第20話 戦う意味
1
太陽はすっかり地平線に消えて行き、星が輝く空の下で、湖也の体はガタガタと震えていた。
「さぁ僕に教えてよ。君の事、その鎧の事。そして君たちを従えている"あの人"の事」
二人の胎児を従える怪物は問いかける。
湖也は恐怖で心が限界だ。
「こ…の…装甲…は…俺しか…持…て…ない」
震える唇をなんとか動かして相手の情報を与えてしまう。
「あ、それ装甲って言うの?そしてそれを持っているのは君だけ。ホント?」
「あぁ…俺…しか…持って…ない…はずだ…」
「じゃあその装甲については?」
湖也が唇を動かそうとしたその時、校舎の中から人影が飛び出した。
「これ以上はまずい。逃げるぞ!」
その人影は湖也を抱えると校舎の中へ飛び込んでいく。
一匹だけになってしまった怪物は深くため息をつくと一言、
「嘘つき」
人影は校舎の中に入ると湖也を廊下の壁に背中を預けるように座らせる。
怪物の能力から解放された湖也はそこで気付く。
(なんで目の前に俺と同じ装甲をつけてる奴がいるんだ?)
「お前は誰だ!」
「俺だよ。大橋上伊」
デバイスのネジを引き装甲をしまうと上伊が姿を表す。
「上伊!お前、それどうして」
「君が戦闘している間に校長に呼ばれてさ。俺にもくれるって」
「お前はそれを受け入れたんだな?」
「見ての通り。俺はこの学校のリーダーだ。学校のためになるならなんでもやると決めたんだ」
「そうか…」
湖也は俯き呟く。
「湖也先輩!大丈夫ですか?」
葉種達が駆け寄って来た。
上伊は廊下の窓から外を確認すると、先程の怪物の姿は消えていた。
湖也は体を起こすと胸辺りを摩る。
「どうかしたんですか?」
葉種は訊ねる。
「あの怪物にやられてな。ガチめに死ぬかと思った」
そう言うと湖也は服を脱ぎ出す。
胸にアザが出来ていた。
「さすが装甲だ。骨は折れなかったようだ」
「大丈夫なんですか?」
「いや、今もかなり痛いが、耐えるしか無いか」
湖也と葉種が話している後ろで天と陸が
「アザの対処方法って知ってるー?」
「知らなーい」
と話している。
「どうする?保健室行く?」
紗水が問いかけるが湖也は腰を上げ、
「大丈夫だ。教室戻るぞ」
そう言うと教室へ足を進める。
2
「どう?何か情報は聞き出せた?蝶野」
「ううん。何も聞き出せなかった。死神くんとの戦闘を見るに彼は普通のホモ・サピエンスだと思うけど…」
「何それ」
「彼、あの装甲持ってるのは自分だけとか言ってたのにその直後にもう一人現れてさ。もう何がなんだか」
「あいつも手を打って来たと言うことか。もしかしたれこれからうじゃうじゃ出てくるかもな。ゴキブリみたいに増殖して」
「でもあの死神野郎の攻撃が効いたって事は鎧の防御力はそれほどってところか?」
「いや、彼ほど力のある者は俺たちの中にあまりいないぞ」
「だったら大羅君の出番かな?また僕もついて行くよ」
「やめとけやめとけ」
「思ったけどさ。この会話ちょっと小物感出し過ぎじゃない?一応怪物達の幹部なのにさ。これじゃあニュースピークならぬ小スピークだよ」
「なんじゃそりゃ」
「怪物って呼び方は止めろ。私達が悪者みたいじゃないか。正義はこっち、悪者はあっちだ」
「そうだったね。ごめんリーダー」
3
湖也達が教室に戻ると、何やらピリピリした空気が漂っていた。
教室にいる生徒達は湖也を見つけると、彼の周りを取り囲む。
しかしそれは歓喜と称賛の声を上げるためではなく、罵声と文句を言うためだった。
彼らは怒りの感情を顔に出し湖也に向かって叫んだ。
「お前何怪物逃がしてんだよ。やっつけろよ!」
「俺らの命が掛かってるんだぞ!」
「何も出来ずにただ座ってたなんて。三村くんかっこ悪い」
「今度逃したら承知しねーぞ!」
と様々な文句をぶつけて行く。
「え、ちょっと何これ…」
最初に言葉を漏らしたのは天だった。
「酷いよみんな!湖也はみんなのために必死に頑張ってたのに!」
「そうです!湖也先輩は何も悪くありません!」
葉種の言葉に対して生徒の目線は彼女に集まって行く。
「てかお前誰だよ。校章の色が赤って事は一年だろ。なんでここにいるんだよ。邪魔だよ元の教室戻れよ」
「え?あ…えぇっと…」
戸惑う葉種を庇うように湖也は口を開く。
「なんでこの子に当たるんだよ」
「お前こそなんで庇うんだよ。役立たずの癖に偉そうに」
その言葉に反応したのは陸だ。
「じゃあお前はあの怪物と戦えるのかよ」
陸はチラリと湖也の腕に巻かれているデバイスを見て
「この装甲が無ければまともに戦う事は出来ない」
「はっ!お前はそれでいいのかよ!なんでこいつが選ばれたから疑問に思わねーのかよ!こんな役立たずがこんなの持ってても宝の持ち腐れだ。なんで俺じゃなくてこいつなんだとか思わねーのかよ!あぁ⁉︎」
「湖也だってさっきも死ぬ気で戦っていた!この学校を守ろうと全力なんだぞ!その思いをねじ曲げるようなことは考えない。お前らのような悪い部分だけ取り上げて勢い任せて文句を言うような捻れた考えはしないんだよ」
生徒と陸が睨み合う。
ピリピリした空気を引き裂くように先生が割り込んできた。
「はい!これで喧嘩は一旦終了!ほらもうすぐ食事の時間だよ!グダグダ言い争ってないで食堂に行きなさい」
時計を見ると7:30を過ぎていた。
学校の食堂なのでなかなか広く作られているが流石に全校生徒全員を座らせるほどの椅子と机は無く、学年ごとに時間を決めて食事を取ることになっていた。
ちなみに湖也達2年は7:45に食堂集合である。
はーいと不満混じりの返事をしながら生徒たちが食堂に行くのを眺めながら先生は湖也に近づく。
「お疲れ様。大変だったね」
「もう先生は何も言わないんですね。さっきあんな真剣な顔しながら止めてたのに」
「本当はやめて欲しいのよ?今どんな状況になっていて何がどうなっているのか正確に把握できない。こう見えてもテンパってるのよ?でも先生がいろいろ言うのは辞めたわ。先生は生徒に助言はできるけど強制させることは出来ないし。それに、あなたじゃ無ければ出来ないことなんでしょ?」
「俺じゃなきゃ出来ない事…」
「さ、あなた達も行きましょ。10分前行動は集団行動の基本中の基本よ。一人でも遅れるわけには行かないわ」
食堂へ向かう先生を追うように湖也達も歩き始める。
歩きながら、天は上伊と話していた。
「話の中に君の事は出てこなかったけど、なんでなのかな?」
「角度的に見えなかったんだろ。ただ湖也が一人で戻って来たと思ったんだ」
4
葉種は元の教室に戻り、食堂では生徒がそれぞれグループになって席につき食事をしている。
湖也達は一番端っこのテーブルにいた。
「いやーこうして晩飯をみんなで食べてると本当に学校に泊まるんだーって感じするな!」
陸はウキウキしている。
「お布団とかどうするの?寝る場所ある?」
「最悪硬い床で寝ることになるな」
「大丈夫!僕は椅子と机があれば寝れる!」
「その特技はあってはいけないものなんだけどな…」
「でもこの前お泊まり会したばかりなのにまたみんなと寝ることになるとは思わなかった」
「これはお泊まり会ってより合宿に近い感じだけどな」
「俺は行けなかったから少し楽しみだな」
「この状況楽しんでいる場合かよ…」
湖也はため息を漏らす。
そんな湖也など気に留めず天は勢いよく立ち上がる。
「はーい!やっぱり夜の学校と言ったら怪談じゃん?この学校の七不思議とかあるのかな?」
「七不思議とか、小学生が楽しむものだろ!」
「えー、小さい子供じゃないしか楽しんじゃいけないってのは悲しすぎるよ…」
「でも全校生徒が寝てるのに幽霊なんて出てこないだろ」
「パリピな幽霊だったりして!」
「パリピな幽霊なんか出てきても困るだけだ!大体幽霊だったら前見ただろ」
「大橋のお姉ちゃん?あれば怖くないから却下だよ?」
「パリピな幽霊とか言ってた奴が何を言うか!」
食事を済ませ、風呂も済ませて教室に戻ると布団が敷いてあった。
「旅館かよ」
湖也は驚きと呆れの声を漏らす。
「先生がやったのよ!大変だったんだから!でもみんなの寝顔が見れるなら、先生がんばっちゃう!」
「先生もここで寝るのか?」
陸が質問する。
「そうよ!」
「仕事の方は大丈夫なのか?」
「大丈夫!なんとかする!」
「それじゃみーちゃん、俺の隣くる?」
上伊が手招きする。
「こら!みーちゃんじゃなくて先生でしょ?さー、誰の隣で寝ちゃおっかなー」
「先生!絵本読んで!」
「子供か!」
「子供ですー。図書室に絵本あるよね!肝試しついでに取りに行こうか!」
「またその話かよ。ま、暇だしついて行くか」
「俺も行こうかな。恋愛モノの漫画あるかな?」
先行する天に続き、陸、上伊が教室を出て行く。
「なるはやで帰ってきなさいよー」
他の生徒達は指定された布団に入ると話をしたりスマホを見たりとそれぞれ好きなことを始めた。
一人、教室に入らずに廊下の窓から外を眺めてる生徒がいた。
トイレから戻ってきた湖也はその姿を目にすると、隣に立って話しかける。
「どうした紗水。教室に入らないのか」
「星を眺めてたの。ほらここは田舎だから夜空綺麗でしょ?」
「確かにな」
こんなに夜遅くまで学校にいる事がなかったから、この学校から眺める夜景がこんなに綺麗だと湖也は思ってなかった。
「それに、湖也に話があるの」
「え、急にどうした?」
突然の告白に頬を赤く染めて動揺する。
「まさか、愛の告白?辞めてよそんなの完全に死亡フラグじゃないかー。はっはっは」
「まぁ、それもあるわね」
「え?」
まさかの返事に驚きを隠せない湖也など見向きもしないで、星空を眺めたまま話を進める。
「ねぇ湖也、やめようと思ってない?」
「何をさ」
「怪物と戦うの」
「…」
「やっぱり」
「なんで分かったんだよ」
「あなたが落ち込んだままだったから。確かに、死ぬ気で戦って怪我もして一匹怪物を撃破して学校を守ったのに、もう一匹を逃したからってみんなに責められたら苦しくなるのも無理はない。おまけに上伊まであの装甲手にしちゃうものね。やめようと思っちゃうのも分かる気がするわ」
「お前に何が分かるんだよ」
怒りを抑え込んで静かに言う。
「お前に何が分かるんだよ。お前はいつも守られてばっかだったじゃないか。俺が何度も戦って、苦しみに耐えてきて、お前はそれをただ見てるだけ。そんなお前に俺の気持ちが理解できるかよ」
「話を聞いて」
「いやだ」
一言言うと湖也は教室に戻る。
紗水は下を向きため息を吐くともう一度空を見上げる。
「あなたの目指したヒーローはそんなに簡単に折れるものなの?あなたの人のために頑張る姿、好きなのに…」
とその時、薄暗い廊下の奥からコツ、コツと足音が聞こえてきた。
紗水は突然の足音に背筋を凍らせ、顔だけを動かし音のした方向を見る。
恐怖で足を動かすことができず必死に頭を回転させる。
(まさか、花子さん?それとも引子さん?それともワ・タ・シ?って何で今そのワードが出てくるの!まずいわ!助けを呼ばなきゃ…)
「やっぱりあんまり怖くなかったね」
「やっぱりみんな肝試しがしたいのか何人かすれ違ったよな」
「いやみんな図書室に行きたかったんでしょ」
足音の正体は天と陸と上伊だった。
陸は紗水を見ると、
「ん?お前こんなところで何してんだ?」
「ビビらすなあんた達ぃぃぃぃ!」
紗水の3連ドロップキックを喰らい3人は倒れる。
「お前…生身でも十分怪物と戦えるぞ…」
「紗水ちゃんってこんなに乱暴な子だったっけ?」
「痛い…痛いよ河原さん…」
布団に入りながら葵は考えていた。
「せっかくならノボリと寝たかったな…」
小声で呟いた。
「ん?何か言った?葵ちゃん」
隣で寝てる女子生徒凛が話しかける。
「え?ううん何も!起こしちゃってごめんね」
「私も眠れなかったとこ。登くんのこと考えてたの?」
「え⁉︎な、なんで⁉︎」
「図星ね」
「うぅ…」
「ねぇ、小声で教えてもらっていいかな?登くんと付き合ってるの?」
「告白とかしてないしされてもらってないから、付き合ってらことにならないと思う…多分」
「登くんの事好きなの?」
「ノボリの事は好きだよ。大好き。一緒にいると楽しいし。いつも私を喜ばそうとしてくれるの。これからも一緒にいたい」
「告っちゃえば?」
「それはまだ…早いと言うか…凛ちゃんこそどうなの?好きな子いない?」
「私は…上伊くんかな?やっぱりクラスのリーダー的存在だし。頼れる男って素敵」
「そうなんだ…」
葵は黙り込んだ。
「どうかした?」
「ううん。さっきなんでさっき三村くんあんなにみんなに怒られなきゃいけなかったのかな?大橋くんも三村くんと一緒にいたから思い出しちゃって」
「なんかみんな様子変よね。なんかロボットみたいになっちゃった」
「凛ちゃんはロボットみたいにならないよね?」
凛は葵の手を取り微笑む。
「ならないよ。私はあなた達の恋を応援し続ける」
「そういうこと言ってるんじゃないよ〜」
「分かってるよ。おやすみ」
「うん。おやすみなさい」
「そういえば、寝てる時に怪物が来たらどうするの?」
天がふと疑問を口にした。
「大丈夫。学校の至る所にセンサーがついてるから、来たらこのデバイスで教えてくれるんだとよ」
「よかった。じゃあ安心して寝られるね」
「安心してられるかっての」
「湖也、なんかイライラしてる?」
「そうでもねーよ」
「ふーん…」
天は湖也の布団の中に入り、脇と足裏目掛けて腕を伸ばす。
「わっ!ふははははははははっ!ちょっと天何すんだ!やめっやめろぉ!」
湖也は必死に足をバタバタさせる。
その暴れる足が天の顔に当たった。
「痛っ!」
「あ、悪い大丈夫か!」
「うん大丈夫」
自分の顔を撫で終わると天は湖也の顔を見つめる。
あまりにじっと見つめられるので湖也は顔を逸らしながら
「…なんだよ」
「うん!なんかスッキリした顔になった気がする!」
「は?」
「イライラしたときはさ。こうやってたくさん笑ったり叫んだらして気持ちをリセットさせるのがいいんだ。暗い気持ちでいるのはよくないよ。眠れなくなっちゃうし。湖也はみんなのヒーローなんだからさ。たくさん寝て、たくさん体力つけないと」
「…」
湖也は黙ったままだ。
天は自分の布団に戻ると
「お邪魔してごめんね。それじゃあ、おやすみなさい」
それから数秒もたたずに寝息を立て始める。
5
数日が経った。
あれからな怪物は出てきてない。
休み時間、生徒達が廊下で窓の外を眺めながら
「最近怪物こないよな」
「もう来ないんじゃねーの?」
「お前らフラグ立てんな」
プワーン、プワーンとサイレンの音が突然鳴り響いた。
その直後、
『怪物だ。外にいる生徒は直ちに校舎の中に入り安全を確保しなさい。湖也くん、上伊くんは至急昇降口まで来てくれ。繰り返す、怪物が現れた。校舎の中に入り安全を確保。湖也くん、上伊くんは昇降口まで来てくれ』
とアナウンスが流れる。
「ほらぁフラグ立てるから」
「え⁉︎俺のせい⁉︎」
湖也達と教室で駄弁っていた上伊はすぐに立ち上がると
「湖也、怪物だ。行こう」
「…行かない」
湖也は俯き呟く。
その反応に一緒にいた天と陸が
「「えぇー!」」
と叫ぶ。
「湖也行こうぜ!怪物が迫ってるんだ!お前が戦わなくてどうするんだよ!」
陸が湖也の肩を掴み必死に説得するが
「上伊がいるじゃないか。俺は行かない」
「ちょっと湖也どうしちゃったのー⁉︎」
天が慌てふためく中、ドアに手をかけた上伊は振り返ると、
「湖也、俺は先に行ってる。待ってるよ」
と言い残し走り去った。
その姿を見て凛は一緒にいる葵に話しかける。
「何?上伊くんも装甲もらってるの?」
「アナウンスで大橋くんの名前が出てから、そうなんだね」
一方、他の生徒達は湖也に向かって声をかける。
「おい、怪物が出たんだぞ。早く行けよ」
寄ってくるが、湖也は態度を一切変えない、
「いやだ」
その言葉にキレた生徒が湖也の胸ぐらを掴み顔を目の前まで持ってくる。
「お前分かってんのかよ。俺たちの命背負ってんだぞ!何が行かねぇだよ!つまんねーぞそんな冗談!」
そう言うと湖也の体を壁に押し付ける。
「行けよ。行けよぉ!」
他の生徒が腕を振り上げた。
それを見た葵はその腕を掴む。
「暴力は行けないよ!」
「なんだよこいつだって怪物に暴力振ってんじゃん」
「それとこれとは話が別ってわかってるでしょ」
凛が強めに言う。
「手を離しなさい」
紗水が命令し生徒は湖也から手を離すと、湖也は壁に背を預けながら座り込む。
天が近づく。
「なんで行かないの?」
「もう嫌なんだよ。俺はただ校長に戦えって言われただけ、別に俺から願って手に入れた力じゃない。死ぬ思いして戦って。みんなの命守ったのに一匹逃しただけでこの始末。役立たずとか宝の持ち腐れとか!ふざけんなよ!お前らはただ見てるだけだろ!ヒーローってこんな扱いされるものなのか?ヒーローってのはみんなから讃えられるものじゃないのか?励ましの言葉やお礼の言葉もない。失敗したら叩かれる。こんな辛いこと、もうやってらんねぇよ。俺はヒーローじゃなくていいよ」
湖也は全てを話した。
(なんかめんどくせぇ)
生徒達は黙り込む。
紗水はやれやれと言った感じにため息を吐き、湖也に歩み寄ろうとする。
しかし、紗水より先に動く者がいた。
「お前が目指すヒーローってそんなもんなのか?」
陸はそう言うと湖也の目の前まで近づき、腰を落として目線を合わせる。
「お前が目指したヒーローってさ、みんなから褒められるためにやってるわけじゃないと思うんだ。ヒーローは自分がヒーローだと意識しない。みんなが認めるからヒーローになる。これはどのヒーローだってそう。日本の特撮だってアニメだって海外のアメコミだって、ヒーローと呼ばれる人は自分の事を第一に考えないんだよ。目の前の困ってる人を助けたい。その思いだけで動くんだ。その行動が結果的に吉と出るか凶と出るかわからないけどさ。とにかく目の前の命を救うために戦う。これがお前の目指したヒーローじゃないのか?」
「例え目の前の敵さんがめちゃくちゃ強くて戦うのが怖くても、何度も立ち向かう!みんなの平和のために!そんなヒーローに憧れていたんだよね?」
天が微笑む。
「俺の目指してたヒーロー…でも今困ってる人いないし。みんなだってこの校舎いれば安全。戦う意味ってあるのかな…」
「あんたの目ん玉は節穴かしら?」
紗水が口を開く。
「困ってる人ならここにいるじゃない。私やこのクラス…いいえ、この学校全員の生徒があなたの助けを必要としてるの。確かに校舎にいる限り安全かもしれない。でもそれでいいわけないじゃない。みんな家に帰りたいの。だからお願い、みんなの願いを叶えて。これはあなたと上伊、二人にしか出来ないことだから」
湖也は先生の言葉を思い出す。
『あなたじゃなきゃ出来ないことなんでしょ?』
「今この学校を守れるのは、俺と上伊しかいない。俺たちじゃなきゃ出来ないんだ」
「そうだ。湖也と上伊にしか出来ないんだ。だから頼む。この学校を守ってくれよ。頑張れ。湖也」
陸は湖也の肩をバシッと叩く。
湖也はその衝撃で目覚めたかのように目を見開くと素早く立ち上がり、教室を飛び出した。
陸はその姿を見送ると、生徒達の方を向く。
「あいつも死ぬ気でやってるんだ。軽い気持ちで文句言うんじゃねぇよ」
6
上伊は階段を駆け下りながらデバイスに指を置く。
『認証しました。装甲を装着します』
と鳴り上伊の全体に装甲が装着されていく。
そのまま昇降口を飛び出したが、目の前の状況に驚きの声を上げる。
「えぇー!二体なんて俺聞いてない!」
目の前の怪物は二体いた。
一方は大きな剣みたいな見た目で、背中からは翼のように小さな剣が何本も伸びている。
もう片方は全身機械の怪物で、こっちと似たような見た目をしている。
「湖也先輩頑張って!」
声がして振り向くと葉種が昇降口の扉を少し開けて叫んでいた。
「ごめん。俺湖也じゃなくて上伊なんだ。」
上伊は葉種に近づくとそう答える。
「え?湖也先輩は?」
「あいつはもうすぐ来るよ。だから心配しないで」
「おい」
怪物が上伊に向かって叫ぶ。
「確かそっちはその鎧の戦士が二人いんじゃなかったか?もう一人はどうした?」
「誰が教えるか!」
「したかない、俺がこいつ引きつけるから、お前は中入って暴れてこい」
剣の姿の怪物がもう機械の怪物に命令を出す。
「私が?まーあなたの命令ならいいけど」
そう言うと上伊を無視して昇降口から入ろうとする。
「閉めろ!」
上伊が命令し、葉種はドアを閉めロックをかける。
「なんだこれ!硬い!開かない!どうなってんのよー⁉︎」
「よしこれで心置きなく戦える」
上伊は拳を強く握り構える。
剣の怪物は嘲笑うように
「お前状況わかってんのか?2対1だぞ。この状況でもまだ戦うってのか?」
ドアを開けようとしていた怪物はくるっと体を回転させて上伊の方へ向ける。
前後から挟まれた上伊は足に力を込めて一気に地面を蹴った。
ビュオッ!っと音が鳴り瞬時に姿が消える。
「まずは弱そうなお前だ!」
機械の怪物に向かって思いっきり蹴りを入れる。
だが次の瞬間、バリィッ!と音と共に上伊の体に電流が流れる。
「ダダダダア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
ものすごい叫びを上げ上伊は倒れる。
機械の怪物の掌から強烈な電流が流れていたのだ。
装甲が無ければ即死だっただろう。
「上伊先輩!」
ドアの向こうにいる葉種は叫ぶ。
「こいつ私の事弱そうだってー。特大ブーメランじゃない?」
「いででででで…」
必死の思いで体を起こした上伊だが
「お前の方が弱く見えるぜ!」
剣の怪物がその体を使って上伊の体をぶった斬ろうとしていることに気づきなんとか体を回転させて攻撃を避ける。
「ははは!無様ー」
昇降口まで駆けつけた校長はその様子を見て上伊の装甲に通信を図る。
『上伊くん!湖也くんはどうした!』
『あいつはもうすぐ来るんで!』
なんとか起き上がりながら上伊は答える。
二人相手だと相手の攻撃を避けるのが精一杯でなかなか攻撃に転じることが出来ない。
不幸中の幸か二体の怪物はどちらも動きが鈍かった。
剣の怪物の突進攻撃を避けると次は機械の怪物の電流攻撃が襲ってくる。
「ちょこまか逃げてねーで大人しくやられろや」
「私こうやって時間稼がれるの一番キラーイ」
そう言うと機械の怪物は背中から太い木の根を生やし上伊の方へ伸ばし、拘束する。
「えぇ!?機械に植物っておかしいでしょ!」
「うるさーい」
機械の怪物は伸ばした根っこから上伊に電撃を浴びせる。
「あばばばばばばばば!」
「声きもー」
怪物が電撃をやめると上伊はすっかり動かなくなってしまった。
その姿を見て、校長は上伊に再度通信を図る。
『上伊くん!大丈夫かい⁉︎』
『あなたの作った装甲のおかげで、なんとか…』
校長は焦った様子で
「湖也くんはまだ来ないのか!しょうがない…」
校長は上伊との通信に使っている機械を操作する。
隣にいた葉種が質問する。
「何してるんですか?」
「戦いに参加しない罰だ。湖也くんのデバイスから湖也くんに電流を流し込む。本来は寝てる時に起こす用のものだがな」
「馬鹿ですか!?体罰じゃないですか!」
「先生に向かって馬鹿とはなんだ!みんなの命がかかってるんだぞ!」
『安心してください』
機械から上伊の声が聞こえる。
『あいつはもうすぐ、絶対に来るんで…』
上伊を捕らえたまま、機械の怪物は剣の怪物を見る。
「ねーあなた、最後は私とあなたの合体技で殺らない?」
「いいねー!俺の体でこいつの体を真っ二つにしようぜ」
そう言うと剣の怪物は機械の怪物の元へ向かう。
その時、
『エネルギーを解放します』の音声が何処かから鳴り響いた。
次の瞬間、
ドゴォォ!
と言う爆音と共に機械の怪物の頭部に強烈な一撃が叩き込まれる。
機械の怪物は動かなくなり、上伊の拘束を解いた後、爆発する。
上伊は爆発の煙の中にある人影に向かって、
「待ってたよ」
と一言投げかける。
煙の中の人影が動き出し、こちらに向かって歩いてくる。
それは上伊と同じ装甲で、その中身は当然
「湖也」
教室から廊下に飛び出し、さらにそのまま廊下の窓から飛び降り、真下にいる怪物に必殺パンチを喰らわしたのだ。
「すまない上伊。今まで俺は戦う意味を全く理解してなかったよ。もう迷わない!ヒーローを意識しない!周りからなんて言われてもいい!俺はこの学校を守るために戦う!」
「よく言った!」
二人は腕を交差させる。
「さあて、これで数は逆転したな」
上伊は顔を怪物の方へ向ける。
「お前…俺の…よくもぉぉぉぉぉ!」
怪物はそう言うと小さい剣で出来た羽を思い切り羽ばたかせる。
ものすごい風が二人を襲い学校の壁へ叩きつけた。
倒れ込む二人が起き上がる前に上伊の方へ突進する。
剣先が上伊の胸を捉えようとするが、上伊は横に転がり目的を失いそのまま壁にぶつかってしまう。
「今だ!」
上伊は叫ぶ。
「了解!」
湖也は怪物の後ろに回り込み、怪物の柄の部分をしっかりと握りしめると
「おりゃぁ!」
怪物の体を振り回して空高く放り投げる。
「任せた!」
今度は湖也が叫ぶ。
「分かった!」
上伊は天高く飛び上がると腕のデバイスに指を置く。
『確認しました。チャージ開始します』
と言う音声が鳴り響き右足が変形を始める。
校舎から「いっけー!」や「頑張れー!」などの声援が聞こえる。
生徒達が廊下の窓を開け叫んでいた。
葉種も手を目の前まで持ってきて祈るように握ると
「頑張ってください」
と静かに言う。
『エネルギーを解放します』の音声を聴くと、宙を舞っている怪物目掛けてキックをする。
見事命中し、剣の怪物の体は折れ剣先は地面に落下、その他の部分は空中で爆発した。
地面に突き刺さった剣先を見て湖也は困惑する。
「えぇ…そんなたまたま剣先が地面に突き刺さるって、そうはならんやろ…」
着地した上伊が湖也の方へ近づく。
「いいじゃないか、カッコよくて。お前が覚悟を決めた証〜的な感じで残しとこうよ」
「いやいや、これを成分解析して怪物の正体がなんなのか調べた方がいいでしょ」
「湖也そんなことできる?」
「いや?出来ないけど、校長先生に渡せば…」
「呼んだかな?」
校長先生が近づいてくる。
「あ、校長先生。どうです?この怪物の破片、解析しましょうよ」
「いや、解析したところで無意味だろう。何かわかったところで向こうのしてくることは変わらないし。この学校のオブジェにしようか」
「あんたまでそんなことを…!」
湖也と上伊は階段を上り教室へ戻る。
その途中、湖也が口を開く。
「すまなかったな。途中まで一人にしちゃって」
「大丈夫だよ。最後は来てくれたんだし」
「ていうか、お前怪我とか無いか?怪物の攻撃喰らって無いか?」
「電撃喰らったけど装甲のおかげで大丈夫!」
そう言う上伊だが少しよろけてしまう。
「ほら体がふらついてるぞ!肩貸すわ。どう?教室まで行ける?」
「ありがとう」
「なぁ上伊」
「ん?どうした?」
「なんか…人のために戦うって、いいな」
「そうだな」
教室に戻ると、全員が瞬時にこちらを振り向く。
「あ!戻ってきた!」
「ほら、みんな言うぞ!せーの!」
誰かがそう言い全員の息を吸う音が聞こえた後
「お帰りなさい!」
とみんなの声が聞こえてきた。
二人は顔を見合わせるとニコリと微笑みみんなの方を見る。
「「ただいま」」
てか生徒に戦いを強いる時点で立派な体罰では?ちがうかな?




