第33話 想い手の青春
1
「あそこだ」
大政が指差す。
そこには暴狐二人と生徒二人が戦っていた。
「おー互角にやり合ってるな」
陸が眺めながら感心する。
「いや、こっち側が押されてるようだぞ」
「いいからいくぞ」
「あっはい」
三人は大政に続く。
「おーい大丈夫かー?」
「助かった!仲間が来てくれたぞ!」
生徒が喜ぶ。
「俺が片方やるからお前らはもう片方やれ」
「いいんすか先輩一人で」
「危ないですよ!僕もいくー!」
「ガキか」
湖也は元気いっぱいに返事をした天に呆れる。
「そりゃあまだ未成年だからな。俺たち」
「そうそう!見た目も心もピッチピチの高校生なんだよ!」
「ピッチピチの男子高校生は誰も興味ねぇよ!」
「俺は一人で大丈夫だ」
そう言うと大政は片方の暴狐の方へ突っ込んでいった。
「それじゃあ俺たちはそっちは行くぞ」
みんなでもう一人の暴狐のところへ行こうとした瞬間、
ボン!と爆発する音が聞こえる振り返ると、暴狐の姿はなく大政が煙の中で立っていた。
「はや…」
湖也は絶句する。
「俺は別の所を助けに行く。そいつは任せたぞ」
「あっはい!」
そう言うと大政はミサイルの如く走り出していった。
「何よあんた達!1対5は卑怯よ!」
暴狐が焦りながら叫ぶ。
その声に陸はハッとした。
その声に聞き覚えがあった。
「お前、愛羽か?」
「え?」
聞き返す天を無視して陸は暴狐に問いかける。
「もし人違いだったら忘れてくれ。漣愛羽なのか?」
「え…陸?」
暴狐は反応した。
人間の姿に戻る。
女の子の姿がそこにある。
「やっぱり!愛羽じゃないか!」
陸は装甲をしまうと愛羽に駆け寄る。
「…誰?」
天は首を傾げる。
「あー確か前会ったことあるな。紗水の友達の人」
湖也が解説する。
「お前も一緒にいたろ」
「あー思い出した」
彼女も海校の生徒だったのか…と湖也は二人の様子を眺める。
「お前ら何仲良くしてんだよ!」
「そいつ敵なんだろ!早く倒そーぜ!」
生徒二人が陸に向かって叫ぶ。
「待て!」
陸は暴狐を庇うように立ち塞がる。
「は?お前暴狐を守ろうとしてるの?」
「裏切り者だ!こいつ俺たちのこと裏切った!みんなに連絡だ!」
生徒が装甲をしまい携帯を取り出そうとする。
「お前ら俺らが来るまで押され気味だったのに随分と偉そうだな」
湖也は二人の肩を叩いた。
「少し静かにしてて!」
しーと天も人差し指を立てる。
湖也は愛羽と話し込む陸の方を向く。
「陸!ちょっと俺急用思い出したわ!」
「え⁉︎」
陸は驚き声を上げる。
「僕も思い出した!」
「何を⁉︎」
陸のツッコミを待つ間もなく二人は生徒を連れてその場を立ち去る。
湖也と天に連れられた生徒二人、守と攻正はヒソヒソと話し始める。
「世界の平和がかかってるのに急用で帰るのは無理があるよな」
二人の話を無視して天と湖也は話し合う。
「湖也、愛羽さんの事どうする?」
「こればかりは俺には決められないな…陸に任せるしかない」
「紗水ちゃんには言うの?」
「さ…紗水ちゃん⁉︎」
湖也は驚きの声を上げる。
「いつからそんな呼び方してたんだよお前」
「だって前そう呼んでいいって言ってたから」
「まあそれは置いといて紗水には内緒にしたほうがいいな。というか紗水は愛羽さんが海高の生徒だって事知らないのかな?」
大羅は路地裏を歩いていた。
「向こう側もかなり変化があったようだな。三村湖也の装甲は変わってなかったが、奴以外は装甲の色が変わってた…そして…」
「おやおやぁ?前会った時は随分余裕そうな顔してたのに、なんだか辛そうな顔してるねぇ」
俯きながら歩いていると前から声をかけられた。
声だけで誰か分かる。
大羅は舌打ちをした。
「なんでこんな時に一番会いたくない奴と会っちまうかなぁ。ハデス」
「会いたくないなんて言わないでよ。悲しいな」
「思ってもないくせに」
「それで?みんなの装甲が変わってたんだっけ?」
「ただの独り言だ。邪魔だどけ」
立ち塞がるハデスを強めに押し退けて大羅は歩く。
「大丈夫?疲れてるようだけど?僕が看病してあげようか?」
「ついてくるんじゃねぇよ」
「そんなにイライラすると、白髪が増えるよ?」
「ついてくるなっつってるだろうが!」
大羅は激昂した。
しかしハデスは動じない。
「そんな脅しで怖がると思う?」
その様子を見た大羅は大きくため息を吐く。
「じゃあ一つだけ情報をやる。これ聞いたらもう俺に近づくな」
「何々?」
「紫の装甲には気をつけろ。ありゃバケモンだ」
2
数日後。
「陸、愛羽さんの事どうなった?」
湖也は電話で訊ねる。
『倒せる訳ないだろ…愛羽は、俺の昔の友達でもあり…俺の初恋の相手なんだ』
「はぁ⁉︎」
湖也は驚きの声を上げるが、直後に笑いが込み上げてきた。
『何笑ってんだよ!』
「いや悪いな。お前がガチ恋した事があるとはな。ぶはっ!」
『湖也は俺のことなんだと思ってんだ』
「女だったら誰でも食おうとする奴だと」
『うるせぇ』
「否定はしないんだな…」
『その…お前だって河原さんの事好きなんだろ?』
「え⁉︎何急に!」
『もう告白したのか?』
「いやいやいや話を進めないで!」
『好きじゃないのか?』
「いや…どうなんだろ?」
『お前自分のことはしっかり把握しとけよ。いつ離れ離れになるか分からないからな』
「陸がしっかりしたこと言ってる…」
『おい』
ため息が聞こえた後、陸の真剣な声が再び聴こえる。
『愛羽の事、他の人には話たか?」
「いや、俺は誰にも、天も誰にも言ってないと思う」
『その方が嬉しい』
じゃあ。と言う声とともに電話を切る。
一息着こうとしたところ、携帯がピコンと音を立てた。
画面を見ると、紗水からの連絡。
「なんで今紗水から⁉︎」
顔を赤くしながら画面を見る。
『今から会えない?』
駅前で紗水は待っていた。
「湖也集合時間ギリギリに来るなんてどういう事?」
「…別にいいじゃねぇか」
(やべぇさっきの会話の後だとドキドキして目合わせられねぇ)
湖也は集合場所まで来ると紗水と目を合わせる事なく歩き出す。
その様子を見て紗水は心配になり、隣に並ぶ事なく後ろからついて行くことにした。
「ところでどこへ行くの?」
「そんなことも聞かないで歩き出したの?この道をずっと歩いたところまで行こうと思ってるけど」
「ならそこで集合でもよかったんじゃないか?」
「私と歩くの嫌なの?」
「別に嫌じゃねーよ」
不機嫌そうに答える湖也見て紗水はさらに心配になる。
本当は不機嫌ではなくただ照れ隠しをしているだけだけれども。
「天と何か話したのか?」
「え⁉︎」
唐突の質問に紗水は慌てる。
「なんでそんなことを⁉︎」
「いや、天がお前のことを紗水ちゃんって読んでて、かくかくしかじかで」
「もしかして、話の内容教えてもらった?」
「いや、聞いてないけど」
「そう…」
紗水も湖也と目を合わせづらくなっていた。
(河原さんは湖也のことが好き?)
あの時の天の言葉を思い出す。
(お前だって河原さんの事好きなんだろ?)
湖也も思い出していた。
「なぁ…」
湖也が口を開く。
次の瞬間、どこかから悲鳴が聞こえた。
「今のって…」
「暴狐かもしれない。行こう」
2人は来た道を戻る。
駅前で暴狐が暴れていた。
蜘蛛のような見た目をしており、通行人を後で拘束している。
「ぐへへ、みんな糸で縛ってやるんだ」
「待て!」
暴狐が振り向くとそこには湖也が立っていた。
湖也はデバイスに手を乗せ装甲を装着する。
「貴様!まさか三村湖也!」
「俺も有名人になってきたなぁ」
湖也は通行人を拘束していた糸をまとめて切断する。
「大丈夫ですか?」
紗水が振り解き、みんなを安全な場所へ避難させていた。
「聞いてるぞ!貴様はなんの能力も持っていないと!」
「だったらなんだよ!」
湖也は暴狐の体を勢いよく蹴り上げる。
拳の装甲を展開して、エネルギーを解放して落下してくる暴狐の体目掛けて突き上げた。
暴狐の体は爆発したが、紗水が通行人をを避難させていたおかげで怪我人を出す事なく倒すことができた。
「ありがとう。紗水」
「もう、もう少し時間かけてくれないと避難させるのギリギリだったんだけど!」
「悪かった悪かった」
湖也は苦笑いした後空を眺める。
「…湖也、どうかした?」
少し俯いた湖也に紗水は問いかける。
「え?ううん。なんでもない。ってうわぁすごい人だかりだな」
「今の騒ぎで集まって来たんだね。どうしよう…」
湖也は困ってる紗水の手を握った。
「ほら、行きたいところあるんだろ?早く行こうぜ」
「うぇぇ⁉︎ちょっと!」
紗水の手を引っ張り走り出す。
いきなり手を握られて照れる紗水だが、明るい湖也を見て微笑んだ。
「今の湖也、ちょっとカッコいいかも」
「え⁉︎そうか⁉︎カッコいいか?」
「うん」
「そうか。ならさ、付き合ってくれねーか?」
「なによ、今あんたが私に付き合ってもらってる…え⁉︎」
あまりにさらっと言うので紗水は一瞬気づかなかった。
「ちょ、ちょっと!」
焦って立ち止まる。
紗水に腕を引っ張られ湖也も立ち止まった。
後ろ姿の彼が今どんな表情しているのか分からないけど耳まで真っ赤に染まっているのは見える。
「…ダメか?」
紗水は力強く湖也の腕を握った。
「うれしい」
3
陸は悩んでいた。
「今となっては愛羽は敵、倒さなければならない相手。っあーもう!あの校長の野郎勝手なことしやがって!」
部屋中を暴れ回っていたためドタドタと言う音が家中に響き渡る。
「ちょっと陸うるさいよ!家出てくか?」
「うぅ…ごめんよかーちゃん」
外からのお母さんの声に返事をする。
(今この瞬間にも愛羽は装甲をつけた生徒と戦っているかもしれない)
陸は急いで愛羽に電話をかける。
「愛羽!無事か⁉︎」
『なっ何⁉︎ちょっと陸うるさいよ!』
「かーちゃん⁉︎」
『そう。やっぱり陸以外も私の事狙ってるんだね』
「まあ倒す対象には入ってるな。お前単体を狙ってるわけじゃねーけど」
『大丈夫!私なんとかするからさ!』
「いや、ダメだ。愛羽、お前俺の家に来い」
『はぁ⁉︎』
スマホの奥から驚きの声が聞こえた後、笑い声が聞こえてくる。
『女の子を家に誘うって、随分と大胆なことをするね』
「お前覚えてるか?俺が昔告白した時のこと。お前が振ったさ」
『覚えてるよー。陸とは仲の良い友達でいたいから付き合うとか考えられないって』
「友達を家に誘うことっておかしいことか?」
結局愛羽は陸の家に来た。
「ずっとここで匿ってやるからな」
「それってなんか私が監禁されてるみたいじゃない?」
「仕方ないだろ。いつ襲われるかわからないんだから」
「変な事しないでよー?」
「しねぇよ!」
陸はため息を吐いた後、ゆっくりと話しかける。
「なぁ、お前はなんでこの前暴狐になってこっちの生徒と戦ってたんだ?お前そう言うの好きじゃないだろ」
「リーダーの指示に逆らっちゃいけないからね。戦うしかなかった」
「そのリーダーってのは黒木花蓮だろ?奴はどんな能力持ってるんだ?」
「持ってないよ」
「ん?」
陸は一度聞き返す。
「リーダーはただの人間。暴狐になったり能力使ったりは一切ないの」
「だったらなんでそんな奴がリーダーやってるんだ?」
「復讐心だよ。そっちは校長に復讐をしたいその心で私たちを動かしてる」
「夢境影利校長への復讐…」
「そう。文化祭で教師を操って事件を起こさせた校長へのね。彼女のお父さん、結構優しい先生だったらしいよ」
「まあそれは、俺もあの人の授業受けてたから。結構いい先生だったのは覚えてる。確かに今思えば生徒に手を出すような人じゃない」
「昔女子生徒が自殺したって事件がそっちの高校であったでしょ?彼女の相談を真剣に聞いてたらしいの。結局救いきれなかったけど、その時は大変落ち込んで教師を辞めようとまでしたらしいよ」
「そんな事が…」
「家庭でもいつも花蓮ちゃんに優しく接してて花蓮ちゃんもそんな父のことが大好きだったんだけど、あの事件で父への信頼を失くしてたって」
その時、ピンポーンと玄関から音が聞こえた。
お母さんがドアを開ける。
「はい、どちら様?」
「私陸君のお友達で、遊びに来ないかって誘われて来たんです」
「あらあなたも陸君のお友達?あの子結構女友達多いのね。さあさあ上がってちょうだい」
「はい、お邪魔します!」
「礼儀正しい子ねー。陸ー、友達が来たわよー」
お母さんの声と階段を登る音が陸の部屋に響いた。
「ん?友達?」
陸が首を傾げる。
部屋の扉が開く。
陸が振り向くと、そこにはピンク色の髪をポニーテールでまとめた女の子がいた。
「あら!可愛い子ちゃんだけど誰?」
「…!」
後ろから息を呑む音が聞こえて陸が振り返ると愛羽の顔が青ざめていた。
「ミラー…」
「あんた。こんなところで何してるわけ?」
「え?何?愛羽の友達?」
陸は慌てて2人を交互に見つめる。
「あなたもあなたよ。陸君と言ったかしら?彼女は私達の仲間、暴狐なのよ。大陸高校の生徒が匿う人間じゃないよ?」
「暴狐?え⁉︎お前が?」
陸はミラーを見つめる。
「…そうよ。彼女はミラー。海高の生徒会の1人」
「生徒会…湖也から聞いたな。つまり暴狐達の幹部!」
「命令よ。愛羽。そいつを殺しなさい」
ミラーは冷たい表情で言った。
陸は鼻で笑う。
「なんで敵の幹部ってのは命令ばかりするのかな?少しは自分で動いたらどうだ」
デバイスに指を置く。
陸の体に装甲が装着される。
「つまりはお前を倒したら一件落着だな?」
「無理よ」
陸へ拳を引いてミラーへ突きつける。
しかし、陸とミラーの間に突然壁が現れて陸の拳を遮った。
「なんだ、このドス黒い壁は…」
「この壁は次元の壁。宇宙の端にある壁と同じ。あなたに壊せるわけないわ」
「くっそ…向こう側も見えねぇ…」
突然壁が消えたと思ったら奥からドス黒い拳が飛んできて吹き飛ばされる。
窓を割って外へ飛んでった。
その窓からミラーは飛び降りてくる。
陸の家の庭で2人は睨み合った。
「愛羽も降りて来て」
ミラーは冷たく言う。
「陸!」
愛羽は玄関から飛び出すと陸に駆け寄る。
「なんで彼を庇うの?」
「大事な友達だから」
「あなたは私達の仲間でしょ?どうしてもと言うのなら」
ミラーは愛羽に手をかざす。
愛羽の周りに壁が現れて囲む。
「愛羽に何をするつもりだ!」
「ただ閉じ込めただけよ。あなたには何も見えないでしょうけど私には箱の中で彼女が何をしているか、何を言っているかわかるし語りかけることもできる。さぁ、彼を殺すと誓いなさい愛羽」
「させるかよ!」
陸は愛羽を囲っている壁に殴りかかる。
何度も殴り続ける。
だが壁は壊れない。
「クソ!なんで壊れないんだよ!」
「無駄よ無駄」
様子を眺めるミラーの背後に1人の少年が現れる。
「ねぇミラー、そうやって待ち続けるの効率悪くない?僕ならすぐに殺る気にさせてあげられるよ?」
ミラーはため息をつく。
「今回ばかりはあなたに任せるわ。雨降りそうだし」
そう言うとミラーはかざしていた手を下ろす。
壁が消え、中から愛羽が現れた。
「良かった!」
陸は愛羽を抱きしめる。
「安心するのは早いよ?」
だが背後から声が聞こえ、愛羽に異変が起こった。
「ぐ、ぐわぁぁぁぁ!」
「愛羽!」
愛羽の体が震え、暴狐の姿になった。
「愛羽ちゃん、暴狐と装甲は仲間になれない。分かってるよね?」
「貴様!」
陸は激昂した。
「暴狐と俺たちは仲間になれる!蓮真を知ってるよな!あいつは俺達を助けてくれた!仲間になると言ってくれた!」
「でも、その彼の姿を再び見た?」
「⁉︎」
核心をつかれた質問をされ陸は思わず黙る。
「君たちが戦っててー、また彼が駆けつけてくれたりした?」
「…」
「もしかして仲間になるフリをしてただかなんじゃないの?大体、そんなことになってたらあのミラーが即座に止めに入ってたはずだよ」
「そんな!蓮真が俺たちのスパイになるなんて」
「そもそも蓮真君は君たちの先生を殺した犯人だよ?信じる方が馬鹿だよね!」
「ふざけるな!」
陸はハデスに殴りかかる。
が、そこでハデスが陸の後ろを見て言った。
「あ、そろそろ愛羽ちゃん暴走始めるよ」
「愛羽!」
「ギャァァァァ!ギャァァァァ!」
愛羽は絶叫と共に暴れ回った。
能力を使い周りのものを宙に浮かばせる。
陸の体も愛羽の能力で浮かんでいた。
「これは愛羽ちゃんの不安の現れ。暴狐になってしまったからもう君たちとは一緒の場所で暮らせないんじゃないかと言う不安や恐怖が彼女の心で渦巻き暴れ回っているんだ。さあ愛羽ちゃん!陸君殺っちゃって!」
愛羽は能力を使い陸に向かって庭にあった花瓶や物干し竿を投げつけた。
陸の体が吹っ飛ばされる。
「さぁ君も、愛羽ちゃん殺さないとこの能力の範囲どんどん広がってっちゃうよ?」
「…」
その時、声が聞こえた。
「諦めるな!」
陸が振り向くと、そこには大政がいた。
「先輩!」
「彼女はお前の大切な人なんだろ?だったら諦めるんじゃねぇよ」
「いいんですか?彼女は…」
「暴狐でもお前の友達なら別だ。ハデスの相手は俺がやる。陸は彼女を助け出してやれ」
「はい!」
陸は宙に浮いている体を必死に動かし愛羽に近づく。
ハデスが向かおうとするが、目の前に大政が現れる。
「紫の装甲、君が大羅の言ってた子か」
「要注意人物扱いかよ」
「僕は全く怖くないよ。君たちじゃ僕に勝てないからね」
次の瞬間、大政のデバイスに異変が起き装甲が消えた。
「君の能力は感情操作と電気系だと知っている。とても恐ろしい能力とは思えないけどな」
「いいの?君今生身だよ?」
「だったらなんだ」
大政は生身で突っ走る。
ハデスは大政の恐怖を増大させようとするが、大政の様子は変わらない。
「…なんで⁉︎」
「お前に恐怖心を抱くと思っていたのか?馬鹿馬鹿しい」
大政はハデスの取り巻きの真っ赤な2人の胎児を殴り倒す。
あとは本体である球体だけ。
しかし、背後から足音がして避けるように横へ飛ぶ。
そこにはハデスのツレのナイフを持った少年がいた。
「…」
少年は何も言うことなく大政を狙ってナイフを振り回す。
(しかしこの少年は誰なんだ?海高の生徒でない可能性もある。ただの一般人を巻き込むことも奴ならあり得る)
隙をついて大政は少年の腕を掴むとそのまま背負い投げをした。
少年はむくりと起き上がるとどこかへ飛び去る。
(ハデスの野郎逃げたか…デバイスが使えないと能力も使えないのは辛いな。この調子じゃ今は使えないだろうし)
「ギャァァァァ!ギャァァァァ!」
絶叫する愛羽に向かって陸は宙に浮かんだまま必死に体を動かす。
途中石などを投げつけられるが怯むことなく突き進む。
「愛羽…大丈夫だ。何も怖くない。俺がそばにいてやるから…」
陸の手が愛羽の手に触れるが、愛羽は暴れ周りその手を振り払う。
しかし、陸は諦めることなく愛羽の手を掴んだ。
「こっちに来るんだ愛羽。俺が守ってやる。俺だけじゃない、大政先輩や紗水や湖也だってみんなお前を歓迎してくれる」
(本当に私が一緒にいて大丈夫なのかな…)
どこからか愛羽の心の声が聞こえたような気がした。
「俺が約束する。お前が暴狐だからとか関係ない。そんな境界線取っ払え。安心して俺たちの元へ、さぁ!」
暴れていた愛羽の体が鎮まり、宙に浮いていた2人は地面に叩きつけられる。
「いて!」
陸は叫び、起き上がると装甲をしまう。
愛羽の体も人間に戻っていた。
その体はボロボロになっていた。
「ありがとう。陸」
愛羽は寝転がりながら言った。
「俺は別に大したことしてねぇよ。お礼なら大政先輩に言えよな」
陸は照れながら言い愛羽に手を差し伸べる。
愛羽はその手を掴むと起き上がった。
「…てなわけで!俺と付き合ってください!」
陸は掴んだ手をブンブン振りながら言ったら。
「ちょっ!腕痛い!」
「あぁ、ごめん!」
焦って手を離す。
「…やだ」
「え⁉︎ここまでしたのに?」
「だって陸は一番大事な友達でいてほしいから」
愛羽はニコリと笑いながら言ったら。
「えー、だったら彼女で良くない?」
「良くないの!」
「ちぇ、さっぱり分からねー」
後日、紗水と湖也と天は陸に呼び出される。
「じゃーん!紹介します!仲間になりました愛羽です!」
「よろしくねー」
愛羽を見て紗水は涙をボロボロ流し抱きつく。
「良かった!いつか戦わなきゃいけないと思ってたからこっちに来てくれて本当に良かったよー!」
「私もみんなに受け入れられて嬉しいよ!共に戦おう」
「よろしくな」
湖也が短く言った。
「こちらこそ。天くんも!」
「う、うん!」
愛羽と一緒に笑う陸を見て湖也は考える。
(…今度は俺の番か)




