第13話 心変わり:前編
前回から大分時間が経ってしまいました…
1.
10月5日、学校で事件が起こった。
生徒全員が一斉に飛び降り自殺をしようとする事件。
尚、この事件についての記憶があるのは、実行犯の野田、提案した花蓮、花蓮とつながりを持つ校長の三人のみ。
実際に飛び降りようとした生徒たちはこのことを忘れていて、教師たちは全員職員室にいたため大規模な事件の割には大きく新聞に載ったりテレビで取り上げられると言ったことはなかった。
野田の欲望の消失により事件が未遂に終わった後、上伊は屋上に残っていた。
なぜ屋上にいるのか?
という疑問はもちろんあったが、ほかに考えていることがある。
ここを飛び降りれば、学校は元に戻るのだろうか。
今学校で起こっている三村湖也に対する巨大ないじめ。
そのトリガーを引いた大橋上伊。
もういじめはやめたい。
そう思っててもやめた後のことを考えると怖くてやめられない。
だが死にたくもない。
大体、自分はいじめている側のだ。いじめてる側がいじめてる奴のことを思って自殺など自分勝手すぎる。
「どうしたらいいの。」
下駄箱は向かう途中、廊下を歩いていると担任の先生に会った。
初めはいじめに対して色々言ってきたが、最近は湖也がちゃんと学校に来ているからか何も言わなくなった。
「上伊くん。最近はどう?一応湖也くんが学校に来てるから何も言わなかったけど、いじめはやめたの?」
「いや、すみません。実はまだ終わってないんです。まだクラス団体での三村のいじめは…」
「なんで謝るの?君が好きでやってることじゃないの?嫌ならやめれば良い話でしょ?」
「いやでも先生、俺はいじめがやめられないんです。昔、あんなことがあったから…」
上伊は理由を正直に話した。
「そう…確かにそんなこともあったわね。一つ聞くけど、君はいじめをやめたいの?」
「はい」
「じゃあ、湖也くんと話してみれば良いじゃない?いじめられてる本人と和解することがいじめを無くす第一歩よ。じゃあ先生行くね」
「わかりました」
上伊は学校を出てスマホの電源を入れた。
トークアプリを開く。
クラスグループから湖也のアカウントを見つけ出し登録する。
さて何て話しかければ…
2.
湖也は学校から帰っていた。
ベッドに寝っ転がり、漫画を読んでいる。
「最近学校の中でも紗水とうまく言ってるし、仲間も増えたし、ひょっとしたら前より良い環境になっているんじゃないか?」
前まで学校の中で話せる人が天と陸ぐらいしかいなかった湖也はページをめくりながら真面目に考える。
そもそもう湖也は前もいじめられる程ではなかったがスクールカーストの中ではかなり下の方にいたのだ。
数人味方を作って仕舞えば前より居心地がいい気がする。
「多くの犠牲を出して少ない利益を得たが、これで良いのかね?まぁ自分から犠牲を出したわけではないが」
ピコンとスマホの音が鳴った。
ん?
スマホを見てみるとトークアプリからの通知が来ている。
アカウント名は上伊。
メッセージの内容は
『ハロー湖也!元気してる?もしよかったら、今から飯、食いに行かね?(笑)』
…
は?
これぞ陽キャと言うような文章で飯の誘いをしてきたのだ。
当然断る。
『無理』
返事をし、再び漫画に目を向ける。
すぐさま返信が来た。
『何で即答するんだよ!良いじゃん二人で話したいことがあるの!』
お前は彼氏か気持ち悪い。
『じゃあ何で今いじめられてる奴がいじめてるやつと一緒に飯を食わなきゃならんのだ。これで話せこれで。何のためにアカウント登録したんだよてか勝手に登録すんな』
『トークアプリってもんは連絡を取るためのものであり大事な話をするためのものじゃないの!良いから来て!』
『じゃあ最近の若者のほとんどは誤った使い方をしてることになるが。トークアプリだからトークするためのアプリだろお前が勝手に決めんなここで話せ。俺はお前にをいじめられてる立場なんだから会うのはおかしいだろ』
『そのいじめに関わる話をしようって言ってんの!文字で伝えるメッセージは実に薄っぺらく誤解されやすい!大事な話は相手の目を見て自分の声で話さなきゃ意味がないんだ!だから来てくれ!これは今クラスのトップにいる俺の命令だ!』
『個人間のやりとりだからクラス関係ないだろ。わかったよ行けば良いんだろ?あといちいち!つけるのやめろさらっと良いこと言ったのに!のせいで台無しだぞ』
二人は会う約束を交わしメッセージでのやりとりを終了させた。
「はぁ、めんどくせぇ」
家を出る支度をして玄関へ向かう。
「お母さん。今から学校のやつと飯食いに行ってくるね」
台所ではお母さんが良く野菜を切っている。
包丁がまな板にあたる時の音がリズム良く聴こえてくる。
「わかった気をつけてねー」
お母さんの返事を聞くと湖也は家を飛び出した。
3.
湖也が待ち合わせの場所に着くと、上伊がいるのを見けた。
「やぁ三村、急に呼び出して済まなかった」
「アプリの時は湖也って読んでたのにここでは三村なんだな。どっちでも良いが」
二人は飯を食いに行った。
そんな豪華なものは食べていない。学生がよく行くところと言えば近場のハンバーガー屋かラーメン屋だろう。(作者の偏見)
実際二人がハンバーガー屋に入ると制服を来た学生がたくさんいた。
二人は注文を済ませ、商品のプレートをテーブルの上に置き席に座るとそれぞれ頼んだものを手に取って食事を始めた。
「ふぅ、やっと二人で話せる時間が来たな…」
「まぁあっ○¥△だと$☆*%#…」
「ちゃんと飲み込んでから喋れ」
「ごっくん。まぁ学校だとクラスの奴らが邪魔するからな。それで、話って何だよ」
ポテトを三本、口の中に一気に放り込みながら湖也は聞く。
「実は俺さ。いじめをやめたいんだ。もう元の学校に戻したい」
上伊は真剣な眼差しで話した。
「やめれば良いじゃんなに俺に聞いてんの?」
「やめたくてもやめられないんだよ。元に戻した瞬間君達からなにされるかわからないからな」
「いやそんな不安があるなら何で呼び出したの」
「君は多分大丈夫だと思ったの。俺の心の変化に気づいてくれてるっぽいし。土屋くんと星川くんだな心配なのは」
「いやあいつらには俺から伝えとくから、やめたければやめて良いぞ。お前じゃなきゃ元に戻せないんだろ?戻せるなら早く戻して欲しい」
「まだ問題は他にもあるんだ。君たちだけじゃない。
他のクラスメイトとも以前どう接していたか忘れてしまった。自分がトップだと思ったらなんだか嬉しくなって調子のっちゃってさ、いろいろ命令したりしてたんだよ。俺は知らないうちにクラスメイトもいじめの対象にしていたのかもしれない」
一度いじめをすると元に戻すのが難しくなるのだろうか。
一度有利な立場に立つと依存してしまってその相手と以前のような接し方が出来なくなるとなろうか。
ニュースでよく聞くいじめはだいたい事件が起きてからでいじめ自体は解決しないまま報道されることが多い。
ちゃんと解決されるいじめの例は聞かないのだ。
「今の俺にやってるやり方で接したらいいんじゃないか?」
「クラスメイトをいじめていいってのか?」
「違うよ今ここでやってるようにやれって言ってんの。それにさっきのアプリの文章。お前は以前のお前を忘れてはいないと思うぞ」
「それでも、いざ戻してみると緊張するかもしれない。あいつらはなにも覚えてなかったとしても、俺はしっかり覚えているんだから…だからこそ」
向こうはあまり気にしてなくてこっちは気にする。
髪切った次の日の学校と同じ感覚だろうか?ちょっと違うか。
「まぁ、好きな時にやめればいい。ここだけの話、俺ちょっと居心地良くなってるんだよね。今の教室が」
「お前はドMか?俺がお前をドMにしてしまったのか?うぅ…」
上伊は一度席を立つと一歩横へ移動し土下座をする体制に入る。
湖也は慌てて席を立ち、必死に手を振りながら
「違う!そうじゃない!」
「なんだ違うのか、ならどういう意味だ?」
「クラスの奴らがいじめをしてくるのはつらいよ。ほんとにつらい。最初は不登校になろうと思ったほどだ。しかし、最近下手に抵抗しないからかあまりいじめられなくなってるしそれに仲間も増えたんだ。こんな状況でも仲間ができると思うと嬉しくなっちゃって。このままあいつらと一緒にいてもいいんじゃないかと思ってる」
「三村…」
「あっでも戻せるなら戻してくれよ!居心地が良くなったっつっても、やっぱり以前のクラスがいいからさ」
「わかったよ」
食事をする前に比べて上伊の表情が柔らかくなった気がする。
そう思うと自然と湖也も嬉しくなった。
勝手に呼び出されて自分がいじめられてるのにそのいじめの話をして迷惑ではあったけど、久しぶりに人の役に立った気がする。
「それよりさ、何で今の学校あんな感じになってるの?お前何したんだ?」
「あ、それ聞いちゃう?」
「気になるー」
「じゃあお水と太陽の光を与えなきゃー」
「木じゃねぇよお前どんなボケ方してんだ」
「いいだろ少しくらいボケたって」
一気に雰囲気が暗くなる。
少し間を開けてから湖也は尋ねる。
「で、何で今の学校を作り出せたんだよ?」
「実はさ、校長が凄いもん待っててさ。なんだって、自分の欲望を叶える本だってさ」
上伊はそのカラクリについて説明した。
「へー信じられない話だけど、実際起こってる以上信じないわけにはいかないか」
「そしてね、校長の目を盗んで前のページを見てみたんだけど、そこには…」
4.
あれから三日が立ち、月曜日。
今日からテスト週間が始まる。
教師からテスト範囲の紙を渡され、テストに燃えるものも課題の多さに絶望する奴もいた。
湖也はどちらでもない。課題はコツコツやってればテスト前日に終わるし、テストなんて高得点取る気なんてない。
休み時間になった時だ。紗水が湖也の近くに寄ってきて
「勉強教えてやろうか?」と聞いてきた。
「別にいいよ。自分で勉強するから」
「でもあなたそんな点数よくないじゃない。この私が教えてやろうって言ってんの」
感じ悪。
「それにこの学校の女王が教えてやるって言ってんのよ。ありがたく教わりなさい」
「まぁ確かに高くはないが、赤点とらなければいいの」
「そんなギリギリ生きてると受験の時大変よ」
「受験の時は勉強するよ。まだ関係ないだろ」
「いやいざ始めようとしても最初から勉強し直すは大変よ。ある程度の問題は定期テストの勉強で理解できるようにしておかないと」
「だったら。俺じゃなくて天の方を教えてやってくれよ」
湖也と紗水は顔を動かし天を探す。
いつも通り陸とおしゃべりをしていた。
「あいつはいつも赤点をとっているんだ。補習で一緒に帰れないこともよくある。あいつを見てやってくれないか?」
「うーんまぁいいわ」
そういうと紗水はドカドカと歩き天に近づいていく。
「天、今日からテスト週間。よってあなたに勉強を教えてあげるわ」
「えーなんで」
「あなたいつも赤点とってるらしいじゃない」
「うっ」
「このままだと大学受験は愚か進学にまで影響出るわよ。今日からしっかり教えてやるから覚悟なさい」
「えー」
「毎日学校が終わった後、二時間居残りね!」
「えぇー!そんなぁ…」
頭を抱えて嘆く天。彼の鞄の中にはぐしゃぐしゃになった前回のテストの答案が入っている。
一学期期末の物理のテスト6点のやつが。
5.
今は授業の時間である。
テスト週間の授業ってのもあってみんな必死に教師の話を聞き、ノートを取っていた。
しかし、一人例外がいる。
湖也はノートを取りながら後ろを振り向く。
「あれ?またいないんだ。黒木のやつ」
その頃、花蓮は学校の中をうろうろしていた。
「さぁて今回のやばいやつは誰かなーと」
校長から仕事が遅い、早くしてくれ。と言われてから授業中も探すようにしている。
おかげで一日一回やばいやつを見つけ出し、湖也と一緒に改心させてきた。
土日も休むことなくだ。
「前のあいつはもっと頼りになる人だったのに、言動がぶれたり、あやふやにしたりするようになってやだなー」
実は校長はこの学校に来る前、去年は花蓮の学校の校長をしていたのだ。
なんか変わってしまった校長に従うのは嫌だが、この学校に来た以上従うしかない。
「早く元の学校に戻りたいなー」
独り言を呟き体育館に入る。
そこでは三年生の生徒がバスケをしていた。
三年に二学期に入ると種目は自由になる。
おそらく運動場でサッカーをしている生徒もいれば、テニスをしている生徒もいるのだろう。
自分の好きなことをやって受験勉強の疲れを取ってほしいからだという。
実際、バスケをしている彼らは楽しそうだが、一人彼らの輪に入れていない生徒がいた。
一生懸命やろうとしているが、動きが鈍く、なかなかパスがもらえない。
彼はもう泣きそうになっていた。
その様子を見て花蓮の顔がにやける。
よし、次のターゲットはあいつだ。
授業が終わり、生徒たちが教室に戻っていく。
みんなの輪に入れなかった田中寛信はみんなが体育館から出た後ゆっくりと出てきた。
「はぁ、体育がなくなれば…」
「どうしたの?」
突然後ろから声が聞こえた。
驚き振り返るとそこには小柄な少女がいた。
制服はこの学校のじゃない。
「なんなんだ君は、他の学校のやつがどうしてここに」
田中の言葉を無視し、花蓮は話しかける。
「ねぇねぇ、体育時間寂しそうだね」
「う、うるさい!」
田中はさっさと教室に戻ろうとするが、花蓮は懲りずに話しかける。
「ねぇねぇ、相談に乗ってあげようか?」
6.
上伊は学校を元に戻すことについて考えていた。
前と同じ対応ができるかどうか不安になっている。
この前湖也と接したように…
同じように接してみようと上伊はクラスメイトに近づいた。
「あ、あのさ…」
「あ、上伊さん!」
上伊の声に反応してクラスの女子が振り返る。
次の瞬間、彼女は上伊の後ろに回っていた。
「どうですか?上伊さん。気持ちいいですか?」
「ちょっと、俺はそんなコト一言も頼んでいないぞ!」
「えーいいじゃないですか少しくらい。最近顔色悪いですよ?疲れてるんでしょ?」
「やめろ!これ以上したら、もう戻れなくなる!」
「戻るってなんですか?もしかして、今の生活が嫌なんですか?」
「いや、そんなわけでは…」
「じゃあいいじゃないですか。ほらこことか気持ちいいでしょ?」
上伊は数秒悩んだ。
今の生活と前の生活。苦と楽。どっちを取るか。
そして上伊は目を開ける。
「はい、気持ちいいでちゅ」
「そうでしょ?こことかすごい凝ってますよ?」
「はい、ありがとうございまちゅ」
気持ちよさそうに目を細める上伊。
彼は彼女に肩を揉んでもらっているのだ。
そんな全てを諦めたような上伊を遠くから眺めて湖也は思う。
あいつ学校戻す気全然ねぇだろ。
「上伊さん。あなたのためにお菓子買ってきたの。いかが?」
「はい、食べまちゅ」
「上伊さん!ほっぺたにお菓子のカスが付いてます!取ってあげますね」
「はい。ありがとうございまちゅ」
「痛くないですか?私のマッサージ、気持ちいいですか?」
「はい、気持ちいいでちゅ。ありがとうございまちゅ」
上伊は快適なひと時を送っていた。
もうこのままでいいんじゃないかな?
そう考えて、ふと我に帰る。
「って、違ぁぁぁぁぁぁぉう!」
叫びながら一目散に駆け出した。
「あぁ、上伊さん行っちゃった!」
「なんか最近、上伊さん変じゃない?」
「うん、ちょっと頼りないっていうか…」
上伊が教室を飛び出す瞬間も彼女たちの会話も湖也は眺めていたし聴いている。
(あいつら、上伊のことを不満に思ってる?)
そして次の瞬間、とんでもない言葉を耳にした。
「今の上伊さん、トップ失格じゃない?」
この学校は今上伊によって支配されている。
みんな上伊にしたがい、逆らうことはない。
だって上伊がみんなを操っているんだもん。
そう思っていた。
しかし大事なことを忘れていた。
上伊はこの学校の生徒を操っているわけじゃない。
彼がやったのは彼らの設定を決めたこと。
そして彼らはそれに従って生活している。
もう一度言うが、それは彼らを操っているわけではない。
歴史上、平民が暴れて革命が起きたことが何度かある。
女子生徒たちは話している。
「なんであんなやつに支配されなきゃいけないの?」
「最近顔色悪いしトップにいる人間じゃないよね」
「それにたまに三村のことを気にしてるしね」
「なんであんな奴を気にするのかね」
「うん、あんな最底辺の…」
(あれ?途中から俺の悪口になってね?)
「あぁぉぁぁぁぁ!」
上伊は叫びながら走っていた。
ダメだ!このままでは。早く学校を戻せる準備をしないと。
湖也はゆっくりでいいって言ってたが、ゆっくりしていると俺が戻せなくなる。
「はぁ…はぁ…」
疲れて歩き始める。
気がつけば体育館入り口あたりまで来ていた。
「はぁ…何やってるんだ。戻らないと」
来た道を引き返そうとした瞬間、上伊は体育館入り口に誰かがいることに気づいた。
別に隠れる必要ないと思うが、なんとなく物陰に隠れてしまう。
そっと覗いてみると、男女が話し合っているのが見えた。
一人は転校生であり上伊と同じクラスの花蓮。
そしてもう一人は…
「あれ?田中先輩じゃないですか」
上伊は物陰から出て近づく。
「?なんでお前がここにいるんだ?」
花蓮は首を傾げる。
「ちょっと走ったらここまで来ちゃって…」
寛信は上伊を見る。
「おう上伊…調子はどうだ?」
田中からそう聞かれてなんて答えようか一瞬悩んだが
「あーまぁ元気ですよ」
「まぁそりゃこの学校のトップだからな」
「まぁそうだな、上伊はこの学校のトップだったな」
ははは…と笑う二人。
上伊はどう対応したら分からなくなり
「それより二人は何を話してたの?」
と花蓮に聞く。
その瞬間、う…と寛信の顔が暗くなった。
「あーこの件は湖也の頼もうとしてたけど、田中の後輩であるお前に頼んだほうがいいかもしれない」
?と疑問を浮かべる上伊。
「お前にこいつを救って欲しいんだ。頼めるか?大橋」




