第12話 重み
今回はいつもより酷い仕上がりになってると思いますが大目にみてください…
「お前…こんなこと出来ると思ってるのか!?」
震える声で校長は言う。
それに対して花蓮はめんどくさそうな様子で、
「いーじゃんちょっとくらい。学校を変えるためにさ」
「いや!これはダメだ!お前は牢屋の中で暮らしたいのか!」
「大丈夫危なくなったら止めるからさー」
「ダメだ!」
…これは、校長が危険と感じるほど大規模な事件だった。
どうしてここまで校長は焦っているのか…
1.
「ごはんよー」
お母さんの声が聞こえて、血斗は階段を降りる。
今日は珍しくお父さんもいた。
「父さん、今日は早いね」
「あぁ、今日は早く作業が終わってな」
三人で晩飯を食べるのはいつぶりだろう。
中学の頃はお父さんが早く帰ってきても「一緒に食べたくないから」と言って無理に時間をずらしてたし、あまり三人揃うことがない。
お父さんの仕事はなんか忙しそうだ。
「なんか、久しぶりだな」
お父さんが同じことを思ったのか、そう呟いた。
「どうだ。血斗、学校は元気にやってるか」
「うん、まぁね」
そう返すとお父さんはふぅと息を吐いた。
「やっと、その名前が気に入ってくれたか」
一瞬は?と思った。
どうしたらさっきの会話でその結論が出てくるのか。
やっぱりこの親たちはバカだ。
お父さんはバカだし、こんな男とくっついたお母さんもバカ。
「なんでそうなるの?」
僕はそう思った理由を聞いてみることにした。
「だって不満を言ってこないじゃないか。前は帰ってきた瞬間叫び声が聞こえてくることなんかよくあったのに」
(勘違いするな。この名前で生きていく覚悟を決めただけだ。この名前が気に入ったわけではない)
「ふーん」
僕は適当に言葉を返すと再び晩飯を食べ始めた。
僕はこの名前が気に入ったわけじゃない。
絶対に。
2.
「なんで毎朝いっしょに登校する感じになってんの?」
歩いてる紗水の隣で自転車を引きながら湖也は訪ねる。
「だって一緒に居られるの登校時と下校時だけじゃない」
「俺たちはリア充か?恋人か?夫婦か?違うだろ。ただの仲のいいクラスメイトだろ」
今まで、いや今もだが彼女が居ない湖也にとってはこんなザ・青春みたいな時間はなかなかいいものだが。
しかしこうなってみると、周りの視線が気になって仕方がない。
「そして学校でも一緒にいるのにな」
「それは別の私でしょ?」
今学校は不思議な力で変わってしまっている。
元凶は大橋上伊。どうやったかは不明だが、上伊が生徒の中で一番偉いということになっている。そして何故か湖也、天、陸の三人が全生徒の中で一番身分の低い存在に設定されている。
この状況をどうにかしたいのだが、まだ出来そうにない。
湖也は教室に入り、自分の席に着く。
もう花蓮は来ていて、後ろで授業の準備をしていた。
「まだ学校は元に戻らんのか?」
「んーまだまだかなー。もうすこし内側を変えないと元には戻らない」
「じゃあ今日はどんなやばいやつを変えればいいんだ?」
「いや、多分君に仕事はない。私がやっておくよ」
さらっと花蓮はそんなことを言った。
「え?俺の出番無し?」
「うん」
「でも前、『自分は作戦を考えるから君はそれを実行する役だ』って言ってたよな?お前はただ作戦を考えるだけじゃなかったのか?」
「今回は実行役が必要なほどの作戦でもないからな。私一人でやった方がやりやすい」
(さて、今日のターゲットは…)
花蓮は教室の隅にいるすこし太った男子を見つめる。
その子はなぜかやたらイライラしており、シャーペンの芯をたくさん出しては力を入れすぎて折るという無限ループを繰り返していた。
3.
そいつの名前は野田卓男。
彼はストレスが溜まりやすく、常にイライラしていた。
「あいつら死ね!あいつも死ね!」
と誰かを恨むようなセリフをぶつぶつ言いながら勉強をしていた。
シャーペンの芯を出しては折れ、出しては折れ、出しては折れ。
「あー何でこんな折れやすいんだこの役立たずが!」
そんな彼を見て、周りの人は
「いつもイライラしてるよあいつ気持ち悪」
「いつもあんな感じだから友達もいないんだよ」
と悪口を言っていた。
そして野田を見つめる者が一人。
黒木花蓮だ。
そして、
さらに花蓮を観察する人が一人。
隣にいる湖也だ。
仕事がないことに不満を持った彼はやばいやつを見つけようと彼女の目線を追っていた。
すると、彼女は野田を見ていることに気づいた。
「よし!あいつを変えて前の学校を取り戻すぞい!」
湖也は両手を胸の前に持ってきてグーを作り隣に聞こえないように言った。
4.
昼休みの時間。
「おいちょっとお前、こっち来い」
「え?僕が?」
湖也は野田を連れて一棟と二棟をつなぐ廊下まで来ていた。
振り返ると野田の方が震えている。
なんだかとてもイライラしているようだった。
「なんでそんなイラついてんの?」
「当たり前だろ?君みたいな学校最底辺のクソ野郎に声かけられたらイライラするものさ」
(あ、その設定忘れてた)
最近みんなにいじめられないからその設定を忘れていた湖也であった。
なぜいじめられなくなったかというとあまり派手に動かないからなのだが
(こっちが何もしなければあまりいじめられないんだな)
「で、何の用だ?」
「君、ストレス溜まりやすいだろ」
湖也はストレートに言った。
野田はイライラレベルをアップさせるが、肩を震わせつつも少し落ち着きながら
「な、なんでそう思うんだ?」
「だってお前シャーペンポキポキ折ってんじゃん。しかもいつも死ね!ってイライラした様子で言ってるし。何かあったの?」
「君に話して何になるってんだよ」
「いや〜ちょっと俺達の計画に協力してくれないかなって」
「嫌って言ったら?」
「力尽くで」
「なんでバトル漫画みたいな展開になってるんだよ!」
付き合い切れねぇと呟きながらこの場を離れようとする野田。
ちょ待てよと言いながら湖也が野田の肩を掴むと。
「付き合い切れねえって言ったよな?僕は諦めの悪い奴見るとイライラするんだよね。しかも最底辺の君だし。触るんじゃねぇよ!」
いきなりキレて殴ってきた。
あまりに急だったため湖也は避けることができず拳が顔面にぶつかりそのまま転がってしまう。
「ふっ偉そうなこと言ってた割には弱っちいじゃねぇか。最底辺が出しゃばってんじゃねぇよ。『死んどけや』マジで」
そういうとさっさと教室に戻って行った。
「あ、あれ?俺なら上手く出来ると思ってたんだが。あれ?」
二人の会話を見ていた花蓮が近づいてきた。
「君の力は必要ないって行ったじゃん。あーあ鼻から血出しちゃって」
「いてて…なんか作戦あるの?」
「うん。でも君には教えれないな。私一人でやってくるよ。じゃ、行ってくる」
そういうと花蓮は野田の後を追って走って行ってしまった。
「ちょっと、置いてかないで…」
「あーもうなんだよあいつムカつく!死ねよあんな奴!」
そう呟きながら教室へ戻っていく野田。
その姿を見て廊下で立ち話をしている女子は、
「何あれ?キモーい」
とか
「なんでイラついてんだよデブが」
とか言っている。
(黙れよ、お前らのその「キモい」とか「デブ」とかいう僕への悪口が僕のストレスになってんだよ!いちいち声に出していうなクソが死ね!あいつら全員死ね!てかここの生徒全員死ね!)
「ちょっと失礼」
急に後ろから声がかかった。
振り返ってみると花蓮が立っていた。
「あぁ、黒木さんだっけ。同じクラスの。僕に何の用?」
「君よく死ね死ね言ってるけどそんなに死んで欲しいの?」
初めて話す人からそんなことを言われてドキッとした。
しかしそれが野田のストレスに変わっていく。
「なんだよ、君もそんなこと聞くのかよ。あぁそうだよ。死んで欲しいよ!僕のことをキモいとかデブとかブスとかいう奴、いや!この学校の生徒全員死ねばいいと思っている!」
「へー」
花蓮はニヤリと笑うと、
「じゃあその願いが本当に叶ったらどうする?」
「え?」
「もしこの学校の生徒全員が死んだら君は嬉しいかい?」
急にそんなこと聞かれて野田は少し焦ったが
「あぁ嬉しいね!そうなれば僕はストレスのたまんない生活ができると思うよ」
「じゃー」
花蓮は手に持っていたカバンから一冊のノートを取り出した。
そのノートの最新のページを取り出すと
「じゃあ、書いてよその願い」
「は?書いてどうすんだよ」
「これは『人の欲望を叶える本』と言ってね、このノートに自分の名前と欲望を書くとそのとうりになるんだ。どう?書いてみる?」
ニヤニヤしながら聞いてくる花蓮を見て、またイライラし出した野田は
「あぁいいよ!書いてやる」
そう言って渡されたペンでノートに欲望を書いてしまった。
5.
「発動までにはちょっと時間かかるから待っててねー」
花蓮はそう言うと走って何処かへ行ってしまった。
それから時間が過ぎ、下校の時間になっていた。
みんな帰りのHRのための準備をしている。
野田はいつもと変わらない教室を見ながら
(やっぱりあんなの嘘だったんだ。あんな簡単な方法で死ぬわけない)
と思っていた。
花蓮の方はあの後どうしたかと言うと、ノートを持って校長室へ向かって行った。
しかし校長はいなかった。
どこか出張に行ったのか?
校長室の扉の鍵もかかっていて、中に入れそうにない。
「しょうがない、授業受けるの面倒いしここで待ってよ」
二時間くらいだったのだろうか、
校長が学校に戻って来ると、校長室の前でケータイゲーム機で遊んでいる花蓮がいた。
「おい、君はそこで何しているんだ?」
と話しかけると、そこにいた花蓮は校長に気づいて
「あ!どこに行ってたのずっと待ってたんだぞ!」
「何が『待ってたんだぞ!』だ!学校の中でゲームをするな!」
二人は校長室に入る。
「で、何の用だ?」
「あ、そうだった」
そういうと花蓮はカバンからノートを取り出し、
「ちょっとハンコお願いしまーす」
と言って校長に渡す。
「あ!お前勝手に持ち出したな!鍵付きの引き出しに入れといたはずなのに!お前、中身見てないだろうな」
「中身?何のこと?そんなことはどうでもいいんで、早くハンコよろしく」
「たく誰に何を書かせたんだ…」
そう呟きながら校長はノートを開く。
最新のページに書かれていることを見て絶句した。
「お前…こんなこと出来ると思ってるのか!?」
震える声で校長は言う。
それに対して花蓮はめんどくさそうな様子で、
「いーじゃんちょっとくらい。学校を変えるためにさ」
「いや!これはダメだ!お前は牢屋の中で暮らしたいのか!」
「大丈夫危なくなったら止めるからさー」
「ダメだ!」
叫ぶ校長。
「もう!誰も死なせはしないのに!」
ぷんぷんと腹をたてる花蓮。
「いやこれ思いっきり皆殺しにする気満々じゃねぇか!こんなことして何になるってんだ!」
「学校を元に戻すためにはこういうことも必要だって」
「何でそんな考え方ができるんだ」
「ダメ?」
「ダメ」
花蓮はもう!と頬を膨らませると
「じゃあ約束。誰一人犠牲者を出さない。出したら私も死ぬ」
「ダメだそんなの信用できない」
それでも許さない校長。
いい加減腹が立ってきた花蓮は校長の机に転がっているハンコと校長の手に持っているノートを無理やり奪い取る。
「なっ!お前!」
「そんなところにハンコ転がしてるお前が悪い」
「指差しながら言うな!渡せ!すぐにそれを…」
「じゃあ押しまーす」
えい!と花蓮は力強くハンコを押す。
野田が書いた文字の右の欄にしっかりと印が押された。
「あーあ上伊くんの件でもうそれは使わないと決意したんだがな…」
「さて教室どうなってるか見てこよ」
6.
空が真っ赤に染まっていた。
HRが終わり、教室中が騒ぎ出す。
部活に行く生徒が多いが、中には帰宅する生徒もいる。
教師はすでに職員室に行ってしまった。
うるさい教室を眺めながら、野田はボソッと呟く。
「やっぱりあいつの言ってたことは嘘だったんだ。つまんねーな。とっとと帰るか」
カバンを取り席を立つ。
廊下に出ようとしたその時、野田は異変に気付いた。
さっきまでうるさかった教室が静かになっている。
振り返ると、教室にいる生徒全員が立ったまま動かなくなっていた。
(ん?なんだどうしたんだ)
野田は近くにいた湖也に近づき話しかけてみるが、反応がない。
教室だけじゃない、学校が異様な雰囲気に包まれていた。
(なんだ急にみんな動かなくなって)
そう思った直後、教室にいた全員が歩き出した。
彼らはゆっくりと歩き、教室を出て廊下を進んでいく。
他の教室の生徒も同じように歩いていた。
「これはまさか、みんな屋上に行こうとしてるのか?」
「そのとうり、よく気付いたね」
急に背後から声がして振り返ってみると、そこには花蓮が立っていた。
「おめでとう。これで君の願いは叶う。みんな屋上から飛び降りて死ぬんだ」
「本当か?」
「あぁ本当だ。しかしいいの?これでみんなが死んだら君は大量殺人犯だよ?」
「まさか本当になるなんて…」
野田は花蓮の質問に答えず震えていた。
顔は青く染まっており、どこか恐怖を感じているように見えた。
「これで君はいいんだね?」
「ちがっまさかあの本の力が本当だったなんて…!」
そういうと野田はみんなが向かってる方向へ走り出した。
みんなに追いついて先頭の前に立ち、やめるよう言おうとするが、
「おい…おい!」
野田には目もくれず進んでいく生徒たち、生徒の流れに飲まれながらも叫ぶが、彼らは一切気にせず廊下を進んでいく。
途中でバランスを崩し、転び、進み続ける生徒に踏まれ、みんなが去った頃には唇から血が出ていて体はボロボロになっていた。
「いや…いや!待って!みんな!待ってよ!」
「おや〜?ついさっきまでみんなを死ね死ね言ってたのはどこの誰かな?」
花蓮は座り込む野田に向かって煽るように話す。
「まさか冗談のつもりでやったけどまさか現実になるとは思わなかったとかクソみたいな事言うつもりじゃないでしょうね?」
「冗談?ハハっそうだよ冗談だよ!冗談で言ってたの!本気で死ねって思ってる奴なんていないでしょ?少しイラついたからつい死ねって言葉が出てしまう。これのどこが悪いの?そんなのイライラさせる方が悪いじゃない」
「なにそれ」
「そうだ!これってつまりドッキリでしょ?屋上に行ったらみんなニコニコしながらドッキリ大成功の看板持ってるってオチでしょ?これでみんなが死ぬなんてありえない!」
そう言いながら野田は廊下を走っていった。
野田が去った廊下で花蓮は一人立ちながら
「面白い奴だと思ったけど、まさかそんなゴミだったとは…」
と呟いた。
生徒たちがゆっくりと歩いていく。
先頭はすでに屋上についていた。
すでに日は落ちていて、外は暗い。
「ほら!ドッキリの看板持ってる奴が…」
野田は看板を必死に探すが、どこにも見当たらない。
「暗くてよく見えねぇ」
第一これはドッキリじゃないので看板があるわけない。
野田を無視して進もうとする生徒たちを見て、探すのを諦め再び止めに入る。
彼らを力技で止めようと野田は頑張るが、人数が多すぎる。とても止めることはできない。
「これドッキリじゃないのかよ!」
「ドッキリじゃねーよ」
野田に追いついた花蓮が屋上の扉の横でそう叫んでいた。
「お前が望んだ事だろ。冗談?何それ、冗談だったらなんでも言っていいのか?冗談だったら他人の命を脅かすことを言ってもいいのか?ダメだろ。命は大事にしろよ。人の人生は一度きりだ。冗談で左右されたらたまったもんじゃねぇぞ!」
花蓮の怒りを受けて野田は涙を流し始める。
「わかった。もう二度とそのような冗談は言わない。だから戻してくれ!みんなを止めてくれ!」
「私には止められないね。願ってみれば?止まってくださいって」
ノートの効果を消す方法は書いた本人の欲望をなくすことだ。
その欲望がなくなった今、願えばみんなを止めることが出来るだろう。
すでに先頭が屋上から飛び降りようとしている。
「やめてくれ!俺はもう死ねなんて言わないから!悪かった!謝るから!もう元のみんなに戻ってくれよ!」
野田はみんなに向かってそう叫んだ。
7.
気がつけば湖也は屋上にいた。
あと数歩歩けば落ちてしまいそうな状況に驚く。
「え!?何これ!危な!俺何やってんだ!?」
他のみんなも正気を取り戻したようで驚きながらもみんな戻っていった。
みんなが戻っていくのを眺める野田の隣まで花蓮は近づき、
「こんなことになってしまったのは少しでもお前の心の中にこうなって欲しいと思う欲望があったからだ。
お前将来おそらく犯罪者になってたぞ?ここで改心できてよかったな」
「分かった。命は大事にするし二度とそんなことは考えないようにする」
「じゃあ私このあと用事あるからまたね!」
そういうと花蓮は去っていった。
一人屋上に残った野田も涙を拭うと教室に戻って行った。
「危なかったじゃないか!」
そう激怒する校長。
「まあでも誰も死ななくてよかったじゃん!」
そう答える花蓮。
「やっぱりお前に使わせるのは危険だ。もう二度と使うんじゃないぞ!」
「確かに今回はちょっと危なかったなー。わかった少し反省するわー」
「お前その返事全く反省してねぇだろ!」
「反省してるってー」
「今日の学校どうだった?」
校門を出て紗水は湖也に問いかける。
「いやーなんか大変だったよ。気づいたら屋上にいてさ、もう少しで飛び降りて死ぬところだった」
「何それ危険じゃない!なんでそんなことになってんの?」
「それが俺でもよくわからないんだが、まぁ死ななかったんだから深く考えなくていいや」
「それよりもうすぐ中間でしょ?ちゃんと勉強してるの?」
「あーそうか、もうすぐテストかめんど」
と適当に会話しながら湖也の今日の学校は終わっていった。
ところで今回の主人公は誰だったんだ?




