第3話 日常
前回の最後に、「次回は戦闘回だよ!」と言いましたが、延期します。すみません。これからはパロディも取り入れていきたいな…と思っております。
はじめに勇気の話をしよう。
勇気とは人間誰もが持ってる力である。
それはいつもみんなが気にしていなくて、あまり発揮されていないもの。そんなもの持っていないと言う人もいるだろう。
例えば人前で話す時は勇気が必要だ。人前で話すのが苦手な人は「勇気なんか持ってない」と言うだろう。
確かにしっかり者や人気者は人前で話すのが得意でその姿はとても勇気のある頼れる存在に見えるかもしれない。
だが勇気というものはみんなが平等に持っているものである。
陰キャも陽キャも、大統領も国民も誰もが持っている力。ではなぜ勇気のある人とない人が出てくるのだろうか。
人前で喋るのが苦手、親に反抗することができない、どんなに無理な仕事をやらされても文句を言うことができない。こういった現象の原因は勇気の有無ではなく、勇気という力を上手く使えるかどうかにあるのだ。
いつ使うのかどんな使い方をするのか誰に向かって使うのか、そこを上手く考えて使えば誰でもみんなから「勇気のある人」と言われるようになるだろう。
そして、今日その力を使う時が来た!
湖也はそんなことを考えながら駐輪場から昇降口へ向かう。
今日は火曜日。土曜日に文化祭があったから月曜日は休日だったのだ。
と言っても、日曜の朝は家に新聞記者やマスコミが来て大変で全く休めなかったから実質1日しか休みがなかったわけだが。もう1日休みをくれよ…世間というものは先生が起こしたトラブルをよく好むものだが、こんなに人が家まで来るとは思ってなかった。
そのマスコミの1人に聞いたところ、被害者の紗水、校長や数人の教師、さらに紗水の友達や湖也の友達(陸と天)にも話を聞きに行くつもりらしい。どんだけ聞くんだよ。と湖也は思ったが、口には出さないでおいた。
まぁでもこれで文化祭事件は終わって日常に戻れるわけだ。そして、今日から紗水のボディーガードとしての学校生活も始まる。まぁそんな毎秒紗水を見張り、クラスの状態を確認するわけではないが。
「まずはクラスに馴染むために陽キャにならなきゃな」
湖也は下駄箱で靴履き替えながら呟いた。
なんで湖也が陽キャ陽キャ言ってるかというと、学校で動きやすくするためである。これまでの湖也は、陰キャでクラスでは浮いている方だった。陸、天たちといつも一緒に居て、学校のイベントも全く参加しない、クラスの仕事も人任せといった感じである。これじゃぁ紗水を守ることは出来ない。もっと活発になり、クラスの中心とまでは言わないがそこそこの発言権を持ち、動きやすくすることが肝心である。
だがそのためにはまず何をするかが全く思いつかない。
湖也は脳を回転させてどうしたらいいか考える。クラスの人気者がやっていたことを思い出す。
しかしダメだった。いざ陽キャになろうとしてもいい案が全く思い浮かばない。
「う〜ん…うん?うーむむむ…」
そう呟きながら湖也は廊下を歩き、階段を上る。他人から見たらその変な様子に思わず冷たい表情になってしまうだろうが、幸運に前後に人は1人もいなかった。
必死に考え、考え考えた結果湖也が出した答えは…
「そうだ、教室入ったら大きな声でみんなに挨拶しよう!」
これだった。入学初日にやったら周りから変な目で見られて完全に一生の黒歴史になるこれである。
だが湖也はもうそれしか思いつかない、いや、もうそれしかないだろう。今までまともに表に出てこなかった奴だ。きっとクラスの仕事をやろうとしても女子から「あ、いいよー。私がやっとくから〜」と言われ、今まで話しかけてないグループに話しかけようとしても話についていけなくなる。一旦クラスでの評判をリセットし、そこから新たな人間関係を構築する。それしか方法がないのだ。
気合いを入れて、ふん!と鼻から息を吐き出し、ドスドスと廊下を歩き、教室のドアを開ける。当然ながらその動作だけでは周りは全く湖也の方を見ない。
そこで湖也は教室に入りドアを閉める。
さて、この行動が黒歴史にならないだろうか。
湖也は大きく息を吸い、大きな声で叫んだ。
「みんな!おっはよう!」
数人が湖也の方を見た。だが全員が湖也を見たわけじゃない。朝のホームルーム前のクラスの騒がしさは異常だ。たった一回だけでは話に夢中で聴こえていない人がいるのだ。
そこで湖也はもう一度大きく息を吸い、さっきの2倍の声量で叫んだ。
「「みんな!お・は・よ・う〜!」」
クラス全員がこちらを見た。だが温かい目、優しい目で見たわけじゃない。
みんな冷たい目をしていた、なかには苦い薬を飲まされたような顔の子もいたし、死んだような目の子もいた。
その中の1人、クラスの中心にいる男子、大橋上伊がこちらを見て言った。
「何してんの?三村」
自分の評判をリセットすることに成功したかどうかの問題じゃない。周りからの評価を下げられ、今以上に居づらくなってしまったのだ。
挨拶作戦は無事失敗し、湖也の黒歴史確定となった。
湖也はみんなに事情を話した。
最後まで話を聞いた上伊は、クスリと笑う。
「いや、そんなことしなくても湖也はもう河原を助けた英雄として学校中に知れ渡ってるよ」
だからそんなことしなくても大丈夫!と言うと、湖也の方をポンと叩く。
湖也の方はというと
「え?そうなの?じゃあさっきの苦労はなんだったの?」
とポカーンとしている。
「あれだけ大きな事件だよ?逆に知らない方がおかしいって。安心しなよ」
上伊の声を聞き、クラスのみんなもそーだぞ英雄!とかお前はもうすっかり有名人だとか色々湖也にフォローを入れる。
確かに大きな事件だったし、紗水を助けたのはこの俺だが、それだけで人の地位ってそんなに変わるものなのか…と湖也は思った。
「あぁ、そうだな」
そう呟き、とりあえずクラス最低ランクから脱したことに安堵する。
上伊の方を見ると、彼はニコリと笑って顔を湖也の方に近づけてきた。
(え?何?こいつそっち系の人!?)
クラスの中心にいる人物という情報以外上伊のことを何も知らない湖也はそう思い少し焦ったが、上伊は別に男に興味があるとかそんな変な趣味はない。
上伊は口を湖也耳まで持ってきて、小さな声でこう囁いた。
「これ以上大きな行動を見せるな。これ以上お前の地位が上がると俺の地位が下がることになる。今は俺がクラスの主導権を握ってるんだ。それがお前に渡ったら容赦しない。お前を潰す」
低く、恐ろしく冷たい声だった。
さっきまでの温かい表情からは想像できないほどの冷めた言葉に、湖也は驚き目を見開く。
上伊は湖也の耳から顔を離すと、湖也の顔を見てまたニコリと笑った。
彼の変貌ぶりに湖也が驚いていると、ガラララと教室のドアが開き、先生が入ってきた。
クラスの担任の先生だ。
名前は岩田美百合。担当は数学。
女性で綺麗な先生だ。茶髪は肩まで伸びていて、背はあまり高くない。太ってはいないが痩せもいない、健康的な体をしている。年は知らないが、おそらく30前後だろう。
ママ属性が強い先生だが、彼氏や旦那はいないという。
四月に誰かが「結婚しようとは思わないんですか?」と聞いたが、その質問に先生は「1人でも全然寂しくないからいらないかな〜。あなたたちがいるしね!」とウインク付きで返した。あれで何人堕ちたんだろう。
先生は黒板の前に立つと湖也たちを見て、
「ん?何か楽しいことしてるらしいじゃない?先生も混ぜて♡」と言った。
それに応えたのは上伊の方だった。
「いえ、何もしてませんよ」
笑顔で返す。
対する先生もニコリと笑い、
「じぁ、席についてね〜!ホームルームを始めるよ!」
一時間目は数学だ。もちろん担当は美百合先生。
別に文化祭で何かしたからって授業中の扱いが変わるわけじゃない。いつも通り、頬杖ついて教科書をペラペラとめくり、先生の言ってるを聞き、当てられたら答える。
いや、美百合先生は湖也のことを前から気に入ってるらしく、よく「湖也ちゃ〜ん!わかる〜?」と聞いてくるわけだが…
「カイちゃ〜ん!ん?何ぼーっとしてるのよ!カイちゃん!」
なぜそのあだ名を知っている?と湖也は疑問に思った。
前説明した通り、カイというのは湖也のあだ名だ。
うみや→うみ→かい、ときているわけだが、
そのあだ名を知っているのは陸と天だけであるはずだ。
2人以外でカイと呼ばれたことは一度もない。
そしてそのことを他人に話したことは一切ない。
なぜ先生からカイちゃん♡と呼ばれている?
湖也は驚き、声に出して先生に問う。
「なぜそのあだ名を知っているんですか…」
すると、先生も先生で驚いて、
「あれ⁉︎昨日の夜のニュース見なかったの?あなたたちが出てたやつ。あ、先生も出てたけど」
「なんで出てきたんすか?」
「やだなーもう忘れちゃったの?文化祭のこと」
「あーもうテレビにやってたのか…」
(結構テレビって動くのが速いなー。まぁでも当たり前か。最新の出来事を伝えなければニュースじゃないわけだし)
湖也は適当に納得し、本題に戻る。
「で、なんでテレビに出てたら俺のあだ名がカイなんて情報を手に入れられるんですか?」
「あーそれはねー、りっくんが喋ってたのよ」
りっくんというのは陸のことだ。
陸はインタビューを受けた時、「湖也くんはどんな子すか?」と質問された時、
「カイはいいやつですよ。一人でいることもあるけど、自分の正しいと思ったことを信じて行動できるやつです」と応えてしまったらしい。
そのあと記者からの「カイってなんですか?」という質問で陸は自然とカイと呼んでたことに気づき、焦り、「あぁカイというのは湖也のあだ名です。変なこと言ってしまってすいません」と言った。
つまり、陸のせいで湖也のあだ名が学校中、いや日本中に広まってしまったわけで、
「おい!陸どういうことだ⁉︎」
「いやー悪い悪い。リラックスして喋っていいよって記者が言ってたからさー」
「リラックスしたからってついあだ名を喋ってしまう馬鹿がおるかー!」
湖也は怒り叫んだが陸の方は冷静で
「もう喋っちゃったもんは喋っちゃったんだからしょうがない」
その落ち着きっぷりに、湖也は崩れ顔を伏せる。
そこに美百合先生は湖也の肩をポンポン叩き、
「もう!カイちゃん授業中は寝たらダメだよ?」
と叱った。
湖也は顔を伏せたまま、
「先生、俺は起きてるんで授業を進めてください」
と応えた。
校長は校長室で窓の外を眺めていた。
(湖也くんはどんな扱いを受けているのだろうか)
そんなことを考えていた。
文化祭の時、紗水を助けた湖也はクラスの人気者になっているだろう。
だが、校長は文化祭前の湖也を知らない。
校長は学校の全てを知ってるわけじゃない。生徒全員の性格、クラスの中の扱い、友人関係を把握しているわけじゃないのだ。
三村湖也という少年は知っていたが、どんな性格で、どんな風に授業を受けているか知らない。もしかしたら不良少年なのでは?
(流石に不良少年ではないだろうが…)
校長は部屋を出て、湖也の様子を見に行くことにした。
階段を上り、湖也のいる二年五組の教室を目指す。
教室に近づいてきた時、大きな声が聞こえてきた。
「もう!カイちゃんはやくそこやって!」
「今やってるじゃないすか…はい、これで合ってるでしょ?」
「カイちゃんちょっと不機嫌?」
「いくら美人な先生でもこんなにくっついてきたら流石に困りますって」
「あらやだ!先生を美人さんって言ってくれるなんて!先生の全部、カイちゃんにあげちゃうぞ♡」
「いらないですって…」
教室を覗くと、美百合先生と湖也が軽い口喧嘩をしていた。
先生からは愛されているようだ。
そして特別不真面目な態度で授業を受けている感じでもない。
その光景を見て安心した校長は、ニコリと微笑みながら校長室へ戻っていった。
「大変だったわね、カイちゃん?」
「おい紗水、その呼び方は陸と天しか使っちゃいけないんだぞ」
まさかこんな感じであだ名が広まることになると思わなかった湖也は顔を伏せたまま元気の無い返事をする。
今日の授業は大変だった。
授業が始まるたびにいじられて、褒められ…
(クラスメイト一人助けただけでこんな大変なことになるとは)
だがもう今日の授業は終わった。
あとは家に帰るだけだ。
「はぁじゃあ帰るか」
湖也はため息をついたあと、椅子から立ち上がり、机に掛けてある鞄をとり、陸と天のところへ向かおうとしたが、
その時服を引っ張られた。
振り返ると紗水がこちらを見ている。
「ついていっていいかしら」
……
…
「は?」
何言ってるかわからなかった湖也はもう一度聞こうとする。
「だから、ついていっていいかしら」
「一緒に帰りたいってこと?」
「そ、あなたは私のボディーガードよ?帰るときこそ守らなきゃ」
えぇ…と困惑する湖也。
どうしようか考えていると、後ろから服を引っ張られた。
(今度はなんだよ)
振り返ると、そこには陸と天がいた。
「なんや?カイのやろうデートするんか」
「だから付き合ってねぇって」
「でもでも!一緒に帰るとはそういうことでしょ?」
二人して目を光らせ湖也に質問をする。
否定しようとするがうまく言い返せない湖也に変わって、紗水が言い返す。
「違うわ、ボディーガードよ。彼氏とかそんなチャラいものではない」
「そうなん?でも 他人から見たら完璧リア充やで爆ぜろ」
「そーだそーだ!俺らからしたらリア充にしか見えないぞ!」
「でもあなたたちも一緒に帰るんでしょ?」
陸は少し考え、
「いや、俺と天は二人で帰る。二人の邪魔をしちゃいけないしな」
「一旦リア充から離れたら?」
「いや、今は違うとしてもこれからそうなるかもしれないし、俺は湖也の青春を応援したいから」
「さっき爆ぜろと言ってたのはどこの誰かしら」
陸と紗水と天の話についていけない湖也は、一人で帰ろうかなと考えコソコソと教室を出ようとする。
だが天に見つかってしまったようだ。
「あー!カイが逃げようとしてる!河原!ほら一緒に行かないと!俺ら先帰ってるね!バイバイ!」
そういうと二人は駆け足で教室を出ていってしまった。
紗水は湖也の元へ行くと、
「じゃ、二人も先帰っちゃったし、二人だけで帰るとしますか」と言った。
湖也は顔を暗くして、廊下を歩き始める。
「はぁ…本当に二人で帰ることになるとは…ていうか、お前電車通学で俺と逆の方向だろ」
「そっちにも駅あるじゃない、少し歩くけど」
「でもこっちは自転車通学」
「引きながら歩きなさい」
「お前女王様かよ」
どこぞのバニーガール先輩かよと湖也は思ったが、心の中にしまっておくことにした。
校門を出て、夕日が綺麗な帰り道を二人並んで歩く。
いつも自転車を漕いで帰っているが、紗水を置いてくわけにはいかないので引きながら帰る。
女子と二人で帰るなんで初めてだなー。
The.青春って感じがする。
真っ赤に染まった夕焼けはどこか懐かしい感じがして、どこか悲しい感じもする。
そんな風景を二人で共有することで大切な思い出の1ページに載せることができて…
「なぁ、やっぱりこれってデートだろ」
湖也は呟く。
「だから違うって言ってるでしょ。私達付き合ってるわけじゃないし」
「でもなぁ、二人でこんな綺麗な夕日を見てるとデートしてる感しか出てこないんだが」
「夕日だったら文化祭の後二人で見たでしょ。湖也の頭は鶏以下なの?」
なんかちょっとイラッときたな…
そう思った湖也は紗水のツンデレを発動させようと攻撃を仕掛けた。
「でもお前は俺のことが好きなんだろ?」
「っ!ちがっ、何急に変なこと言ってんのよ!」
「いやだって、文化祭の朝あんな反応見せられたらそう思うのは当然だろ。なんであんな顔真っ赤にしながら走って行ったんだ?」
「あれは…その…」
「理由作れないだろ」
「理由作るって何よ!理由はあるの! 文化祭の準備をしなきゃいけないって思ったから急いだだけ。少し焦ったくらいで勘違いするよ湖也だけだよ?」
「モテた経験がない人間ってのは女の子が少し変な行動とっただけで意識してしまう特性を持ってしまうものだ。これからは考えて行動するんだな」
「…ん、わかった」
「お前ってホントキャラが固定されてないよな、クールキャラかツンデレキャラか萌えキャラかどれかにしろよ」
「うっさいわね。クールキャラがツンデレを見せることはよくあることだと思うのだけれど」
「ほう、お前よくわかってんじゃん。アニメ見たりするの?」
「違うわ。たまに恋愛小説は読むから」
「女性向け恋愛小説って女性のキャラより男性のキャラに力を入れるものじゃないのか?」
「もうこの話はやめにしましょ、疲れてきたわ」
湖也の頭に疑問が頭に残ったが、紗水のツンデレを見ることができたからよしとすることにした。
数分歩くと、駅にたどり着いた。
学校周辺は田んぼばっかりの田舎風景だったが、駅周辺は高いビルがいくつかあり、少し都会みたいな感じだ。
入り口で二人は立ち止まる。ここで今日はお別れだ。
「…まさか、毎日これを続けるわけじゃないだろうな?」
「考えておくわ」
それだけ言うと、紗水は駅の中へと消えていった。
まぁリア充じゃないしこんなところで長い立ち話をする必要ないからこれでいいのだが。
「…たく、本当になんでこんなことになったんだよ」
湖也は呟き、自転車を漕いで家へと向かった。
紗水は電車の席に座っていた。
他の学生は別の駅を使用していて誰もいないし、一般客もあまりいなかった。
紗水は顔を赤くしていた。
なによあいつ…急に俺のこと好き?とか聞いてきて、幼稚園児かっての。
別に好きじゃないんだから。たまたま文化祭の日に助けてもらって私のボディーガードをやってくれて…
あ、でもボディーガードは私が強引に押し付けたんだった。
なんであいつの顔が頭の中でループしてるの!別に好きじゃないんだし!
好きじゃないと自分に言い聞かせても頭の中の湖也は消えてくれない。まるで他人が超能力を使ってが自分の頭の中に湖也の顔を植えつけてくるような感覚に紗水はイライラし、でもどこか嬉しく感じていた。
明日は今日の仕返しをしてやるわ。
湖也を困らせて、謝罪させてやる。
「昨日あんなにイジってすみませんでした」って。
さて、何をしてやりましょうか。
ふふっと紗水は微笑み、窓の外へ目をやった。
目的の駅はもうすぐだ。
「ただいまー」
湖也は玄関のドアを開けて靴を脱ぐ。
リビングに行き、ソファに寝っ転がった。
さて、湖也の家族を紹介しよう。
「お帰り、おやつ食べる?」と聞いてくるのがお母さんの三村幸。今は夕飯の準備をしている。
そこまで若いわけでもなく、だからといって特別老けているわけでもない。普通のお母さんだ。ただ少しぽっちゃりしていて、本人も気にしているらしい。通販のダイエット食品を何度か試した経験があるが、効果がなかったためもう買わないと決めている。
「うん、ポテチちょうだい」
「こーら、寝っ転がって食べちゃダメだよ?」
ちなみに中学まではほぼ毎日といっていいほど怒られていたが、高校に入ってからはあまり怒らなくなった。息子を自立させようとしているのかもしれない。
ちなみにお父さんもいるが、今は仕事でいない。いつも夜の9時くらいに帰ってくる。極めて平凡な家庭だ。
ちなみに妹がいる。
「お兄ちゃん!お帰り!」と笑顔で湖也の胸に飛んで来てるのが妹の稀里だ。
「うぉっと!もう危ないじゃないか」と湖也は微笑んで頭を撫でる。
高校二年生の妹と聞くと高一か中学生を思い浮かべる人が多いと思うが、稀里はまだ小学三年生である。ちなみにすげぇ可愛い。
高一の頃自己紹介で「小二の妹がいます」ってドヤ顔で言ったら「いやどんだけ離れてんの!?」とか「ねぇ、妹さん見せて!」とか「ロリかぁ、いいなぁ」とか想像以上に騒がれたため妹の紹介は控えるようにしている。
体を起こしてからボリボリポテチを食うお兄ちゃんを見て、稀里には疲れているように見えたのか首を傾げる。
「こーこうってそんなに大変なの?」
「あぁ大変だ。だが小学校より楽しいぞー。学校には自販機があってジュース飲み放題!」
ドヤ顔で語ると稀里はほぉー!と目を光らせていた。
「でも、小学校も楽しいよ?」
「そうか?なら今を楽しめ!」
小学校でいい思い出があまりない湖也は適当に返事をして食べ終わったポテチの袋をぐしゃりと潰して、ゴミ箱に捨てた。
稀里は机に向かって手を動かしていた。
だが勉強しているわけではなさそうだ。
宿題はもう終わったらしく、自由帳にクレヨンでお絵描きしている。
キリンさんの絵を描いているようだ。
「おー稀里が描いたのかーすごいなー」
「えへへー。そーでしょー」
湖也が褒めると、稀里は顔を少し赤くして笑った。
やはり可愛い。
だが恋愛感情は湧かない。
当たり前だ。血の繋がった実の妹に恋をする人はあまりいないだろう。
だが稀里を見てると疲れが取れていく気がする。
学校であった嫌なこととかも忘れられる気がする。
そこまで考えて思い出してしまった。
今朝上伊から言われたことを。
あいつは何を考えているのだろう。
容赦しないって何?殺される?
流石にそれはないだろうけど、あいつは自分の立場を守るためには手段を選ばないって感じだった。
そんなにトップにいたいのか?
トップに立って何がしたいんだ?
湖也は顔を曇らせる。
その様子を見て、稀里は不安そうに
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ん?あぁ大丈夫だ」
そう言うと、湖也は自分の部屋へ向かった。
部屋に入ると、バックからケータイを取り出し、電源を入れた。
と言っても別に電源を消していたわけじゃない。
スリープモードを解除するだけだ。
ベッドに寝っ転がり、トークアプリを開く。
湖也、陸、天の3人が入ってるグループのトークルームに入り、「いやー疲れた」となんとなく呟く。
すぐに返事は返ってこない。
女子高生みたいに一分間放置しただけで何百もの通知が来るわけではない。
湖也達の中だと「誰かが呟くと三十分〜一時間の間を空けて返事が返ってくる」感じだ。
近づきすぎず、離れすぎてもない。
これが関係を長く保てる秘訣だろう。
と言っても、別に三人は小中一緒ではない。
高校で出会って、休み時間や放課後一緒にいるわけだ。
そんなことを考えていると、ピコンっと携帯が鳴った。
割と早く返事が返ってきた。
そこには陸から
「やっぱデートしたんか?」というかメッセージが。
別に違うのになぁ…と湖也が思ってると、「羨ましい!」と書かれたスタンプが次々と送られてくる。
それに天も気づいたのか、「え?やっぱりデートだったの!?」とメッセージが送られてきた。
二人からスタンプがたくさん送られてくる。
ほっとくと通知がひどいことになりそうなので、湖也はケータイの画面を指でポチポチ触りながら漫画を読むことにした。
次回も日常回の予定です。投稿頻度上げたいな…