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もしもこの世界で、あなたと  作者: 白銀
序章〜全ての始まりと繋がり〜
1/52

第1話 文化祭

2学期が始まって2週間


今日は年に一度の文化祭の日だ。


生徒全員が主役となって盛り上げていくこの行事の朝は、教室が、廊下が、通学路が、生徒の話し声でいっぱいになる。


自転車置き場に自転車を止めて昇降口へと向かっている高2の少年、三村湖也(ミムラウミヤ)も主役となる訳だが、あまりテンションは高くなかった。むしろいつもよりテンションが落ちている気がする。


理由は簡単。湖也はこういう学校行事が苦手な陰キャだからだ。


文化祭や体育祭などクラス全員が協力して成功させていく行事の時は、2種類の性格で大きな差が生まれる。


1つ目は行事を成功させようと表に出てバンバン頑張る陽キャ組


2つ目はあまり表に出たくなくて早く行事を終わらせようとする陰キャ組


前に出るのが苦手な陰キャにとって、文化祭はあまりいい行事とは思えない。


生徒全員が主役になれる行事だが、楽しくなるかどうかは本人の考え方次第なのだ。


湖也はため息を吐きながら下駄箱で上履きに履き替え教室に向かうため階段をのぼる、


その時、後ろから肩を叩かれた気がした。


振り返ってみると、大人しそうな感じの女の子が立っている。


腰くらいまである長い黒髪の子で、学校一の美少女と言われてるらしい。


黒髪は肩にかかった髪を手で払うと


「なんかやる気のないように見えるけれど」


冷めたい目で見つめながら静かな声で話しかけてくる。


「しょうがねぇだろ、俺みたいな陰キャがワイワイはしゃぐ日じゃねぇからな。お前みたいなクラスの人気者はいいよなー。いい人間関係を築きながら文化祭を楽しむことができてさ。」


人気者という言葉を聞いて黒髪は少し辛そうな顔をした。言っちゃいけなかったんだろうかと湖也が思っていると、黒髪の口が開く。


「あなただって前に出て頑張れば人気者になれると思うけれど。優しいし成績も悪くないし見た目だってそんなに…」

「あれ?お前が人を褒めるなんて珍しいな」

「…!?」


黒髪は美人だし成績も良いいとクラスの子からは尊敬されているが、逆に黒髪が他人を尊敬したり褒めるなんて場面は見たことがない。


湖也が違和感に気づき声に出すと、隣でぶつぶつつぶやいていた黒髪の顔が突然真っ赤になった。急に小走りで階段をのぼって見えなくなっていく。


どうしたんだ?と疑問を抱きながら湖也は黒髪のあとを追うようにゆっくりと階段をのぼって教室に入る。


当然教室の中は文化祭の準備中でうるさく、黒板には絶対成功させるぞ!とデカデカと書いてあり、やる気満々です感がすごかった。


湖也はは静かに自分の席について、ぼんやりとその風景を眺める。


その時横から


「なんか面白そうなことしてたらしいじゃん?」

「してたらしいやん?」


と声が聞こえた。


振り向いてみると目つきの悪い男子が2人ニヤニヤしていた。湖也がいつも一緒にいる奴らだ。名前は陸と(アマ)。湖也と陸と天で三大陰キャとクラスでは言われていた。


「見たぜ?黒髪ちゃんが真っ赤な顔しながら教室に入ってくるのを」

「お前なんかしたんとちゃう?」


あぁさっきのことかと湖也が思っていると、2人はさらに質問をしてくる。


「お前ら仲良いからなぁ、夫婦喧嘩でもしたんか?本当リア充は羨ましいわぁー」

「別にリア充じゃねぇよ。あいつがいろいろ言ってくるだけだ。」

「でもそれって黒髪ちゃんがお前のことを好きと思ってるんじゃねぇの?」


それを聞いて湖也は目線だけを動かして黒髪を見る。赤くなっていた顔は元に戻っており、最後の準備に取り掛かっている女子たちに指示を出している。


湖也はその様子を確認してから


「いや、そんなことはないだろ。」


と返した。










準備が終わり、文化祭が始まった。


体育館が真っ暗になり舞台の横にあるスクリーンに「school festivalスタート!」と映し出される。


「イェーイ!」と歓声が上がり、中には立ち上がって拍手している生徒もいた。


もちろん湖也はそんなことをしていない。よくそんなにはしゃぐことができるなと思いながら死んだ魚のような目で舞台を見る。最初のイベントは体操部のダンスだった。こんなもの見る時間があったら家でゲームしたいなーとか色々考えてため息をついた。


と、その時前の席から


「何ため息ついてるのかしら。」


という声がきこえた。


びくりと肩を震わせながら前を見てみると黒髪がこちらを睨んでいる。


そういえば前の席は黒髪だったなと苦い顔をすると、黒髪は睨み続けたままさらに質問をしてくる。


「そんなに人気者が光り輝く文化祭が嫌いなの?」

「当たり前じゃんこんな大人数で騒いで何になるんだよ。無駄な体力消費してるだけじゃん。違う趣味の人たちとワイワイやっていけない陰キャにとって文化祭ほど退屈な行事はない。」

ダンスが終わり別のイベントが始まろうとしている様子を眺めながら湖也が言うと、黒髪はそう。と口元に笑みを浮かべた。


なんでこいつ笑ってんの?と湖也は少し引きながら疑問に思っていると、黒髪はイスの下にあるカバンを漁りながら「そんなに退屈なら仕事をあげるわ。」と言ってカメラを取り出した。


「あなたには文化祭の撮影係をやってもらおうかしら。」

「はぁ!?なんでそうなるんだよ!嫌だね!俺は確かに退屈と言ったけど仕事をしたいとは言って…」

「よろしくね。」


黒髪は彼の文句を聞かずにカメラを湖也に投げ渡した。学校のカメラを投げるとはなかなか度胸のある女だ。


落とすわけにはいかないので、ふわりと弧を描きながら落ちるカメラを湖也が受け取ると、しょうがないといった感じでバッグの中に入れた。


「…撮影係って何やればいいんだ?」

「午後はブースの時間でしょ?その時間に校舎内を回って文化祭を楽しんでる生徒や一般客の写真を撮って来てちょうだい。」

「しょうがねぇな。」


ま、ブースを回る友達がいないし別にいいかと思いながら湖也は舞台を見た。


まだまだ文化祭は続く。









「午前中はずっと体育館に閉じ込められてたな。」

「だな」

「きつかった…」


今は文化祭の午前の部が終わり、昼休憩の時間だ。と言っても、食品系のブースをやる学年はもう仕事を始めているらしい。


昼飯を食べ終わり廊下を歩きながら3人はため息をついた。


やはり文化祭は陰キャに合ってない。

午前中ずっと椅子に座らせるなんてどこの社畜だ!

3人のうち真ん中を歩いてる湖也はそう叫びたかったが今叫ぶと流石に先生に叱られる。


しかも午前が終わったから文化祭は終わりってわけじゃない。


午後はブースだ。自分のクラスのブースに遊びに来た人を接客しなきゃいけないし他クラスのブースに遊びに行くにしても何かしらのコミニュケーションは取らなければならない。


知らない人とはなるべく話したくない陰キャにとっては午後の方がきついのだ。


「でも自分の仕事がないときは自由だし!適当にぶらぶらしてりゃ終わるっしょ!」

「あれ?でもカイは…」


陸が叫び、天が湖也を見ながら言う。天のほうは割と席が近くて黒髪との会話が聞こえてたらしい。


ちなみにカイというのは湖也のあだ名だ。

うみや→海→カイという感じでこう呼ばれるようになった。


ん?なんかあんの?と陸が質問すると湖也はがっかりした様子で答える。


「仕事がないないときは写真を撮ってくれって黒髪が…」

それを聞いた陸は顔を青く染める。


「えぇ!?それって自由な時間がないってことじゃん!」

「5枚ぐらいさっさと撮って渡せばよくね?」


陸と天がそれぞれ意見を述べる。

確かにそんな仕事すぐ終わらせればあとは自由になる。

だが黒髪は湖也にノルマを与えていた。


「最低でも50枚は撮れってさ。同じ場所で何枚も撮るんじゃなくて校舎内を回って人が被らないようにしないと先生から雷が落ちる。すぐに終わらせることはできねぇな…でもまぁ仕事の時間がお前らとは違うから回る相手いなかったし暇だったから良かったけどさ。」


そっかーと陸が適当に返事をしてから「じゃあもうすぐ仕事だから。」と陸と天は教室へと戻る。


じゃあなと別れの挨拶をして湖也はジュースを買いに校舎の外にある自販機へ向かった。


その時だった。


ほんの一瞬遠くに何かが見えた。


それは確かに黒髪だった。誰かに引っ張られながら自販機の場所から校舎へと消えて行ったのだ。


何かあったんだろかと思ったがまぁあいつのことはどうでもいいやと気にせず自販機に向かった。









お母さんが言っていた。

「いつもまじめに生きていれば将来立派な大人になれるよ…間違いを起こさないよう気をつけていれば恐れるものは何もないよ…」と。

いつも気をつけて来たはずだった。

まじめに生きてきたつもりだった。

それなのに…



黒髪は4人の女の集団に引っ張られて武道場の裏に来ていた。

自販機で飲み物を買っていたところを無理やり連れて来られたのだ。


いじめだ。


今日突然起こったわけではない。

5月あたりからやられてきたことだった。


5月といえばクラス全体が明るくなってくる時期だ。黒髪もその時には「人気者」と言われるようになっていた。


朝、いつも通りに登校して席に着くと、茶髪で短い髪の毛の女子に

「ねぇ。ちょっと宿題やるの忘れちゃったんだけどさ!見せてくんない?」

と声をかけられた。


本当は断るべきだった。


しかし、茶髪の声をかけられるのが初めてで嬉しかった黒髪はその要望に答えてしまった。見た目も優しそうだったし、少しくらいなら大丈夫だろうと心のどこかで思っていたのだ。


そして宿題が出るたびに見せろと要求されるようになった。嫌だと言うと、トイレに連れていかれた。そして腹に蹴りを喰らう。

「何?あんたに拒否権があると思ってんの?これからもずっと私に宿題を見せてくれるんじゃなかったの?」

そんな約束はした覚えがないのだが、黒髪は茶髪が恐ろしくて言えなかった。

茶髪の質問に黒髪が黙ると、「これからも文句言わずにお願いね!?『人気者』さん!キャハ!」とさらにもう一発蹴りを喰らった。


先生に言おうと思ったが、茶髪に何されるかわからない。気づけば誰にも相談できなくなっていた。


そしていじめはエスカレートしていくものである。最近ではお金の請求をされることも珍しくない。


「間違いを起こさなければ恐れるものは何もない」


(私はお母さんの言うことを守れなかった悪い子だ。)


茶髪に壁ドンを喰らった黒髪は目を閉じる。

お母さんがこんな状態になってることを知ったらどう思うだろうか。


そんな黒髪を見て茶髪は歪んだ笑みを浮かべる。


「ん?どうした?目を閉じて心のどこかで王子様が助けに来てくれるとか思っちゃったりして?バーカここには誰もこねぇよ。あれ頂戴!」


そう指示され、茶髪の後ろにいた一人がバックからペットボトルを取り出して茶髪に渡した。


「なんで今日ここに呼び出したか分かる?いやー今朝お前が文化祭の準備している時に思ったんだ。やっぱりお前は完璧すぎるって。見た目、成績、性格、汚いところが一つもない。だから少しは汚れてもいいんじゃないかと思ってさ…」


茶髪が黒髪の目の前までペットボトルを持ってくる。中に入っているものを見て黒髪は顔が青くなった。


ペットボトルには薄い茶色の液体が入っていた。

水に何かを入れたらしい。そして水を茶色くしていた物体がそこに沈んでいる。


そこには犬のフンが入っていた。


ドロドロになっていて分かりづらいがたしかに犬のフンだった。見るだけでお腹の中にある何かが喉まで戻ってきているのが分かる。


そんな黒髪を見て茶髪はニタニタと笑いながら、


「そう私特性犬のフンジュース!隠し味に生きた蜘蛛も入れてみたよ!これ飲んで体の中から汚くなろうよ!」


と言った。


黒髪は心臓が止まりそうになった。

こんな汚い液体を飲め?

茶髪は本気で言ってるのかと疑うが本人ははやく飲めと言わんばかりの極悪な笑みを浮かべている。


「早く飲めよ!お前は綺麗すぎるんだ。一回ぐらい汚いことから目をそらさないでみろ!ホラ!飲〜んで飲んで飲んで!」


茶髪がリズムに乗ってペットボトルを押し付けてくる。茶髪の顔が闇に染まる。


黒髪は茶髪から何か恐ろしいものを感じ取りつい受け取ってしまった。そして中身をじっと見る。


茶色の液体の中で蜘蛛が5匹浮かんでいた。足をピクピク動かしているものがいればもう死んでいるのか全く動かないものもいる。


正気の沙汰ではない。こんなもの飲めるはずがない。汚い。飲めない。飲みたくない嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


体を震わせながら顔をブンブンと横に振る。

その様子を見た茶髪が怒りのあまり目を最大限に開きながら黒髪の首を掴んで武道場の壁に押し付ける。


「飲めないの?じゃあ私が飲ませてあげようか?ほらいくよー」


そう言うと茶髪の後ろにいた一人が黒髪からペットボトルを奪った。蓋を開けて茶髪に渡す。


黒髪は口元に迫ってくるペットボトルを見ながら涙を浮かべる。


助けは来ない。

自分には力がない。

もうどうしようもできない。



もうダメだ…。



その時、

「おい!お前ら何してる!」

と叫び声が聞こえた。


その場にいた5人が一斉に声のした方を向くと、そこには教師が立っていた。


隣のクラスの担任の男の体育教師だ。


やべぇ、バレちまったと茶髪が言うと黒髪の首から手を離し飲ませようとしていたペットボトルの蓋を閉め、教師のいる方向とは真逆の方へと走って行った。


教師が黒髪のところへ走ってくる。


「大丈夫か?どこか怪我はない?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました!」


あと1秒でも遅かったらあの液体を飲まされていた。


助かった。


ホッとして黒髪は涙が出そうになった。

が、実際に涙は出ることはなかった。


原因は教師。

黒髪の無事を確認した教師はニヤリとした表情でこう言った。


「そうか、よかった!ところで、助けてあげたお礼に何をしてくれる?」


何か嫌ものを感じた。

茶髪よりも恐ろしい、もっと黒い何かを。








「まずい…あと8枚足りない…」


頭をかいて湖也は呟く。現在42枚の写真を頑張って撮ったのだが、校舎の写真はほぼ撮り終わってしまった。


(てかこの課題ってもともと達成不可能なんじゃ?)


そう思いながら湖也は体育館に向かっていた。昼の間体育館は個人で練習したバンドやダンスなどを披露する場所になっている。その様子を撮りに行こうとしているのだ。


体育館へと続く渡り廊下を歩き湖也が武道場を通り過ぎようとした時、目の前に誰かが飛び出してきた。


茶髪を含む女4人組だ。


茶髪は湖也に気づかずにペットボトルを後ろにいるやつに渡すと


「たくなんだよあのクソ教師!なんでこんなところまで来てんだよ!前から私たちのこと見張ってたんか?もしかして前から私たちが黒髪をいじめてたことに気づいてたとか!?」


「リーダー。この水どうする?」


「そんな気色悪いものどっかに捨てとけ。蜘蛛捕まえるの大変だったのに〜!」


と涙目になりながら湖也の前を通り過ぎ、体育館の方へ行ってしまった。


いじめのことを知らない湖也には何言ってるのかよくわからなかったが、悔しくて涙を流している風景も文化祭の一つかなと思い茶髪達の背中を写真に撮った。


(写真の枚数も稼げるしちょうどよかった。けど武道場裏で何があったんだろう?)


疑問に思って湖也は行き先を体育館から武道場裏へと変更、小走りで向かっていく。


そこで湖也は信じられないものを見た。


教師が黒髪の首を掴み武道場の壁に押し付けていたのだ。


苦しそうにしている黒髪を見て、助けようかなと思ったが、相手は大人でしかも体育の教師だ。一対一で戦って勝てるわけがない。助けるの面倒くさいしいっか。


そこで湖也は首に掛かけてあるカメラを見た。


そうだ、この風景も写真に撮ろう


そう思いカメラを構えてシャッターを押す。








「いじめてるところを助けたんだ。何がいいことしてくれてもいいよなぁ?」


ニヤニヤしながら体育教師が黒髪に質問をする。


黒髪の心は完璧に恐怖に染まった。


4人から1人に減ったとはいえ相手は大人だ。

しかも体育の教師で体はがっちり鍛えられている。 今から逃げて走ったってすぐ追いつかれるし、力で抵抗することは不可能だ。


ならば最後の手段、大声で助けを呼ぶしかない。


大声を叫べば体育館にいる人が気づいてくれるかもしれない、近くを歩いている人が助けに来てくれるかもしれない。


黒髪は最後の可能性を信じて大きく息をすう。


だがそこで教師に喉を掴まれた。


ものすごい腕力で黒髪を宙に浮かせると、今度は武道場の壁に押し付ける。


グハッという声が出たが、大声にはならなかった。


「バカが誰が助けを呼んでいいって言った?『人気者』のお前が助けを求めると白馬に乗った王子さまが助けに来てくれるってか?」


人気者…黒髪は今朝湖也が言っていたことを思い出す。彼はこんな教師や茶髪とは違う。少しも黒い感情のない、純粋な評価を黒髪に与えていた。


「そんな上手い出来事が偶然起こるほど世の中甘ったるくねぇんだよ!」


教師は黒髪の腹にパンチを入れると、地面に叩きつけた。


激痛のなか、なんとか力を振り絞り、黒髪はゆっくりと立ち上がる。


「私はあなたに何をすればいいですか?」


従うしかないと思い、教師に質問をする。


その様子を見ると教師は凶悪な笑みを浮かべて


「俺の犬になれ。」


静かに言った。


「一生俺の言いなりになれ!毎日俺にご奉仕しろ!俺に人生捧げるんだ!まずは服を脱いでもらおうかな!」


そんな…と黒髪は心の声を出してしまった。

一生こんな教師の言いなりなんて絶対いやだ。目に涙を浮かべ、一歩後退りすると黒髪は背中を武道場の壁に預ける。


「黒髪ぃ、俺はお前のことが好きなんだ。ずっと前から好きだった。ずっとお前と一緒に居られることだけを考えてた。」


黒髪の目から光が消える


「そしてようやく一緒になれた!もう離さねぇ。これからどんな時も一緒に居てもらうぞ」


黒髪の頭から湖也が消える。


「…わかりました。」


黒髪は自分の手を動かし、制服のボタンを外す。


(…もうこれでいいんだ。)



身体、精神、両方に深い傷を負った黒髪は教師の要望を承諾した。


その時、

「おい、黒木くん、君は何をしているのかね?」


声が聞こえた。

教師と黒髪が声のした方を見ると、そこには校長と男の教師数人、野次馬気分で見にきた生徒たちがいた。


「黒木くん、うちの生徒に何をしているのか聞いているんだ。早く返事をしなさい。」


校長はゆっくりした口調で黒髪に手を出していた教師、黒木に問いかける。


一方黒木は、顔を真っ青に染め、畜生!という言葉をその場に残し、校長たちがいる場所の反対の方向を向き逃げようとした。


だが、その方向にも教師が回り込んでおり、両方から一斉に黒木に襲いかかる。


あっという間に抑えつけられてしまった。


そんな黒木を見ながら、校長は黒髪の方に近づく


「返事の内容が畜生とは無礼な奴だ。君、大変だったね、怪我はないかい?」

「二、三発殴られましたが大丈夫です。それより、どうしてここが?」

「あの子が、教えてくれたんだよお」


校長の指差す方向には沢山の生徒がいた。

が、黒髪には校長が誰のことを指しているかすぐにわかった。


そこには、カメラを持ってこちらを見つめる湖也がいた。








黒髪が教師に襲われてる間、湖也は撮った写真を校長に渡し、助けを求めていたのだ。


人任せな結果になったが、無防備に突っ込んでやられるよりはマシだろう。


湖也は黒髪の方を見る。

黒髪は湖也の方に走る。


「大変だったようだな」

「えぇ。でもあなたのおかげで助かったわ、ありがとう。」

「別に大したことねぇよ、写真撮って校長に見せただけだ。」


黒髪からのお礼に湖也は照れて目を逸らす。

頭をかきながら湖也は黒髪にカメラを見せて言う。


「お前がこれを渡してくれなかったらこんな冷静なことはできなかったかもな」

「あなたにカメラを渡して正解だったわ。こんなことになるとは思ってなかったけど、けど…」


気づいたら黒髪は涙を流し、湖也の肩に頭を預けていた。


「こうしてあなたに守ってもらえて、すごい嬉しい。」

「いろいろ大変だったんだな、茶髪に、黒木先生に」

「あんな教師なんか先生と呼ばなくていい。」

「そうか、でも黒木を捕まえたから終わりってわけじゃない。この学校にはまだお前を恨んでいる奴がいるかもしれないし、これから出てくるかもしれない。」

「あなたも私の敵になっちゃう?」

「安心しろ。俺はずっとお前の味方でいてやる。お前を襲ってくる奴らから守ってやるよ。」

「うん、ありがと…約束だよ?」

「あぁ、約束な」



これで文化祭で起こった事件は解決した。

だがこれで終わりというわけではない。

「黒髪を守る。」俺はそう約束した。

黒髪を守るためなら全校生徒を敵にしてもいい、学校の最底辺に落ちてもいい。

これから俺は、

陽キャのフィールドに足を入れることを宣言する。


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