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一途すぎる彼女らのばあい  作者: 雨天零
第一章 異世界の彼女のばあい
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第三話 選択肢② 神無蓮華

 後日。


「春樹、少しいいかな?」

「んあ?」


 考えることがあり過ぎて寝不足だった僕は、帰りのHRをほとんど寝て過ごしたため帰りの時間となって蓮華が話し掛けて来るまで浅い眠りに就いていた。


「なに間抜けな声を出しているのさ。寝不足かい?」

「少しな。昨日、桜が本気の掌底なんて出して来たから腕が痺れて寝付けなかったんだ」

「勝手に凍華と二人だけでどこかに行くからだよ。私も行きたかったし。昨日、凍華からLIMEが来たんだ。凄く美味しかったらしいね。あとは桜から怨念じみた物も来たけど見るかい?」

「いや、いい。やめてくれ」


 裏で何を言われているかなんて聞きたくない。特に桜の場合は怖い。

 身震いする僕が可笑しかったのか蓮華はクスクスと笑った。


「それで? 今日は蓮華が何か用か?」


 腕を天上へ伸ばし体を解しながら訊く。


「うん。機械整備部の部長から春樹を呼んで来てくれってね。私だけでは手が足りないらしい」

「蓮華で足りないってことは、一体なにを作ってるんだあの人」

「次世代型浮遊自動車の開発及び、品評会へ向けての論文作成と整理。或いは装備型人型兵器、エスプランドの改良と試着ってところじゃないかな」

「何度も思うがあの人なに造ってんの。あの人一人いれば科学技術が大幅に進むか、国家一つ普通に滅ぶんじゃないか? 日本政府はなにしてんだ。あの人普通に兵器とか作ってるぞ」

「まぁ、この学校は何故だか日本政府が完全に不干渉を貫いてるし、校長先生が何かしらの根回しをしているようだからね」

「すげぇな校長。ま、とにかく行ってみれば分かるか。工房の方でいいんだろ?」

「うん、助かるよ」


 爽やかに微笑む蓮華を見て、廊下から覗き見ていた女子生徒たちが黄色い悲鳴を上げた。いつものことだ。

 蓮華が隣にいるだけで女子の視線を集め、手を振ってきた子達に蓮華が手を振り返せば黄色い悲鳴を上げて騒ぎ出す。

 この前なんか、気の弱そうな女子生徒が転びそうになり、それを蓮華が受け止めて気絶してしまい保健室へと運ばれたというこもある。

 もちろん、蓮華が誰かに告白されてそれを断られ撃沈していった子達も多々見ている。


「白金の髪に緑眼って所が珍しいと同時に似合ってるからなんだろうが、ほんとにモテるよな」

「何度も断っているんだけど、未だに諦めてくれない子もいて困っているんだけどね」

「それを非モテの奴らの前で言ってみろ。絶対、嫉妬の渦が巻くからな。まぁ、蓮華だったら許されそうだが、僕が言ったら間違いなくそうなる」

「春樹もそろそろ自覚した方が良いよ。意外と私のファンだって言ってくれる子達の中に春樹の隠れファンだって子もいるんだから。裏では私と春樹の濃密で濃厚な恋愛模様が描かれた本がやり取りされているとか」

「腐女子共めっ。僕にそっち系の興味はないぞ!」

「私は少し嬉しいけどね」

「蓮華、言って良い冗談と悪い冗談があるのを理解しようか」


 真顔で言われると蓮華の真偽が読めず、自然と僕も素で返していた。

 蓮華は爽やかな笑みを浮かべながらテニス部の女子たちへ手を振り、その内の一人がまたノックアウトされた所で僕に顔を向ける。

 後日、また蓮華が告白されたという噂が立った。


「そうだね。私は男には興味ないよ」

「ならなんで告白全部断ってんだよ。誰か一人でも良い子はいなかったのか?」

「さて、どうしてだろうね。案外、私にも好きな人がいて、その人が遠い存在で、未だに諦められないからかもしれないよ」


 そう言って遠い目をする蓮華は、言葉通り恋する乙女――もとい――一人の男の様だった。


                   ◆  ◆  ◆


 体育館裏にある、体育館と同じくらいの大きさがある工房。

 その鉄の扉を開くと、部員である数名が見えると同時にカンッカンッと金属がぶつかり合う音が響く。

「おっ、やぁやぁ、やっと来たみたいですな。神ノ宮氏に神無氏。今日は色々と手伝って貰いたいのですよ」


 何十台ものパソコンや端末の前で睨めっこしていた機械整備部のぐるぐる眼鏡を掛けて制服の上から白衣を着た女部長(本名不詳)が僕らに気付き手招きする。


「相変わらず、SFの様な所ですね、ここは」

「まぁ、私は発明しか取り柄がないですからな。早速ですが、今回は改良したエスプランドの試着を神ノ宮氏にお願いしたいのですよ。神無氏には私の補佐をお願いしようと思いまして。やってくれますか」

「ええ、そのためにここへ来た訳ですし。蓮華もいいよな?」

「うん、私も部長の補佐に回るよ」

「ありがとうございます。それでは、移動しましょうか」

 

 部長に付いて行き、通されたのは周りが壁一面で窓一つない特殊合金で造られた広い部屋だった。

 蓮華と部長は別室でモニタリングしている。

 ここには僕と、僕の目の前にある白いエスプランドだけが置かれていた。

 エスプランドは手足があり、背部ユニットに翼のような物が付いた搭乗型マルチフォームスーツだ。

 それに乗り込み、手足を操作する筒状のユニットに手と足を入れるとサイズが自動調節される。

 続いて、頭に脳の信号を感知、及び、映像を脳に直接流し込むためのデバイスが装着される。

 すると、何もない空間に『Hello Haruki』と表示され、次にエスプランドの状態と僕の状態が表示される。

 そこで、表示されている画面から通信信号を受信し、それを表示し、部長と蓮華の顔が映し出される。


『どうですかな? 気分が悪いとかそういうことがあれば言って頂きたいのですが」

「問題ありません。それで、どこをどう改良したんですか?」

『それは私が説明するよ』


 蓮華は何かしらの資料を片手に一度咳をする。


『今回の改良点は、エスプランドの反応速度アップと、より春樹に合わせた機体への改良がされてある。それに加えて、この前春樹が言っていた飛行時における炎の噴射を改めて空気の噴射、つまり飛行機と似た様な仕組みで時速二百㎞は出せるようになったよ』

『炎の場合はデバイスが焦げたりオーバーヒートする危険がありましたからな。それで、本来なら時速四十㎞ほどでやめるのですが、神ノ宮氏の腕前を信用して速度をそこまで上げたのですよ』

「それで事故って大怪我でもしたら手術代請求しますからね」

『なっはは。慰謝料を請求しない辺り、神ノ宮氏はやはり御人好しですな。けど、ご安心を。自動防御プログラムはちゃんと作動しますし、何かあってもAB――アシストバリア――がある限り外部からはある程度傷は負いませんよ。内部の場合はやばいですけど』

「おい」

『とりかく、いつも通りエスプランドの活動時間は十分ですのでちゃっちゃと始めちゃってください』

「一番改良すべき点はそこだろ……」


 僕の呟きを聞いてか聞かずか、目の前から部長と蓮華の映像が消え、溜め息を吐き、いつも通り動く。

 試しに手を握って開いて、歩き、走り、パンチや蹴りなどの簡単な動作をするが、問題はない。


(言われた通り、確かにまえよりは使い易くなっているな)


 腰に差しているエスプランドの機体とは真逆の真っ黒な剣を抜き、構え、剣の舞のように振るう。

 ある程度やったところで、二人の映像がまた映し出された。


『いんや~、いつ見ても見事な剣捌きですね。まるで踊っているかのような、自然な動きでしたよ』

「部長、どうかしましたか」

『いえ、特に問題はないのですが、そろそろ飛行をテストをしたいなと思いまして』

「なるほど、分かりました」


 言われた通り、背中に意識を集中し機体が飛んでいるところを思い浮かべる。

 手足以外の動きは、こうして頭のデバイスが感知し動作してくれるのだ。

 エスプランドが少し浮いたかと思うと同時に、一気に天井近くまで飛び上がった。


「っと、さすがは時速二百㎞というか、制御が難しいな」

『どうです?』

「難しい。けど、許容範囲内です。直ぐに慣れます」


 空中で静止し、天井スレスレを飛び、直角に下へ曲がり、地上スレスレを飛び、急上昇をしジグザグに飛ぶ。

 

 ここまでは良かった。ここまで、は。


 最後に直線で端から端ー飛ぼうとしたところ、急に制御が利かなくなった。


「なに……ッ!」

『春樹!!』


 トップスピードだったこともあり、僕はそのまま壁へ激突する。

 そう思った瞬間。

 世界が、灰色へと変わった。


『行動選択肢

 ①目を覚ますと、そこは学校のベンチの上だった

 ②目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった』


「これは……」


 選択しだいで、怪我の重症度が変るということだろうか。

 今回の選択肢は、割かしまともという、助かる。


「二番だ」


 呟くと同時に世界に色が戻り、僕は壁へと激突した。


                  ◆  ◆  ◆


 目を覚ますと、そこはベンチの上だった。

 ただし、目の前に蓮華の顔がある。


「あ、やっと起きたね」

「蓮、華……?」


 意識が覚醒してくると同時に、ベンチにしては軟らかい感触を頭に感じる。つまり。


「なんで男同士が膝枕なんかはてんだよ!」


 ガバッと勢いよく起き上がると、気絶していたせいか頭に鈍い痛みが走る。


「いや、ベンチだと硬くて寝心地が悪いだろうと思ってね。どうにも私の体は男にしては軟らかい方だと自覚しているから膝枕をと」

「どんだけ紳士的なんだよ。こんな所見られた腐女子共のネタにされるじゃねぇか」

「それならもう遅いよ」


 蓮華が指す方向を見ると、そこには女子の集団がこちらを見ていて、目が合うと黄色い悲鳴が上がった。


「……これ、明日から俺と蓮華がカップルだから蓮華が告白断ってるって言われるんじゃないか?」

「それももう遅い」


 蓮華がスマホを操作し、僕に見せると、そこには校内HPに僕が蓮華に膝枕をされている写真がアップされており、デカデカと『二大神、まさかのカップリングか⁉」と書かれていた。

 もう、頭を抱えるしかない。


「桜とかにどう説明すればいいのやら……」

「まぁ、ほんの少し私も悪いとは思ったけどね。そうそう、部長から伝言。『今回の制御不能に関しては大幅に上げた飛行能力によるエネルギー消費率が飛躍的に上がったことが原因なのですよ。ですから、神ノ宮氏に言われた通り、今後はエネルギー保有量の向上に専念します』だって」

「そんな所だろうと思ったけど、部長ならその内なんとかしそうだな」

「そうだね。あと、お疲れ様とも言っていたから帰っていいみたいだよ」

「それじゃ、帰るか。あんまり長くいると、いつまでもあのキラキラとした目で見られるからな」

「はい、鞄」

「サンキュ」

 

 狭いベンチで寝ていたせいか、体の節々がゴキゴキと鳴ったが気にすることなく、帰り路へと付いた。


                   ◆  ◆  ◆


「は~~る~~き~~に~~い~~ッ!」


 そんな間延びした声と共に、桜が僕の家の屋根から飛び降り踵落としをして来る。

 両手をクロスさせガードすると、桜は僕の腕を足場に空中で一回転し着地した。


「こらっ! 俺が受け止めなかったら地面にぶち当たって足が曲がらない方向に曲がる所だったぞ!」

「大丈夫! 地面の方が砕けるから! そんなことより――」


 桜は僕に詰め寄り、スマホを押し付けるかのように見せて来た。


「これ、どういう意味か説明して貰うからね。じゃないとサクラ、春樹兄の部屋の中、荒らして回るよ」


 スマホに表示されているのは、例の僕が蓮華に膝枕されている画像だった。

 未だにその欄の呟きが高速で更新されていることに、僕は溜め息を吐いた。


「オーケー、分かったから。とりあえずその今にも突き出しそうな拳を収めようか」

「……話によってはぶっ飛ばすよ」


 そんな物騒なことを低い声で言われ、僕は冷や汗を流すのだった。

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