第19話 高揚
1
今は怪物をやっつけてから一時間後の休み時間である。
ちなみにあの戦闘があった後もなぜか授業は普通に行われた。
「あの怪物何しに来たんだろうな」
湖也はそう切り出した。
「校長が言うにあと一人は絶対にいるってことでしょ?」
「そう言えば怪物って一人なのかな?一匹なのかな?」
「急に話変えやがった」
「だってこれは結構大事な話だよ?テストでもよく単位まで聞いてくる問題あるじゃん」
「おーバカだった天がそんなこと言うようになるとは」
「バカっていわないで!」
「まあ一匹でいいんじゃないか?一羽ではないし。一人だったら俺殺人犯したみたいでなんかやだし」
「でも怪物の正体が人間ってこともあるでしょ?」
「…怖いこと言うなよ」
「でもあれって向こう側から攻撃してきたじゃん?それに怪物になった時点で殺人にはならないんじゃないか?」
「そう…なのかなぁ」
湖也は俯く。
「それに怪物を倒さないと俺たちが死んでしまうんだぞ。あいつの目的は知らないが、この学校に入ろうとしていた。そしてあの動画の内容。怪物がこの学校の生徒の命を狙っているのは確かなんだ」
「でもそれって何のためにやるのかな?僕なんか殺したって何もないのに」
「「「うーん」」」
考えても思いつかないので一旦中止した。
2
「でも怪物の目的は何であれ、俺がこの学校のヒーローになった事には間違い無いじゃん?」
ポップステップジャンプで自販機へ向かう湖也とそれについていく天と陸。
「まーお前がこの学校を守ったんだからな」
「これはみんなから注目されるよね!きゃー湖也様よ!きゃー学校のヒーローだわ!私の旦那になって!とか言われちゃったりするのかなー」
「あいつ、あんなこと言う奴だったか?さっき俺の正体バラすなとか言ってたくせに。情緒不安定すぎるだろ」
「ヒーローに憧れていたらしいし、めちゃくちゃ嬉しかったんだね。多分」
「ていうか告白で旦那になっては飛びすぎだろ」
「もしそうなるなら僕もなりたいな〜。なんで湖也なんだろう」
そんな会話をしながら自販機へ到着。
「ほら〜まずは自販機イベントだ」
「そんなイベント無い」
「自販機の前で後輩から…」
「あの…湖也先輩ですか?」
「って声をかけられて…ん?」
湖也は一度我に帰り状況を整理する。
今誰かに声をかけられた?
周りを見渡すと自販機の前で顔を上げてこっちを見つめてくる女子がいた。
「今のって…君?」
「はい!あなた、湖也先輩ですよね!」
そこでちょんちょんと天に肩を突かれた。
「この子、湖也の知り合い?」
「いや…知らない子」
「突然声をかけてすみません。私、一年の葉種って言います」
「ボーカロイド?」
「違います。先程の戦い見てました。すごくかっこよくて、お会いしたいと思ってまして。たまたま自動販売機に来たらいましたので…」
「まさか本当にこんなイベントが起こるとは…てか一年生が俺のこと知ってるってどんだけ話広まるの速いんだよ」
「ちっちゃくて可愛いじゃないの。俺は湖也の友達の陸。よろしくな」
「僕は天」
「はい、よろしくお願いします!」
「おーいハツネ?早く来てよー」
先に用事を済ませて教室に戻ろうとしていた葉種の友達が戻って来た。
「って!湖也先輩じゃん!さっき怪物から学校を守ってくれた!おーい湖也先輩がいるぞー」
「わ!本当だ!湖也先輩!サインください!」
「おーこれだよこれ!こうやってみんなに囲まれるの想像してたんだよね!でもサインなんか考えてなかったどうしよう」
「ダメ!私が最初に声かけたんだから!私の湖也先輩なの!」
ハツネは声を張り上げて湖也の腕を引っ張る。
「大胆!」
「先輩達!いきましょう!」
「え?もうちょっとスター気分味合わせてでででで!分かった付いてくから!」
「なんだよそれー。私達友達だろ?」
友達の声を無視して四人は校舎の中へ入っていく。
「なんで連れ出してきたんだ?みんなでワイワイした方がいいだろ」
湖也は運動場の隅の石の階段に腰を下ろした。
「湖也ってそういうの苦手だろ」
「そうだった。俺への配慮ってことか気が効く後輩だなー」
「いえ、湖也先輩をわざわざ連れ出して来たのは聞きたいことが何個かあったからなんです」
「それはみんなとじゃダメだったのか?」
「なるべくじっくり聞きたかったので…その、あの怪人ってなんなのですか?もう出てこないのでしょうか?」
「おっと悪いが怪人って呼び方はやめてくれ。倒した俺が人殺しみたいじゃないか。あれのことは怪物と呼ぶべきだ」
「す、すみません!」
「あの怪物については俺たちも分からない。でも校長の情報だと少なくともあと一人はいるとのことだ」
「そうなんですか。じゃあ湖也先輩はあの鎧を手に入れたのですか?」
「校長からもらったんだ。ほら、この腕時計に指をつければ」
湖也は人差し指をデバイスにつけると、『認証しました。装甲を装着します』と鳴り体に装甲が装着される。
「かっこいいですね!でもなんで湖也先輩に?」
「それも分からないんだよ。正直俺より強くて頼りになる人たくさんいるのにね。でもヒーローに憧れてたから引き受けちゃった」
「もしかして、その『ヒーローに憧れていた』という夢があったからなれたんじゃないですか?」
「でもこのこと高校に入ってから誰にも言ってなかったんだけどな」
「でもよかったじゃないですか!実際湖也先輩は今学校のヒーローなんですから!怪物に一人で立ち向かっていく姿カッコいいです!」
「へへへ…そうか?だよなー。強い正義感とヒーローになれるという希望があれば怪物なんて瞬殺よ」
突然、二人の後ろで陸と駄弁っていた天が、
「ねーねー。それってさ、強化形態とかあるの?」
「そういえば、なんか触れば出てくるかな?」
「馬鹿者、そんなもんあるならとっくに伝えとるわ」
校舎の方から校長先生が歩いてくる。
「あ、校長先生。無いんですか?」
「無い。それより戦闘外での無意味な装着は控えてくれ。今は君たち以外誰も見てないからいいが怪物が来たと思った生徒が騒ぎ出すかもしれない」
「すみません」
「校長先生!なんで湖也先輩にこれを渡したんですか?」
「ヒーローになりたいという君の願いを叶えてあげようと思ってね」
「あんた絶対さっきの会話聞いてただろ」
デバイスの横についているネジのようなパーツを引き、装甲を解除する湖也。
「これってどのぐらいの衝撃まで耐えられるんですか?」
葉種は湖也の腕のデバイスを見つめながら校長に訊く。
「それは私も知らんなぁ」
「この前は爆発にも耐えていましたね。怪物の火炎放射も少し熱い程度で済みました。生身だったらまる焦げでしょう」
湖也はあの先頭を思い出す。
「すごい性能ですね」
「まあ、私も学校のために頑張ったわけだよ。ガハハハ!」
三人で話し込んでいるのを見つめながら、陸は眉をひそめる。
「どうしたの?陸」
「あのハツネってやつ。やけに湖也とあの鎧のことを聞いてないか?」
「確かに、なんでなんだろう。あの子もヒーローものが好きなのかな?」
「いや、おそらくあいつは敵のスパイだ!」
「スパイダー?」
天のボケをガン無視して陸は続ける。
「湖也の事、そしてあの鎧の情報を盗み出して敵の幹部に伝えるんだ!」
「そもそも敵に幹部っているのかな?僕はそんな風には見えないけど…」
「いいやあいつは絶対スパイだ!俺が今から正体を暴いてやる!」
天とのヒソヒソ話しを終えると、湖也達に近づいて声を張り上げる。
「お前ちょいと怪しいなぁ。もしかしてお前、敵のスパイなんじゃないのか?えぇ⁉︎」
「わ、私ですか⁉︎違いますよ!なんでそんなことを…」
「お前さっきから湖也の事ばっかり詮索しおって!何が目的だ!」
「私はただ湖也先輩に憧れて…」
「嘘つけ!どうせこのあと忽然と姿を消して敵の幹部に報告しにいくんだ!」
「そんなことしませんってば!」
「そうだよ陸くん。彼女はスパイではない。立派な私の学校の生徒だ」
「どうせ数日前に転校してきたばっかなんだろ!お前!」
「陸くん。彼女は転校生ではない。四月からちゃんとこの学校にいる。彼女も襲われる立場にあるんだ。決してスパイではない。分かってくれ」
「校長先生が言うなら…」
引き下がる陸を見て、湖也はニヤついた。
「もしかして陸。俺ばっかりチヤホヤされて嫉妬してんのかなー?」
「ちげーよ」
「しょうがないよー。だって俺は学校を救ったヒーロー!みんなに感謝されて当たり前だもん!」
「あ〜うぜぇ殴りてー」
「おや?殴り合いかな?この装甲を持ってる俺に力勝負なんていい度胸だねー」
湖也は腕についているデバイスに手を伸ばそうとする。
「怪物との戦闘以外でそれを使わないでおくれ!」
「あ、はい。すいません」
3
教室に戻ると待っていた担任の美百合先生に腕を引っ張られた。
「また女に連れてかれる〜」
「こーら先生でしょ?」
湖也は今は人気の無い階段の踊り場に連れて行かれた。
「なんでここなんですか。先生だったらここより職員室の方がいいでしょ」
「もうすぐ授業が始まるからあそこまで行けないの。あんな騒ぎがあったのになんで授業あるのかしら。それより湖也くん、あの怪物と戦ってたのがあなたってのは本当なの?」
「はい、本当ですよ。校長先生から頼まれてなんか戦っちゃうことになっちゃいました」
「やめなさい」
「え?」
「また同じ事態になるかは先生わからないけど。もしなったとしてもあなたは何もしないで」
「何でですか?」
「私はあなたの担任よ?私のクラスの子は私の子供同然なの。自分の子供が危険な事をしようとしているのに黙って見過ごす親がいるわけないでしょ」
「大丈夫ですって。俺とこれがあれば負けることはありません。それに俺がやらなきゃこの学校の生徒、いや先生を含む全員が殺されてしまうんですよ?さ?もうすぐ授業の時間です」
そう言うと湖也は階段を降りて自分の教室へ向かった。
「待って!先生の話を聞いて!テレビとは訳が違うの!命がかかってるのよ!」
「大丈夫ですよ。先生のことも俺が守ってあげます」
4
今日の授業も終わり帰りのホームルームが始まろうとしている。
「結局今日はあれ以来怪物こなかったな」
「まあ怪物も俺の噂を聞いてビビってんだろうよ」
「こっちも一気に怪人来ても困るしね」
「え?俺は全然余裕だぜ?スマートに倒してみんなを守ってやる!」
「こいつ本当に鼻が伸びて天狗になるんじゃねーの?」
「そしたら天狗怪人だ」
天がクスクス笑う。
その時、教室のスピーカーから音が鳴り響いた。
何かしらのアナウンスを知らせる音が鳴った後、続いて校長先生の声が聞こえる。
『えー全校生徒にお知らせをする。突然の事で申し訳ないが今日から一切家に帰るのを禁ずることにした。君たちには学校で寝泊りをしてもらう』
「はぁ⁉︎何それ!」
教室で生徒の不満の声が上がる。
『安心しなさい。この学校には風呂もあるし食堂もある。君たちは正体不明の怪物共に襲われているんだ。帰宅途中や家に帰ってから襲われるより学校にいた方が安全だろう。怪物の攻撃にこの校舎は耐えている。君たちの命が最優先だ。親御さん達には話を通してあるから心配ご無用。ちなみに中間試験は中止とするが授業は通常通り行う。それじゃ、良い生活を』
「ふざけるんじゃねー!」
ワーワー騒ぐ教室のドアが開き、先生が入ってくる。
「どうゆう事ですか⁉︎先生!」
生徒が一斉に先生の周りに集まる。
「私も生徒の自由は守るべきだと思って抗議してみたんだけど。自由より命を大切にしろって言われて…」
「でも!三村くんがなんとかしてくれるんだろ!?俺たちは何も関係ないじゃねーか!」
「え?」
教室の隅で三人で駄弁っていた湖也は突然の声に驚きを隠せなかった。
「そうよ!三村くんが私たちを守ってくれる」
「ちょっと!これは校長が決めた事だから!俺を巻き込まないでよ!」
「じゃあ守らないってこと?」
生徒の目線が先生から湖也に移った。
「いや…守るけど…」
沢山の生徒に顔を向けられ弱ってしまう。
「いい加減にして!」
バンッ!と机の叩く音と共に先生の叫び声が聞こえた。
叫び散らかしていた生徒が静まり返る。
「湖也くん一人で帰宅中の生徒全員を守れるわけないでしょ。冷静になりなさい」
(でも試験はなくなるなんて寂しい。僕せっかく河原さんと頑張って勉強したのに)
天は少しがっかりした様子だ。
「おー、みーちゃんもあんなこと言うんだね」
上伊が教室に入ってきて湖也の元へ向かう。
ちなみにみーちゃんとは先生のことである。
「どこいってたんだ?」
「ちょっと飲み物買いに」
上伊と湖也が話していると、続いて紗水が教室に入ってきた。
「なんかさっきアナウンスで帰れないって聞いたんだけど」
「お前はどこ行ってたんだよ」
「おトイレよ。それより、その隣にいる子は誰?同じ学年じゃないわね」
紗水は湖也の隣に目を向ける。
「俺の隣?お前幻覚か幽霊でも見て…てうわぁ!」
湖也が振り向くとそこには葉種がいた。
「お前!なんでここにいるんだよ!」
「湖也先輩に会いたくて」
「自分のクラスのホームルームはどうしたんだよ!」
「なんか荒れてたので逃げちゃいました!」
「馬鹿野郎!」
「ところで、そちらの方は湖也先輩のガールフレンド様ですか?」
「え?あーまーそんなところかな」
「湖也、その子は誰なの?やけに生意気な態度とってるように見えるんだけど」
「こいつはハツネ、さっきの俺の活躍を見て近づいてきた一年生だ」
「へぇー、あなたなかなか行動力あるわね。さっき会ったばっかでもう隣を陣取ってるなんて」
「まあ、男は同い年より年下が好きですからね。あなたより私の方が湖也先輩の隣に座るのにふさわしいってことです。あなたは年上なんで、当然譲ってくれますよね?」
葉種は闇に染まったような笑顔を見せる。
「こらこら。物凄い偏見だな」
湖也は苦笑いする。
「出会ったばっかりのあなたより一年の頃から同じクラスにいる私の方が湖也の事よく理解しているわ!一緒にいる時間の長さが絆の硬さを物語っているの!そこは私がいるべき場所よ。どきなさい」
紗水と葉種はお互いを睨み合う。
二人の間に火花が飛び散っているような錯覚がする。
(うわ女ってめんどくせー)
湖也は初めて女の闇に触れた気がした。
「湖也、モテモテだな」
「大橋、お前よくそんな呑気なこと言えるな」
そこで再びアナウンスが入った。
『2年5組の湖也くんに連絡する。至急第一昇降口まで来てくれ。繰り返す。湖也くん、至急第一昇降口まで来てくれ』
「湖也ー、呼ばれたよ?」
「もしかして、怪物がやってきたとか?女のことよりまずは学校のことだな」
「あぁ分かってる。行ってくる」
椅子から立ち上がると教室を飛び出す。
5
「何あれ⁉︎」
「あれが怪物ってやつ?」
「もう来やがったのかよ!」
「なんか不気味ー」
一棟の廊下では生徒達が窓に張り付いていた。
彼らが見ているの昇降口のすぐ前。
すでに日が落ちていて薄暗く見えづらいが、黒い死神のような怪物がこちらに向かって歩いてきている。
怪物は悩んでいた。
(どこから入ればいいのか分からぬ。昇降口や職員用玄関の扉は閉まっていてびくともしない。窓も全て閉じている。そしてその窓からは物凄い数の視線がこっちに向けられている。そんなことはどうでもいいが、上の奴らが言ってた向こうの戦士とやらもまだ見えない)
校舎の全体を見渡していると突然昇降口が開いた。
一人での少年が出てくる。
怪物は問いかける。
「貴様か?この学校にいる戦士と奴は」
「見て!三村だ!」
「あれが三村湖也くん?」
「あーそうだ。俺たちのヒーローだよ!」
湖也の姿を見て生徒達は騒ぎ出す。
湖也は目の前の怪物をよく観察した。
「今回はなかなか不気味な野郎だな。まー見た目はどうでもいいや。とっとと片付けてやる」
怪物が口を開く。
「貴様、命拾いをしたな」
「?」
「生身の状態で出てきたら、鎧を着ける前に殺られるだけ。俺は貴様のステータスを測る任務を任されているから着けるまで待ってやる」
「アドバイスありがとうよ。だがお前はここで倒す」
湖也が変身デバイスに指を近づけようとした時、後ろから叫び声が聞こえた。
「湖也先輩!頑張って!」
「ハツネ!それに天、陸、紗水、大橋まで。お前らどうしてついて来た!」
「いやー僕は止めたんだよ?でもハツネちゃんが『応援に行く』ってうるさくて」
「先輩!絶対勝ってくださいね!」
「おう!任せとけ!」
湖也の声を聞くと陸は昇降口の扉を閉める。
「あなたの応援は湖也にとって迷惑よ。引っ込んでなさい」
「あなたこそただ見てるだけなら教室戻った方がいいと思いますー」
紗水と葉種はまだ喧嘩している。
今度こそ湖也は変身デバイスに指を近づける。
『認証しました。装甲を装着します』という音声と共に、装甲が湖也の体に装着されていく。
「さあて、ヒーローがカッコよく敵を倒しちゃうぞー!」
湖也は準備体操をする様に手首足首をくねらせ、首をぐるりんと回す。
その直後、物凄い速さで飛び出し100mの距離を数歩で縮め、怪物の懐に潜り込む。
「この感覚にもすっかり慣れたぜ。さて先手必勝!」
拳に力を込めてグッと引き攻撃の準備をする。
しかし、
「蛆虫が。その程度の身体能力で俺に挑もうとは舐められたものだ」
声が怪物から発せられる。
思い切り突き出した拳に手応えはなく気がつくと怪物の体が黒い煙に変わっていた。
「え?」
考える時間もなかった。
次の瞬間、ゴンッと鈍い音が響き背中に鈍い衝撃が走った。
背後から怪物に押され湖也は思わず倒れ、背中に怪物が乗ってしまった。
「お前のその鎧、どのくらいまで耐えられる?」
「まだ数回しか使ってないから防御力ついては知らないことが多いんだよね」
「ほう、それじゃあ試してみるか」
「そうしようって言いたいところだけどもしそれで死んだら嫌だからやめて」
「敵の言うことを聞く馬鹿がどこにおる!」
怪物は黒い手を握り締めると銀色へと変える。
(何それ⁉︎まずい気がする!なんかこの怪物からはやばいオーラを感じる)
湖也はジタバタするが逃げられそうにない。
「仕方ない…!」
湖也は腕のデバイスに指を近づけると『確認しました。チャージします』の音声を待たずに腕に思いっきり力を入る。
両腕が変形し、湖也は空高く飛び上がり、怪物は湖也から離れ、遅れて『エネルギーを解放します』の音声が聞こえてきた。
必殺技に使うエネルギーをジャンプするエネルギーに変え怪物の攻撃を回避したのだ。
「くそ!こんなことに使うものじゃないんだけどなこれ」
しっかり足で着地した湖也は次の行動に移ろうとするが、ここで問題が発生した。
「体が…動かない⁉︎」
必殺技を打った装甲はエネルギーが無くなり硬直状態になってしまうのだ。
そう言えばこの前も必殺技を打ち敵が爆発した後数秒炎の中で突っ立っていたのを思い出した。
(あれは俺が疲れていたんじゃなくてこの装甲が動かなかったんだ)
「まずい!」
「この痛み、よく覚えておくがいい。まあ、すぐ死んで記憶すら無くなってしまうかもしれないがな」
怪物は銀色の拳を金色に変え、湖也の背中目掛けて突き刺した。
ゴッ!と言う鈍い音が鳴り、湖也の体が数メートルぶっ飛ばされる。
「い、痛い痛い痛い痛い痛い!」
背中に痛みを感じ叫び声を上げる。
(けど…ここで引き下がってられねぇ。俺が頑張らないと、この学校の生徒がまた殺されてしまう!)
「ほう、お前、痛いのか。ダメージを受けているのか。面白い」
「面白がってんじゃねぇ!」
体が動くようになった湖也はものすごいスピードで駆け出し怪物の顔面目掛けて拳を突き刺す。
が、また怪物の体は煙へと変わり消えてしまう。
(さっきと同じだとすれば…後ろか?)
右足を軸にぐるりんと体を180度回転させると再び拳を突き刺した。
パンチは見事怪物の顔面に命中し、怪物の体が1メートル吹き飛ばされて仰向けで倒れる。
起き上がる隙を与えないように湖也は怪物の上にまたがると、何度も顔面を殴る。
(こいつは取り押さえてもすぐに煙になって脱出してしまう。考える隙を与えないように何度も痛みを与えてやる)
「グボォ!ガバァ!」と殴られるたびに息を吐き出す怪物に湖也は問いかける。
「お前は何なんだ⁉︎一体あとどのくらいお前のような奴がいるんだよ!お前らの目的は何なんだ!教えろ!」
「ガバッ!ゴハァ!…!」
怪物は銀色の腕で湖也の胸をぶん殴り吹き飛ばす。
2メートル吹き飛ばされた湖也は素早く立ち上がり痛みがあるか確認するが今回はどこも痛みを感じていなかった。
「殴りながら質問するとはよっぽど頭がイカれてやがる。あの状況で答えられると思っているのか馬鹿が」
「教えてくれるのか?」
「貴様らのことも教えてくれたら教えてあげよう。その鎧の戦士。あと何人いるかを教えろ」
「さあーてどうしようかな!」
湖也は駆け出し再び近接戦闘に持ち込む。
当然怪物は体を煙に変え姿を晦ますが、
「そこか!」
姿を現し腕に力を溜めている怪物を発見すると回し蹴りをお見舞いしぶっ飛ばす。
「さて、これで終わらせる!」
湖也はデバイスに指を近づける。
『確認しました。エネルギーをチャージします』
という音声を聞き右足をバシッと叩き気合を入れると右足の装甲が変形を始める。
「貴様の鎧か俺、どちらが強いか勝負だ」
怪物は拳に力を溜めて金色に、そしてその先の光り輝く拳に変化させる。
湖也は高く飛び上がると、『エネルギーを解放します』の音声を聞き怪物の胸元目掛けてキックを放つ。
怪物は光り輝く拳を湖也の腹部目掛けて突き刺す。
お互いの攻撃が狙った場所に命中する。
次の瞬間、湖也の体は吹き飛ばされ学校の壁に激突する。
「グッ!ガァァァァァァ!」
あまりの激痛に意識が飛びそうになるが叫び声を上げてなんとか意識を保つ。
怪物は胸元を押さえて痛みを我慢しながらも告げる。
「これで俺の役割は終わった」
「お前…俺の情報を聞き出すのが役目じゃなかったのか…?」
「フン、あとはあの方がやってくれる」
そう言うと怪物の体は爆発した。
6
湖也はお腹を押さえながら考える。
(あの方って?誰のことだ?)
「湖也先輩!大丈夫ですか?」
昇降口からハツネの声が聞こえる。
「あぁ…大丈夫だ」
顔をハツネ達の方へ向けゆっくりと学校の校舎へ入ろうとする。
とその時、後ろから声が聞こえた。
「こんにちは。まだ終わりじゃないよ?」
突然の声に湖也が振り向こうとした次の瞬間、とてつもない恐怖を感じその場に座り込む。
腕、足、口、眼球が激しく震え、まともに呼吸することが出来ない。
デバイスが異変を起こし、装甲が解除されてしまう。
なんとか首を動かして声のした方を見ると、新しい怪物がいた。
左右に半透明な薄紫の胎児が、その間には幼稚園児の作った泥団子くらいの大きさの黒い球体がそれぞれ浮遊している。
「わ何あれ気持ち悪!」
遠くから見ているハツネが呟く。
「あれは…幽霊か?」
「あれも怪物じゃないの?」
天と陸がそれぞれ意見を述べる。
「そんな、連続で戦闘なんて湖也の体がもたない!」
紗水が叫ぶ。
二人の胎児と球体、三つで一匹の怪物であるそれは湖也の元へと近づいていく。
「恐怖ってすごいよねー。簡単に人間をコントロール出来るんだもの」
「お前…な…に…をし…た…?」
湖也は震える唇をなんとか動かす?
怪物はクスクス笑うと
「今君の心にはさっきの戦闘で受けた痛みから死への恐怖が湧き上がっている。僕はその恐怖をコントロールし増大させた。今の君ではまともに戦う事はできないね。それどころかその状態のまま数分いると精神崩壊してしまうかも」
「な…ん…だと?」
さっきの怪物の言ってたあの方ってこいつのことだったのかと湖也は必死に考える。
「さて死神くんの死を無駄にしないためにも教えておくれ。その鎧の事やその鎧を使って戦っている戦士の数について。教えてくれたらその恐怖から解放してあげよう」
次回に続く。




