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もしもこの世界で、あなたと  作者: 白銀
第1章〜校内戦闘〜
17/52

第17話 旅行の日記

田舎の風景と都会の風景どっちが好きですか?

1


「なぁ、俺って主人公っぽくないか?」

突然湖也がそんなこと言い出した。

「え?何?」

陸が聞き返す。

「いや、俺って主人公ぽいなと」

「なんで?」

「いやほら、この前のやつだって俺が解決に導いたみたいな所ない?」

「あのでかい体育館での出来事か?理由がそれだけだったら自分を主人公だと思ってる精神異常者だと思う」

「なんの話ー?」

天が割り込んできた。

「湖也が俺主人公だって豪語してるんだよ」

「いやだって俺主人公ポジションでしょ」

「うーんそれは厨二病だね」

「お前らどんだけ俺を気持ち悪くしたいんだよ」

「だって実際言ってること気持ち悪いし」

陸が言い返す。

「理由は?」

「この前の事件解決したから」

「お前は解決できてなかったけどな。黒木とかいなかったらあそこに行けてなかったしお前大橋に負けてたし」

「ていうか黒木ってどこ行ったの?」

「それがあの日以降全く見てないんだよな」

「あいつなんだったんだろうな。授業サボるしなんかニヤニヤしてたし」

「話を戻そうよ。湖也が主人公だって話」

「あ、そうだった」

「まだ理由ないの?」

「あるとも、だって…」

「あんた達なんの話して…」

湖也はやってきた紗水に指を刺して

「俺にはヒロインがいる」

「えぇ!?」

紗水は驚きの声を上げる。

「ちょ、ちょっと何よ!誰がヒロインだって」

「てか思ってたんだけどさ。なんで俺はお前と一緒に帰っているわけ?」

「前にも言ったでしょ?護衛よ護衛!私がいつ襲われるかわからないじゃない!」

「出た自意識過剰。よくよく考えたらさ、普通に生活してて誰かに襲われるなんて事まずない」

「実際襲われたじゃない!三回も!」

「たまたまだろ。それに襲われてるのは学校の中だけじゃん。外はいらなくね?」

「念のためよ」

「まぁ、百歩譲ってそこはいいんだけどさ。俺の必要なくね?俺なんかより柔道部のやつとかさ、強い人に頼めばいいじゃん」

「それは…」

「それは?」

何も言えないまま紗水は走り去ってしまった。

「あーあ行っちゃった」

「あれ?河原さんがヒロインってことは、湖也と結ばれるってこと?」

天はすこしシュンとした。

「必ず主人公とヒロインが結ばれるってわけじゃないだろ。あいつはヒロインという枠にいるだけだ」

「お前扱い雑すぎだろ」

「サイテー」

「というのは冗談」

「出た予想外の悪いリアクションが来るとすぐネタとか冗談って言って逃げるやつ」

「サイテー」

「以後気をつけます」

「よろしい」

陸は腕を組みながらうんうんとうなずく。

「てことはさ」 

「なんだよ」

「湖也が主人公ってことは僕と陸は何?」

「よくある仲良し三人組だろ」

「ズッコケ三人組的な?」

「お前絵本好きだな」

「いいじゃん絵本!」

「とあるシリーズのデルタフォース的な?」

陸が訊く。

「そう」

「じゃあさ、俺は何よ」

上伊が割り込んできた。

「急に入ってくるなよ」

「なんか面白そうな話してたから。で、俺は何よ」

「まあライバルキャラだろ」

「なんか適当すぎない?」

「金田と鉄雄的な?」

再び陸が訊く。

「それは全然違くね?」

反応したのは上伊だった。


「それでさ、主人公には旅行イベントがあってもいいと思うんだ」

湖也はそう切り出した。

「旅行イベント?」

天が訊ねる。

「あー、なんか福引で旅行チケットが当たって…とかいうあれ?湖也当たったの?」

陸も訊ねる。

「いや、残念ながら当たってはいない」

「じゃあなんだよ。今から福引行こうってことか?」

「それも違う。大体今時福引なんてそうそうやってないしな」

「じゃあなんで旅行イベントがどーたらって話出したんだよ」

「期待させておいて落とすなんて酷いよ」

「お前ら、福引で当たんないと旅行に行けないのかよ」

「え?違うけど…」

「湖也が全額負担で旅行に連れて行ってくれるの?」

「なんで俺が旅費全部出す予定になってんだよ!えーと、まぁな。お母さんが、『最近行ってないし、おばあちゃんち行ってきたら?友達誘ってさ』って。だからさ…」

「「あー」」

天と陸はなんとなく察した。

(主人公のくだりは旅行に誘うための前振りってことか。この話に持ってくために1600文字も使いやがって)

(湖也、誘うの下手すぎるよ)

いつも休日遊びいく場合は天か陸が提案するので、湖也から誘うというケースがほとんどないのだ。

「ほら!今週末三連休だし!あー、電車賃とかは各々が出すことになるが…俺なんかの誘いで来るわけないよな」

「「行くよ!」」

「本当か⁉︎田舎だぞ!周り何もないぞ!」

「なーに誘う側がそんなネガティブな発言してんだよ。三人で旅行とか行ったことないしな。せっかくの湖也からの誘いだ!行くに決まってる!」

「僕も!」

「お前ら…」

湖也は涙目になる。

しかし、

「え⁉︎なにあんたら旅行行くの?私も行く!」

「なになにまた面白そうな話してる!俺も俺も!」

再び三人の中に紗水と上伊が割り込んでくるのは湖也にとって予想外の出来事だった。

「いや、お前らを誘う気はないんだが」

「え…酷い!せっかく湖也のおばあちゃんに会えると思ってたのに!」

「お前ら俺を仲間に入れてくれるんじゃなかったのかよー!」

オーイオイオイと泣き出す二人。

「分かったよ!連れてけばいいんだろ⁉︎」

「「やったー」」

頭を抱える湖也、喜ぶ二人を見ながら天は、

「これじゃあズッコケ三人組じゃなくなっちゃうね」

「はた迷惑五人組とか?」

「たしかにー。僕たちの話し声が無駄にデカくてクラスのみんなを困らせてる自信はある」

「いやあるのは自覚だろ」


「ところで聞きたいことがあるんだけど…」

上伊が口を開く。

「ん?なんだよ」

「カイってあだ名、最近聞かないじゃん。やめたの?あれ」

三人の時が止まる。ちなみに既に紗水はどっか行った。

「はぁー⁉︎今更何言ってんだお前!」

「何急に怒って」

「お前が馬鹿にし出したから二人はあだ名を使うのをやめてくれたんじゃないか!」

「馬鹿にしたっけ?」

「しただろ散々!最カイとか言って!」

「あれは最下位とカイをかけた自作のあだ名だったんだが…」

「何が自作のあだ名だ!このクズ!」

「ねー湖也、やっぱりこいつ連れてくのやめようよ」

「あー天様それだけはご勘弁を!」

「ったく、人の名前を馬鹿にしやがって…」

湖也が呟く。

すると、いきなり教室の扉が開き血斗が飛び出して来た。

「ノボリ⁉︎」

葵が驚く。

「誰か俺の名前を馬鹿にしたな⁉︎」

「してねーよ!」


2


湖也、帰宅。

「ただいまー」

といつもの。

「おかえりー」

とお母さんのいつもの。

「おばあちゃんち、みんな来てくれるって?」

「うん。五人で行くことになったよ」

「あら五人、天くんと陸くんと…あとだれ?」

「大橋と紗水」

「紗水って…女の子?」

「え?あー、うん。そうだけど…」

その瞬間、お母さんの体に稲妻が駆け巡る。

「とうとう湖也にも彼女が…」

「ちげーよ!」

「あらそう残念。お泊まりの用意しなくちゃね」

「めんどくさいお母さんやって」

「こら。自分でやりなさい」

「稀里も行くー」

妹が割り込んできた。

「湖也の怖ーい友達に襲われるかもよ〜?」

お母さんが脅す。

「う…じゃあやめる」

「陸達はロリコンじゃないから襲わねーよ」

「ママー、ロリコンって何ー?」

「稀里にはまだ早いかなー?」

不意の質問に適当に誤魔化す母であった。


「お母さーん。私旅行行ってくるわ」

紗水は家に帰るなり予定の報告をする。

「あら急ね、どこに?」

「友達のー、ばあちゃんち」

「あらそんなのあんた初めてじゃない?迷惑かけないでよね」

「かけないってばーもう」

話していると兄の流成が階段を降りてきた。

「ん?旅行?俺も行く」

「お兄ちゃんはついてこなくていい!」

「まぁJK達の中に男子大学生が入るわけにもいかないか」

「いや、今回メンバー全員男よ?」

「え?お前男だったの?性別詐称?」

「私以外のって付け加えないと分からんのかアホ(にい)め!」

「お前に男の友達ができるなんてなー。お前も変わったものだ」

「何その言い方ー」

「で、その中に彼氏はいるの?」

流成は別にそんな事どうでもいいが一応聞いてみる。

「え⁉︎いいいいるわけないでしょ⁉︎友達よ!友達!」

「えらく動揺しているように見えるが?」

「急に彼氏とか言われたら誰でも動揺するわよ」

「あっそう。母さん飯ー」

「もう直ぐできるから待ってて」


紗水家晩飯中の会話。

「ねー、さっき言ったてた男の子の友達ってさ。湖也って子じゃないの?」

お母さんがニヤニヤしながら聞く。

「え⁉︎なんで⁉︎なんで知ってるの⁉︎超能力⁉︎」

「お母さんにはなんでもお見通しよ」

「脳が…脳が読まれるぅぅぅぅ!」

頭を抱える紗水。

「なーんて冗談、この前二人で帰ってるところを見たのよ。あまりに楽しそうだったから声かけなかったけど」

「なんだ…って!見られてた⁉︎」

安堵の息を吐いた後、再び頭を抱える。

「仲良くしなさいよー。ボーイフレンドは大切にしなきゃ」

「言われなくてもわかってるっての」

「なぁ、やっぱり彼氏だろ。また今度紹介しろ」

とんかつを頬張りながら流成が喋る。

「違うっつーの!」


3


旅行日当日。

駅に集まった湖也、陸、天、紗水は苛立っていた。

「大橋遅いな…」

「遅い…」

「遅すぎる〜」

「遅すぎるわね」

痺れを切らした湖也はLINEを開き、上伊へ電話をかける。

『ん?もしもしー?』

「お前今どこだ」

『どこって…おばあちゃんちだけど』

「詳しい場所は教えてないんだが⁉︎」

『え?あー湖也のおばあちゃんじゃなくて、俺のおばあちゃんの家』

上伊は笑いながら答える。

「はぁぁ⁉︎お前、旅行の件忘れてんじゃねぇだろうな!」

『あれ?急用で行けなくなったって言わなかったっけ?』

「聞いてねぇよそんな話!」

一応確認のため、湖也はその場にいる三人の顔を見るが、みんな一斉に首を横に振った。

「そーゆーのはもっと早く言ってくれないと!報・連・相も守れない奴がよくクラスのリーダーやっていけてるな!」

『ほうれんそうって、社会人の話でしょ』

「とにかく!お前は来ないってことでいいんだな!」

『いいよー』

適当に答えられたあとピロンと切断の音が鳴る。

「あいつは…」

「でもあいついなくてよかった」

天が呟くと、

「おい、それは違うぞ」

と湖也の反論が入る。

「あいつの仲間になるって、あいつの姉と約束したからな。俺たちがあいつを省いてどーする」

「あ…そうだった。ごめん」

「わかりゃよろしい。じゃあ四人で行くか」

「私早く座りたい」

「僕も〜疲れた」


電車の中。

「ところで湖也のおばあちゃんの住んでるところって何があるの?」

紗水が質問する。

「ん?何もないぞ?」

「え?」

「ただの田舎だ。周りは田んぼだらけ。古臭い小学校。そして川。原っぱ。以上」

「ちょっそれ聞いてない⁉︎」

「俺は大橋と違ってちゃんと言ったぞ?」

「確かに、何もないぞって言ってたな」

陸が思い出す。

「本当に何もないの?」

「あーそういえば山を登れば温泉があったっけ」

「あるじゃない!それさえ分かればいいわ!早く行きましょう!」

「今電車で向かってるんだよ!」


4


無事目的地の駅へ到着。

途中何度か乗り換えはあったものの流石に数時間も座っていると眠くなって来るのか目的地に着く時には湖也以外は眠っていた。

「おーい着くぞー」

電車が駅に着く前に湖也は三人を起こす。

「ん〜?もう朝?」

と天の寝ぼけた声。

「ふあぁ…もう着いたか」

と陸の声。

「ん…、着いたの?」

と紗水の声。

寝ている間、紗水は陸に寄りかかっていたので、陸はそのことに気づくと、

「河原…お前、俺のことが好きなのか?」

と興奮気味に話しかける。

「なんでそうなるの気持ち悪い」

「だって俺に寄っかかって寝てたじゃんか」

「知らない!そんだけで勘違いするなんてキモい!」

「モテない男はなぁ!女に少し優しくされり話しかけられただけで勘違いしてしまう者なんだ!そしてこんなシチュ見たらそう思うしかないだろ!」

「モテない性格のあんたが悪いんでしょ⁉︎」

「あー言った!湖也さん!この人とんでもないこと言いました!」

二人の口喧嘩を放って湖也はドアの前に立つ。

「お前らそんなくだらない言い争いしてないで降りる準備しろ」


駅を出ると自然が広がっていた。

山に囲まれたこの地域は、普通の住宅街とは違う空気を感じる。

「いい空気ね〜」

「なぁ!湖也のばあちゃんちまで競争しようぜ!俺一番乗りー!」

「あ、ちょっと陸待ってよ〜」

駅を出るなり走りだした二人を見て湖也は叫ぶ。

「お前ら場所わかってんのかよ」

「あ…知らなぁい」

「危うく迷子になるところだったね」

天が苦笑いする。

「で、ここからどのくらい掛かるのよ」

「二時間歩き続ける」

「「「え…」」」

三人の顔が青ざめる。

「二時間も歩くだって!そんな聞いてねぇよ!」

「天と陸は毎日自転車で登校してるだろ。運動量的にはそこまで変わらないさ」

「変わるよ!」

「ちょ、私電車通学なんだけど!」

「叫ぶ元気があるなら行けるさ。さ、昼までに辿り着くぞー」

そういうと湖也は歩き始める。

「え!ちょっと待ちなさいよ!タクシー無いの?タクシー!」

「無い」

「バスは⁉︎」

「あるかも知れないが調べてない」

「調べときなさいよ!」

「自然を楽しみながら歩くのもいいじゃ無いか」 


最初はぶつぶつ言っていた三人だが、歩き始めると周りの景色を楽しみ始めた。

「ね!川があるよ川!」

そう言って天は走って川の元へ行き覗き込む。

「見て!ザリガニいるよ!」

「嘘!どこどこ⁉︎」

「私も見たい!」

ハイテンションで集まる三人に対し、湖也は

「お前ら、ザリガニくらい見たことあるだろ」

と冷静に声をかける。

「いや、僕は無いよ」

「私も無い」

「俺も。街中じゃあまり見かけないよなー。そりゃあカブトムシみたいにいるとこにはいると思うけど親が『危ないから川に近づいたらダメー!』って遊ばせてくれなかったしさ」

「僕も親に禁止されてた」

「私はそもそも外で遊ばなかったし」

ふむ、最近の親は過保護だと湖也は思った。

「子供が大切なのは分かる。危険な目に合わせたく無いというのは当たり前な考えで、今の時代家でも十分遊べるから余計出さなくなるのだろう。だけどな、やっぱり子供は経験で学ぶからさ、いろいろなところに足を運んで、いろいろなものを見せて経験させてあげて欲しいよな」

湖也は空を見上げながら呟いた。

その姿を見て三人は、

「わぁー」

「なんか心に来るなー」

「あんた何歳よ」

と声を漏らした。


最初のうちは自然を楽しんでいた三人だが、やはり疲れて来るとそれどころじゃなくなったみたいで、

「まだつかないのー?」

と不満の声が増えてきた。

「着いた」

湖也は平家の扉の前に立つとそう口にする。

扉をガラガラ …と開ける。

「おばあちゃーん。来たよー」

「「「お邪魔しまーす」」」

「お〜いらっしゃい。待ってたようみちゃん」

「元気そうだね」

「えぇえぇ、元気ですとも。さぁさお上がり」

と普通の会話の隅で、

「今うみちゃんって言ってたぞ湖也のおばあちゃん」

「うみちゃんって女の子っぽいね」

「何か不満かよ天に陸。孫をちゃんづけで呼ぶなんてよくあるだろ」

「おやおや、こちらはうみちゃんのお友達?」

「そうだよ。こっちが天でこっちが陸」

「人に指差すな」

「おやおや、うみちゃんがお世話になってるね。どうぞゆっくりして行きなさい。あら、そちらの女の子は…」

おばあちゃんは紗水の方を見る、

「うみちゃんの彼女さんかね?」

「な゛ぁ゛!」

紗水は真っ赤になり叫び声を上げた。

「まぁ、俺のヒロインってところかな」

「だから違うっつーの!」

紗水からの頭突きをくらいぶっ飛ぶ湖也。

「ち、違いますよ!彼女じゃありません!私も湖也君の友達です!」

「あらそう?失礼したね。じゃあ天君の彼女さんかい?」

「えぇ⁉︎ちょ…」

戸惑う紗水の代わりに、天が答えた。

「いえ、僕の先生です!」

「何言ってんだあんた!」

紗水からアッパーカットをくらいぶっ飛ぶ天。

「あら先生なの。ずいぶん若い先生ね」

「違います!個人で勉強を教えてたらしくて…教師ではありません」

「あらそう。頭がいいのねぇ。じゃあ陸君の彼女さんかい?」

「ブフォッ!」

思わず吹き出してしまう紗水の代わりに陸が答える。

「はい!俺の彼女です!彼女が俺のことを好きって言ってました!」

「そんなこと言ってないし彼女でも無いわ!」

紗水から飛び蹴りをくらいぶっ飛ぶ陸であった。


5


いろいろやっていたら夕方になってしまっていた。

まぁ、疲れていたし。

外で遊ぶ気にならなかったからしばらくは家の中で遊んでいた。

Wi-Fi繋がらなくて焦ったけど、ローカル通信でもゲームはできるし。

紗水の読んでる本を無理やりパクったりして旅行時間を楽しんでいた。

これって旅行でやることなのか…?

「ねぇ、外行かない?」

唐突に天がそんなこと言った。

「えー?今からー?」

「だってせっかくこんな自然豊かな場所に来たんだよ?」

「ま、それもそうね。体力も十分回復したし。少しくらいなら…」

「ねぇ、湖也も行く?」

天の質問に対して俺は、うんと答えた。

おばあちゃんの紹介の時、思わず天と陸を友達って言ってしまった。

いつもは仲間って呼んでたけど、なんかつい。

(俺とお前は友達なんかじゃねーよ)

昔、誰かに言われたの思い出した、

そうやって裏切られるのが怖いから安易に友達と呼ぶのはやめようと思ったけど、こいつらなら信用できるよな。


家を出ると、田んぼの間の道をみんなで歩く。

太陽が木々の間から顔を覗かせて空と大地をオレンジに染めている。

少し歩くと、登り坂に出くわした。

その上には小学校がある。

天は元気よくオレンジ色の坂を登り校門の前に来ると、こっちに向かって手を振り

「ねー!運動場であそぼー!」

と叫んできた。

「なんか、こういう風景見ると無性にはしゃぎたくなるの、俺だけか?」

陸はそういうと、わかったー!と叫び返し天の元へ向かう。

「なんか夕暮れ時の田舎の風景っていいよね。なんでか知らないけど、どこか懐かしく感じるっていうか。私ここに来るの初めてなんだけど。ていうか学校開いてるの?」

「あそこはもう廃校になってるから、大丈夫だよ。近所の子供たちの遊びスポットになってる」

俺は校門の前で走り回る天と陸を見て、一目散に駆け出した。


門はすでに開いていて、簡単に入ることができた。

子供がよく遊びに来るのか、誰のものかわからないサッカーボールが転がっている。

「サッカーやらない?」

「四人でどうやってやるんだよ」

「パス回しは?鳥籠とか」

「私サッカー無理」

「俺も」

陸は鉄棒に足をかけてこうもり状態になりながら答える。

「陸行けるでしょ」

「中学の頃のトラウマが蘇るから無理」

「え?何それ。じゃあ二人でパス?」

そう言って天が振り返るがすでに俺はジャングルジムを登っていたので、

「天も登るかー?」

というとプイとそっぽむかれた。

「じゃあいい!一人でやる!」

そういうと天はいち、に、さんとリフティングを始めた。

「でもこれじゃあここに来た意味がないわね」

「まぁそうだな」

そう言い周りを見渡すと捨てられた缶を見つけたから、それを拾う。

「じゃあ缶蹴りはどう?」

「あ、それならやる」

「俺も!」

「僕も!」

オレンジ色に染まった校庭を俺たちは元気よく走り回った。


6


夕方の六時を過ぎた頃だった。

家に帰ると、おばあちゃんが

「ご飯まだだから先温泉行ってきたら?」

と言うから温泉に行くことにした。

「やっと温泉だ!」

「ちなみに、温泉までどのくらい?」

と紗水は震えながら湖也に質問する。

「なぁに、昼間ほど歩かない。三十分ほどで着く」

「そんぐらいならまぁ、いっか」

「また二時間くらい歩かされるかと思ったぜ」

「流石にもうごめんだね」

「何言ってんだ。明後日の帰りがあるだろ」

「「あ…」」

絶望する天と陸。


歩いて三十分とは言え、温泉はちょっとした山の上にあるので道は登り坂がほとんどだった。

「きっつーい」

「ねぇ、湖也っていつもこんなに歩いてるの?」

「いや?いつもは家族で車で来るからな、ここの移動も車だ」

「セコい!」

「まぁまぁ、今日は俺も歩いてるんだから。文句言うなって。はい、とうちゃーく」

そういうと湖也は温泉施設の入り口を入っていくので、三人も後を追うように入っていく。


四人は一つの暖簾の前に立った。

この先に待っているのは念願の温泉だ。

紗水は三人の方を見ると、

「いい?覗かないでよ?」

と注意喚起をする。

「何そのテンプレ文句。覗く気はないし、大体高い壁があるから覗こうにも覗けねぇよ」

「そう言うってことは逆に覗いて欲しんじゃないの?」

陸がニヤニヤしながら言う。

「…意味わかんない」

「よくあるじゃん!押すなよー。絶対押すなよーってやつ。覗くなよー。絶対覗くなよーって言うことでしょ?」

「違うから!」

「まぁ、湖也の言うとうり覗きをする気はないからさ」

「…わかった」

「じゃあ入るか」

湖也がそういうと、四人は"一つの暖簾"を潜った。

「…あれ?」

足を止め、三人が一斉に左を見る。

「あ、間違えた」

そう、紗水も男湯に入っていたのだ。

「…お前が男湯覗いてどうすんだよ」

「ちが…!これは…その…あんたたちと話してたからつられてこっち来ちゃっただけで…」

「でもお前は女だろ?」

「河原さんって本当は男だったり?」

「うっさい!」

紗水から腹パンをくらい陸は倒れる。

「…なんか俺だけ扱い酷すぎませんかね…」

「大体お前が入る前に確認しないのがいけないんじゃん」

「あ、僕もそう思う」

三対一で反論する余裕が無くなった紗水は

「悪かったわ。ごめんなさい」

と謝り「立てるかしら」と陸に手を差し伸べた。

「河原さんがこんな乱暴な人間だとは」

「悪かったわね。乱暴で」

と言うと男湯を出て女湯へ向かう。

今度は暖簾を潜る前にきちんと確認をする。

指差して確認する姿を見て三人は思わず吹き出した。

「「「ははは、めちゃくちゃ確認してやんの」」」

「うっさい!」


「お前ら、温泉入る前にトイレは済ませとけよ」

「え?あー、うん」

「急にどうしたの?」

天が首を傾げる。

「ていうかお前ら、風呂でおしっこをしたことあるか?」

「ときどき」

「僕結構しちゃうかも。なんかシャワー浴びると出ちゃうんだよねー」

「それ、危険信号だ」

「え?何が?」

「いいか、お風呂でおしっこをする癖は無くしとけ」

「そんなの個人の勝手じゃねぇか。どーせ俺には彼女できねぇし。一人の時ぐらいいいだろ」

「いいやダメだ。特に天。もう二度とお風呂でおしっこをするな。お前このままだと老人になった時シャワー浴びると条件反射でおしっこをしてしまうようになる」

「温泉とか行った時恥ずかしいってこと?」

「いやそれだけじゃない。シャワー浴びるのは風呂だけじゃないだろ。床屋さんや美容室行った時、シャワーしてもらう時条件反射で漏らしてしまったらどーする⁉︎人の目の前でおしっこをしてしまったらどーする⁉︎」

そこで天と陸はハッ!と息を飲んでしまった。

「それは確かにまずいな」

「もう風呂でおしっこするのやめる」

「よろしい。あと風呂場で走るなよ」

「それはしないよ!子供じゃないんだから!」

風呂シーンはカット。

温泉の休憩所で、湖也は椅子に腰掛けながらテレビの大画面を眺めアイスクリンを舐めていた。

風呂を終えた紗水が怪訝な顔を浮かべる。

「あんた、何してるの?」

「何って、アイスクリンを舐めてるんだよ」

「なんで温めた体を冷やすのよ」

「細かいことはいーじゃねーか。温泉卓球だってわざわざ汗を流した後にやってるじゃん」

「それとこれとは話が別な気が…」

「まあまあ、お前も食べるか?何も考えずにテレビを見ながら舐めるのは結構いいぞ。ちなみに、アイスクリンは向こうで売ってる」

紗水はアイスクリンを買うと、湖也の隣の椅子に座り舐めることにした。


数分後。

「あんたのせいでアイス舐めすぎてベロから血出ちゃったじゃない!」

「何分もペロペロしてるお前が悪いだろ⁉︎さっさとガブリつかねぇのが悪い!」

「あんたが舐めろっていうから舐めてたんじゃない!ベロどーしてくれんのよ!」

「そんなんほっとけば治るよ!」


7


「もう電気消すぞー」

湖也は灯の紐に手をかける。

「え、待って消すの?」

紗水が訊く。

「え、消さないの?」

「豆電球モードは?」

「暗くしないと寝れない」

「私暗いの無理」

それに反応したのは陸だった。

「怖いんか?なら俺に抱きついて寝てもええんやで?」

「そんなんする…」

陸の顔面を殴ろうとした紗水は今日してきたことを思い出し、これ以上暴力はいけないと思い手を引っ込める。

「しないわよ。気持ち悪い」

「なら、僕がギューってしてあげようか?」

「天、それはガキのやることだ」

湖也の冷たい言葉が入る。

「ガ、ガキじゃないもん!河原さんが怖いって言うからしてあげようと思っただけだもん!」

「こ、怖くないわよ!」

そう言うと紗水はクスッ…と笑った。

「どうしたんだよ」

「いや、なんだかんだ楽しい一日だったなって。あんたたちがいつも三人でいる理由がわかった気がするわ」

「まあ三人寄れば文殊の知恵って言うからな。三人であれば退屈な時はないさ」

「それここで使う言葉じゃない気がする」

「…消すぞ」

「いいわ」

湖也が数回引っ張り灯を消すと布団の中に潜った。

「「「「おやすみなさい」」」」

国語力を身につけたい。

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