神殺し1
「うぅ…なんなんですのここは」
「この階層に来てから雰囲気が変わりましたね…」
「通路は狭いですし、暗くてもやが出てるから足元は見にくいですし…最悪ですわ」
「あー、騎士さんフルプレートだから歩きにくいっすよねぇ…」
「あの、先頭代わりましょうか?」
「結・構! 魔導師に先頭を歩かせては守護騎士の名折れですわ! お気持ちだけはありがたく頂戴しますけれど」
「はぁ…こんなことなら一旦ダンジョンから出て荷物整理をしてきた方が良かったっすねぇ」
「うーん、私だけ身軽でなんだかすみません…」
「そんなことは気にしなくていいんですのよ?」
「そうっす。あたしたちは重いものをもってなんぼっすから、気にしなくて大丈夫っすよ」
「商人と騎士を一緒にされるのも違和感があるのですけれど…」
「まぁまぁ。ほら、さっさと次の階層に抜けちゃいましょ? 多分特殊階層っすよここ」
「あー、地下444階でしたっけ…」
「う…なんだか不吉ですわね」
「ふむ…そういわれるとこの雰囲気も納得っすねぇ」
「ちょっとお化け屋敷に似てますね」
「? 廃墟とはちょっと違うんじゃありませんの? 私はどちらかというと墓場のように感じましたけれど」
「ええと、ゴーストハウスじゃなくて、アトラクションとしてのお化け屋敷がこんな感じなんです」
「小さい遊園地とかにあるやつっすね。知らないっすか?」
「なんですのそれ…こんな不気味なところにお金を払って入ってどうするんですの? バカですの?」
「あはは…まぁ、アトラクションですからただこれだけってわけではないんですよ」
「風景も洋館だったり廃病院だったりいろいろあるんすけど…共通してあるものが出るんすよ…」
「な、なんですのあるものって…」
「それは……」
「…そ、それは……?」ゴクリ
「ばぁ」
「ぎょええぇ!?」ブンッ
「ぐえー」ドサッコロコロ
「き、騎士さん!?」
「大丈夫っすか!?」
「はぁ、はぁ…突然後ろから何かが…って」
「」コロコロ…
「えーと……」
「これって……」
「…あー、この顔ってなんだか冥界の神様に似てる気がするんすけど…あたしの気のせいっすかね?」
「ま、まさか…神がこんなところにいるのが不自然ですし、こんなに簡単に首が落とせるのもおかしくありません? でも似てますわね…いやしかし…」
「それよりもその、蘇生したほうが良くないですか?」
「あら、罠かもしれないわよぉ?」
「たしかに…そういえばお化け屋敷も大体は人形っすからねぇ」
「そ、そう罠! 罠に違いありませんわ! …全く、ほんとに趣味が悪いですわね! こんな重みや皮膚の柔らかさまで精巧に作られては誰だって騙されるに決まっていますわ!」ふにふに
「え…柔らかい…?」
「あ、マネキンじゃない…っすねぇ。ということは……」
「あ、あわ、あわわわわわたしどどどどどうしたらいいんですのこれ」
「とりあえず頭鷲づかみはやめてほしいわねぇ。鎧とか籠手とかゴツゴツして痛いわ」
「え、あ、首だけでしゃべって…」
「いやはや…神様は伊達じゃないっすねえ」
「…し、死んでないんですの…?」
「微妙なところだわねぇ。そもそも生きているかも曖昧なものでしょう? 神って」
「…よかった……あやうく神殺しになるところでしたわ」
「あの、神様、ちゃんともとに戻りますかそれ?」
「問題ないわ。とりあえずそっちに渡してちょうだい」
「ヒェッ…ど、どうぞ…」
「うーん、首なしの胴体に頭を渡すなんてシュールな絵面っすねぇ」
「他人に持たせておくより良いでしょう? …結構重いわねこれ。やっぱり持っててもらおうかしら?」
「「「遠慮させていただきます」ますわ」ますっす」
「あら残念、ふふふ」
「ところであの…どうしてここに神様がいるんです?」
「ん? まぁ、サプライズというか、ボスキャラというか」
「サプライズって…寿命が縮みましたわ…」
「ご愁傷さまっす…」
「ボスキャラ…ということは、つまり」
「そう、ここを作ったのは私よ! 他のフロアは陰険メイドロボとチート妖怪監修が殆どだけど、私も何ヵ所かは手を出してるの!」ドヤァ
「いやあの、あなたを倒さないとダメなのかってことが聞きたかったんですけど」
「メイドロボと妖怪って何者ですの?」
「他の二人の神様じゃないっすか?」
「あぁ、あの…ひどい呼称ですわね…というか私ここのことをひどく貶してしまった記憶が…」
「まぁまぁ、落ち着きなさいな。別に倒す必要はないのよ。ただ、私のちょっかいに耐えて、無事にここを抜ければいいだけ。戦いたいならそれでもかまわないのだけれど」
「やめておきます」
「辞退するっす」
「勘弁願いたいですわ」
「あらそう? こんなすっぱりと神である私の首を落としておいて? 断面見る?」
「いやいやいや見せなくていいです見たくないです!」
「どうしましょう絶対根に持ってますわあれいったいどうしたら…」
「自業自得って感じっすけど…一応後で菓子折でも渡したらどうっすか?」
「ふふふ、ともあれ、ここはこういうところだから。理解してもらえたかしら?」
「つまり……お化け屋敷ってことですか? 神様が脅かし役の」
「そういうことだわね」
「帰りますわ。えぇ」
「騎士さん諦め早いっすね!」
「アトラクションとはいえ神が用意した試練なんて聞いてませんわ! こんなことならドラゴンと一騎討ちしたほうがまだましですわよ!?」
「あらあら、騎士様はお化けが怖いのかしらぁ?」
「ぐう…お化けも怖いですがあなたはもっと恐ろしいですわ…! かえる! おうちにかえってぐっすりと眠りたい気分ですわ!」
「あー、ひょっとして騎士さん前に神様に喧嘩売った時のことが忘れられないんじゃないっすか?」
「あなたはあれを知らないからそんなことが言えるんですわ! 忘れるとか忘れないとかいう問題じゃありませんの! あれ以来髪が白くなって戻らないんですのよ!?」
「あーらそうなのぉ? ちょっとおふざけで幻覚を見せただけなのだけど。気になるならできる限り再現するけど試してみるかしら?」
「何でもするので許してほしいっす。あっしはまだ壊れたくないっす」
「私は壊れてませんわよ!? …壊れてませんわよねぇ…?」
「あの、もうちょっと優しい難易度にしてもらえませんか…? 私もトラウマを増やしたくないので…」
「しょうがないわねぇ。まぁ暇潰しができれば私としては満足だから…だったらちょっと与太話に付き合って頂戴な」
「それくらいでしたら…耐えられそうですわ」
「どんだけ神様のこと苦手なんすか騎士さん」
「あの方を殺すか死を選ぶかと問われたら即、死を選びますわ」
「字面だけなら敬虔な信徒なんすけどねぇ…」




