲間を失ったらどうする?」
その言葉に湖也はハッとした。
急いで背後を振り返る。
無い。
みんなの装甲が。
デバイスが破壊された。
「貴様…」
「これで振り出しに戻った。今戦えるのは君1人だ。残念だよ。少しは君の成長した姿を見られると思ったのに」
「俺は変わった。この戦いで、前までの俺とは明らかに違う。それを成長と言わないのか」
「君は少しも分かってない。まあ仕方ない事だが、今の君では私には勝てない」
「それはどうかな⁉︎」
湖也はもの凄いスピードで走った。
みんなを守る為に。
夢境を倒す為に。
地面から木の根っこが襲ってこようが、夢境が白金のパンチを打とうが、雷が落ちようが全て避けた。
確実に夢境に近づいた。
しかし湖也の攻撃は全て塞がれる。
真っ黒な壁で塞がれ、姿を消され、瞬間移動され。
夢境に少しもダメージを与えられない。
「君では相手にならない」
夢境の声と共に、気がついたらそこは陸高の校庭だった。
みんなまとめてここに送り返された。
湖也は周りを見渡しながら叫ぶ。
「おい!夢境!逃げんな!クソ!!!」




